時は赤い西日が燃える夕暮れ。ここは森の置くに居を構える邸宅。  
蔦の張った壁に、手入れされない庭と、一見するとただの廃墟にしか見えない。  
一見すると、などと言うからには、ここはただの廃墟でない。ならばそれはなんなのか?  
本棟が半焼し前庭に大量の死体が転がるそれは、きっと戦場と呼ばれるものなのだろう。  
 
「もしここで退くと言うなら、命だけは助けてやるが? たった二人で私に勝てるはずもあるまい」  
死体が溢れる前庭にて、兵士達の背に隠れ、冷笑を浮かべながら満身創痍の俺達に問い掛けるは黒衣の男。  
その盾となって俺達に立ちはだかる兵士達は、一様に土気色の肌に濁った目をしている。  
それもそのはず、これらの兵士は皆、黒衣の男の死霊術(ネクロマンシー)によって操られた亡者なのだから。  
魔力を介して屍を意のままに操るその邪術は、神が定めた生死の理の冒涜であり、復活の奇跡を穢す外法の極みだ。  
さらに、大洪水以来最悪、黙示録の到来と言われたある災厄は、死霊術によって引き起こされたとも言われている。  
そのためにネクロマンサーは、異端や魔物の打倒を目的とする我ら教会騎士団の、最大の討伐対象となっている。  
 
「たとえ死んでも、教会の子たるわたし達が貴様の思い通りになるものか!」  
甘言を切って捨てたのは俺の朋輩である小柄な騎士。  
兜の下の面には恐らく深い怒りが刻まれているのだろう。  
俺達騎士団は神に仇なすものを打ち滅ぼす事をその任とし、また、それを至上の喜びとしている。  
奴の邪術に斃れ、敵の屍兵に紛れて辺りに散らばる骸の一員と化している仲間達も、きっと思いは同じ事だろう。  
ならばこそ、朋輩に次いで俺も言い放つ。  
「そう言う貴様の兵も残り僅か。先に散った仲間達に報いるため、討ち果たさせてもらうぞ『黒死卿』!」  
 
『黒死卿』、この名を理解するには、まずはその由来となった『黒死病』について知らねばならない。  
百年以上前に東方から来襲し、多くの国で猛威を振るった疫病『黒死病』。  
町という町から人が消える、患者に触れただけで遷される癒せえぬ呪い、王も民も見境なく刈り尽くす無分別な死神の伝説。  
証言者が死に果てた今では、生者を道連れにする亡者の絵画でしか窺う事ができない恐怖の奇病。  
それが一人のネクロマンサーの所業であるとして、教会はその犯人を『黒死卿』と名づけて百年間追い続けてきた。  
幾度か騎士団がそれと思しき罪人を討伐したが、それらはどれもこれも小者ばかり。  
しかし、今度の敵はそれまでとは違う。  
漆黒のローブを纏い無数の屍の軍勢を率いたあの男は、間違いなく呪われた業を極めた者だった。  
いくら斬られようと意にも介さぬ骸の歩兵、蒼ざめた屍馬を駆る朽ちた騎兵、敵味方の別なく矢を降り注がせる骨の弓兵。  
それはまさに死の進撃だった。  
しかし、こちらも神罰代行を任ずる身。奴らの猛攻に数を削られながらも、それ以上の兵をただの屍へと還していった。  
そして、今や黒死の兵も二十足らず。しかし、騎士団も俺と朋輩のただ二人を数えるのみ。  
なるほど、数の上で確然とした差がある事は否めない。  
生き残りの俺達にしても無傷ではないし、長い間苦楽を共にした仲間達の死に動じないわけでもない。  
されどそれが何の事もあらん。俺達の闘志がその程度の事でくじけようものか。  
せせら笑う黒死卿を尻目に、俺は息を整えて剣を構えなおす。  
 
