「待て待て、葛城……なんだそのマッサージ……と言うかお前、昨日酷く酔っ払ってたこと覚えて無いのかよ?」
「え?私?私酔っ払ってないもん……。飲んですぐ寝ちゃったし……」
「おいおい……じゃ、香春さんにした事、覚えて無いのかよ?」
「ん…?肩を叩いただけじゃん」
「あのなぁ!お前。昨日肩こり解消とか言って、香春さんの……いてッ!?」
「根元くん……その先はストップ………」
絵理が俺の腕を真っ赤な顔で俯きながら抓って来ていた。
あ、そうか……葛城が美術サークル仲間の見てる前で、思いっきり絵理の胸を揉みまくった事、うっかり蒸し返す事になる。
絵理にとってはあわやボディペインティングがばれる所だったろうし、何より恥ずかしい反応を皆に見せてしまったんだよな…。
「ご、ごめん…香春さん……」
「??あれ?絵理ちゃん……ひょっとして、昨日の肩揉み気持ち良くなかった?私、自信あったんだけどなぁ………」
「そんな事ないけど……その、私……くすぐられたりするの、ダメだから……」
「そう言えば、絵理ちゃん全然肩が凝ってる手触りじゃなかったもんね〜。すっごくプニプニしてたし」
おのれ、葛城……絵理の乳を思う存分揉みしだいたくせに、その事は頭に残って無くて、その癖手に感触は残ってるとは…。
思いっきり羨ましいぞ!絵理は俺のモノなのに!俺もまだ触らせてもらえないのに…。
「葛城さん、その事はもういいから……その、あんまり深く思い出さないで……」
肩では無く乳が揉まれてる光景の目撃者である俺がいるせいで、よっぽど恥ずかしいのだろう、絵理が赤くなって首を振る。
「うん!私もこれ以上思い出せないし。でも、そっか〜…絵理ちゃん、敏感肌なんだ〜」
冗談半分?に、悪戯を思いついた様な顔で絵理に笑いかける葛城。
いや、案外冗談じゃないかも……葛城はもともと人懐っこいが、それでも一日でここまで絵理の事が気に入るとは…。
絵理が普通に服を着てれば何の心配も無いけど、この調子ではシラフでも絵理に触ったりじゃれついたりしそうだ。
絵理にとっても対応に困る相手だろう。基本的にいい奴な葛城に冷たい態度は取れないし、かと言って抱きつかれる隙も見せられない。
しかし、どうするんだろうな、着替えの事は…。今の塗装をシャワーで落とす姿を葛城に見られるわけには行かないだろうし。
「それはそうと、そもそも絵理ちゃん、何でそんな恰好してたんだっけ……?」
「ああ、それ……!昨日飲み会帰る途中で、アニ研の本田に捕まってさ……香春さんにコスプレ頼んで来たんだ……」
「ええ〜ッ!?ひょっとして、絵理ちゃん、アニ研の喫茶店、手伝ってたの?いつ?私、見てな〜い!」
「その……私、頼まれたの11時から1時間だけだったから……」
「うぅ…私、もう少し遅く行けば良かった……絵理ちゃんに注文取って欲しかったな〜……」
どうやら、葛城の奴は、絵理の担当時間よりも早くアニ研の展示を見に行ってたらしい。
もっとも、あの忙しい混雑した状況下で葛城が絵理にじゃれついたりすればどんな事になっていたか…。
「まあ、それで……そこでもう仕事終わりって時に、性質の悪いカメラ野郎が、香春さんに無理矢理写真撮影要求してさ、
香春さんが断ったら、馬鹿みたいにキレ出して、騒ぎになり掛けてな。ホントそいつムカつく野郎だったぜ」
「え〜?そんな事あったの?私がいたらソイツ殴ってあげたのに!」
「もう、その事はいいから……ただ、そこに根元くんが来て…………その……」
「殴ったの?やるじゃん、根元君!」
「いや、そうじゃなくて、香春さんを強引に連れ出して、ここまで来たんだ」
「え?ひょっとして、さっきの抱っこで?」
「ああ、周りの連中がビックリして道を開けたからさ、我ながらナイスアイディアだったよ、ね、香春さん…って…痛っ…!」
先程抓った部分と同じ部分を絵理がギュっと抓って来た。やっぱり顔は真っ赤にして俯いている。
「そんなに楽しそうに言わないで……私、男の人にあんな事……みんな見てたのに……もう…!」
「あ〜、根元君、セクハラ〜……絵理ちゃん、大丈夫だった?」
「お願い、蛍ちゃん……もう、その事も持ち出さないで……」
