◆  
 
……人間というものは、あんまり突拍子もないことに出くわすと、意外と無駄に騒がないものらしい。  
下校の途中、風邪で学校を休んだ結花に連絡帳をを届けに来た僕は、広い玄関でポカンと口を開けたまま、長いこと結花のお母さんと向き合っていた。  
 
「……ええと、涼くんだったわね。ずいぶん遠いのにわざわざありがとう」  
 
「あ、はい……」  
 
結花は僕と同じ六年生。最近この住宅地に引越してきた転校生で、おそらくクラスで彼女の家を訪ねたのは僕が最初だろう。  
青々とした庭木に囲まれ、色鮮やかな蘭の鉢植えが並ぶ上品な玄関で、少し背を屈めて僕を覗き込む結花のお母さんは、当たり前だが結花にとてもよく似ていた。  
しかし……目の前でゆさゆさと揺れる大きなおっぱいや、こんもりと豊かな股間の毛はどう考えてもこの時間、この場所、そしてこの僕の前にあるべきものではない。  
つまり……長い髪を緩く纏め、細い金鎖のアクセサリーを懸けた結花のお母さんは全く何も身に付けていなかったのだ  
しかもその均整のとれた長身は、『おばさん』と呼ぶにはあまりに若々しいモデル顔負けの見事なプロポーション。  
ときおり目にするヌードグラビアにも、こんなに見事な身体の持ち主はいない。なんというか……いっそ服を着ている僕のほうが恥ずかしくなるくらい、堂々と美しい裸身だった。  
 
「……あの子、もう熱も下がったみたいだし、よかったら上がっていってくれるかしら?」  
 
「あ、はい……」  
 
何度目のマヌケな返事だろうか。しかしこの気持ちよく晴れた午後、結花のおばさんは優しく微笑み優雅な仕草で僕にむっちりとしたお尻を向けた。  
この質感溢れるお尻が夢や幻だったら、これまで十一年間の僕の人生すら儚い白昼夢ということになってしまう。  
 
「……さ、どうぞ。お医者さまはインフルエンザじゃないっていうから、ちょっと疲れが溜まったんでしょうね……」  
 
ごく自然に話しながら、僕を案内して明るい陽の射す廊下をすたすたと歩いてゆくおばさん。  
もちろん僕の目は肉付きのよい背中や、むちむちと左右に揺れる柔らかそうなお尻に釘付けだった。  
だがようやく今頃になって、僕の心臓は早鐘のように打ち始める。ひょっとして結花のお母さんは半端じゃなくそそっかしい人で、自分が裸ん坊なことに気付いていないんじゃないだろうか。  
こんなにすごい裸を鑑賞出来るのは信じられないラッキーなのだが、ふとドジに気付いたおばさんが恥ずかしい姿に大騒ぎ、なんていう修羅場はまっぴら御免だ。  
なんといっても結花は少し風変わりだが、僕にとって転校初日からとびきり気になる女の子なのだから……  
 
「……あ、あの、おばさん……お風呂だったの?」  
 
懸命に絞り出した、精一杯の平静を装った何気ない質問。しかしできるだけ呑気に発した言葉に返ってきたのは、同じくらい呑気な返事だった。  
 
「……ああ、ウチはみんなこうなのよ。『naturism』って涼くんに判るかな……」  
 
「はあ……」  
 
……いったい『こう』とはどうなのか。しかしひたすら迷走する僕の思考はまたすぐに急停止した。  
短い廊下が終わり、流暢に裸の理由を説明するおばさんは長い階段を登り始めたからだ。  
 
「……『人間性の解放』と言っても涼君にはまだ難しいかしらね……」  
 
おばさんの穏やかな声は全く僕の耳に届いていなかった。さりげなく階段を登る速さを調整しつつ息を殺して凝視すると、たぷたぷとリズミカルに歪むお尻が視界いっぱいに広がる。  
ときおり太腿の間から覗く、黒々とした大人の部分は縮れた毛が擦れるジョリジョリという音まで聞こえそうな至近距離だ。  
せわしなく、そしていやらしく形を変え続ける菱形の陰を必死に見上げながら、僕はムクムクとパンツの中でちんちんが膨れ上がるのを感じていた。  
 
