『ダンスマスター』、今私の一番のお気に入りのゲームだ。
元々はゲームセンターに措かれていたゲームで、流れる曲に合わせて画面上で指定された位置に足を置いてフットステップを繰り返して高得点を狙うゲームだ。
自分は画面前のステップボードの中心に立ち、中心を囲むように正六角形に配置されたパネルを曲に合わせて踏みつけていく。
まさにゲーセンならではのダンスゲームで、いわゆる音ゲーだ。
このゲームが、最近専用コントローラー付属で家庭用ゲーム機に移植されたので、私は兄ちゃんと二人でお金を出し合って買ってきた。
コントローラー接続したフットマットを踏みつけて操作したり、ゲーセンさながらにフットマットを踏みつけながら激しくダンスするから、よくお母さんには足音がうるさいって怒られちゃうんだけど……。
でもでも、ゲーセンっ子の私にとっては今一番のお気に入りのゲームになっている。
そして、自分で言ってしまうけど私はこのゲームはめちゃくちゃうまい。
私がゲーセンで『ダンスマスター』をプレイしている間、私のプレイを眺めて足を止める人が毎回何人かいるくらいだ。私のテクニカルプレイに見蕩れてくれるギャラリーの視線を浴びながら踊るのは、とっても気持ちがいい。
ゲーセンのランキングは、全部私のニックネーム"doe"で埋まってる。私の苗字が大鹿だから、雌鹿って意味のdoeって単語を私はニックネームとして使っている。
お兄ちゃんもこのゲームは割と巧い方だけど、それでも私にはかなわない。
好きこそものの上手なれで私はどんどんうまくなるし、上達するからどんどんこのゲームがすきになってしまう……。
気付けば、兄ちゃんと二人で買ったはずなのに、ほとんど私ばかりがこのゲームを独り占めしてしまっていた。
『ダンスマスター』ゲームソフトとフットマットコントローラーはいつも私の部屋にあって、兄ちゃんが遊びたくなったら私の部屋にやってくることになっていた。
夏休みのお昼。お父さんは会社で、お母さんはパート。
家にはお兄ちゃんだけだから、お家の中でドンドン足音を立てても怒られない。今から気兼ねなく『ダンスマスター』で遊べる。
激しい運動をするから当然、汗を大量にかく。
気持ちよく汗をかくために、私は自分の部屋の冷房のスイッチを切った。
冷房を切った夏の日。何もしていなくたって汗が吹き出るくらいなのだから、ちょっとでも動くと額や身体中に汗がにじみ出る。
にじみ出た汗は身体の下の方に垂れていき、ぽたっと落ちてマットに水滴をつくる。
このにじみ出て流れる汗が冷えて冷たくなるのが嫌で、私は冷房を切ることにしている。
額の汗は首筋をつたって、私の結構自慢できるくらいに大きい胸を膨らみをよじ登っていく。汗が乳首につたってくるとちょっとヘンな気分になる。
山を登った汗はまた急速に山を下っていき、さらに下っておへそを潤したり、その下のヘアでからまったりする。
ステップを踏む度に胸は弾み、身体中の汗の雫がマットにぽたぽた落ちる。
腋や股間、関節には汗が溜まりやすい。
お尻の間にも汗が溜まる。はしたないけど、部屋に私しかいないのをいいことに両手でお尻を広げて風を通してみたりする。
でも、全身に吹き出る汗がいかにも夏で気持ちがいい。
ひとしきりプレイし終えて、全身に心地良い疲労感と達成感を味わいながら、私は自分の部屋を出る。
私の次は兄ちゃんが『ダンスマスター』をプレイするのを待っているから、兄ちゃんにゲーム終わったよって言いに行くためだ。
廊下に冷房は効いていないけど、風通しがいいだけで凄く涼しい。
そして、冷房の効いている兄ちゃんの部屋へ……。
「兄ちゃん、終わったよ〜……ひゃあ〜涼し〜!」
私はこの瞬間が一番好きだ。汗だくの身体に直接浴びる冷房が極楽そのものだ。
「だからお前、素っ裸で来るなっつってんだろ!」
私は昔から、夏休みのお昼は家の中では裸で過ごすことにしている。お母さんの前では怒られそうだから裸にならないけど、兄ちゃんの前くらいだったら別にいいやって思っちゃう。
「いいじゃん別にい。あ〜兄ちゃんのお布団つめた〜……」
「バカてめえ汗だくで俺の布団に寝転ぶんじゃねえ!」