やはり絵理は恥ずかしい事は忘れようとして誤魔化すタイプらしいな……。何か可愛いな、その一面。
佇まいを直す絵理を葛城がじっと見つめている。
長身、巨乳の絵理の肌を露出した格好に、羨ましさを感じてるのか、同性でも憧れるのか。
「……?どうしたの?葛城さん………」
「絵理ちゃん、こんな時に言うのもアレだけど……その恰好、本当に格好いいね〜。」
「えっ…?!そ、そう……ありがと………」
同性故に割と遠慮なく衣装や絵理の肌に触って来そうな葛城に、絵理も戸惑っている。
何しろ、絵理の敏感体質の情報をゲットしたばかりの葛城には絵理はさらに面白い遊び相手に映ってるんだろう。
「何かキャンギャルみたいだな〜、絵理ちゃん……。その恰好でも今日一日位、大丈夫じゃない?」
まあ、俺もその方が視界的に嬉しいんだけど……絵理は今の自分の格好がかなりエッチと自覚してしまったからなぁ…。
「根元君も目が明らかに着替えちゃダメって言ってるし〜。」
「え、嘘………?……根元君」
「ぅう?!そ、そんな事ないお!いや、似合ってるって言ったけど!」
「あ、そうだ…私絵理ちゃんの写真、じゃなくて根元君、私と絵理ちゃんの写真一緒に撮ってよ、いいでしょ?」
「えっ……それは、その……」
「だって、絵理ちゃん着替えちゃうって言うんだし〜。着替えの前に、ね?」
「で、でも………う、うん………」
それでも女の子相手なら平気だと思ったのか、絵理は了承したようだ。
「じゃあ絵理ちゃん、そこの椅子に座って」
「ぇ…でもこの椅子、一人用……」
「いいからいいから」
立ちポーズで写真を撮られると思っていたんであろう絵理が戸惑いながらも椅子に腰かける。
「きゃっ……!?ちょ、ちょっと、葛城さん?」
「えへへッ!これ、いいアングルだと思わない?ね、根元君?」
いきなり葛城は椅子に座った絵理の脚を開かせると、その股の間に背中を預けて、絵理の長い両足に肘をかける。
あれ?このポーズなんか見かけた覚えが……。あまりこのアニメの事は思い出せない。
「絵理ちゃん、じっとしてて!このポーズこのアニメのED絵のトリの一枚と同じポーズなんだからさ!」
ああ、そう言う事かって……おい!?葛城はこのアニメに明るかったのかよ…。
「んっ……ふぁっ……ちょっと、葛城さん……こんなポーズは……きゃんっ…!」
おのれ、葛城……遠慮なく絵理の剥き出しになった太股を触っている。しかも、そのまま後頭部を絵理のボディに預けてしまう。
「あッ…葛城!?」
絵理のデカイ乳房が葛城の頭の上にふにょん、と乗っかってしまう。
「あ、ぁんっ……ちょっと、あんまり動かないで、くすぐったい………!」
「ん〜……何か、違和感が……あ、絵理ちゃん、オッパイが元のより大きすぎるんだ!」
「や、やだ……根元くんが聞いてるのにそんな事言わないで……んっ…あふぅ……」
髪の毛越しだから絵理の乳房が生乳房である事にはかろうじて気付かないようだが、その髪の毛をグリグリと擦りつけられる
絵理の方はたまったもんじゃない。下乳や、胸の谷間、鳩尾辺りを柔らかい髪の毛で擽られる。
「んっ……はふッ……ちょっと、蛍ちゃん……私、動かないから、そんなに……ひっ…」
しかも、絵理の脚はむき出しになってるから、葛城が指先でその膝小僧を撫でて遊んでいるのかじゃれついてるのか。
あれ、何気にかなりくすぐったいんだ。くすぐりに弱いと言ってた絵理には間違い無くキツいだろう。
「じゃ、根元君、はい、チーズ〜ッ」
「え、根元くん?ちょ、こんなの……え、ええッ?」
思わず促されるままシャッターを切る俺。確かこの恰好のキャラはカタブツ美人で弄られ役だった事を思い出しながら。
絵理……表情と言い、身体のエロさといい、ものすごいなりきりぶりだよ……。一度だけ見たED絵の様子がはっきり浮かんだ。
「どう〜?根元君、バッチリ撮れた?」
「やだ、根元くん……そんなに確認しないで………」
「まぁ、結構………多分ブレてないと思うけどな。」
やべえ、写真の絵理の表情がマジでセクシー過ぎる。当然、葛城の頭に乗っかった乳房の形も。
肝心な先端の乳首や、股間の割れ目なんかは髪の毛や葛城で隠れて映って無くてセーフだけど、それが逆に卑猥だ。
