諸事情あってお付き合いすることになったので、ぼくたちはヒイナの家で会議を開いた。  
「で、お付き合いって何すんの? イラカ」  
ヒイナが根本的な問いを投げかけたので、ぼくは熟考の末答えた。  
「えーと、お互いの家に行くとか」  
「それは今やってるだろ」  
「いつも一緒にいる……?」  
「それも昔からやってる」  
ぼくたちは行き詰った。二人して考え込む。  
そのときたまたま点けていたテレビから天の声が響いた。  
「この夏新しいデートスポットとして人気な……」  
ぼくははっとした。無駄に大きい背をぐいと動かす。  
「そうだヒイナ、デート、デートだよ! お付き合いしている二人はデートするものなんだよ!」  
ヒイナも喜んでその小さな体を揺らした。  
「そうか! 一番肝心なことを忘れてたよ! これでお付き合いできる!」  
 
 
どこに行くかはいまひとつ思い浮かばなかったので、とりあえず近場の繁華街に繰り出した。  
 
「イラカこれに似合うと思う」  
「全身タイツはやめて。たぶんサイズ合わないし」  
 
「くっそ、もう一回! もう一回!」  
「ヒイナ。モグラたたきに本気出すなよ」  
 
「アイス何味がいい? 違う味にして後で交換しよう」  
「おっけー」  
 
 
そして公園のベンチに座って、ぼくたちは考えた。  
「何か普段と変わらない気がする」  
「ぼくもそう思ってた」  
ぼくたちは真剣にお付き合いしたいのに、何がいけないのだろうか。謎だ。  
「ちょっと友達に聞いてみる」  
そう言ってヒイナは携帯を取り出しメールを打ち始めた。返事はすぐに来た。  
「何て?」  
「手繋げって」  
「はあ?」  
ぼくの背筋をなんだかよくわからないものが走った。  
「えええええ、ヒイナと?」  
「嫌なのかよ」  
「ぼく手汗かくし……」  
「嫌なのかよ」  
ヒイナの声が微妙に変わった。ぼくは少しぎょっとする。  
「嫌ってわけじゃ、ないけど……」  
「やってみよう」  
「えっ」  
そして沈黙。あまりに長かったので、ぼくは口を開いた。  
「ヒイナ、何で何もしないの」  
そう言うと、突然ヒイナがベンチから立ち上がり、すたすたと歩き出した。小さなその影はあっという間にさらに小さくなる。  
慌てて追いかけるぼく。  
「ちょっと待てよヒイナ! なんだよいきなり!」  
ヒイナはくるり、と振り向いて、顔を真っ赤にして答えた。  
「お前から繋ぐの待ってたんだよ!」  
「あ」  
「あ、じゃねえ!」  
再びきびすを返そうとするヒイナ。  
ぼくは慌てて――その手を掴んだ。  
「ごめん」  
「いいよ」  
ヒイナはばつが悪そうに答えた。  
「ぼく、手汗かくよ?」  
「いいって言ってる」  
ぼくたちはお互いの目をしばらく見れなかった。  
 
お付き合いって難しい。  
 
 

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