二階に着くまではほんの数十秒だっただろう。しかしそれは、僕が大人の女性の持つ妖しく赤い蘭を初めて垣間見た瞬間だった。  
 
「……まだ眠ってるかしら? 結花、起きてる?」  
 
我に返ると、僕は娘を呼ぶおばさんと並んでドアの前に佇んでいた。『YUIKA』とレタリングされたプレートの掛かったドアだ。すぐ隣はきっとお姉さんの部屋なのだろう。  
 
「ん……ううん」  
 
扉越しに響く熱っぽい唸りは聴き覚えのある結花の声だったが、いま頭がぼうっとしているのは僕のほうだ。いったいどんな態度で風邪引きの彼女に連絡帳を渡せばいいのか……  
 
『……だから裸は健康にもいいのよ』  
 
唐突に、階段を登りながら上の空で聴いていたおばさんの言葉が火照った耳に蘇る。トクン、という胸騒ぎと同時におばさんが部屋のドアを開けた。  
 
◆  
 
「……結花、涼くんが来てくれたわよ?」  
 
密着したおばさんの陰毛がサワリ、と手の甲を撫で、甘い痺れがゾクゾクと背筋を駆け登る。だが僕はもう、次なる衝撃に茫然と立ち竦んでいた。  
胸騒ぐ予感通りの光景……淡いピンクで統一された女の子らしい部屋のベッドには、一糸纏わぬ姿の結花が横たわっていたのだ。  
さすがに脚が震えるのを感じながら、目を伏せた僕はギクシャクと連絡帳を差し出す。  
 
「こ、これ……」  
 
「うん、ありがと」  
 
物憂げに潤んだ瞳を上げた、まだ気だるそうな表情の結花は別にうろたえる素振りもなく身を起こし、どぎまぎと俯く僕からプリントと連絡帳を受けとる。  
下ろした黒髪が片方の乳房を隠していたが、彼女は無造作にそれを肩へと掻きあげた。おばさんに比べればささやかなおっぱいがツンと可愛く並んでいる様子に、またクラクラと目眩いがした。  
 
「……あ、気になるなら何か着ようか?」  
 
「う、ううん、全然大丈夫だよ……」  
 
チラリと僕を見上げて悪戯っぽく笑った結花はまだ眠たげな瞼をこすって、手にしたプリントに視線を落とす。やっぱり彼女も母親と同じく、家では丸裸で過ごすのが当然のことらしい。  
僕は妄想よりずっと発育のよい全身をチラチラと遠慮がちに観察し、ますます勃ち上がる疼きを必死に抑えた。女の子にしてはくっきりした腹筋の下には、もう僅かな毛が生えている。  
野暮ったい学校の制服でも結花がなぜか颯爽と魅力的に見えるのはこの無駄なく締まった、逞しい体型のせいだったのだ。  
 
「……ふふっ、あんまり学校じゃ言わないでね……」  
 
「う、うん……」  
 
明らかに僕の動揺を楽しんでいる様子の結花。出窓に置かれた鉢植えの蘭までが、からかうように鮮やかな花弁を揺らせていた。  
 
「……もう、また脱ぎ散らかして……ママはお茶淹れてきますからね」  
 
振り返ると、屈み込んで靴下だのタオルだのを拾い集めるおばさんのお尻がグニャリと潰れ、一瞬だがお尻の穴がはっきりと見えた。信じられないけどこれは紛れもない現実だ。  
ピンと伸びをして、産まれたての仔鹿みたいに思いきり欠伸をする結花のまっすぐな背中を眺めながら、僕はこのチャンスを精一杯楽しむことに決めた。  
 
