彼は優等生だ。  
私立高校の三年生で学業成績は優秀。部活動での活躍が目覚しく  
集団生活における協調性もあり、校外ボランティア活動にも貢献して  
 
しかも彼は容姿も秀麗で人柄も良く。校内他校老若男女問わずの親衛隊がいる。  
学校社会の中で欠点の見えない優等生、それが彼の評価だ。  
 
「えっと…あの…止めて下さい…先輩」  
小さな抗議の声を上げ、彼女の瞳が大きく見開かれる。  
本棚へ彼女の手首を強引に抑え付けて、その柔らかい唇へ触れ合う瞬前、離した。  
「どうして、いつも、こんな事するんですか」  
 
彼女の身体をようやく解放し、彼は人の良い笑顔で言い放った。  
「いつも言ってるけど、君が好きだから」  
正確に言えば君の泣き顔が好きだから、内心でほくそ笑む。  
 
その日は、赤面してその場に座り込んだ彼女を置き去りに  
彼女が現在付き合ってる男、『彼氏』が呑気に眠っているカウンターを通り過ぎ  
何事も無かった様には彼は図書室を後にした。  
 
『彼氏』へ彼女が秋波を送った結果、二人は付き合いだした。  
というのは同じ高校の生徒ならば周知の事実だ。  
 
それを彼が知らない筈は無い、が  
状況を見計らってこの様なセクハラを幾度となく彼女に行っている。  
彼は他人にすぐ分る様な愚は冒さないし、彼女は行為に抵抗できない気質であり  
まして他人には公言も相談も出来ない。  
 
故に、彼女へ対する彼の行為は日増しに激化していった。  
 
最初は青い二人へのからかい程度の感情だった。  
彼女に手を出した振りをすれば『彼氏』が躍起になって止めに来る。  
それが面白かったのだが、最近では大分様子が変わってきている。  
 
きっかけは、図書室で独り泣いていた彼女の相談に乗った時からだ。  
『彼氏』の態度が冷たい私の事が本当に好きなのか?  
等の恋愛する女の子が抱える命題へ  
おざなりに返事をしてやってから、ふと気付いた。  
 
半端な年齢層の娘特有の発展途上で不安定な美貌。  
そして伏し目がちで涙映えする綺麗な瞳。  
この時から彼は彼女を自分の物にしたいと思った。  
 
「俺が気付いてないとでも思ってんの?」  
「・・・君、離して…誰かに見られたら…」  
「ふーん。見せ付けてやろうよ」  
「……んっ…嫌…」  
 
あからさまに如何わしい会話が、放課後の図書室の前で聞こえて  
自分に対する挑戦と受け取った彼がドアを開けようとしたら  
切なく鍵が閉まっていた。  
 
その日は図書室で『彼氏』が彼女に何をしたのかを考えながら  
沸く嫉妬を胸に彼は図書室を後にした。  
 
彼の性質は他人は元より家人にすら知られていない。  
丁寧な口調で誰にも分け隔てなく接して言い争う事も殆どない。  
人間関係で確執を持たない為、表向きの処世術。  
 
本来の彼は、もっと自己実現に貪欲である。  
思った物は必ず手に入れてきた。  
天才と呼ばれ、学業と部活動で好成績を収めている由縁でもある。  
 
それは恋愛においても変わらない。例えそれが他人の物であっても  
 
放課後、閉館時間直前。図書室は人気が無く、女生徒が独りしかいない。  
委員会活動で遅くなった彼女である。  
彼女は学校帰りに図書室へ寄ってから帰っている。  
 
元々放課後は人入りが少ない図書室にて  
カウンターの図書委員と殆ど二人きりの気まずい雰囲気な訳だけれど  
意中の『彼氏』が委員の時もあるので  
彼女は少女らしい期待を胸に本を読借りしに来る事を恒例としていた。  
 