さっきアニ研のコスプレ喫茶で絵理の写真を撮れなかった連中はこの写真を見たら泣いて悔しがることだろう。
あ、でも……この携帯俺のじゃなくて葛城のじゃねえか……今から同じポーズで俺の携帯で撮らせてもらおうと思っても無理かな…。
………後でこっそり葛城にこの画像転送してくれるように頼んで見るか……。
携帯の画像を覗き込んで喜色満面な葛城と、思わず赤くなる絵理。
「やだ、こんな……根元くん、もう少しタイミング考えて………」
「あ、いや…まあ、あれでもっと遅く撮ってたらさらに凄い写真になってたかもしれないよ、香春さん。」
「そんな事考えてたの、もう……やっぱり根元くんは………」
「へへ。私と絵理ちゃんの写真第一号だね。わ、すっご〜い……絵理ちゃん、セックシ〜……」
「もう、葛城さん……そんなに、言わないで……女同志でも、恥ずかしいから……」
「でも、いい写真だし〜。ね、この後も根元くんに頼んで私と一緒に映ろうよ!」
おおい!それでは俺が絵理と二人で学祭を回れないでは無いか?
「……さっきみたいな事をしないなら……根元くんも……それなら……」
「あ〜、もうしないってば、そんなに怒んないでよ、香春さん……」
絵理は、葛城の異常な人懐っこさから来るガードしづらい攻撃に戸惑ってはいる様だが、それが葛城を嫌悪する事にはならないらしい。
本当に、クールな美人タイプの外見なのに、内面は聖母か菩薩みたいだ。
しかし、そんな絵理だからこそもう少し穏やかに楽しく学祭の時間を過ごして欲しいのに、このままじゃ絵理も気苦労ばかりだ。
コスプレ衣装のボディペの準備と、コスプレ喫茶での騒ぎと、お姫様だっこ…これは俺のせいか、そして葛城の絡み。
少しこの準備室で休んで貰った方がいいかもしれない。長椅子なら人が横になれるし、タオルケットもこの部屋にはある。
「それはそうと香春さん、少しこの準備室で休んでかない?香春さんほぼ徹夜だったんでしょ?ここなら軽く仮眠位取れるよ」
「そう?………あ、でも……先客が出来ちゃったみたい………」
さっきまで長椅子で脚をぷらぷらさせながら、自分と絵理の写真の写った携帯を見ていた葛城が眠り始めていた。
「まったく、葛城は……」
「ふふ…そうね、根元くんと似てるのかも……」
「え〜?そりゃないでしょ、香春さ〜ん」
「そう?突拍子も無い所は見てて飽きないけど………?」
「え、いや……それは……その、ゴメン……」
やっぱりさっきのお姫様抱っこでの襲撃は不味かったかな……。
いやしかし香春さん、『見てて飽きない』ってあれだけ直接俺や葛城から被害は受けてるのに…。
それとも、絵理はあんな目にあっても、後でそれを楽しい出来事に置き換えるくらいの事が出来るんだろうか。
案外そうかもしれない。俺が飲み会の時に度々絵理に恥ずかしい思いをさせても、それをいつまでも怒ったりはしない。
こっちがそれを話そうとすると赤くなって困ってしまう程度だ。
或いは、俺も葛城も結構ウッカリしている所があるからな……絵理はつい世話を焼きたくなるのか、目が離せないのかもしれない。
昨日葛城に抱きつかれた時も、最初は『優しいお姉さん』口調で対応してたし。まあ、その結果が乳揉みをくらってたけど。
まだまだミステリアスな部分が多い絵理だけど、その部分にすら嫌なイメージが沸いてこない。
「あ、そうだ。香春さん、今なら葛城がついて来る事も無いから、着替え出来るよ。」
「そう?」
葛城が呑気に寝ている長椅子の上に絵理のバッグ。あのバッグに絵理の着替えが入っている。
絵理が普通に服を着る姿は見た事ないけど…これでこのエロコスプレとお別れと思うと残念だけど。
流石にこの大学のシャワー室では、いつ人が入ってくるかわからないから、絵理がもし一人で完璧に自分のボディーペインティング
が出来るとしても、それだけの時間的猶予は無いに違いない。やっぱりあのバッグの中は普通の服なのかな。
「そうね……ちょっと時間かかるかもしれないけど、待っててくれる、根元くん……?」
そう言って寝込む葛城のソファに近づいて行く。絵理のバッグはちょうど横になる葛城の頭側にある。
「葛城さん……ちょっと、ごめんね…………」