兄ちゃんのベッドの上に、うつ伏せで寝転がる。我ながらほんとにはしたないけど、兄ちゃんからはアソコとか色々丸見えになっちゃってる。
その度に兄ちゃんは「汚いからしまえ」とか「俺がちんこ出すのと一緒だろうが」とか言うけど、兄ちゃん相手に気を遣うのが
面倒だからしかたがない(いや、女捨ててるとか言わないで……これでも一応クラスではモテる方だから……)
「目の毒だ」と言って兄ちゃんがタオルケットを私のお尻に掛けてくれたりするけど、さっきまで運動していて火照った身体には薄布一枚でも暑くて気持ち悪いから、すぐにお尻のタオルを自分で剥いじゃう。
兄ちゃんは多分、妹の私の裸を見るのがほんとに嫌なんだと思う。兄ちゃんは私が家の中で裸で過ごすのをやめてほしいって思ってるんだと思う。
私も兄ちゃんも、ぶっちゃけかなりオタク入ってるし、妹にヘンな感情を持っちゃうようなゲームやアニメがいっぱいあることだって知っている(むしろ兄妹揃ってそのゲームをやってたりする)。
でもだからといって、兄ちゃんが私の裸を見て「ドギマギしてしまって気まずいから見たくない」なんてわけじゃないのは私でも分かる。ドキドキどころか、女としてすら見ていないんだと思う。
「架空の妹は萌えるが、リアルの妹は萌えん」って兄ちゃんは以前に言ってたことがある。
(そこが私としても複雑なところなんだよね……もちろんまさか兄ちゃんに私の裸でハァハァなんてされたくないけど、『オタ入ってるけど美少女』を内心で勝手に自負してる私としては、例え身内の男でも私の裸に無関心なのはちょっと悔しいし)
兄ちゃんも外見は割とイケメン(普段眼鏡かけてるし、どっちかと言うと腐好みな意味でのイケメンかもしれないけど)で、口数も少なくて普段はあんまり感情を表に出すようなタイプじゃないけど、残念ながら家ではギャルゲばかりやってる腐れオタクだ。
でも無駄に良い大学に進学してたりするような、いわゆる「残念なイケメン」なのがうちの兄ちゃんだ。クール気取りなフェイスのままダンスマスターで踊ってたりするからちょっとシュールで笑っちゃう。
多分私もそんな兄ちゃんを見て、「残念な美少女」を目指すようになっちゃったんだと思う(残念な美少女は『目指す』ものじゃないとは思うけど……)。
さて、今日はこのゲームで一番難しい曲『chaothic maniac(ケイオティック・マニアック)』のノーミスプレイにチャレンジだ……!
ケオマニノーミスなんて達成できたら、知ってる人の間では神扱いされちゃう……www
この曲の鬼畜ポイントは、何と言っても「3箇所同時ストンプ」だ。足は2本しかないから、上体を倒して、手でパネルを叩き付けることになる。
後方2つのパネルを足で踏んで、同時に前のパネルを両腕を伸ばして叩き付ける。
上体を屈めたその体制から起こして、すぐに両脚を前後2箇所同時ストンプに持っていく。
それからも、脚を頻繁に動かし、ストンプを繰り返す。
そのまま、ターンして画面に背を向ける。画面は見ずにこのまま脚を動かさないと、脚がついていかない。ストンプパターンは当然暗記してるし、身体が勝手に動く。
身体の柔軟さ、機敏さが要求される。疲れている暇なんてない。
私に「麻衣(マイ)」という名前をつけてくれた両親に感謝する。私は大鹿麻衣、ダンスマスター"doe"……!
MUSIC END
score:1,000,000,000
total combo:858
rank: SSS
PERFECT!!!
……やった!
とうとう、やった!
早速この画面を写メで保存!即ブログにアップ!ついでに2ちゃんねるにも投稿!
とうとう達成しちゃった……ケオマニ、ノーミスパーフェクトクリア……!!
この画面のまま、兄ちゃんに自慢してやる……!!
「兄ちゃん!ケオマニノーミスできたよ!」
……あれ?
兄ちゃんの部屋に、他の男の人がいる……。
兄ちゃんの友達の、安藤さんと今川さんだ……。
安藤さんも今川さんも、私の方を見てきょとんとしてる。
そうだった……今の私の格好は……
「ま、麻衣ちゃん……」
「おい大鹿、何でお前の妹、裸なんだよ」
「ひっう……!!!」
とにかく、胸隠さなきゃ!あいたっ!あわて過ぎて胸の前で手がぶつかっちゃった!