ただ彼女には二つの悩みがある。  
一つは、付き合っている『彼氏』が最近焦るように彼女へ関係を求めてくる。  
もう一つが、とある先輩の意図の読めない接触  
よく考えれば、彼女に手を出す間男へ彼氏が牽制していると解りそうな構図を  
鈍い彼女は全く理解していなかった。  
 
それが、彼を増長させて『彼氏』を焦燥させている理由なのだが  
 
対策として彼女は、『彼氏』には自粛する様に言い聞かせて  
先輩とは遭わない様に心掛けていた。  
 
といっても、今日も図書室に独りで居るという無防備さを彼女は露呈している。  
図書当番は別の人間だと調べは付けたから安心して本を選んでいた。  
 
「やぁ。・・・さん」  
ここに居る筈の無い人間の声、身体をビクっと怯ませて彼女は恐る恐る振り返る。  
人懐こい笑顔で微笑む先輩。  
「オバケでも見た様な顔して。…最近、全然逢えなかったよね」  
 
後ろ手で図書室の鍵を掛け、部屋の灯りを消した。  
既に校内巡回への対策は完了である。  
それから彼はゆっくり彼女の元へ近づいていった。  
 
室内は静寂に包まれ、互いの呼吸と外の雨音しか聞こえない。  
 
「先輩…どうしてここに居るんですか…?」  
「当番を代わってもらったのさ。だから今日は邪魔が入らないよ」  
 
以前『彼氏』から先輩には独りで近づかないで、ときつく言われていた彼女。  
咄嗟にカウンターの電話を使おうとした彼女は腕を掴まれ、そのまま抱すくめられた。  
光源はカーテンの隙間から差し入るのみ。激しく揉み合う二人  
 
「離して下さい!先輩、私は・・・君が好きなんです!」  
そうでも言えば男が止めてくれるとでも思っているのか  
彼は彼女の認識がまだ幼いと知り、それもまた愉しめると思った。  
 
『彼氏』へ対する嫉妬が行為の起爆剤となる。  
「うん知ってるよ。でもそれは今関係ないから」  
「人を呼びますよ!?」  
「呼んでみれば?でも誰かに見られて困るのは俺よりも、君だよ」  
 
事が露見すれば、双方ともに社会的な咎めを受けて今後の生活に支障をきたすだろう。  
彼自身は口八丁で誤魔化す自信がある。  
先立つ学校生活の人間的評価も抜かりは無い。  
 
学園内一角の自分と目立たぬ女生徒  
果して大人達はどちらの言い分を信じるだろうか  
 
何より、彼女が恐れているのはこの一件が『彼氏』に知られる事  
 
悲鳴を上げる口を口で遮った筈が、唇を噛まれて彼は刮目する。  
すっかり気分を害した彼は彼女の横面を張った。  
「痛いじゃないか」  
小気味の良い音の一拍後、頬を抑えて呆然と先輩を見上げる彼女。  
 
抵抗が弱まったので、体重の軽い彼女をテーブルの上に放り投げた。  
彼は彼女の胴に跨り、セーラーからリボンを抜き去り両手首を縛った。  
 
顔を背けた首筋に顔を埋め、舌先でぬるりと感触を堪能してそのまま耳たぶを噛んだ。  
「や、やめて下さい」  
どうも反応がつまらない。  
もっと抵抗したり泣き喚いたりする君の色々な面が観たいのに  
僕を差し置いて『彼氏』が独占する事は許せない  
 
ぐいと顎を掴んでこちらを向かせた。彼女の怯えた目が瞬く。  
「可哀想に、痣にならなきゃいいけど」  
赤くなった頬を撫でて、相も変わらぬ人の良い顔で語りかけた。  
 
「君が悪いんだよ。折角優しくしてあげようとしたのに」  
「悪いのは…私なの?…何で…んっ」  
思うように唇を塞いだ。  
逃げる舌を追っている間に制服のボタンを外して  
下着をずらすと小ぶりな乳房が揺れる。  
先端を抓り上げたら彼女は苦痛に顔を歪めた。  
 
