雨の日の駅前。雨を防ぐためには少々不自然な一角…他人が多く集まって、空を恨めしげに見上げているその場所から距離を置いて、彼女は困っていた。  
俺には、彼女が何故困っているのかも、人から距離を置いているのかもわかっていた。俺の妄想していた行動パターンとピッタリだ。  
今も、雨粒が飛んでこないように、傍を人が通りそうになると、露骨に警戒する様な空気を放っていた。  
間違い無く、俺以外の人間は彼女の秘密に気づいていない。  
そう思うとわくわくしてきて、それと同時に真っ先に彼女に近づいて、その秘密を知っている事を教えてやりたいと思う。  
少なくとも彼女は可愛いタイプと言うよりも美人タイプで、長身でクールなイメージだ。  
俺の周りの連中にも、少し離れた場所にいる彼女に、『いいな、あの女……』などと溜め息混じりに呟いているやつがいる。  
もし、彼女に誰かがナンパでもしようとして声を掛ければ、彼女の秘密がばれかねない。  
少なくとも、その場で突然彼女の秘密を知ったポット出の連中に彼女を渡してしまうのは癪だ。  
あまりのんびりとしてはいられない。いち早く声をかける俺は、さりげなく彼女のいる方向に傘をさしながら歩み寄っていった。  
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ボディペインティングと言う物に対する知識は前から多少なりとも持ってはいたが、本格的に興味が沸いたのはつい最近だ。  
そう、彼女を街で見かけた時、俺の中にある特殊な嗜好が本格的に目覚めてしまった。  
近所の公園の一画で、絵を書いていた俺の視界に、始めて彼女が通りかかった。  
顔も、スタイルも美人タイプの彼女はもろに俺のツボにはまる魅力を持っていた。  
その時の彼女は自転車に乗っていて……その姿に思わず目を奪われた俺は、つい間に合わないとわかっていても、彼女を絵の中に  
納めようと視界から消えるまで、見つめてしまっていた。そして、見つけてしまったんだ。彼女の秘密を。  
視界から消えて行く彼女を公園の柵から身を乗り出してその後ろ姿を見ている時だった。彼女はサドル部分から腰を浮かして立ち漕ぎを始め。  
俺の目に、その時彼女の着ていた紺色の服の股間部分の中央に、不自然なピンク色が浮かんでいて。  
俺の平均レベルの視力がその時突然に跳ね上がったのか、それが女性の性器……いわゆるオ○ンコって奴だと気付いたんだ。  
そして、女性器が見えた理由。それはそういう服を着ているからじゃなくて……服を着ていない、つまりボディペインティングと気付いた。  
その時以来、俺は名前も知らない彼女の虜になってしまった。もう一度会いたい。  
彼女を見かけた後、アダルトDVDなどでその穴埋めをする様にボディペインティング物を漁るように見ていたが、妥協が多く、明るいそれらは、  
いくらモデルが可愛くてスタイルが良くても、俺の欲求を満たしてくれるどころか、益々物足りないものにしかしてくれなかった。  
はっきりいって、どこに彼女が住んでいるのかすらわからないし、大人っぽい彼女は大学生なのか、社会人なのかも見当がつかない。  
近所に住んでいるのならば、ここまで心惹かれる相手なら、何らかの形でもっと早く見かけて記憶に残る筈だ。少なくとも、彼女はこの近所の人間ではない。  
わからない事が多いほど、俺の彼女に対する妄想は大きく膨れ上がって行き、最早暴走する気持ちは彼女をもう一度見かけたら  
話しかけてみることでしか解消する術はなく、それ以来俺は宛ても無く彼女を探して街中を散策するようになった。  
そして、ダメもとで駅前をそれとなくうろついている時に、ついに彼女を発見した。  
 
