陽炎を発するアスファルト
けたたましいセミの鳴き声
生まれてから十七回目の夏のある日
その日も、あたしは幼馴染の慧助(けいすけ)と並んで歩いていた
「・・・・・」
「・・・・・」
お互い無言
これは勝負だ、妥協は許されない
あたしも慧助もただ家を目指して歩いていた
「・・・・・うっ」
「・・・・・くっ」
そして、二人とも限界を迎えた
「あっつーいっ!!!」
「暑いぞー!!」
二人同時にやせ我慢をやめ、近くのコンビニへ走って避難
「今の・・・引き分け・・・だったよな」
「うん・・・引き分け・・・だった」
ぜぇはぁぜぇはぁ肩で息をしながら、二人で勝敗判定
真夏の暑さの中、「暑い」と言ってはいけないゲーム
いったい何時始まったのか、そのゲームの始まりはもう覚えてはいないが、十七年一緒だったあたし達の記憶にないのなら相当昔のことだったのだろう
勝者は敗者にひとつだけ命令することができる、引き分けの場合はお互いジュースを奢る
勝敗についてのルールができたのはつい最近だが、未だに勝負はドロー続きだった
「『まっちゃん』でいいんだよな」
慧助がジュースを手に取りレジへ持っていく
「残念、今日はミルクティーの気分」
「残念はテメーの方だ、『まっちゃん』に見せかけてミルクティーなのはお見通しなんだよ」
慧助は手に持ったミルクティーを掲げて見せた
あんにゃろ、エスパーか
「そういう慧助は『カロピス』とみた!」
「残念『カロピスサイダー』の気分」
どっちも変わんねーじゃんか
あたしはカロピスサイダーを取ってレジに向かう
アイツとあたしはこんな風に今まで変わらず過ごしてきて、きっとこれからもそうなんだろうなと慧助の隣を歩きながらぼんやりと思った
昔はあたしの方がでっかかったのに、今じゃコイツの方が頭一個分でかい
なんかムカつくけど、いいこともある
横目に、アイツの顔をこっそり窺うと、なんとも眠そうな慧助の馬鹿面が拝み放題だ
「んだよ」
「なんでもなーい」
幼馴染なんて、近くて遠い関係でしかないけど
「それより慧助さあ」
「あん?」
「彼女作んないの?」
「お前に言われたかねえ」
それでもいつか、慧助の一番になってやるんだから覚悟しとけ
「と思ったのよ」
あたしはここまでを語り終え、ふっっと一息ついた
「え〜つまんなーい」
家の娘は可愛げもなくつまんない発言をすると、また夕飯をつつき始め
「本当にただの惚気なのかよ・・・」
息子は白け切っていた
「あによーあんたたちが聞きたいって言ったんじゃない」
「いや、俺は父さんと母さんの幼馴染時代の面白い話が聞きたかっただけで別に『十七のある夏の日』とか銘打った惚気聞きたかったわけじゃないから」
「『ちゅー』も『こくはく』もないじゃーん」
「ちがーうーの!こっからハッテンしてくんだってば!」
今日も我が家は騒がしい
旦那はというと隅っこでテレビを見ながら「あっついなー」とか言っていた
「「「慧助アウトー!!!!」」」
あたし達は三人で旦那を指差す
「あ?」
いつから続いているかもわからなくなってしまったこのゲームだけれど、今も我が家で続いているのだった