埋め小ネタ――『シンコ姫とガラスの足』 (レズ描写あります)  
 
 
 生まれた時から、新子には右足がありませんでした。  
 体のほかの部分はとてもかわいらしい女の子なのに、細い脚の先っちょだけが、くるぶしの手前で  
ツルンと丸くなっているのです。原因はよくわかりません。何人もお医者さまに見てもらいましたが、  
誰もが驚き、面白がるばかりで、新子の足を生やすことはできませんでした。  
 右脚に長さが足りないので、うまく左足に体重をかけなければよろよろと立つこともできません。  
ほかの子みたいに自由に走ったり跳んだりできない自分の体が、新子は嫌いでした。  
 内向的で卑屈なせいでしょうか、継母やふたりの義姉からもいじめられる毎日を送っていました。  
新子にはむずかしい家事を言いつけてひっくり返る姿をケラケラ笑ったり、誕生日のプレゼントに  
新子の欲しがったきれいな靴をわざと右足だけ贈ったり、それはそれは陰湿なものでした。  
 このつらい日々に耐えていればいつか必ず足は生えてくる――幼いころはそう信じていた新子も、  
成長するにつれて、それが何の根拠もない幻想だと思うようになりました。そして同時に、この欠けた  
足こそが私が私である証なんだ、これのおかげでひどい目に遭うことが私の喜びなんだと、ゆがんだ  
マゾヒスティックな資質を花開かせていきました。  
 
「ほら、シイちゃん、靴下を脱いで私たちに見せなさい」  
 胸やお尻が少女らしくふくらみ、右足首もいっそう丸みをおびてきたある日のこと、新子は、  
いつものようにふたりの姉に見下ろされていました。椅子にすわったまま、右膝をかかえ上げて、  
言われたとおり白い靴下を取り去ります。それは靴下というより椅子の脚についているカバーの  
ようで、中から靴下にも負けない白くすべすべした肌があらわれます。  
「なにこのみにくい足、こんな片輪であなた恥ずかしくないの?」  
 上の姉が薄笑いをうかべて言いました。新子は赤くなって身をすくめます。  
「ほら隠さないの、恥ずかしいところ見せてごらんなさい」  
 下の姉がふくらはぎを掴んでグイと引き上げました。ふたりに足首の先をまじまじ見つめられて  
しまい、新子は目をつぶって体をよじらせました。足の無い足首は隠すべきところ、恥ずかしい  
ところで、こんなふうに見られるととてもイヤで涙が出そうになります。なのに、その何も無いはずの  
部分からむずむずくすぐったいようなほのかな熱が湧いてきて、しだいに甘い感覚へと変化し、  
体じゅうをじんわりと包んでいきます。新子は苦しそうにあえぎました。  
「なあに? シイちゃんったら、こんなことされて感じてるの? 変態ね」  
「ほんとうに恥ずかしい妹だわ、あなたって」  
 きつい言葉を浴びせられるほどに、足首の熱は高まっていきます。さらに姉たちは、新子を罵倒  
しながら熱くなった場所を乱暴に撫でたり、肉と骨の感触を味わうように先端を揉みしだいたり、  
唇を寄せて薄くにじむ汗をすすったりと、いろいろな方法で足首をいじめます。  
「んっ、ふう、っ……、お姉さま……もう、やめてよ……」  
 息を荒げて懇願する新子に、上の姉は冷たい目を向けて言いました。  
「口のきき方に気をつけなさい。やめてください、でしょう?」  
「やめて……ください……」  
「うそばっかり。こうされるのが嬉しいくせに」  
 そう言われると新子は黙ってしまいます。たしかに体は姉の乱暴を愛撫のように感じ、反応して  
います。本能は何よりも正直で、口から出るのは形だけの拒絶です。新子は自分の卑しい性分を  
悟りまたいっそう恥ずかしく、体の芯がとろけるように熱くなるのでした。  
 
 そんな恥辱と屈折の日々を過ごし、新子が十五歳を迎えたころ、王宮で大きな舞踏会が開かれる  
ことになりました。王子さまが花嫁をさがすためのものに違いないという話が国じゅうをかけめぐり、  
母や姉たちも王子の目にかなおうと、豪勢に着飾っていそいそ出て行きましたが、歩けない新子は  
家でひとり留守番を命じられていました。新子はつぶらな瞳にどこか影のある、長く垂れた黒髪が  
美しい少女になっていました。  
 ああ、いまごろ王宮ではみんな楽しく踊っているだろうに、私はなんて情けない存在なのかしら。  
そんなことを思いながら、なんとなく右足首をいじってひとり遊びしていると、来客を告げる鐘が  
鳴りました。玄関にあらわれたおばあさんは新子の足もとを見て言いました。  
「あんたが新子さんだね、どうだい、あたしの魔法で足を生やしてあげよう」  
「魔法ですって?」  
 いぶかしむ新子におばあさんは、持っていた杖をひらりとかざしました。するとどうでしょう、  
足首の肉がみるみる盛り上がり、射精にも似たえもいわれぬ快感とともに、左足を鏡写しにした  
ような見事な右足が形成されたのです。  
「す……すごい、すごいわ!」  
 足の裏にたしかな床の肌ざわりを感じながら、新子は興奮して言いました。すらりとふくらんだ  
くるぶしの先に、なめらかな白い肌、ところどころ青く透き通って見える血管たち。五つの指先を  
きゅっと丸めると、健康的なピンク色をした爪が見えたり隠れたりします。  
 嬉しそうに生まれたばかりの右足を撫でている新子に、おばあさんは笑顔で言いました。  
「その足とドレスで舞踏会にお行き。いつもいじめられているあんたへのプレゼントだよ」  
 新子は自分の体が、華麗なドレスに包まれていることに気がつきました。  
「これが……これが私?」  
 信じられないという顔で、ドレスの裾を持ち上げその場でくるりとターンします。  
「ありがとう! ありがとうおばあさん!」  
「ただし、魔法の効果は今夜の十二時までだ。それまでに帰って来なきゃいけないよ」  
「はいっ!」  
 笑顔でこたえると、新子は月の輝く街へと飛び出していきました。  
 