青色のカットジーンズと、ロゴの入った黒いTシャツ……飾り気の無い恰好だけど……いや、それ以前に何も着飾っていない彼女。  
そういえば、彼女はあれを自分で仕込んでいるのかな……ひょっとしたら彼氏の命令か?  
しかし、今はそんなことはどうでもいい。もう少し、近づいてみよう。  
近づけば近づく程、彼女が魅力的に見えてくる。かなりの巨乳の持ち主であるのがここからでも見てとれる。背も高い。俺と同じ…いやそれ以上か。  
彼女は、長い髪の毛で胸の先端や背中をうまく隠していた。だが、それが彼女のそこに視線を集めている感じすらする。  
それ以上に、その服装の……ボディペインティングの出来の良さに驚く。知識が無ければ、それが簡単には裸だと気付かないだろう。  
だから気づいた俺にはそれなりに特権があってもいいはずだ。  
近づいていく俺に彼女はまだ気づいている様子は無い。気づいているとしても、きっと側を素通りするだけだと思っているのだろう。  
俺が声をかけたら、彼女はどう反応するかな?  
「よッ、彼女!一人?今、雨宿り中?」  
「えっ……きゃッ……!?」  
彼女の頭上に俺の雨傘を差し出しながら声をかけると、さすがに彼女も驚いたらしく口から悲鳴をあげる。  
彼女に目を奪われながらも、声を掛けていなかった連中も、その彼女が突然悲鳴を上げたので驚いて彼女の方を見ている。  
「あッ…やだ……私ったら………」  
注目を浴びたのを感じた彼女は口元を押さえて、頬を赤くすると、俺に強い視線を送ってきた。  
「何の用………?」  
「あ、ど、どうも……ごめん……驚かせて……俺、女の人に声かけるの、始めてで……」  
別に嘘はついていない。あんなナンパみたいな声のかけ方は今まで経験が無い。最も、最初から軟派なノリは彼女の好みじゃないと予想はしていたが。  
「そ、その……何か、困ってるみたいだしさ。ちょっと見様見真似で声かけちゃったんだけど……」  
「ふ〜ん………で、それで…………」  
随分突き放した態度をとる女性だ。だが、それがいい。俺をより惹きつける。  
「うん……良かったら、君の都合のいい所まで、送ってこうと思ってさ……俺、画材道具買いに来たんだけど、目ぼしいものが無くて、  
 このまままっすぐ帰るのも癪だと思ってね…で、何か良い事でもしてから帰ろってね……」  
「それで、ナンパ……?あきれた……」  
早くあっちへ行ってくれ、と言いたげな表情をする。元々の性格もあるだろうが、彼女の秘密を考えれば当然か。ならば。  
「そう言われると身も蓋もないんだけどさ、この雨、今日予報では言って無かっただろ?俺の予想だと、さらに風もこの後酷くなるから、  
 ここだと雨に濡れちゃうしね……それで声をかけたんだ。画材道具買えなかったから、この後特に用事ねーし」  
「っ…………!とりあえず、別にナンパするつもりじゃなかったわけ?」  
「ま、そういうわけじゃないけど……ごめん、おせっかいだった?」  
彼女も困っているだろう。俺にこのまま近くに立たれているのも、雨が激しくなるのも。  
俺はとりあえず人の良さそうな雰囲気を……自分でもそれがどうかは良くわからないが、いかにも初めて女の人に声をかけた  
ような雰囲気を取り繕う。きっと彼女は軽薄な男は好きなタイプどころか、相手にもしないだろうから。  
しばし、彼女は考え込む。俺を信用するかどうか、何より秘密がばれる恐れが無いか迷っている。  
「…………家の近くまででなら………」  
彼女の出した結論は取り合えず、雨が風とともに酷くなる前にこのさらに雨宿りをする人数が増えそうな駅前から離れることであった。  
 