◆  
 
「……ほら、結花は髪をこうするとママそっくりよね。ねえ涼くん?」  
 
「ほんとだ、よく似てるね……」  
 
マグカップを手に向かい合ってフローリングに座り、和やかに談笑する僕たち三人。  
女の子の家を訪ねたときにはお馴染みの平和で、ちょっぴりむずがゆい光景だ。ただし、仲睦まじく寄り添う結花とおばさんがすっ裸なことだけを除けば。  
会話から察するに家ではみんな全裸、という奇妙な暮らしは半年前までの海外生活の名残りで、今もその国に赴任しているお父さんの影響らしい。  
専業主婦のおばさんはともかく、いまだ長時間服を着ているとひどい圧迫感に襲われる、という結花は学校では大変だろうが、  
まあ僕さえ要らぬ詮索をしなければ、こうして寛ぐ母娘ヌードをじっくりと堪能できるのだ。  
 
「……それから結花はね、小さい頃から足の形がママと瓜二つなのよ。気づいてた?」  
 
「え、そうかなぁ……」  
 
二人が悩ましく身体を捻って片脚を伸ばすと、なんとも結構な具合にあそこが剥き出しになる。滑らかな亀裂から覗く結花の幼い窪み。  
その無垢な蕾はやがて淡く芽吹いてゆき、いつか隣で鮮やかに咲くおばさんの紅い果肉へと成長するのだろう。  
 
「ねえ、涼くんはどう思う?」  
 
「う、うん。似てると思う」  
 
我ながら相変わらず冴えない返事だ。でもいくらか落ち着いた僕の頭にはある悪企みが芽生えていた。この策略が首尾よくいけば……  
 
「……でもさ、おばさんも結花みたいに身体柔らかいの?」  
 
「全然。ママは屈伸で爪先も触れないよ」  
 
結花はそのずば抜けて柔かい身体で、体育の先生さえ驚かせたことがあった。あのとき、矢印のごとく広げた脚の間にペタリと上半身を挟み込んだ彼女を見て、僕はけしからぬ空想をしたものだ。  
もしあのとき結花が裸だったら、矢印の頂点はいったいどんな状態だったのだろうか……  
 
「……そんなことありません。ママの肉体年齢は二十歳です」  
 
「嘘ばっかり、じゃ、ママはこんな格好出来る?」  
 
まんまと狙い通り俯伏せになった結花は柔軟に背中を反らせながら、ゆっくりと力漲る両太腿まで床から浮かせてゆく。  
やがて瑞々しい弧を描いた彼女の足先は、ピタリと自らの後頭部に触れた。  
 
「……どう、凄いでしょ?」  
 
「ふふん、ママだってそれくらい出来るわよ」  
 
しかし結花がその身体で造った逞しい肉の環に比べ、隣で負けじと同じポーズをとるおばさんの格好はなんとも目のやり場に困るものだった。  
苦しげな喘ぎに合わせて床に叩く乳房と、上手く重心を取れずくねくねと悶える腰。懸命に宙を掻く丸まった爪先さえとんでもなく卑猥だ。  
 
「ね、涼くん。やっぱり私の勝ちでしょ?」  
 
見事なバランスで反り返り、首を傾げて僕の賞賛を待つ結花の瞳はずっと僕が惹かれ続けた悪戯っぽい光をいっぱいに湛えていた。  
塑像のようなその姿態を隅々まで眺められるほどに、いっそう恍惚と自らを絞り上げる彼女は、本当に僕の知っている無邪気な同級生なのだろうか。  
それに拷問じみた苦痛に喘ぎながら隆々たる肢体を捻るおばさんもまた、結花と同じ奇妙な熱を帯びた眼差しを僕に向けている。  
 
「お、おばさんだって、ちゃんと出来てるわよね!?」  
 
僕の視線を浴びるほど妖しく、そして大胆に咲く対の蘭。窓から射す西日の下、もう憚ることなくその姿を鑑賞する僕は次なる策を巡らせながら、もっともらしく呟いた。  
 
「……どうかな……それじゃ二人とも、次はちょっと立ってみてよ……」  
 
おわり  
 
 
 

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