 王宮内の誰もが、生まれ変わった新子の姿にため息をもらしました。母や姉も、新子の足もとを  
見るや茫然としています。今や新子は国内に並ぶもののない美少女。生まれて初めて味わう健常の  
喜びを全身でかみしめ、幸せにふるえていました。  
「僕と踊ってくれませんか?」  
 そのうるわしいドレス姿はもちろん王子の目にもとまりました。ダンスなんて絶対できないと  
思っていたけれど、新子が王子と手を合わせると、不思議なことに右足がリードするように動いて、  
何も考えなくても美しく躍動的なステップを刻んでいきます。  
 若い王子はすぐに、腕の中で泳ぐように踊る少女に心を奪われました。  
 ふたりはこっそり舞踏会を抜け出し、王子の部屋で特別な時間を過ごすこととなったのです。  
「僕と結婚してくれるかい……?」  
「ああ王子さま、私なんかにそんなこと! なんて素敵なの……!」  
「僕は本気だよ、さあ、ベッドにおいで……」  
 ドレスを脱ぎ、窓から差し込む月明かりに裸身をさらした新子は、自然と右足を後ろにやって  
隠そうとしましたが、もうその必要はありません。  
 王子は、染みひとつない新子の体を見て感動の声をあげました。ベッドに横たわった新子の  
なだらかな胸の丘に手を伸ばします。ほのかなピンクに色づいた敏感な部分が、丘の上で王子の  
愛撫を待っています。指先を受け入れるとぴくりと震え、少女らしいおびえをみせました。  
「こわがらなくていいんだよ。君は美しい……」  
 心地良い低音でささやくと、王子は熱い息をつきながらピンクの先端に唇を寄せました。  
 初めて味わうしびれるような感覚に身をよじりつつも、そのとき新子の心にわずかな違和感が  
芽生えていました。  
「あの、王子さま……。足を……右足を、さわっていただけませんか?」  
 新子の突然の申し出に、王子は怪訝な目を返しました。  
「君は足が性感帯なのかい?」  
 新子はとまどいました。正当な男女の営みであるはずの乳首を愛撫される感覚は、足の無い  
右足首を乱暴に扱われた時の快感とはまったく違って、芯の部分が熱くなってこないのです。  
肉体の奥にある自分の本能が、物足りなさすら感じてしまうのでした。  
 おそろしいその感覚は、王子が右足をさわってくれても変わるものではありませんでした。  
左足と同じ、足としてそこにある右足は、裏のところがくすぐったいというごく普通の触感しか  
持っていませんでした。  
「ああ! なんてことなの!」  
 右足を生やしてしまったばかりに、新子は、あの被虐的な性の喜びを失ってしまったのです。  
「ああ王子さま、私は片輪になってしまいました!」  
 錯乱した新子の耳に、時計台の大きな鐘の音が聞こえました。十二時です。  
 魔法のことを思い出し、すっかり動転しながら新子は部屋を飛び出しました。追いすがる  
王子の声と足音が響きます。そのとき、新子の右足がガラスのように透き通って、足首から  
離れコロリと転がりました。魔法の効果が切れたのです。ドレスも元のボロ切れみたいな  
ワンピースに戻ってしまいました。  
 新子は必死の思いで王宮から逃げ出しました。杖のような右足首が土を突く感触に、何とも  
いえないなつかしさを感じながら……。  
 