「んん……絵理ちゃん……帰っちゃだめ〜……もっと、飲もうよ〜……」
「ぃッ……えっ………」
葛城を起こさないように気を使ってバッグを取ろうとしている絵理だが、突然の葛城の言葉に固まってしまう。
「んう……絵理ちゃんふかふか………」
昨日の絵理捕獲の状況を夢見ているんだろうか?俺はまだ夢に絵理が出てきてないのに、羨ましいぞこの女。
「あ〜駄目だよ……絵理ちゃん、フラフラしてる……」
そう言いながら眠ったまま絵理の方に手を伸ばしてくる葛城。
「か、香春さん……!気を付けて、また抱きつかれる!」
「えっ……あ、きゃッ……!?」
葛城の腕にハグされたものは絵理の持ってきていたバッグであった。
「あ、上手い、香春さん……でも……着替えはどうするの?」
「あ………そうね………」
葛城が抱きついて来ようとしたのを咄嗟に自分のバッグで巧みに防いでしまった絵理。
これで葛城の強力な抱きつきからは逃れられたのだが……着替え?がバッグの中である以上、葛城を起こせない。
バッグの方から絵理の香りでもするのか、葛城は簡単にそれに引っかかってる様だ。
明らかにさっきよりもリラックスして眠りが深くなっている。
「やっぱり、少しお酒残ってるみたいね、葛城さん……」
「まぁ、それもあるんだろうけど、とっぽど香春さんの事気に入ったみたいだな。」
「もう…!で、根元くん、タオルケット、これで大丈夫?」
絵理のバッグを枕にして呑気に寝ている葛城に、優しくタオルケットをかけてやる絵理。その姿に思わず目を奪われる。
「何………?」
「いや……香春さん……今の表情、良かったなぁ……また、絵に描きたくなっちゃった……」
「何、言いだすのよ………」
「初めてモデル頼んだ時は、凄く綺麗な人だと思って頼んだけど……今の表情も、絵にしたかったな…」
「ッ?や、やだッ……根元くん、そんな言い方………」
「えっ!?あ、悪い…ゴメン。」
うっとりしていたせいで思わず絵理が恥ずかしがるような言い方をしてしまった。
今までスタイルがいいとか、それ位に褒めた事はあったけど、直接綺麗と言った事は無かったな……。
でも、さっきの優しい母性的な表情。それが本当に綺麗だった。
俺の展示した絵は、絵理があくまで目を閉じて無表情だ。さっきの優しい表情だったらもっと変わっていたかもしれない。
「でも、香春さん、最初会った時はもっと表情少ないかと思ってたけど、結構表情変わるんだね。」
「だから…もう!そんな風に観察しないでよ……」
「あ、ごめん……でも、ほらやっぱし最初は見た目で考えるけど、どうしてもその後は自分なりに表情とか見て、考えちゃうでしょ?」
「根元くん、やっぱりムッツリだわ…………」
「あ、これでムッツリ判定何回目かな……まぁ、ムッツリなのは当たってるけど……」
「自覚しないでよ、そんな事、相手の前で……」
衆人監視下での絵理もいいけど、この二人きり時の絵理もやっぱりいいなぁ……。
「どうしようか?そのバッグの中なんでしょ、着替えの服。」
「うん……葛城さん、気持ち良さそうに眠ってる……起こさない方がいいかも……」
「でも、香春さんも休みなよ。コスプレの準備で徹夜させちゃったんだし…」
「……うん……そうしよう、かしら………」
葛城が寝ころぶ長椅子とテーブルを挟んだ反対側の椅子に座って、何となく葛城の方を見て会話する絵理と俺。
実際に葛城を優しい目で見てるのは絵理だけで、俺はそんな絵理を眺めていたんだが。
準備室に差し込む昼間丁度の光が、絵理の存在を強調していた。視界に映る絵理の輪郭の外側がキラキラと光る。
今はこの絵理を見ていたい。もし、絵理が俺の視線に気付いて恥ずかしそうな表情を浮かべても俺は目を逸らしそうにない。
本当に、絵理は今、裸なんだ……。こんな綺麗で、それでいて優しい女性が、4回も良く俺の予定に付き合ってくれてるもんだ……。
間違い無く最初に会った時よりは絵理との仲は進展していると思う。
二人の時に戻ると、いつものクールな雰囲気にこそ戻るけど、冷たさとかはもう無い。
絵理に対する純粋な好意と、獣欲。どちらも発現させ絵理にぶつける事が出来ないまま今の関係に至る。
