朝起きてカレンダーを確認すると、今日は四月一日だった。  
 折角なので、嘘をついてみようかと朝一番にお会いした、由雪様に言ってみる。  
   
 由雪様は私が勤めるお屋敷の三男のお坊ちゃま。  
 血筋も、学歴も、お姿でさえ素敵という、死語でいうなら三高だったけど。  
 普段からぼーっとしているというか、よく言えばマイペースというか。  
 使用人としては慣れればやりやすいご主人様だった。  
 そいういう人を驚かし、かつ、すぐにばれ、人を傷つけない嘘と言えば自虐ネタ。  
 私は今年でピー(禁則事項)歳になるので、これ以上のネタはないと、言ってみることにした。  
 
「おはようございます由雪様、私この度、結婚退職することになりました!」  
「…………」  
 由雪さまの眠たげだった目が、見開かれる。  
「祝ってくれないんですか?」  
「…………あ、うん」  
 鈍い反応。だけど長い付き合いだからこそ、由雪様がすごく驚いているのが私には感じ取れた。  
 よしよし、驚いてる。――しかも信じてる。心の中でガッツポーズをし。  
 私は『わーい騙された!』と言おうと口を開こうとして、後ろから先輩女中に声を掛けられた。  
「沢さんが貴女のこと探していたわよ!」  
「え、沢さんが!?」  
 私はギクリとする。沢さんと言うのはこの屋敷の女中をまとめる人で、厳しく説教が長い。  
 何か、ミスしたのかなと昨日の行動を瞬時に思い返してみるが、よくわからない、不安だ。  
「由雪様っ、失礼します!!」  
 何か言いたそうな由雪様を振り切って、私は沢さんがいる家政室に急いで向かうと。  
「どうしたのですか、別に私は貴女を呼んではいませんが」  
 そう、言われて不思議に思って部屋から出ると、待っていたのはニヤニヤ顔の先輩。その姿にはっとして。  
「先輩! 騙すなんてひどいですよ!」  
「あら〜〜親愛の証よ、ふふ」  
 由雪様を騙して悦に入っている所に不意打ちだったから、私はあっさり引っかかってしまった。  
 でも、沢さんにお説教コースが本当じゃなくてよかったーと、ほっとしてその日の業務を淡々とこなしていく。  
 今日は大広間の掃除当番で、シャンデリアや大時計やらを念入りに掃除した。  
 この広間に来ると、なぜかある歌を歌いたくなる。いや、なぜかじゃなく単純に大きな古時計だからか。  
 そして、一日の仕事を終え自分に与えられた部屋に帰ると、ドアに挟まっていたメモ。  
 
 ――深夜、部屋にて待つ。由雪。  
 
 あ、すっかり由雪様にネタばらしするの忘れてたと、今度は由雪様のお説教が待っているのかもしれないと。  
 約束の時間まで私は自室であちゃーって感じで時間をつぶしていた。  
 
 
 コンコンコンコン。  
 ドアを四回ノックして、「由雪様参りました」と私は言うとかなり時間が経ってから入室の許可が下りる。  
 部屋に入ると、由雪様はソファに座って、珍しくお酒をたしなんでいた。少し酔っているようで顔が赤い。  
 こう、黙って優雅に座っていると本当に素敵な観賞用男子!って感じなんだけどなぁというぐらい見とれそうになる。  
「座って」  
 そう言われて、ポンポンと隣を叩き、進められるけど。私はそんな近距離じゃなく、端に近い遠くに座る。  
 主人と同席って……と初めの頃は拒否していたが、由雪様は座らないと本当に用件を喋らないので、今ではあきらめている。  
 
「……結婚する、の?」  
「え!?」  
 思わぬ言葉が由雪様の口から出た。  
 もしかして、まだ本当だと思ってる!? いや、騙された振りして私をひっかけようとしてるのかも。  
 そうだ、旦那さまや奥様に聞けば私にそんな予定あるって知ってるわけないし。  
 今朝、先輩にものの見事に騙された私は、警戒していた。  
 よし、探ろう。由雪様に騙されるのは何だか癪だ。  
「えーっと、私が辞めると寂しいですか?」  
「……寂しい」  
「辞めて欲しくないですか?」  
「……うん」  
「なんでですか、使用人なんて一杯いるじゃないですかー……って、きゃ! なななにする……」  
「キス」  
 そういうか言わないかのうちに、いつもの緩慢な動きが嘘みたいに私に襲い掛かってくる。  
「んんっ!!」  
 触れるだけじゃなく、舌で口の中を蹂躙されて、口の中にお酒の苦味が広がる。  
 そしてあろうことか……む、胸揉んでる!!  
 服の上からと言えどそのエッチな動きに、私の体も声も熱を帯びる。ブラの下の胸の先が硬くなってる。  
 やっと口を解放されて、私は開口一番になりふり構わず言った。  
 
「う、嘘ですっ! 結婚するなんて、嘘っ! 今日はエイプリルフールですっ!!」  
「嘘、なの?」  
「そうそう、嘘で辞めないですから、こんな事やめ……」  
「じゃあ、僕も嘘」  
「!!」  
「これからすることは全部、嘘」  
「や、やぁ!!」  
 