「そうかい、じゃぁ……………」  
彼女が入ってくるスペースを傘の下に作ると、彼女は遠慮がちに、それでいて素早く入り込む。  
肩などに水滴がかからないか細心の注意をはらいながら。  
自分で立てた作戦とはいえ、容姿がもろに好みの女が同じ傘の下にいると思うと、妙に照れくさくなる。こんな秘密を抱えていなくても、充分に彼女は魅力的であった。  
「……どうしたの?」  
「あ、いやその……女の子と傘の下に入るのって結構久しぶりで子供以来ってゆうか……はは……」  
彼女が呆れた様に肩を竦めて見せる。しかし、今の言葉で、俺にある程度気を許し、秘密がばれていないと判断したらしい。  
「それじゃ、君の行きたい方向ってどっち?」  
「そこ、右行って…………」  
淡々と答える彼女。口数はあまり多い方ではないのだろう。  
しかし、困ったな……あまりベラベラ話しかけると、あまり印象を良く出来そうもなさそうだ。  
とりあえず、軽く自分の事を……目的以外の事を紹介してゆくか………。問題は彼女の秘密に切り込むタイミングだな……。  
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しばらく、少しずつ会話を交わしているうちにある程度は彼女の事を知ることが出来た。  
名前は、香春絵理(かわらえり)。どうやら、大学生で俺よりは一つ上。並んでみるとやはり俺より背が高い。  
しかもその大学はこの街の代表格ともいえる国公立大で、かなりの名門だ。この大学に通うために、地方から出てきて一人暮らしをしているらしい。  
俺みたいな三流大学で、美術学部に在籍できない鬱憤をサークルでの絵画制作で晴らしてる人間とは桁が違うらしい。  
会話をしているうちに、彼女はクールで口下手らしいが、決して冷淡な性格ではなく、むしろ誠実な性格であるらしいことが感じ取れる。  
特定の彼氏がいる訳でもないようで、とてもではないが、彼女の持つ恥ずかしい秘密と、彼女自身の性格はマッチしない。  
いい娘だな、彼女。そんな娘だからこそ、俺のものとして独占したい。性格も、容姿も、彼女の秘密も。  
今いる辺りは閑静な住宅街になっていて、雨の激しさのせいか、人通りは殆ど、いや全く無い。切り出すなら今か。  
あくまで、絵理の方向を強く見つめすぎないようにさりげなくその話を持ち出した。ジロジロ見てたら、気づいてる事がバレるだろうし。  
「ねえ、君……香春さん、ボディペインティングって知ってる?」  
「……………!」  
絵理が、明らかな動揺を見せる。本人は無表情を装ってるつもりだろうが。  
しかし、綺麗だ。先程までのそっけない態度も悪くないけど、こんな表情も出来るんだな……。  
「どうしたの?俺、なんか変なこと聞いたかな?」  
何だろう。このムラムラとしたそれでいて何か甘美なものすら感じる空気は。  
一本の傘の下で絵理との空間が作られている。何かしでかしたら、壊れてしまいそうな空気。でも、焦っちゃいけない。  
「え、そ、そう……?そんな事、無い、けど………でもなんでそんな話…いきなり……」  
自分にとっては与り知らぬ世界として、関わりの無い事として通したいのだろう。  
しきりに目を泳がせ、何か会話を別の方向へ持っていこうとしているのが感じられる。  
彼女のボディペイントの技術はかなりのもので技術方面では隙が無い。  
でも、彼女自身の性格は、クールで気が強そうに見えても、口下手で考えが顔に出やすくボロを出しやすいのだろう。  
 
「別にどうと言う事じゃないけどね……今、インターネットでボディペインティングの事に少しはまっててね……TVとか漫画とかだと  
 すぐにばれたり、色が落ちたり、いかにも裸だってわかりやす過ぎてイマイチだし……綺麗な人にはちゃんと描けば充分芸術になると思ってるんだけどね…」  
「ふぅん……で、でも……ここ、日本だし……日本ではすぐに警察が動くから、そこまでは………」  
話題のネタを打ち消す新しいネタが思いつかないんだろうな……。そわそわしながら話を合わせている。  
「スタイルがいい人なんて大変だよね……やっぱり、スタイルいい人の方がばれ易いんだろうね……」  
「…えっ……さ、さぁ……私、わからない…………」  
何を言って話をそらせばいいのかわからないのだろう。ボディペインティングの事など何の知識も無い振りをするしかないのだろう。  
もし、傘の角度を軽くずらして、絵理を雨ざらしにしてしまえばどんな反応を見せてくれるのだろう。  
いや、いっそ……うまく彼女を騙して、彼女のボディペインティングが剥がれてしまう状況を作り出せないだろうか。  
さて、どうするか…………  
@最初の考えどおり、傘をずらして、プレッシャーを与えてみて、バレていることを告げる。  
A公園の木の下に雨宿りと称して連れ込む。そこで木をゆすり、絵理に水を浴びせる。そこで、初めて彼女の秘密に気づいた振りをする。  
 
 
 
 

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