「…………すぅ…………んっ……」
会話をしなくても眠っている葛城が傍にいると言う状態のお陰で間が持っている事もあってか、絵理がまどろんでいる。
会話が元々得意では無いと絵理自身は思い込んでる上に、いろいろあったからな……。
絵理が眠ってる所は今これが初めてだ。予想以上に寝顔が可愛い気がする。
葛城に絵理がタオルケットをかけてやった様に、俺も絵理にそうした方がいいんだろうけど。
「うわ…………改めて見ると、やっぱり……すごいな、絵理の胸……」
思わず口に出して呟いてしまう。
テーブルに絵理の巨乳がフニョンと乗っている。まるで胸を休憩させてるみたいだ。
敏感な絵理だけど、もしあの巨乳に息でも吹きかけたら、と不埒な事を考えてしまう。
もし、この空気のまま俺が絵理の肩に手を回してみたら、なんて言われるんだろう。
もし、いきなり絵理の秘密に踏み込んでしまったら、どんな顔をされるんだろう。
異常なほどの敏感体質の絵理。それが、彼女が自分一人が全裸であると言う自覚から来るものだったら。
その仮説が本当だったら、もしここで俺が彼女の秘密を知っている事を打ち明けたら。
彼女に『つき合って欲しい』とまっすぐに気持ちを告げたとしたら。
自分の恥ずかしい秘密をずっと目の前の男が知っていた事を知ったりしたら彼女の敏感な身体はどうするのだろう。
その男が普通の好意をもさらにぶつけてきたら、絵理の心と身体はどうなるんだろう。
今ここでなしている全裸ボディーペインティングなんて極めて変態的な行為なのに、それでいて彼女の性格は
ちょっとクールでいながら、純情で優しくて……人柄が出来過ぎてるくらいなのに。
くそ、どうしたらいいんだ……ドキドキ感が止まらないどころか、逆に激しくなって来る。
何か話したらいいかもしれないのに、当たり障りのない簡単な事が頭に浮かばない。
行動を起こすなら、早くしなくちゃな……絵理はこんなに綺麗なんだ。しかもいつも全裸でボディーペインティングで。
誰かにかすめ取られる様な事も、他の誰かにボディーペインティングがバレてそれで絵理が脅される事も受け入れられない。
でも、いつかは……それが近い内かどうかは解らないけど、絵理に気持ちを告げるなり何なりしないといけないんだよな…。
絵理といる今は間違い無く幸せだけど、本当に絵理とくっ付きたいなら現状に満足は出来ないんだよな……。
でも、苦労の末くっつく事が出来たら、俺は絵理とそれなりの行為を楽しめるのかなぁ……?
絵理との仲が進展して行くにつれて、俺の葛藤も大きくなっている。
何かそう言えば最近の夜はこんな絵理関係の事しか考えてないな……。今日このまま終わるのかな……。
「んぐぅ………ふぅ…………」
「えっ……きゃぁっ……?!ちょ、根元くんッ?」
ん?あれ……なんかこうファサっと……柔らかくていい感じだな、しかもいい匂い……。
「あ、ちょっと……ダメッ………!」
「………ん〜…………わッ?!な、何だ……?」
何か払いのけられた様な衝撃が俺の身体に走ってその心地よさが遮断される。
いきなり暗い所から醒めたと思ったら、今度は絵理の顔が物凄く近い距離にあってビックリしてしまう。
あれ?準備室…いや、それはおかしくないけど、何でいきなり………今日は学祭で確か、絵理と……あれ?
何があったのか一瞬わからなくなる俺だが、意識がはっきりするにつれて自分が寝ていた事に気づく。
そして、絵理の顔が赤くなってる事と、何か俺の頬に当たった感触や身体に残った感触。
「え?あれ?俺、もしかして、寝始めてた?」
「全く……いきなりこっちに倒れこんで来るから驚いたわ……」
「ご、ごめん!いや、何か葛城が寝てるの見てたらこっちまでと言うか……俺、何か変な事…変なとこ当たったりしなかった…」
「……ッ!べ、別にっ………!」
そう言えば、頬に軽く何かが当たった感触があって……そのまま滑って…鼻先に何か凄く柔らかいものが……そして身体全体を
払いのけられた様な衝撃が残っている様な気がする。あれ……頬は多分絵理の肩や髪の毛…身体全体の衝撃は絵理が驚いて払いのけた
時の感触だとして……鼻先に残る柔らかくて何とも言えない感触は……もしや?!
