放課後になると、いつも私たち四人は教室で適当に話しをしながら、遊びに行くところを決めている。  
だから今日も、いつものように話してたんだけど…  
今日の話題は舞花の弟、義彦君のことだった。  
「気持ち良いんだよねぇ…義彦君の…アレ」  
「そうだね…確かにアレは良かった…」  
「モテモテだねぇ〜、うちの弟は」  
私だけ、この話には入れない。  
理由は、私だけマッサージをしてもらったことがないから。  
わざとエッチな言い方をしているのも、私をからかってるんだと思う。  
「だからさ、桜子もやってもらおうよ。ただのマッサージなんだから」  
「…だって…なんかみんな、言い方が…やらしいんだもん…」  
男の人なのも嫌だけど…問題はむしろ、体を触られる方…そんなことされたら…  
「純だよね、桜子って。そういうところが可愛いんだけど」  
「まあ、桜子はあたし達と違って義彦君に会ったこともないし、警戒するのもわかるけどさ」  
「大丈夫だって、あたし達もいるし…あいつにこれまで、沢山の女の子にマッサージやらせたけど、襲ったりしなかったよ」  
舞花の弟だし、舞花達も一緒にいるし、そこは信用してる……だけど…  
「あ、そうだ!せっかくだから今日しちゃおうよ。と言うわけで、今日は桜子のマッサージ初体験ツアーに決定!」  
「え!?私は…」  
「「意義な〜し!」」  
…みんな、息が合ってるし…まるで打ち合わせでもしてたみたい…はぁ…  
 
 
ここは舞花の部屋。結局、多数決的に来ることになってしまった。  
舞花の部屋はすっきりしているんだけど、意外と可愛らしくて、机の上にぬいぐるみなんかも置いてある。  
ベッドのシーツも花柄で、女の子の部屋って感じがして、私の心を少しだけ落ち着せる。  
でも、さすがに四人もいると少し狭いかな。  
「じゃ、あいつ呼ぶまえに準備しよっか。桜子、脱いで」  
「え?…ああ、上着ね」  
「あれ?話したことなかったっけ?いつもみんな裸だよ」  
え?…冗談だよね…裸なんて、そんなわけ…  
「…言わなかったっけ?」  
「どうかな?私達はしてもらったことあったから、そういうもんだと思って、話してなかったかもね」  
でも、舞花の言葉に、二人も顔を見合わせながらも同調する。  
「大丈夫、大丈夫。背中とか腰とかそこらへん触るだけだから、うつ伏せだから前は見えないし」  
「…よし。舞花、今すぐ義彦君呼んできて、部屋の前で待機!桜子の退路を断て!」  
「で、桜子はすぐに裸にならないと、義彦君に全部見られちゃうかも、と」  
「ラジャー!二人はちゃ〜んと脱がしておいてね」  
舞花はすぐに部屋を出て行き、私は二人と取り残される。  
どうも、私以外はみんな本気みたい…どうしよう…  
「ほら、すぐ脱がないとほんとに見られちゃうよ?」  
「それとも、私達が脱がしてあげよっか?」  
「…いいよ…自分で脱ぐから…」  
もう逃げられなさそうだし、だったら自分で脱いだほうがいくぶん楽だ。たぶん…  
私は大人しく上着を脱いで、制服のブラウスのボタンを外す。  
「…ねえ、裸ってどこまで?…下着は脱がなくていいよね?」  
裸ってだけなら、下着姿を指す場合もあるはず…それなら、少しだけマシ…  
「あたしのときは、ブラもショーツも脱いでるよ」  
「うん。私もそうだけど」  
…本当に、全部脱がなきゃいけないんだ…ああ…やだなぁ…  
私はブラウスのボタンを外し終わって、裾の方をつかんで片方ずつ肩から抜いていく。  
「なんか、桜子の脱ぎ方…色っぽいね」  
「普通はもっと、バッと背中の方にやんない?」  
「そ、そうかな?いつもこんな感じだけど…」  
 