「『討ち果たす』、か……そんな事はせめて天使の軍勢でも連れてきてから言ったらどうだ?」  
痩せこけた手が掲げた杖に合わせ、屍兵達が得物をこちらに向ける。  
「まあ、神様に会えたらねだってみることだな。では、【戦え】」  
 
呪言と共に振り下ろされた杖を合図とし、亡者達が突撃を始める。  
ガチャガチャと具足を鳴らし、剣を振り上げ槍を突き出して俺達の命を刈り取らんとする。  
先程までの戦いで背や腹に突き刺さった刃もそのままに殺到してくる奴らに、受けや守りなどという言葉はない。  
既に死んだ体であればこそ、身を竦めさせる恐怖も苦痛も持ちあわせていない。  
そのため、全身全霊を以て殺戮に踊る事ができるのだ。  
 
「むぅんッ!」  
風を切って叩きつけられる刃を剣を斜めにして受け流し、気合一閃、歩兵の頭蓋をかち割った。  
頭を真二つにされて屍が崩れ落ちたのを見届ける暇もなく、次なる敵が俺の胴に横薙ぎの斬撃を放ってきた。  
剣を縦に構えて受け止めたが、強烈な膂力にビリビリと腕が痺れる。  
しかし構わず、剣が振り切られてできた隙を突き、素早く踏み込んで、錆びた甲冑の隙間から胸を刺し貫く。  
そのまま、手首を回してひねりを加え、鼓動のない心臓を穿ち砕いた。  
 
「はあッ!」  
凛とした掛け声を耳にして傍えを見やると、丁度朋輩が一体の屍兵の首を落としたところだった。  
血の代わりに魔力を体内に巡らせ、四肢がもげようと戦いをやめない亡者ども。  
幾度かネクロマンサーと戦ってきた経験上、亡者を効率よく仕留めるには、主に三つの方法がある事がわかっている。  
まずは、頭部を砕く事。魂の座である頭部を潰せば、忌まわしい呪いを以てしても、死体を操る事は完全にできなくなる。  
次に、心臓を壊す事。魔力を介して動く亡者は、体内の魔力循環の基点たる心臓を壊されては動く事ができない。  
最後に、首を落とす事。そうすれば魔力の流れが途絶えて体を動かせなくなる。  
あとは、頭を潰されたゴキブリが餓死するように、亡者は魔力が切れて術が解けるのを待つばかりとなる。  
 
視線を前に戻すと、新手の兵が槍を構えて突きかかってきていたが、愚直な突撃をかわして一刀のもとに首を刎ねる。  
ひどく傷ついているとはいえ、俺も朋輩も意気軒昂。  
サタンを屠った天使には遠く及ばぬこの身だが、貴様の兵を蹴散らす位は造作も無いぞ、黒死卿!  
 
ゴウと風を切って振り下ろされる一撃。  
なんとか横っ跳びにかわしたが、まともに防ごうとしていれば、一溜りもなく挽肉にされた事だろう。  
亡者達の陣を突き破った俺達の眼前にあるのは、敵の最後の切り札であるトロールの巨躯。  
巨岩を思わせる筋肉が鎧ならば、その手に握られている、青々とした葉を備えた樹木は棍棒なのか。  
白濁した眼球に鼻を突く死臭。黒死の兵の御多分に漏れず、屍となっている事が見て取れる。  
ただでさえ、トロールは人間を遥かに超えた剛力と凶悪な頑丈さを持つ。  
だというのに、これは痛痒を感じぬ屍となって、それらの特性を更に強化されている。  
しかし、頭の粗末さは生前と変わらぬようで、大振りの攻撃は破壊力こそあれ十分に見切れる程度のものだ。  
とはいえ、こちらの攻撃はほとんど通じず、しかして向こうの攻撃は一撃必殺と、実に手ごわい相手ではある。  
しかし、俺達の相手はあれだけではない。  
傀儡を倒しても操者が残る。最早にやにや笑いも消え失せて、顔を怒りに歪める黒死卿が。  
飛び退って横殴りの一撃をかわした一瞬、朋輩と視線が交錯する。  
「やれるか?」と問いかける目に、「もちろんやれる」と視線で返す。  
従騎士の頃から共に戦ってきた仲なのだ。意思疎通には一刹那で事足りる。  
 