「…………」
思わず鼻先を撫でてしまう俺。それを見て戸惑いの表情が羞恥の表情に変わる絵理。
思わず胸を腕で覆ってしまっている辺りが何とも可愛らしいもんだ。いや、鼻先の柔らかい感触はやっぱり…。生…かよ…?
「……根元くん………!」
「わ、ゴメン!いや、本当に……いきなり驚かせてゴメン!」
「も、もういいのよ……そんなに謝らないでよ………」
……これ以上何か言えばお互いに墓穴を掘る事になりかねないよな。
しかし、何でこう俺は必死で理性を保とうとか思ってる時に限っていろいろヘマをやらかしてしまうもんなんだか…。
「やっぱり、根元くん……私といて退屈だったりしたの…?」
どうやら絵理は俺が眠気を催した事に際して勘違いしている様子だ。
「えっ?ええッ?!ひょ、ひょっとして、俺退屈だから寝たとか思ってんの?いや、そうじゃなくて……その……
香春さんの顔見てたら、なんかすごく幸福感が……ッ……?!って…いや、その、い、今のは……ほら、俺もあまり寝てないし…」
「ッ…?!………そう………ありがと………」
って、あれ……?いや、真っ赤になって顔を背けたりしないのかな……?今でも少し赤い顔だけど…。
昨日の飲み会の後の帰りの会話から考えても、絵理はジョークとかを言わない自分を面白くないと思ってるのだろうか。
「あと、ごめんなさい…さっき着替えるなんて言って……根元くんが見たいって言ったから、コスプレした事、忘れちゃって……」
「まあ……確かに言ったけど」
予想以上にエロすぎたという問題があったんだけどね……。
「途中で止めたりしたら、失礼だし……だから、根元くんへのお礼の分は今日この後一日この恰好でいいかしら?」
「でも、さっきも言ったけど、恥ずかしいなら、止めた方が…」
「さっきの変な人みたいな事が無ければ、平気だと、思うから…………これよりも凄い水着着た事あるし……」
いや、それきっと水着の方が露出が多い事を前提としてる分恥ずかしくないと思うんだけど……。
ひょっとして、絵理自身多少肌を露出したコスプレ(のボディペ)をする事に新しい興奮を感じているのかもしれない。
或いは、俺が勝手にお姫様抱っこしたり、眠りこんで絵理に倒れこんだ時いろいろ絵理の身体に当たったけど……それで興奮したのか。
絵理が超敏感体質なのは、昨日の事やさっきの葛城との会話やらで確定済みだし……。
「それに、今度は根元くんが一緒にいてくれるからね。」
「えっ…?あ、ああ、安心して俺の後ろに隠れていいから……」
「あ、でも……“連れ逃げ”は無しでお願いね…ふふッ……」
「ああ、香春さんてば、もうアレはしないから…非常手段だよ〜。」
「………そう言えば、私、抱き上げてたけど……重くなかったの?」
「ううん、全然!なんていうか柔らかかったって……いてッ!?」
「もう……やっぱり根元くんのムッツリは確定よね……」
絵理の肘が俺の脇腹に入った。痛いけど……それよりも何か心地いいな、この感触……。
どことなく、口封じと言うよりはじゃれ合いみたいな感触だったと言うべきかな…。
焦る気持ちもあるけど、同じく絵理と地道に良い関係を築いて行きたいと言うのも本音。
取りあえず俺の横に絵理がいる以上、今は絵理が学祭を楽しめる様にプレゼンしよう。
「そうだ、香春さん…お腹空いてきてない?香春さんも朝早かったでしょ……」
「私は別に……根元くんはちゃんとご飯食べて来たの?」
「あ、いや俺は朝飯食い忘れ位はしょっちゅうだからさ」
「あら、ダメよ…。だから、さっきみたいに……」
「はい……気をつけます……」
「それで……どこか食べる所に行くの?」
「うん……学食も開いてると思うけど……いろいろ見物しながら何か買ってこようか?農学部の模擬店で手作りパンも売ってるし」
「そう、ね……葛城さん、ほったらかしにしたら可哀想だから、食べ物でも買ってきてあげないと…」
絵理の言うとおり、葛城の事をほっとき過ぎるのも問題だよな…。葛城の行動はアレだけど、絵理と葛城はなかなかいい友人
になれるんじゃないかと思う。絵理が葛城に気を配ってる以上、それを邪魔するのも悪いしな…。