胸、胸!腕で胸を隠さないと……って、これじゃ股間が隠れないよ!
ちゃんと股間を隠さないと……ってあああ、両手で股間隠したら、胸がまた見えちゃうじゃないか!
必死で腕をばたつかせている私……お願いだから落ち着いてよ……!
慌てる私、呆気にとられた表情で裸の私を見つめている兄ちゃんの友達……。
「ほ〜お、よくやったじゃないか麻衣」
気まずさを打ち破るように、最初に口を開いたのは兄ちゃんだった。
兄ちゃんの口元が、悪戯っぽくにやついてる。
嫌な予感がした……兄ちゃんがこんな表情のときは、何か変なことを思いついたときなんだ。
「お前ら、ダンスマスターのケオマニ知ってるか?」
「あ、ああ。chaothic maniacだっけ?」
「音ゲー屈指の鬼畜曲だろ?俺はやったことないけど……」
「こいつ、その鬼畜曲をノーミスクリアしたんだとさ」
兄ちゃんたちが、私そっちのけで話始めちゃった……。
わ、私、どうしたらいいんだろ……。
も、もう自分の部屋に戻っちゃっていいかな?
私が後ろを振り向いたとき……
「麻衣、もっかいやってくれよ。こいつらにも、お前の神テクをみせてやってくれ」
「う、うん……」
私が裸だってのに、兄ちゃんがお構いなしに私に喋りかけてきた。
兄ちゃんの前で裸なのはどーでもいいけど、安藤さんや今川さんもいるのに……
「よし、安藤、今川。今から俺の妹のスーパープレイを見せてやろう」
「あ、ああ……」
何故か一人だけ張り切ってる兄ちゃん。そんな兄ちゃんに、私も安藤さんも今川さんも、引っ張られているだけだ。
そんなことより、何で、何で、私裸なのに、兄ちゃんはこれ以上引き止めようとするの?
兄ちゃんの友達に素っ裸を見られちゃって(これは私が悪いんだけど)、私今、すっごく恥ずかしいのに、どうして兄ちゃんは、私を裸のまま引き止めようとしてるんだろう……。
……まさか、普段私が、兄ちゃんにいくらやめろって言われても素っ裸で過ごしているから、罰として、少しでも長く、この人たちの前で裸で過ごさせようとしているのかな?
これに懲りて、これからは兄ちゃんの前でも恥ずかしがって裸で過ごさないようになれ、って兄ちゃんは思ってるのかな?
そんな……めちゃくちゃ恥ずかしいよう……
「あ、あの……」
私が口を開いた。
もう今更身体を隠しても無駄っぽいから、腕を下ろして、素っ裸のまま、極力自然に。
「こんなお見苦しい格好でごめんなさい……わ、」
「家ではずっとその格好なの?」
そのまま「私、着替えてきます!」と言って退散するつもりだったのに、安藤さんに遮られてしまった。
「え、ええ……ご、ごめんなさい、こんなはしたなくて……」
引き攣った笑顔で返事する私。
あ〜ん、二人とも、私の方を見過ぎだよ〜。早く私を解放してよ……
「まあ家なんだし許してやれよ。それより、早くスーパープレイを見に行こうぜ」
くっそう、このバカ兄怒鳴りつけてやりたい……
お尻丸出しの裸の背中を向けたまま、私は自分の部屋に3人を案内する……
何だよこれ、いじめか何かなの?
「ど、どうぞ……」
素っ裸のまま、私は自分の部屋に3人を入れた。
「ほお、マジだ」
さっき残しといたステージクリア画面を見て、さすがのクール気取りな兄ちゃんも感心してくれた。
「へ、へえ……これが麻衣ちゃんの部屋なんだ……」
安藤さんにそう言われても、私は生返事しかできない……
って、うわあ!!脱ぎ捨てたパンツ、置きっぱなしだった!安藤さんに見られちゃった〜!!
安藤さん、見ないで!私の脱いだパンツ見ないで!ごめんなさいこんな色気のない下着で……(って、そうじゃないって!)