「どうした? まったく当たってないぞ! 焚き付けに使った方が余程役に立つんじゃあないか? この木偶の坊は」  
トロールの足に一太刀斬りつけると共に挑発を加える。  
万力込めた斬撃を叩き込んだというのに、全然効いている気配を見せやしない。  
「ブンブン五月蝿いぞ、羽虫。そんなに死にたくば、跡形なく叩き潰してくれる!」  
怒鳴り声と共に飛んでくるトロールの前蹴りを、身をかがめてやり過ごす。  
次いで、叩きつけられる鉄槌。地を転がってかわすが、俺が先程までいた地点に大穴があく。  
どうやら、黒死卿は残り僅かな兵を朋輩に差し向け、トロールで俺を潰す事に専念すると決めた様子。  
これまで以上に容赦ない猛攻が繰り出されてきた。  
巨岩のような踏みつけが雨のように降り注ぎ、立木の棍棒が嵐のように振るわれる。  
まったく、反撃するどころか逃げまわるだけで精一杯だ。  
だが、それで結構。俺の役割はトロールの攻撃を一身に受け、敵の気を引く事。  
狙い通りに、頭に血が上った黒死卿は俺一人しか見ていない。  
そら鬼さんこちら、手の鳴る方へ! 
 
トロールからひたすら逃げ続ける俺の視界の端に、一陣の風が吹き抜ける。  
トロールを操る黒死卿目がけて、まっしぐらに駆ける朋輩の姿だ。  
ハッとした顔でその様子を見やる黒死卿だが、朋輩の相手をしていた死人は残らず全て討ち祓らわれている。  
そして、守護を司るべきトロールは俺を追ったために突出しすぎており、朋輩を止めるには間に合わない。  
チッという舌打ちしている間にも、朋輩はぐんぐんと黒死卿に迫っている。  
間合いを詰めて、朋輩が剣を振り上げた瞬間、それまで焦燥を浮かべていた黒死卿の顔が凶悪な笑みに変わる。  
朋輩は気がついていなかったのだ。黒死卿の口が、早口言葉に挑戦しているかのように高速で動いていたのを。  
そして、黒死卿が勝利の確信を満面に湛えて魔術を発動しようとしたその瞬間  
「な……ぐぁ……ッ!」  
その笑みが一転、驚愕と苦痛がない交ぜになったものに取って変わられる。  
何があったのかと黒死卿が視線を下に向ければ、その胸を長剣が串刺しにしている。  
「終わりだッ!」  
それが俺が投げたものと知る暇もなく、朋輩の一閃が黒死卿の首を刎ね飛ばす。  
唖然とした表情を浮かべた首が地に落ち、残された体も倒れる。  
次いで、傀儡のトロールも地響きを立てて崩れ落ちた。  
「最期の苦しみを贖いとして、主は汝を赦さん。汝のためにも御国の門が開かれん事を」  
十字を切って黒死卿の骸に祈りを捧げた朋輩だが、やはり体力の限界だったのだろう、ガックリと膝を突いてしまう。  
 
「大丈夫か?」  
心配する俺の問いかけに対し、肩で息をしている朋輩は  
「ああ、わたしは大丈夫だ」  
と、気丈に返して立ち上がる。  
こちらに振り向いたその顔は、百年の悪夢を終わらせた喜びよりも、仲間を失った悲しみに包まれている。  
「騎士団の仲間達は使命を全うして天に召されたのだから、悲しむべきではない」、  
このような慰めを言う者もいるだろうが、そんな言葉では今の俺達の悲しみを癒せはしない。  
何か気の利いた慰めの一つも言えればと口を開いてみたが、そんな台詞は出てこなかった。  
俺は口下手で舌より剣で喋る方が得意な部類ではあるが、なにもそんな下らん理由ではない。  
「危ない! 後ろだ!」  
もっと別の事を叫ばねばならなかったからだ。朋輩の後ろに、あり得ない影が写ったからだ。 
 