 
「……それで、逃げてきちゃったの?」  
 ボロ切れだけをはおって帰ってきた新子に、下の姉ははあきれて言いました。  
「やっぱり、あなたにはその足がお似合いよ」  
 上の姉がそう言って笑います。そんなちょっとした攻め言葉を聞いただけで、新子は唇を  
ゆがめて喜びに震えました。  
「ほら、泥だらけになってるじゃない。洗ってあげるから、おいで」  
 姉たちは新子を床にすわらせ、湯を張った洗面器を用意して、右足首をそこにつけました。  
じわりと熱がひろがって、新子が息をつきます。  
「お姉さま、私は変態です。欠けている部分でしか感じられない変態なんです」  
 目をうるませながら言うと、上の姉がふたりを代表するように答えました。  
「よく言ったわね。じゃあ、これからも私たちが毎日いじめてあげる」  
「お姉さま……!」  
 新子は両手を腰の後ろに回され、タオルで固く縛られました。さらに左の足首をベッドの  
脚に縛りつけられます。なんとか動かせるのは右脚だけ、という格好になり、  
「不自由な方が燃えるんでしょう?」  
 冷たく攻撃的な四つの瞳で見下ろされると、新子の全身にゾクゾク鳥肌がたってきて、  
湯の中の足首には早くも快感が芽吹きはじめます。  
「きれいになったかしら? ちゃんと足を上げて見せなさい」  
 上の姉の言葉に、新子は膝を伸ばして足首をさらしました。しずくがふくらはぎを垂れ、  
いったん膝裏のくぼみに収まってから、内ももの方に流れて跡を作りました。  
「とりあえず、留守番をほっぽって家を出たお仕置きをしなくちゃね……!」  
 そう言うと姉は、まるで子供のお尻を叩くように、新子の先端を平手で強く張りました。  
 ピシャン! 水を含んだ高い音と同時に、短い悲鳴が響きます。  
「ぁう! うっ、あぁあ!」  
 新子の悲しげな声に耳を貸さず、いえ、聞こえているからこそさらに何度も、姉は手を  
振り下ろします。貫くような衝撃が新子の細い体を弾かせました。  
 
 下の姉が新子の右側にまわり、無防備な股間に手を差し入れてきました。ワンピースの  
短い裾はめくれ上がり、何も着けていない内部が丸見えです。  
「そろそろこっちもいじめて欲しいんじゃないの?」  
「そこはっ……!」  
 ハッとした新子が抵抗を試みようにも、四肢は拘束され、心はそれ以上に固く姉たちに  
捕らえられていたので、なすすべなく指の侵入を許してしまいました。姉の指先の触れた  
ところがとても熱くなっているのが自分でもはっきりわかって、それを知られることは  
耐えられない恥辱であり、また耐えられない快楽でした。  
「もうこんなに湿っているじゃないの。お姉さま、この子ったら叩かれてよがっているわ」  
「ああ……っ……!」  
 ねばつく液をすくいとった指先が、新子と上の姉の眼前でひろげられます。上の姉は  
叩いていた手を止め、やれやれといった風に、  
「まったくしょうのない子。罰にならないわね」  
「ごめんなさいお姉さま、ごめんなさい」  
「許さないわよ。そんなに感じるなら、これを使って奉仕なさい……」  
 そう言って自分も下着を脱ぎ、肉付きの良いお尻を新子に向けました。  
「まさか、お姉さま、そんな……そんなこと!」  
 姉はなめらかに丸い新子の足首を、みずからの女性器に押し当てました。姉のその部分も、  
茂みの奥でも光って見えるくらいに濡れています。新子の目の前で、細い脚とはいえ性器に  
入れるにはあまりに太い足首が、少しづつ姉の中にうずまっていきます。中はあたたかで  
吸いつくようにやわらかく、まるで足首が生殖器になったみたいに、みだらに動くその部分に  
神経が集中するのを感じます。  
「あ、は……、ふとぉい……!」  
 姉がゆっくり腰を振って、足首を中へと沈めていきます。下の姉はその様子にうらやむような  
視線を送りながら、新子や自分の股間からあふれる潤滑液をぬぐって結合部にこすりつけています。  
 今や新子の足首は、完全に姉たちの性具になっていました。  
「シイちゃん……、あなたはね、私たちのオナニーの道具なのよ」  
 上の姉が、髪を振り乱しながら言いました。お尻の向こうに上気した横顔が見えます。  
「足の欠けてるあなたはね、せいぜいオナニーの道具として生きるしかないの。わかった?」  
「わかりました、私はただのいやらしい肉性具です、お姉さま、どうか私でオナニーしてください……!」  
 新子はぼろぼろ泣きながら叫びました。自分の中の何かが弾け、頭が真っ白になりました。  
 それはとても気持ちの良い瞬間で、これが味わえるなら人間なんかでいられなくてもいいと、  
新子は心から思いました。  
 
 それからしばらくたって、お姫さまをさがしているという王子が新子の家を訪れました。  
「こちらに右足の無い女の子がいると聞いた。このガラスの足をつけてみてもらえないだろうか。  
 ぴったりと合えば、僕はその子を花嫁にするつもりです」  
 新子は彼の執念に驚きました。はたしてガラスの右足をつけると、あの夜と同じように、  
足首の先にピタリとくっついたのでした。  
「おお! 君があの時の姫さま!」  
 しかし新子はその右足を、王子の股間めがけて思いきり蹴り上げました。  
 ガラスの右足は粉々に砕け散り、王子は泡をふいて倒れました。  
「ごめんなさい王子さま、でもこれであなたも私の仲間ですね。案外良いものですよ、片輪って」  
 そう言って新子は笑いました。ガラスの破片が新子のまわりでキラキラ輝いていました。  
 
(おわり)  
 
 

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