「あ、クーラーつけない派なんだ麻衣ちゃんは……」
今度は今川さんが話しかけてくる。
「あ、はい。さっきまでこのゲームやってたし、運動するときにクーラーつけたくないですから……」
ああ、また汗が滲んできた……でもこれは運動後の汗じゃなくて、何かこう別の、冷や汗みたいなものだと思う……。
けど、安藤さんも今川さんも、この曲をノーミスクリアすることがどれくらい凄いことかって、あんまりわかってなそうだな……ちょっと悔しいな。
「さあさあ麻衣、もう一回やってくれよ。今なら二連続ノーミスクリアもできるかもしれないだろ?」
「そ、そんな……一回まぐれでできるだけでも凄いようなことを、もう一回連続でやるなんて……」
「謙遜すんなって。ゲーセンでも人だかりをつくってしまうお前のウルトラテクニックを、こいつらにも見せてやってくれよ」
「う、うん……やってみる……」
だめだ……このままだと兄ちゃんに圧されて、男の人たちの前ですっぽんぽんでダンスすることになっちゃう……。
「あ、クーラー、入れますね。ごめんなさい、気がつかなくて……」
時間稼ぎのつもりで別の話題をふってみる。
「別にそんな気を遣う必要はないぞ麻衣。お前の普段通りの、全力を出せるコンディションでやってくれ」
「あ、あの……」
何が『普段通りのコンディション』だよこのバカ兄!
その調子で「服なんか着なくていい」って言い出すつもりなんだろこいつわ!
何でこの私がこんなバカ兄のペースに飲まれなきゃいけないんだよ。もういいよ、服着てやる!
床に落ちている私のパンツを拾い上げようとすると、一瞬また凄く恥ずかしくなって手が止まった。
何で……裸は散々、胸もヘアまでも散々見られちゃったのに、どうしてたかだか下着でこんなに恥ずかしいんだろう……
「服、着るのか?別に気にしなくてもいいのに」
「だ、だって、お客さんの前でずっと裸でなんかいられないでしょ!?」
「おいお前ら、こいつが服着てないの、気になるか?」
「い、いや、別に……」
「う、うん……」
くそっ、このアホ兄!安藤さんと今川さんを味方につけやがったな〜!
「普段通りでいいんだって。俺もいるし、ここは家なんだから、普段通りのリラックスした格好でやってくれよ」
「で、でも、やっぱり兄ちゃんの友達の前で裸なのは、やっぱりはしたないし……恥ずかしいし……」
男3人に囲まれた状態で、すっぽんぽんのまま立ち話させられている私の気持ちを考えろっての!もう恥ずかしくて死んじゃうよ……。
「お前服着るとスコア下がるだろうが」
「え、あ、うん……」
確かに、裸で踊るのに慣れ過ぎちゃって、服着て踊るとどうしても服の摩擦とか抵抗とかが気になってしまってスコアが下がるんだけど……(そのせいで、ゲーセンでは家ほどのスコアを出せなくて歯痒いんだけど……)
「せっかくだから本気でやってくれよ。仮に今回俺達の前でノーミス再現できなかったとして、それが服着ていたことが原因かもしれないとか、後で思いたくないだろ?」
「べ、別に、裸じゃないことだけがノーミスできない理由じゃないし……」
「予見できるリスクぐらい潰せよ。予見できたことをやらずに、後悔するのは後味悪いぜ?」
そう言って、またこのアホ兄は悪戯っぽくにやつく。
このやろう、そこまでして私を裸のままダンスさせたいのかよ〜!!
「あ、あのね、兄ちゃん」
「ん?」
「そんな問題じゃなくってさ、今私、家族でもない人の前ですっぽんぽんなんだよ。それって、ノーミス達成とか、リスク予見とか、そんな問題じゃなくない?」
「何を遠慮してるんだ?ここは家だし、お前は普段通りの格好してるだけで、俺もこいつらもお前が裸でもいいって言ってるんだ。そういうのを『水臭い』って言うんだぞ」
「兄ちゃん……ほんとにごめんなさい。普段のことは謝るからさあ、私今ほんとに恥ずかしいんだよ……。兄ちゃんの友達に裸を見せちゃったのは私の責任だけど、裸を見られるのと、裸のままダンスするところを見られるのじゃ、わけが違うんだって」
「別にゲーセンで裸で踊れって言ってるわけじゃないだろ」
「そ、そうだけど……」
「なあ安藤、お前このゲームあんまり知らないだろうけど、こいつのこのゲームの腕前は日本全国でベストテンに入る勢いなんだぜ」
兄ちゃんはいきなり、安藤さんに話をふった。
「そ、そうなのか……」
「お前の好きな落ちものゲームで例えるなら、……試合中に狙って17連鎖出せるレベルだ」
「そ、それは神だな……」
兄ちゃんは再び、私の顔を(無駄に)真剣な顔で見つめてきた。
「なあ麻衣。俺たちはお前の全国レベルのテクが見たいだけなんだよ。そんなときにお前は、妥協するつもりか?」
……それを言われると悔しい。
私だって、せっかく私がこのゲームをプレイするところを兄ちゃんの友達に見てもらえるんだから、可能な限り上手に踊って圧倒するようなプレイしたいとは思う。
私のプレイを見てもらえるチャンス……私を、見てもらえるチャンス……!