「葛城は知っての通り簡単には起きないから、そうだね、一時間か二時間位見てこようか?」
「うん……葛城さんが起きたら、彼女も一緒に誘いましょ……」
静かな美術部準備室から出て、再び喧噪の中に戻ってきた。
学祭開催時点よりは遙に人数は増えているけど、ある程度人の動きは落ち着いている感じがする。
お昼時と言うのもあるんだろうけど、絵理をその中に連れ込むのはやめとこう。
やっぱり絵理は今も誰もが目を向けるほど目立っている。コスプレ衣装のボディペのままだから当然だけど。
俺と一緒に並んで歩いてるけど、その存在感に、正面を塞いでる連中も、絵理に見とれながら道を開けている。
漫画の中では良くあるエロい恰好をした美人に気を取られた彼氏に彼女が腹を立ててる光景もある。
「な、なぁ……あの娘…今自由時間かな……?声掛けてみねぇ?」
「すっげえスタイルいいなぁ……仮装行列でもやるのかな……」
「いや、でも……あの横にいる奴、彼氏じゃねえの?」
「うわ…?何か全然釣り合ってねえな……」
「ねえ、もしかして、あの二人オタクの人なのかな……」
「えぇ?そうか?でもあんな美人オタクなら悪くねえかもな……」
俺に対する評価に不満はあるけど、取り敢えず絵理が男共に声を掛けられない様にするには役立ってるらしい。
別に俺だってオタクと言う程の事は無いけど、絵理をオタクと思うのは止めて欲しいもんだ。
でも、どこの展示を見ていこうか…。混雑した部屋の展示なんか見に入ったら、エロい恰好をした絵理に皆が一斉に反応するだろう。
それに絵理に声を掛けまではしなくても、絵理の動向を観察したがる人間がこっそり跡を付けて来ても困る。
実際俺がいてもお構いなしに絵理を狙って声を掛けて来る奴はもうしばらくすれば出てくるだろうしな。
いきなり人が多く集まってるような室内の展示物は避けよう。
かといって俺自身が知識も興味も無いような資料集の展示を一緒に見に行って色気のある展開は期待できないし。
そんなこんなで、一番最初に来たのは社交ダンス講座を開いているダンス研究会の展示室前であった。
その隣は手品研究会……真向いがコンピューター部か……。その前が何?アームレスリング会場?飛び入り自由って…。
美術準備室から近い場所でそれなりに静かな場所を選んで来たけど…絵理が楽しめそうなのは……ダンス研か?
ダンス研の方だが、メインであるはずの社交ダンスの展示よりも、一緒に展示しているダンスゲームの方にある程度人が集まっていて、
後の展示の方はあまり人がいない。お昼直後だからか、それとも展示の仕方が悪いのか。
「な、何だ……あのコスプレ女……エロい恰好……」
「アニ研の子か?」
ダンスゲーに興じてた連中が振り返り絵理を見て驚いていた。
何か部員らしい連中がダンス研究会にしてはえらく少ないな。社交ダンスの講師役らしき部員も見当たらない。
まあ、あまり人が集まって来ると絵理を連れて見物するのに大変になるから、まずはこの位でいいか……。
部屋の中央には、一本長い金属の支柱が固定されていた。周りには物を置かないようにしてあるらしい。
ひょっとして、アレはポールダンスの支柱か?どうもポールダンスと言うと俺の脳内で真っ先に浮かんでくるのは
真面目に技術を競い合うアクロバティックで柔軟なポールダンスや、近年の女性がダイエットを兼ねた運動の一環としたものでは無い。
夜の酒場とかで美人ストリッパーがいかにも誘っているかの様なセクシーなあっちのダンスの方ばかり想像してしまう。
多分、ここで展示してるのはエクササイズ的なやつだろう。さすがに大学構内でエロダンスを踊って見せるわけが無い。
他にもパーティーグッズで良く使われる、数人で一枚のシートに乗りながら指定された色の部位を押さえてく奴もあったが、
確かツイスターって名前だったな。小学校の時あれで遊んだ記憶があったが、皆野郎な友達ばっかだった。
小さい頃はそのじゃれ合いが楽しかったが、今では色々臭ってきそうとか以前に野郎共だけでツイスターなんて空しすぎる。
っていうかそもそもツイスターって絶対ダンスじゃないじゃん!
