今日はエイプリルフールらしい。
ウソをついてもいい日らしい。
ならば隣に住んでいる幼馴染みにちょっとウソをついてみるか。
「好きだ」
相手の家を訪ねて、告白をしてみた。
まわりくどいのは苦手なのでストレートにぶつける。
すると幼馴染みはぎょっとして、食い入るように見つめてきた。
場所は通い慣れた幼馴染みの部屋。お互いの距離は、座卓を挟んでいるものの2メートルもない。
眼鏡の奥に覗ける目は、俺の体を縛り付けるように鋭い。
大きめの黒い瞳に、少し気圧される。
ううむ、さすがに芸がなかったか?
動揺を隠しながら真剣な(作り)顔で見つめ返すと、幼馴染みはなぜか顔を伏せた。
あれ。いつもなら冷たい目で「何馬鹿なこと言ってるの」と無残に切って捨てるところなのに。
この反応は予想外だ。
幼馴染みはうつむきながら、あ、とか、う、とか意味をなさない声を洩らす。
そして不意に顔を上げると、俺の作り顔よりもはるかに真剣な表情になって、こちらをきっと見据えた。
な、なんだ。ちょっと怖いぞ。
殴られるんじゃないだろうかと内心びくついていると、彼女が口を開いた。
「わ、私も好き……」
真っ赤な顔で。でも真面目な顔で。
真正面から、真っ直ぐな言葉を受けて、頭が真っ白になった。
え、あ、う、
その、ええと。
「……それ、本当?」
動揺のあまり、間抜けな問いかけをしてしまった。
幼馴染みは少し目つきを強めた。
「ウソだと思ってるの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
あれ、なんで俺が慌てているんだ?
たじろいでいる場合ではない。きちんと答えなければ。
「あのさ、つまり俺たち……」
「うん……両想いだね」
「……」
「……」
「……付き合ってくれ」
「……うん」
幼馴染みはおもむろに立ち上がると、俺の隣に移動してちょこんと腰を下ろした。
ストレートの黒髪がふわりと浮いた。
肩が触れ合う。
うわ、なんかいい匂いする。しかも温かい。
俺は幼馴染みの肩を抱き寄せると、その髪に顔をうずめた。
くすぐったそうに、彼女が身じろぐ。
唇を彼女のそれに寄せると、温かい吐息が端をかすめた。
愛しさが胸を締め付けて苦しく、俺は恋人と優しいキスを交わした。
ん? お前の告白はウソじゃなかったのかって?
何言ってるんだ。今日はエイプリルフールだろ?
そういう風に騙されてくれると、ウソをつく甲斐があるってものだ。