「われおもう、ゆえにわれあり」  
今、ある原子力発電所の排水パイプの下に住む一匹のタコが、自我を  
得た。名は、仮に蛸三郎とでも名づけておこう。  
 
「俺はどこから生まれ、どこに行くのか」  
蛸三郎は、二メートル近い巨躯をのっそりと揺らしながら、歩み出す。原  
発の排水は、海へ多大な栄養素を垂れ流しているらしく、蛸三郎は十六本  
の触手を有していた。それらを使い、海から浜辺へと上がり、内地に向かう。  
「答えはきっと・・・あそこにある・・・ような気がする」  
蛸三郎の視線の先には、くるぶし寿司と書かれた看板を掲げた店舗がある。  
そこは、この近辺では有名な寿司屋であった。  
 
「へい、らっしゃい!」  
くるぶし寿司の板前を務める吾川里美(あがわ・さとみ)は、店の自動ドアが  
開いた瞬間、条件反射で叫ぶ。彼女は、このくるぶし寿司に来て早や三年、  
今年、二十三歳になった女寿司職人で、生来のきっぷのよさと、持ち前の美  
貌を売りに、この若さで当店の花板を気取っていた。もちろん、自我を得た  
ばかりの蛸三郎は、そんなことを知る由もない。  
 
「こんにちは」  
「毎度。お一人様ですか?」  
「はい」  
「なにから握りましょう」  
「とりあえず、ビール」  
蛸三郎と里美は、カウンターを挟んでそんな遣り取りをする。その様子は、  
ただのお客と店主という感じであった。  
 
「お注ぎします」  
「これは恐縮。美人花板の手酌とは」  
里美は良く冷えたグラスに、ビールをついだ。蛸三郎は触手で、それを  
受け止めた後、一気にグラスを干す。  
「うまい」  
「ふふふ。いい飲みっぷりですね」  
「やあ、板さん。ご返杯」  
「お流れ、ちょうだいします」  
今度は蛸三郎がグラスにビールを注ぐ。里美はその時、ちょっとだけ頬を  
染めて、丁寧に返杯を頂いた。  
 
「もういっぱい、いかがかな?」  
「いえ、もう結構です。これ以上よばれたら、包丁捌きが怪しくなっちまう」  
「そう。職人肌だね、板さん。じゃあ、なにかお造りを頼めるかな?お任せで」  
「承知しました。ヒラメのいいところが入ってます」  
店内は、里美と蛸三郎だけだった。他に客は無く、里美が包丁を捌く音だけ  
が響く。  
 
「お客さん、どちらから?」  
里美が聞く。別段、蛸三郎の身分を怪しんでる訳ではない。ただ、客あしらい  
の手がかりとして尋ねたのだ。  
「地元だよ。すぐそこに住んでる」  
ぬめぬめと淫靡な輝きを放つ触手を、原発がある方へ指し、蛸三郎は答える。  
彼もまた、気取りも無く呟いた。  
 
「お造り、上がり」  
「ほう、これは豪奢だ」  
里美が、船盛りにした海鮮の良い所を差し出すと、蛸三郎はううむと唸った。  
さすがにこの若さで花板を務めるだけあって、お造りは素晴らしい出来栄え  
である。そして、蛸三郎は触手を上手に使い割り箸を取ると、さっそくその  
美味に舌鼓を打ったのであった。  
 
 
夜──。くるぶし寿司の看板から明かりが落とされ、浜辺を漆黒の闇が  
包んでいた。その闇に溶けるように、里美と蛸三郎は絡み合っている。  
「あっ・・・いや・・・」  
半裸姿の里美は、敷布団の上で肢体をくねくねと泳がせ、遣る瀬が無い  
様子だった。熟れ盛りの女体が、蛸三郎の十六本の触手に、余すところ  
なく犯されている。  
 
「おもわぬ女体盛りを頂くことになったが」  
「ああ・・・そ、その言い方・・・いやらしくて、いい」  
「遠慮はしない。腹いっぱいご馳走になるぜ、板さん」  
「里美って・・・呼んで・・・」  
真っ白な柔肌に、二メートル近い巨躯の海洋生物が絡みつく。蛸三郎は  
ゆっくりとしなやかに、それでいて焦らすような動きで、女の全身を愛撫  
する。里美の体には、吸盤でいなされたような跡が無数にあり、蛸三郎の  
激しい求愛をまざまざと示していた。  
 
「いや・・・だ・・あ・・こッ・・・こんなの・・初めて」  
ぬめる触手に全身をねぶられ、並大抵の男との性交では得られない快楽  
に、めまいを覚える里美。今まで生きていて、これほど情熱的な愛撫はあ  
っただろうか──熟れた女の体が、喜びを求めて疼く。  
「まだ、序の口だぜ」  
蛸三郎がずずっと体を里美に重ねていった。触手の幾本かが、盛り上がっ  
た乳房の輪郭をなぞるように、巻きついている。そして、やんわりと、しかし、  
力強く母性の象徴を締め上げた。  
 
「アッ!ヒイーッ・・・」  
仰け反り、つま先をぴいんと伸ばす里美。彼女自身、これほど淫靡で激し  
い愛撫を、受けた事などなかった。両の乳房を触手で巻き上げられ、ぎゅう  
と搾られる愉悦──そんなものが、この世にあるとは夢にも思っていなか  
ったのだ。  
 
闇は雨を呼び、浜辺を煙らせていた。里美と蛸三郎はその雨音を耳に  
しながら、ほの暗い部屋で抱きしめ合う──  
「ンッ・・・ンンッ・・」  
里美は触手の一本をほお張り、男性のシンボルへ奉仕する行為──  
すなわち、フェラチオの妙に浸っている。人間の男と違い、蛸三郎の触手  
は塩味が効いて、はっきりいって美味なのである。  
 