しかし感心すべきなのは、ダンスゲーもツイスターも部員が見様見真似で一から造ったらしい。
部員の中に工学部の連中がいるんだろうな、こう言う奴らがいるのは以外と羨ましいもんだ。
だからこそ……人が少なくとも学祭時なら部員が色々説明をしに現れても良さそうだが、その気配が無い。
「あ、そうか……アレか……」
「え、何………?」
この部屋の前面にあるホワイトボードを見れば、どうやら今の時間帯はダンス研究会の連中がステージで出し物のダンスを
踊っているらしいことがデカくマジックで殴り書きにされていた。
『申し訳ありませんが本日12:00〜14:00は本ダンス研究会は屋外ステージにて創作ダンス発表会を行います。』
『室内の物は壊さない限り自由に電源を入れて使用してくださって構いません。尚使い終わった機械はなるべく電源を落として下さい』
どうやら今ダンスゲーで遊んだりしてる連中は、留守番連中かたまたまここにダンスゲーがあるのを見て入ってきた部外者か…。
やれやれ……せっかく入ったのに、講師とかが出払ってるし、そもそもステージでのダンスにここの展示物関係あるのか?
「どうするの?根元くん…せっかく来たけどここじゃ、やる事が……」
「う〜ん…あ、そうだ……すこしこの棒。やって見るか……」
「ちょっと、根元くん……ポールダンスは以外と………あ……」
「大丈夫だって…テレビで見てもどう見ても筋肉質な女の人ばっかじゃないし…。俺小学校で昇り棒得意だったし…よいしょっと…!」
ポールに脚を巻きつけて両腕を離して見る俺だが、思い切り筋力が足りてないと言うか、柔軟性も足りてない。
「わッ?よよッ…?!あ、あれれっ…わああッ!?んごっ?!!」
バギョッ!――――我ながら割といい音を立てていたと思う。
「………根元くん……後頭部思いっきりぶつけてたけど、大丈夫?」
「うぅ……痛てて…あ、ありがと…どう、香春さん?香春さんならアクロバティックな動き、余裕じゃない?」
心配そうに床に頭をぶつけた俺を覗き込む絵理が、手を伸ばして俺を起こしてくれる。
「うん……出来ない事は無いけど……それより根元くんは社交ダンス経験あるの?」
「いや……社交ダンスはおろか今までの学校運動会のフォークダンスすら無かったな……」
「あら、そうなの……?今ならあまり人がいないし、社交ダンス位なら、私が教えてあげるけど?役に立つかはわからないけど」
「え?いいの?やりぃ……って……あ、でも香春さん、ポールダンス出来るんなら、やって見せて欲しいんだけどな〜…」
「で、でも……私……人がいるし……人に見せれるレベルじゃ……」
「ひょっとして、その恰好でポールダンス恥ずかしいとか?」
「っ?!やだ、わかってて言わないで……」
「ははは……でも、その恰好で社交ダンスもちょっとね……」
コスプレ状態の絵理と社交ダンスをしてアニ研の出し物と勘違いされても困るからなぁ…。
でも絵理と密着というか、腰に公然と手を回す位はOKと言う事か?
って……あれ?何人か露骨に出入り口の所で絵理の様子を覗いてる連中がいる。
ダンスゲーをやってた連中も、それに熱中してるふりをしながら俺と絵理の会話を伺っている。
ちぇ…あんまり一つの部屋に長居は出来ないのかな…ましてや絵理が何かをしようとすると、それがここの様に
アクションを要する物だと絶対に面白い見世物になってしまう事は間違い無い。
俺自身はそんな絵理を観察したい願望があるが、他人にまでそれを賞味させるのはもったいない。
1・葛城が起きた後で来て、二人にツイスターに挑戦して貰う。何故か順番予約ノートあり。人が少なそうな時間を予約するが、どっこい…
2・絵理にポールダンスのお手本を見せて貰う。ジャンケンに勝ったらという条件で。
3・絵理の勧めで、絵理に社交ダンスを手取り足取り教わる。割と無防備な絵理に主人公は勃起してしまうが……
4・絵理とダンスゲーで勝負して見る。→根元が勝ったら、喫茶店で「はい、あ〜んして」を絵理にしてもらう。
5・せっかくダンス部の出し物をしてるんだから、屋外ステージ前に行ってみる。→屋外系のイベントに発展
6・今は別の展示室に取りあえず行く。さしあたってすぐ傍のやつから。
い・アームレスリングに格好付けて参加して見る。→何故か根元と絵理の勝負イベント発生。絵理の机に乗った乳が気になって…
ろ・コンピューター部で取りあえず絵理に今の格好のコスプレの一般例を見せて見る。→絵理、思わず赤くなって逃げ出す。
は・手品研究会を覗いて見る。→絵理、ゲスト役頼まれるが、服の中にコインやカードを隠す手品は当然不発…。