朋輩が素早く背後を振り返ったその瞬間、  
「【砕け散れ】」  
闇夜のように、暗く冷えた声が響いた。そのただ一言で、朋輩の体が力なく崩折れた。  
声の源は黒死卿。左手でもたげた頭蓋を首の切断面に押し付け、右手の杖を倒れた朋輩に向けている。  
朋輩の顔は呆然とした表情を浮かべており、あらぬ方を向いた虚ろな目が朋輩が亡き者にされた事を如実に示している。  
「馬鹿な奴め。祈った先から死んでやがる。それにしても、く、はは。赦されてたまるものかよ、この私が」  
朋輩を踏みにじり、口の端を吊り上げて笑う黒死卿に、  
「貴様、よくも!」  
俺は無手のままで飛びかかろうとする。  
「【起きよ】」  
だが、唱えられた呪言と共に、幾本もの亡者の手が俺を背後から取り押さえ、地面に引き倒す。  
「み、みんな! どうして…!?」  
その亡者の正体は騎士団の同胞達。問いながらも、既に俺にはその答えは分かっている。  
死者を操る事こそが、おぞましき死霊術の力というもの。しかし、首を刎ねられてまだ生きていようとは。  
「知らないのか?『リッチ』というやつだ。自分の体のように屍を操るなど、死霊術の初歩にすぎん。自分の屍すら操るってこそ、一流のネクロマンサーというものだ」  
俺の心中の疑問を察したのか、黒死卿は得意げに答えてみせる。  
俺も地べたに押し付けられたまま暴れはするが、どうしようもなく多勢に無勢。  
身動きもとれず憎悪を込めて睨みつけるのが精一杯だ。  
「それにしてもまったく冷や冷やさせてくれる。デュラハンの真似事をするなど何十年ぶりか」  
これもまた同胞の屍である、朋輩の亡骸を引きずる亡者を伴って、俺に向かって歩み寄ってくる黒死卿。  
奴は口にした言葉とは裏腹に、随分と愉快げな様子だ。  
「ところで君、お仲間を蘇らせる気はないかね? 仲間がこのまま腐れて蛆の餌になるのは実に惜しいと思わないか?」  
「なんのつもりだ? そんな事をしてなんになる!? 俺もさっさと殺せばいいだろう!」  
ふざけた問いかけをする黒死卿に、俺は声を張り上げる。  
「いやなに、真っ向から私の首を落としたこいつの事が、少々気に入ったのさ。」  
貴様に気に入られて誰が喜ぼうか。  
「そこらの安物亡者とは格が違う、誰が見ても生者と見分けがつかないような、生前の肉体と精神を完全に維持した最上級品にしてやろう」  
くつくつと笑いながら、更に誘いかける黒死卿。  
だが、誰がそんなものに乗ろうものか。大体、邪術による呪われた復活など、朋輩自身とて望むものか。  
「やはりというべきか、それでこそというべきか。ま、いいさ。まずは術をかけるに邪魔な着衣を脱がせるとするか」  
「やめろ!」と叫ぶ俺の声もお構いなしに、黒死卿の一声を以て、亡者達によって甲冑とその下の衣服を剥がされていく。  
甲冑や衣服の下にあったのは、短く切り揃えられた金色の髪に整った顔立ち、鍛えられて適度に引き締まった肢体、  
そして、僅かではあるが胸筋以外の何かで膨らんだ乳房。  
「む? これはもしや……」  
黒死卿は訝しげな顔をすると、亡者達に下の服まで剥がせていく。 
 