なんか、癖なんだよね…そういえばずっと前に、誰かに言われた気もする。  
私はスカートのホックを外すと、スカートはハラリと私から離れる。  
「はぁ、何で桜子は、普通の下着でも可愛く見えるんだろうね?」  
「そうだよね。不公平だよね」  
そのとき、ドアを乱暴にノックする音が響いた。  
「おお〜い、ターゲット確保成功〜。桜子はちゃんと脱いでる〜?」  
「今着替え中〜、あと一、二分ほどお待ちください♪」  
「さ、早く脱がないとほんとに見られちゃうぞ」  
やだ…いくら舞花だって…入る前には確認するよね?…いきなり入ってきたりしないよね?…  
私は急いでブラのホックを外す。ドアの前には、男の人がいるのにもたもたするわけにはいかない。  
…普通、逆だよね…男の人がいるから脱ぐって…  
「今、桜子の小ぶりで可憐な二つの果実が露になりました〜」  
「確かに小ぶりですが、華奢な桜子には、このくらいがちょうど良いと思われます」  
「な!ふ、二人ともやめてよ…」  
二人は私が脱いでる横で、私の体について芝居がかった口調で話し始める。  
「あ!あたしも見たい!入っちゃおうかな〜?」  
え?やだ…ほんとに入ってきたりしないよね?…  
「舞花さん、それはダメです。桜子が怯えてます。その代わりに我々が、しっかりと解説させて頂きます」  
「え〜、桜子の胸は小ぶりですが、体を動かすたびにフルフルと柔らかそうに震えております。そしてその頂点には、  
 淡く色付くちっちゃなちっちゃなさくらんぼがちょこんとしていて、なんとも可愛らしいです」  
「淡い色合いが良いですね〜。儚げな桜子にぴったりです」  
私は二人のことは無視することにした。恥ずかしいけど、いちいち構ってたら切りがない。  
それに…もたもたしてると、ほんとに舞花が入ってきちゃうかもしれない…男の人に、見られちゃうかもしれない…  
私はさっとショーツに手を掛ける…でも、二人がバカなことしててくれるおかげで、少しだけ緊張が和らいでるかも…  
「おおっ!ついに乙女の秘密を守る最後の砦、ショーツへとその手が掛けられました!」  
「桜子の…桜子のプルンとした桃が露になりました!二つの果実同様にこちらも小ぶりですが、  
 なんとも柔らかそうに我々の前で踊っています」  
「桜子は全体的にサイズがやや小さめですが、そこが守ってあげたくなります」  
…でも、やっぱりやめて欲しい…  
…やだな…友達の前で、下着を脱ぐなんて…私だけ、裸になるなんて…  
二人はまだ何か言ってるけど、気にしない……気にしたら…恥ずかしくて逃げ出したくなる…  
何も考えちゃダメ…私はただ、マッサージを受けるだけなんだから…  
 
私は脱ぎ終わると、着ていた服を二人に預けて、ベッドの上にうつ伏せになる。  
ああ…私、人の部屋で…友達の前で…裸になっちゃったんだ…  
これから、男の人にも…見られちゃうんだ…  
「舞花〜、もう入っていいよ〜」  
すぐにドアが開いて、舞花が入ってくる。  
「ほら、あんたも速く入る。って、さすがにお尻くらい隠したら?」  
…何で気付かなかったんだろう……早く隠さなきゃ…  
そう舞花が言ってから私が動く前に、男の子が入ってきた。  
…危なかった…動いてたら、絶対胸とか見られてた…でも…お尻が隠せない…  
その子(義彦君だっけ)は、思ったより小柄の大人しそうな感じの子で、イメージとだいぶ違う。  
みんなの言い方がエッチだから、なんか…もっと男っぽい人だと思ってた。  
あ…私、今、知らない男の子の前で裸なんだ…  
義彦君はなんか冷たい目で私を見てる…やっぱり、お尻隠してないからかな…  
だって、下手に体を動かしたら…胸まで見えちゃうし…  
「…あのさ…姉ちゃん達って、なんでいつも裸なの?」  
…あれ?あれあれ?裸じゃなくてもいいの!?  
「え?だって、みんな…」  
 