私は恐る恐る、安藤さんと今川さんに尋ねてみた。
「あ、あの……私、今からこんな格好で踊っちゃいますけど、……いいですか?」
これは、私にとって最後の確認だ。
私は、せっかくだからベストコンディション(素っ裸)で踊りたいと思ってる。だから、その後押しをしてほしかった。
或いは、このすごくはしたなくて恥ずかしい発想を、兄ちゃんの友達に止めてもらいたかった。
「あ、ああ……」
「うん、別にいいよ……」
安藤さんは呆気にとられたままゆっくりと、今川さんは心なしか力強く、頷いてくれた。
あ〜あ、……これで、私の逃げ道は無くなっちゃった。
「……ありがとうございます」
私今、すごく恥ずかしい目に遭わされてるのに、お礼言っちゃった……。
どうしよ……私、裸にさせられて喜んでるみたいだ……。
でも、もうこれで、後には退けない……!
「裸でどたばた踊りますから、すごく見苦しいかもしれませんけど……、いきます」
私はフットマットコントローラーの上に立った。
兄ちゃんは私の左、安藤さんは右後ろ、今川さんが私の真後ろに、座り込んだ。
うわ、やっば……今川さんの位置から、私のその、……アソコが丸見えになってる!!
私、画面の方見てるからわからないけど、今川さん、私のアソコ見上げてるのかな……!
曲セレクト、画面暗転、ナウローディング……
ああっ!暗転した画面に映ってる今川さんの目線、やっぱり、私のアソコ見てる!!!
あああああ、見られてる、見られてるよ〜……
chaothic maniacがスタート。
踏むように指示されるフットパネルが目まぐるしく変わる。私は機敏に反応して踏みつける。
集中、集中……。胸が揺れて暴れ回ってるけど、いつものことなんだから……。
脚を左右に開いたときに感じる視線も、気にしてる場合じゃない……!
兄ちゃんやその友達に背中を向けたまま、私は激しく踊り続けた。
!
鬼畜の3点ストンプだ!
左足で左後方の、右足で右後方の、そして上体を屈めて両手で前方のパネルを、同時に叩き付ける!
ぎゃああ、今川さんに向かってバックで大開脚しちゃってる!!
アソコ丸出し……お尻の穴も……全部見られちゃった〜!!
でもでも、ここまでノーミス……!私のテクと集中力なめんな!
「すっげ……」
安藤さんが小声で呟いたのを私は聞き逃さなかった。素人だって、私がすごいことは絶対わかるんだから。
ほら、どうぞご覧になってください。
私はダンスマスターdoe、ゲーセンランキングのエントリーネームを独り占めしている、ダンスマスターdoeなのですから……!!
うおっと、ここでターンだ!
ここから先は、画面に背を向けて、曲に合わせて暗記しているストンプを繰り返す……
うわわわわ!今川さんや安藤さんの方に振り返ったから、視線が合っちゃったよ!
二人の男の人の真正面で向き合ったまま、私今、すっぽんぽんで踊ってる……!
今川さん、顔にやけすぎ……!安藤さん、気持ちはわかるけど胸ばっかり見ないでください……!胸がこんなに揺れてることに、私の方がびっくりしてるんですから……!
ダメだ、目線合わせられない!ああ!さっきミスったかも知れない……!
画面に背を向けてのダンスは終了。良かった……コンボ繋がったままだ……ミスしてない!