「なんだ、本当に女だったのか」  
そこにあったのは、薄い茂みに覆われた陰茎のない秘所。そう、朋輩は女だったのである。  
彼女は非力な女の身でありながら、誰にも負けない信仰心と厳しい鍛錬でもって騎士団の一員として戦っていたのだ。  
女が男の装いを纏って戦うなど、本来は教会騎士団に許されざる事である。  
かのオルレアンの魔女の裁判の結果からこの手の事への風当たりは強く、団内で発覚した際には除名どころか破門されるかどうかの瀬戸際であった。  
しかし、彼女の日頃の行いを知る団長が温情をかけて下さり、幸いにもお咎めなしとなったのだった。  
 
「ふむ、予想外の事だが、まあいい。とりあえず傷を消すとするか」  
黒死卿が「【癒えよ】」と唱えると、朋輩の遺骸の傷がみるみるうちに塞がっていく。  
次いで、「【起きよ】」という呪文によって、朋輩がゆっくりと立ち上がった。  
「ああ、勘違いしてもらっては困るが、まだ術は始まってさえいない。始終糸を操っていなければならない木偶など、私の目指すものではないからな」  
そして、一糸纏わぬ姿の彼女が、俺に向かって歩み寄ってくる。  
「だが、そのためには、少し君に手伝ってもらわねばならんのだ。具体的には……彼女を犯してもらいたい」  
黒死卿がそう告げると、亡者達が俺をあおむけにし、着衣を引き剥がしていく。  
冗談事ではない! 神に仕えるこの俺が姦淫の罪を犯すなど……  
それも、邪悪なネクロマンサーの企みのために、騎士団の仲間を犯すとは言語道断。  
「言っておくが……別に私は酔狂からこんな事を言うのではない。おそらく彼女は処女なのだろう? ならば、事前に穢しておかねば術に支障がでる」  
そう面倒くさそうに言った黒死卿だが、突然嫌らしげにほくそ笑んでみせる。  
「まあ、役得と思うがいい。実際、君も随分昂ぶっているじゃあないか」  
なんとも忌々しい事だが、奴の言う通り、むき出しにされた俺の逸物は力強くいきり立っている。  
朋輩の裸身を見て、汚らわしい肉欲が沸きたってしまったようだ。  
 
そんな俺の痴情を知る事もなく、朋輩が俺の上に腰を下ろす。  
死んで間もない彼女の体はまだ温もりを保っており、外傷もなくなっている。  
そのために、生きているのと見紛わんばかりの綺麗な姿を呈している。  
邪術に殺された際に失禁していたらしく、漏れでた小水の匂いをほのかに漂ってくる。  
綺麗な桃色の秘裂が俺を迎え入れ、ブチリと何かがちぎれる感触がした。  
破瓜の血が俺の肉棒をつたって垂れ、肉棒はメリメリと奥に向けて突き進んだ。  
もし彼女が生きていたならばきっと痛みに声をあげただろうが、今は死人に口なしの言葉通りに沈黙あるのみ。  
 
「やはり処女だったか。とにかく、こっちの準備が済むまでには終わらせておかねばな」  
黒死卿が亡者達を操って何かしながらつぶやいたのが視界の端に見えるが、今の俺に言い返す余裕などない。  
死んでいるために自ら締め付けてくる事はないとはいえ未通の膣はかなりのきつさを持つ。  
その上、黒死卿がつぶやき終えると同時に朋輩の体が動き出したのだ。  
からくり仕掛けの様にぎこちなく腰が上下運動を行い、死体の頭がかくかくと揺れる。  
かつては凛々しかった顔は呆けたものとなり、蒼く輝いていた瞳は洞穴のような虚ろとなって俺を見下ろしている。  
瞬間、柔らかい膣肉にしごかれて、俺の肉棒に強烈な快感が走りだす。だが、この獣欲に身を任せてはならない。  
黒死卿に踏み躙られた彼女の尊厳を、これ以上汚してはならないのだ。  
 