 由雪様は服の隙間から直接私の肌を触っていく。何でこんな事、私はされてるのか全然分からない。  
 イヤイヤと、拒否するたびに、「それも、嘘?」と指摘されていく。  
 嘘じゃない、のに。  
 私はいつの間にか上着もスカートもまくり上げられ、胸も下半身も由雪様に見られてる。  
 ショーツ越しに秘所を触られて、感じたせいで硬くなった上の方を深く押されて、コリコリと触られると。  
 電流が走ったようにびくりと体を震わせた。じわり、と秘所から蜜があふれてきてショーツに染みが広がる。  
 その間にも交互に両方の胸を吸われ、体が無意識に跳ねる。  
 この行為が恥ずかしい、恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうなのに。  
「体は、正直……」  
「やぁ!」  
「じゃあもっと?」  
 
 そう言って、下着を足から抜くと、熱い塊が押し付けられた。じらすように入り口をこするそれを、恥ずかしくて見てられない。  
 
「い、挿れるのだけはっ……や、止めてくださ……」  
「……嘘、だから」  
「あ、あぁぁ」  
 
 メリメリと大きなものが膣に入ってくる感触に、私は自然と涙が出てくる。  
 由雪様はそれを舌でなめた。その感触でさえも、私の体をおかしくさせる。  
 
「さあ、言って。私の中に入ってる硬いもの動かしてイかして下さいって」  
 
 ――止めてほしいなら、ね。  
 今まで見たことないような、意地悪な顔で由雪様は笑った。  
 
「そ、そんな事、いえませ……んっ!!」  
「じゃあ、このままゆっくり君の中、味わってもいいって事、だ」  
「あ……」  
 
 その間にも、由雪様はゆるゆると私の中で円を描くように動く。  
 もどかしい感覚が伝わってきて、私は自然と腰を動かしそうになる。  
 もう、どうなっても……いいのか、それとも悪いのか。  
 嘘なのか、本当なのか。  
 
 私は、かすかに……どこからか何か聞こえてくる音を意識せず。  
 混乱した頭のまま、由雪様の言わせようとしている卑猥な言葉……を恥ずかしがりながらやっとの事で言う。  
 
「由雪様……わ、私の中のモノを抜かないで……ずっとずっと抜かないで……イかせてくださ、い」  
 私がやっとの事で言い終わると、由雪様のモノが中で大きくなった。  
「うん、わかった」  
 そう言うと、私の両足を持ち上げて、深く深く突き上げるように動かし始めた。  
 その勢いと、中をぐりぐりと抉るように蹂躙する動きが、私の中の熱を、考えを、煽る。  
「……っ、は、あっ、ひゃ、え? あ、約束がっ……違っ……ます!! やめて、くださいっ!!」  
 由雪様が動くたびに、途切れ途切れになって話す私に、由雪様はすっとぼける。  
「だってもう、4月2日だ……だから、本心」  
 
 先ほどかすかに聞こえていたのは夜中の12時の、大広間にある大時計の鐘。  
 夜中と言えど消音されていないその音は、慣れてしまってはいつも無意識に聞き逃してしまう、音。  
 抗議しようとしても、由雪様の動きに快感を与えられ、言葉が上手く出てこない。  
 
 私はそのまま、由雪様の昂ぶりが収まるまで――収まってもすぐ回復するそれを何度も何度も受け入れ。  
 中に熱いものを沢山……こぼれてつながった箇所で泡になるほど出されて。  
 気を何度失って、起きてはまたつながっての繰り返し。  
 気が付けば、朝の光が部屋の中を照らし始めている。  
 裸で絡み合い続けたけど、朝の光に照らされて裸を見られるのは恥ずかしくて、シーツに包まる。  
 
「ひどい……ど、どうしよう。由雪様とこんなことするなんて」  
「このまま……メイドを辞めて僕のモノになれば、いい」  
「私に愛人になれって事ですか、そんな事っ……!!」  
「違う」  
「じゃあ、メス奴隷……肉便器……由雪様がそんな人だったなんて!!」  
「どこからそんな言葉覚えてくるの」  
 うんざりしたような口調だけれど、顔は笑ってる。  
 じゃあ、どういう事なんだろうか。私は不安な顔で由雪様を見つめている事しかできない。  
 シーツからはみ出した私の左手を由雪様は恭しく握って、ちゅっと音がするように薬指に口付ける。  
「僕の所に、永久就職しなさい、って事」  
「え、それって冗談です……よね?」  
 
 だって、由雪様とは身分も育った環境も、行き遅れのこの身の年齢も違いすぎる。  
 
「今日はもう2日だ……から本当」  
 寧ろ嘘だったほうがいいのにと、私は困る。でも嬉しいと思ってしまうのは本当で。でも、困る。  
 そんな不安な顔が出ていたのか、また私はキスをされてぐいっと引き寄せられた。  
「子供、作ろうか?」  
 
 ――やっぱり、嘘の方がいい。  
 
 
 

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