「嘘は言ってないよ。あたし達はいつも裸だって言っただけで」  
「……ひょっとして姉ちゃん、この人騙したの?……あの、ちょっと解すだけなら、べつに脱がなくても出来ますよ」  
義彦君はもう冷たい目で私を見てはいない。そのかわり、ちょっと哀れみを感じるけど…  
でも、みんなひどいよ……私…脱がなくてもよかったのに…それなのに、下着まで…  
「騙したなんて人聞き悪いなぁ。だって、みんな裸だったのに、桜子だけ裸じゃないのは変でしょ?仲間外れは可哀相でしょ?」  
「まあ、いいじゃん、減るもんじゃないし」  
「桜子はどうする?もうお尻も見られちゃったし、このままでいいよね?」  
「私は…」  
「もう見られちゃったんだから、このままでいいでしょ。さ、義彦もちゃっちゃとする」  
ほんとは…服を着たいし、お尻も隠したいけど…今更、言い出せないかな…  
 
「…それじゃ、始めますよ。痛みを感じたら、すぐに言ってください」  
義彦君は私のお腹の横に膝をついて、まずは肩に手を置く。  
肩なら、大丈夫…まだ平気…  
義彦君の手が肩を撫で回して時折強く押して、ゆっくりと体を解していく。  
肩から今度は片腕ずつ、揉みながら手の方へと流れるみたいに進む。  
義彦君は、きっと慣れてるんだろうな…私が…女の子が裸なのに……私は恥ずかしくて堪らないのに…  
義彦君は全然平気っぽくて…私だけが…私一人だけが、意識してる感じがする…  
「肩と腕はもう終わりなんで…次、背中いきますね」  
「ひゃ!」  
義彦君が背中に手を置くと、つい声が出てしまう。  
「なに!?桜子どうかした?」  
「えっ!?痛かったですか?ごめんなさい…」  
「…あの…違うの…私、体が…敏感で……だから、あんまりマッサージは…」  
…私は背中とかが他人より敏感みたいで、触られると体が反応してしまったり、声が我慢出来ない…  
子供の頃、からかわれたりもして…いまでも、人に触られるのは苦手…  
「えっと…じゃあ、続けますね?」  
「…うん…」  
義彦君の指が私の背中の上を這い回る。  
「ひゃ、あ…ん……やぁ…ひっ……」  
「桜子の声…すごいね…」  
「可愛い…今度背中突っついてみよ♪」  
やだ…みんな聞かないで…私の…恥ずかしい声…  
すぐそこに…友達がいるのに…聞いてるのに…やっぱり声…我慢出来ないよ…  
それに…体を…背中の上を、義彦君の手が動いてる…這い回ってる…  
指の動きを感じるたびに…撫で回されるたびに…私は……自分が裸なんだってことを…意識させられてしまう…  
…だって…その指は私の背中に直に触れていて…指の動きも、その暖かさも全部が伝わってきて…  
無理…無理だよ…どんなに意識しないように…別のことを考えても…指がほんの少し動くだけで…ほんの少し力が加えられるだけで…  
自分が裸なんだって…触れられてるんだって…思い出しちゃうよ…  
…目を開けると、舞花達が見えるのも辛い…  
舞花達は制服に身を包んでいるのに、義彦君の指が私の背中を這うたびに…  
自分だけが裸なことを思い知らされて…惨めな気持ちになる…  
裸の私と服を着た舞花達…裸で肌を撫で回される私とそれを見る舞花達……私一人だけが、恥ずかしい姿を晒してるんだ…  
 