あれから何分が過ぎただろう。俺は彼女を汚すまいと耐え続けていた。  
そのはずなのに、いつしか俺は自分からも腰を動かしている事に気がついてしまった。  
結局のところ、弱い俺にはこの淫らな快楽に抗いきる事はできなかったのだ。  
今や、朋輩が上から俺を犯しているのか、はたまた俺が下から朋輩を犯しているのかの区別さえつかない有様だ。  
 
思えば、朋輩が女であると知れてからというもの、幾度と無く悪魔が俺の劣情をかき立ててきたものだった。  
その小柄な体を押し倒したい、蒼い瞳が涙で濡れる様を堪能したい、彼女の滾る怒張で貫いて穢し尽くしたい。  
そんな誘惑を自制心の箍でこれまで無理矢理抑えこんできたのだ。  
だが、今この瞬間それは脆くも崩れ落ちてしまっている。  
この上ない罪悪感を覚えながらも、俺の男根は暗い背徳の喜悦に膨らんでいく。  
そして、彼女の頬を一筋の涙がつたうのを目にしながら、滾る白濁を彼女の最奥に放ったのだった。  
 
 
事が済んでからしばらくがたち、俺に貫かれていた朋輩がゆっくりと腰を上げた。  
男根の引き抜かれた秘裂から精液が垂れ流れ、破瓜の血の赤と混ざり合う。  
それを見た黒死卿が「む、終わったか」とつぶやくと彼女は立ち上がって歩き出す。  
その行き先は、俺達が交わっている間に黒死卿が描いていたと思われる魔方陣。  
「折角だからよく見ておくといい。私の仕事ぶりを見学するなど、そうそう叶う事じゃあないからな」  
黒死卿が楽しげに言うと、亡者が俺を無理やり立たせ、魔方陣の上に横たわった彼女がよく見えるようにする。  
黒死卿が両刃の儀礼用短剣を手に取って彼女の胸の中央を魔方陣様に刃でなぞる  
すると、そこから滲み出してきた血の線が焼け焦げて烙印を刻んだ。  
 
「聖書に曰く、『死が一人によりて来たるならば、復活もまた一人によりて来たるべし』。この言葉の意味をとくと知るがいい!」  
聖句を汚辱する発言を高らかに叫んだ後、黒死卿は続けて小声でボソボソと何かの呪文を詠唱する。  
そして、それが終わったと思った瞬間、黒死卿は突然ばたりと倒れた。  
既に断ち切られていた首がごろりと転がり、操られていた亡者達も崩れ落ちた。  
続いて、唖然とする俺の目の前で、朋輩が起き上がり、力を込めて俺の肩を掴んだ。  
彼女の目はそれまでと虚ろな目とは違って俺を見据えている。  
知らず、俺の中で復活への恐怖と期待がない交ぜになって高まっていく。  
そして、彼女が何かを言いたげにゆっくりと口を開いた。  
 
「成功だ! 新しい体に乗り移れたぞ! 『私の』完全な精神がここに蘇ったぞ!」  
吐き出されたその哄笑は、完膚なきまでに朋輩のものではあり得なかった。  
「死を我が物とする、これこそが死霊術の秘奥よ。とはいえ、何度やっても緊張するものだがな、」  
朋輩の綺麗な声で、邪悪なネクロマンサーが高笑いをする。  
もしかしたらこの間に、馬鹿みたいに高笑いする黒死卿を縊り殺す猶予が、俺にはあったかもしれない。  
しかし、おぞましい復活の衝撃によって、俺の思考は完全に停止してしまっていた。  
「そうだ、一つ試してみたい新術があったんだ。よかったな君。死がふたりを分かつまで、いや、なんとなればその先までも、いつまでもふたり一緒にいられるぞ!」  
 
黒死卿の哄笑に亡者どもが再び立ち上がる。  
そして、遠くの事のようにぼんやり響いた奴の笑い声が、俺が最後に聞いたものとなったのだった。  
 
 

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