「お・・おいしいわ・・・蛸三郎さんの・・・コレ」  
「気に入ってくれてうれしいよ、里美」  
十六本の触手は、咲き誇る花のように放射状に開かれ、里美の体を包ん  
でいた。それぞれが役割を分担し、ある触手は四枚の女唇を掻き広げ、  
またある触手は割れ目の頂点に輝く、肉の真珠を吸盤でいたぶっている。  
 
「し・・・信じてね、蛸三郎さん・・・あたし、お客さんと・・・誰とでも、こうなる  
って訳じゃないのよ」  
「信じるさ、里美」  
数刻前、すっかりと意気投合した二人は、互いを求めるモーションを送り  
合った。その結果が、今の状況である。寿司職人として気張る里美の心の  
中に吹いた一閃のきらめき──蛸三郎はまさに、そんな存在だったのかも  
知れない。  
 
「ああ・・・イク」  
里美の膣内には、触手の先細った部分が五本ほどねじ込まれていた。  
さらに都合のいいことに、吸盤からは媚薬効果のある粘液が搾り出されて  
おり、熟れ盛りの女体には、いいことづくめ。  
「俺もイカせてもらおうか。里美、尻の穴を緩めるんだ」  
蛸三郎は、とろとろに蕩けた女穴のすぐ下にある、微妙に色づいたすぼまり  
に狙いをつけた。タコの生殖は、肛門で行われる。オスのタコが精管のある  
触手を、メスのタコの肛門に差し込み、受精する。だから、タコの学校では、  
七年殺し(指カンチョウ)が禁止されているのだ。と、ある漁師から又聞きした。  
 
「うう・・・こんなこと・・・初めてよ」  
「力を抜くんだ、里美。結構、出るぞ。俺の子種」  
蛸三郎は里美を四つんばいにさせると、精管を持つ触手を桃尻の割れ目  
へといざなった。そして、先端の細い部分から徐々に、熟れた女のもっと  
も恥ずかしい部分を犯していく。  
 
「あうう・・・アッ!アッ!」  
すぼまりがどんどん広がる感覚が、恥ずかしくて仕方がない──里美は、  
屈辱と快楽が入り混じったようなせつなさに、身を震わせる。肛姦など初め  
ての経験で、尻穴をすぼめていいのか、ゆるめればいいのかの加減が分か  
らない。しかも、男はそこで果てたいと言う。  
「いやあ・・・恥ずかしくて、死にそう!」  
触手の太い部分が、肛門をぐいと掻き広げた。里美はそれを悟ると、身を焦  
がすような羞恥で、ついには顔から全身まで真っ赤に染め、布団へ突っ伏  
した。私は、自分勝手に身悶えているから、後はあなたのお好きにどうぞ──  
ぬめる触手を根元まで、尻穴で飲み込んだ淑女は、いやいやと尻を振って  
そう囁いている。  
 
「出るぜ」  
蛸三郎が愉悦の表情を見せた。とはいってもタコなので、感情が見てとり難  
い。ただ、里美の肛内へねじ込んだ触手が、力こぶを作り始めたことが、気  
になった。と、その時である──  
「アアア─────ッ!」  
悲鳴とともに、がくんと里美の体が跳ね上がった。見れば、尻穴を穿つ触手  
がぷっくりと膨らんでいるではないか!どうやらこの触手は、子種を大量に  
送り込んでいるらしく、どくんどくんと脈打つような動きを見せている。  
 
「やだあッ!すっごく入ってくるゥ・・・お浣腸されてるみたいィィ・・・ああ、蛸三  
郎さんの子種、最高ッ!里美、またイッちゃうッ!」  
目を見開き、痴呆のごとき表情見せる里美。人としての威厳は失せ、尻穴に  
子種を注がれる己を蔑むように、彼女はただ、叫び続けるのであった・・・・・  
 
 
「帰るの?」  
「ああ」  
「また、来るんでしょう?」  
「分からない」  
朝日がくるぶし寿司を包み始めた頃、蛸三郎は部屋の敷居をまたごうと  
していた。その背に、里美がすがるような視線を向ける。  
 
「見送らないからね」  
「未練になるから、いらない」  
「バカ・・・」  
ずずずと触手を使い、蛸三郎は部屋を出た。その身にすがる女の気持ちを、  
ことさら無視するように。  
(俺は、どこから生まれ、どこへいくのだろう)  
まばゆい暁の陽を見て、蛸三郎は思う。しかし、今のところ答えは見つから  
ない。そして、己へ言い聞かせるように呟くのだ。  
 
「旅にでも出るか」  
蛸三郎は何も持っていない。あるのはただ、自己への探求。自分が何者で  
あるのか。何をすべき者なのか。それだけである。だが、男が旅に出る理由  
として、これ以上の物が果たしてあるだろうか──  
「蛸三郎さん」  
表へ出た蛸三郎に、里美も続いた。まだ彼女は荒淫の余韻を残し、肌を  
上気させている。そして、こう呟いた。  
「浮気したら、酢で〆ちゃうから」  
慌てて出てきたので、里美はパンティ一枚しか身に着けていない。しかし、  
それ自体はこれより旅路につく蛸三郎への、名残を匂わせるものだった。  
私の肌を忘れないで──そう願っているように見える。だが、蛸三郎は、  
「ふっ・・・」  
と笑って、十六本の触手を使い、歩み始めたのであった。  
 
おしまい  
 
 

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