ゆっくりとマッサージは進み、だんだんと下のほうへと移動していく。  
背中から腰へ、義彦君の足は私のお尻を間に挟むような形に…  
義彦君の足が、ズボンが私のお尻を…剥き出しのお尻をくすぐる…  
私は下着すら…ショーツすら穿いていない…友達の前で…初対面の男の子の前で…  
「義彦〜、少し下がりすぎじゃない?あ、ひょっとして、桜子のお尻が見たいからとか?」  
「…外野、うるさい……すいませんね、こんな姉で」  
「はぁ、ん…え?えっと…やぁ…そんなこと、ない…かな?ん…みゃ、舞花は、良い友達…だよ?」  
 
普段は、本当に良い友達だと思ってる。普段は…  
「あれ?なんか、ひっかかる言い方してない?」  
「当たり前だろ。姉ちゃん、この人にちゃんと謝れよ」  
「桜子、ごめんね!あたし、可愛い貴方の、恥ずかしがる姿が見たかったの!」  
「姉ちゃん…友達無くすよ…」  
会話の間も、マッサージは続いてる。  
今は私の腰を、お尻のすぐ上の辺りを、揉み解されてる。  
恥ずかしい…恥ずかしいよ…  
初対面の男の人に…そんなところを見られるなんて…触れられるなんて…  
「ねえねえ、もうちょっと近くで見ようよ」  
「…そうだね、こんな桜子、滅多に見れないもんね」  
二人は私のすぐそばに寄ってきて、私がマッサージされてるところを観察し始める。  
「ほら…桜子のお尻、半分くらい隠れてて、見えそで見えないって感じが良いね」  
「うん。それに、義彦君の手が動くと、お尻も体もプルプル震えて、なんか可愛い」  
嫌…やっぱり、お尻…見えちゃってるんだ…みんなに…見えてるんだ…  
「姉ちゃんの友達って…こんな人ばっか?」  
「あっはっは、まあね!でさ、どうなの?義彦。マッサージのプロとしての感想は?」  
「プロじゃねえよ。一応真面目に答えるけどさ…肌に張りがあって、触り心地も良いし、健康な肌って感じですごく良い。かな」  
義彦君はすらすらと私の肌を評価する。動揺とか、そんなことを微塵も感じさせないで。  
褒められてるのはわかる…でも私、今裸なのに、全然気にされてない感じがして、少し悔しい…  
私は恥ずかしいのに…恥ずかしくて、堪らないのに…それなのに、男の人に何も感じられてない…  
そんな風に見られたいわけじゃない、けど…自分一人で意識して…恥ずかしがって…  
なんか…バカみたい…  
 
 
「ええと。これで終わりです。それじゃ俺もちょっとやることあるんで、これで…」  
マッサージが終わって、義彦君はドアのノブに手を掛ける。  
「あ…義彦君…ありがとね…」  
「いえ…こういうの、慣れてますから」  
義彦君は少し呆れた感じでそれだけ言うと、すぐに部屋を出て行った。  
 
「…ひどいよ…べつに裸じゃなくても、いいんじゃない」  
私はさっさと服を着てから、舞花に文句を言う。  
「ごめんね。でもさ、桜子、義彦の話だと楽しくなさそうなんだもん」  
…そうだよね…気付くよね…  
「私もごめんね…気使わせて」  
「いいよ、そんなこと。桜子って弄り甲斐あるし」  
……そっちが目的だったんじゃ?…ま、まあ、聞かなかったことにしよ…  
「でさ、どうだった?感想は?」  
……あれ?あんまり覚えて…ない…  
そういえば、マッサージより他のことが、気になってばっかだったような?…特に背中触られたあたりから…  
「…え〜っと、気持ちよかった…かな?」  
舞花の目が、なんかすごく楽しそうに見える…  
「…桜子…なんなら、もう一回してもらう?」  
「い、いい。ほら、マッサージもやりすぎは良くないでしょ?」  
「じゃ、また今度にしよっか。そのときも裸でね♪」  
…そのとき私は、また冷たい目で見られるんだろうな〜と、どうでもいいことを考えていた。  
 
 
終わり  
 
 

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