あとは8分刻みの両脚ストンプが連続したり、16分連続ステップだったり、油断はできない。
でも、コンボは続いてる……まさかの連続ノーミスクリアできるかも……。
服着てない、裸の肌に感じる風が心地良い。汗が吹き出る。
やっぱり裸で運動するのはすごく気持ちいいんだ。
それに、……今私が裸で踊ってて、その私に対して、兄ちゃんの友達が圧倒されてくれていることも。
女の私から見ても、女の子の裸って、すごく綺麗なものだと思うんだ。芸術的だと言っていい。
その綺麗なものを、私は女だから純粋に「綺麗」だって思える。
でも、男からすれば、女の裸は「綺麗」以上の意味を持ってしまう。
それは仕方のないことだけど、それでも男のそういった劣情は、女である以上あんまり好きになれないし、根本的に理解することはできない。
男の人が女の子の裸を、「エロい」ではなく、「綺麗」とか「芸術的」とか、そういう風に思うことって滅多にないのかもしれない。
でも、だから、……私はそれを目指したかったのかもしれない。
私は、ぶっちゃけ裸には自身があった。だから、女の子の前ではしょっちゅう脱ぐ。
私は自分の裸を、純粋に芸術的な意味で綺麗だと感じてもらいたいと思っていた。
私が兄ちゃんの前でずっと裸でいたのは、兄ちゃんなら性的な意味抜きで、私の裸を綺麗だと思ってくれるんじゃないかと期待したから。
それに、今日こんな風に、兄ちゃんの友達の前で裸で踊るようになっちゃったのも、もちろん恥ずかしくて嫌だったけど、今は内心ちょっと嬉しいと思ってる。
嫌なのは、兄ちゃんの友達に、私の身体でハァハァされてしまうこと。男の人からは「無茶言うな」って怒られるかもしれないけど、女の子に劣情を抱いくことが許されるのは、その女の子と相思相愛の男の人だけだ
(……うん、男の人とお付き合いしたこともない夢見る少女のたわ言だと思って聞き流してほしい)。
それに、裸であることの社会的違和感(淫らさ、だらしなさ、はしたなさ)もあるから、純粋に「女の子の裸の芸術性」だけを鑑賞するのは難しいことだ。
でも、私にはダンスマスターというゲームに関してはスーパーテクがある。そのダンステクだけで、私は人を魅了できる。
恥ずかしがってる場合じゃない。もし私が、有無を言わさず裸で、この場を見事に踊り通すことができたら、「裸でダンスすることの芸術性」を感じてもらえるんじゃないかな?!
私は踊り子、そして、演出家……!!
私に内在する芸術性は、全て晒して、評価してもらいたい!!
ほら、私のダンス、どうですか?私の裸、どうですか……!?
まだノーミスは続いてる……!このままなら、もう一回ノーミスクリア、いける……!!
MUSIC END
score:1,000,000,000
total combo:858
rank: SSS
PERFECT!!!
「や、やった……」
一人で初めてノーミスクリアを達成した以上の歓びがこみ上げてきた。
誰かの目の前で、このゲーム最難関ステージのパーフェクトプレイを、実演できたのだから。
左に居た兄ちゃんの方を向いてみる。普段のクール気取りの表情が、まだ驚きっぱなしだ。
今川さんと安藤さんは……うん、私の凄さに圧倒されてくれてる!
もう二人の表情からは、私の裸をイヤらしく見つめるような表情は消えて、純粋に私のプレイを楽しんでくれていたみたいだ。
「……やったよ、兄ちゃん!」
「……ほんとにやりやがるとは」
「麻衣ちゃん、お疲れさん!」
それからしばらく私は、裸のままで3人の男の人に囲まれて会話していた。
ヒーローインタビューされてるみたいで気持ち良かった。
数日後。
私は相変わらず、ダンスマスターをプレイし続けていた。
もう私は、このゲームを完全制覇したと言っていい。
でも、まだ拘れる。もっと魅力的な踊り方がある……!
この街のゲーセンに留まるなんてもったいない。このゲームをやってる全ての人に、doeという名前を知ってもらいたいんだ!
家にいる兄ちゃんからメールが入ってきた。
『別の奴がお前のプレイ見たいって言ってるんだが、今から部屋に行っていいか?鎌田と安田、二人とももう俺の部屋にいる』
兄ちゃん、無駄に友達多いよなあ。
鎌田さんと安田さんかあ。
安藤さんと今川さんなら、もう既に見られちゃってるけど……。
今の私は、もちろん素っ裸。
兄ちゃんの別の友達が、今から私のプレイを見に来たいみたいだけど、
……正直、やっぱり私、裸のまま踊りたい!
『いいよ。』
素っ気ない返信を返した。
兄ちゃんたちの足音と話し声が、ドア越しの私の部屋に近付いてきた。
今の私は、家にいるんだから、当然素っ裸。
今から兄ちゃんの別の友達に、私の裸を見せちゃうんだ……!!!
ノックが部屋に響き、私はドアを開けた。