彼女の両手首を掴んで上体を引き上げる。学ランのチャックを下ろした。  
「彼にいつもやってあげてるように頼むよ。次噛んだらグーでいくからね」  
自分のものを口腔奥まで捻じ込み、彼女の頭を押さえつけて揺さぶる。  
律儀に筋を沿って舐めてくるが、思った通り慣れていない。  
 
小さな口で根元まで咥える小動物のような彼女を見下ろした。  
「『彼氏』はこんな事、君にさせなかったみたいだね」  
 
温い粘膜から自身を抜き去って、今度は指をその口に突っ込んだ。  
えずく彼女に構わず、スカートの中の下着をずらし、唾液に塗れた指で下腹を愛でる。  
舌で上、指で下の先端を弄ばれて彼女も耐えきれず  
 
「嫌!…嫌。先輩。私、は・・・君が…!」  
防衛本能というべき生理的な官能と  
彼の類い稀なる粘着質な床の才能によって彼女は達した。  
 
「嫌だって言っておきながらこれとはね。『彼氏』じゃなくても良いんだ?」  
荒い呼吸に合わせて上下する薄い胸板。か細い肢体は力無く投げだされている。  
望まぬ性感であってもこの艶姿。  
彼女の体液に塗れたその指を、その口に再度突っ込む。  
 
オマエの味だ  
 
等という陳腐な台詞は、流石の彼も云う趣味は無い。  
 
自分ではない者にここまで慣らされていたと直感した。  
壊してやりたい  
 
「悪い子だ。君は淫乱だね」  
耳元で囁かれた彼の言葉で彼女の決定的な何かが切れた。  
 
薄闇の中、テーブルへ滴る鮮血。瞳の縁に溜まった涙  
この前の一件では『彼氏』は彼女に最後まで手を付けていなかった証明  
 
結局、彼は果てる事なく萎えた。  
その間。期待通りに泣きも抵抗もしないで、彼女はずっと天井を見ていたから  
 
彼を視界に入れずに  
 
彼がベルトを絞め直した後も、テーブルの上で半裸のまま放心状態の彼女。  
仕方が無いので、甲斐甲斐しく彼が身支度を整えてやり  
事件発覚覚悟で彼女を自宅まで送り届けた。  
 
帰り際でも、彼女はずっと無表情で一言も喋らなかった。  
 
その後。事件は表沙汰になる事無く  
彼女は一ヶ月程、学校を休んだ。  
 
やがて復学した彼女は内向的な性格に拍車が掛かり  
女子生徒以外と交際しなくなっていた。  
 
どうやら、『彼氏』とは一ヶ月の間に別れていた様である。  
 
 
それから春がまたやってきた。  
 
卒業式終了後  
帰路へ付いた彼女を待ち構えていたのは先輩だった。  
 
恐怖が彼女の心を縛り、彼女は震えながらも彼の方を見た。  
 
「久しぶり。・・・ちゃん」  
あの時と同じ、人懐こい微笑み  
 
彼女は一歩も動けなかった。  
 
あの時の行為について先輩は丁寧に謝辞を述べた。  
そして最後に、彼女へ囁く  
 
「だけどこれで、君は僕の事を忘れられない」  
 
それを聞いた瞬間、彼女は声を殺してその場で泣き崩れた。  
傍から見たら、意中の卒業生に振られた後輩の姿に映るだろう。  
 
彼女の泣き顔を、彼は皮肉気に見下ろした。  
 
自分でも酷い事をしていると思う。  
でも、心を閉ざした君があの時を忘れられない限り  
僕が君にとって最初で最後の男だ。  
 
例え彼女が自分をどんなに嫌っていても  
略奪と束縛と独占。彼は満足を得た。  
 
 

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