朱美はあれ以来姿を見せなくなった。  
斗司明の呼び出しにも応えない。  
学校には来ているようだが、  
斗司明は忌避されているようだった。  
だからといって、斗司明は例の動画を提出する気などなかった。  
斗司明にとって、そんなことはもうどうでもいい。  
惨いことだったとは思う。  
だが、それについて斗司明は特に罪悪感を感じているわけではない。  
同情しているわけでもない。  
ただ、つまらない。  
それだけだった。  
それが、斗司明という男だった。  
 
あの出来事の後、由美香が何度かアプローチをかけてきたこともあったが、  
斗司明はこの後輩の少女が、朱美の代役を果たせるものとも思えず、  
結局、相手にすることはなかった。  
あやかは、教師を辞めた。  
身体的な都合ということだったが、  
実際にはもっとえげつない話だった。  
あやかは、斗司明を犯したその晩のうちに盛り場に現われ、  
数人の男たちを漁ると、彼らを相手に乱交に及んだ。  
男たちはあやかを別の、より人目につかない場所に連れ込み、  
さらに仲間を呼んで輪姦したのだった。  
噂によると、その数は十人を越えていたという。  
斗司明の学校の生徒が、その中に加わっており、  
そういった噂を流した。  
あやかは、貪婪に求め続けていたという。  
 
翌日、あやかは人気のない公園に棄てられていた。  
全身が男たちの肉欲にまみれ、  
心も体も、完全に壊れていたという。  
輪姦した連中の主要メンバーは強姦容疑で逮捕されたが、  
その供述によると、あやかは最初の時点で壊れていたという。  
いずれにせよ、人気の美人教師が悲惨な形で教壇を去ることに、  
多くの生徒は悲嘆した。  
斗司明は、それにも特別な感情を抱くことはなかった。  
 
★  
 
斗司明は資料室にいた。  
ここにいいれば、朱美が現われるのではないかという、  
あてずっぽうの推測で待ち伏せていた。  
毎日来ているわけではないとはいえ、  
すでに二ヶ月目に入ろうとしていた。  
以前に一ヶ月間、性行為を禁止したとき、  
朱美は狂気に焦がれ、この部屋で自慰に及んだ。  
ふた月も行なっていないのならば、どこかにそのはけ口を求めるはずだった。  
そうでなくとも、ここは朱美の小遣い稼ぎの場であり、  
最初の日にはっきりと、朱美自身が言ったとおり、  
斗司明とはまた別に、無関係に、  
朱美はここで他の生徒や教師に体を売るはずだった。  
だが、そういったことが行なわれている気配もなかった。  
室内に漂っていた朱美の匂いが、  
日に日に褪せていくように感じられた。  
 
別の場所に移ったか。  
確かにこの部屋は人目につかず、防音もそれなりになっており、  
ドアさえ閉ざせば外界と隔絶された空間となる。  
だが、そもそも学校内で淫行に及ぶということ自体が、  
相当高いリスクを伴う行為であったと思わざるを得ない。  
すでに学外の、より隠匿性の高いどこかに、  
その場所を移したと考えるのが妥当であるかもしれない。  
だが、その高いリスクを冒すことで得られる背徳感、  
リターンも相応に高いものだった。  
だからこそ朱美はホテルなどといったそのための施設ではなく、  
この場所を選んだのだろう。  
ならば、またこの場所に姿をあらわす可能性はゼロではない。  
斗司明は飢えていた。  
だが、その飢渇感が、斗司明の思考をより執念深い、  
狩猟者のそれへと変化させていた。  
飢えた己と、渇した獲物。  
獲物は水場を求めてきっとここに現われる。  
獣じみた眼差しの男は、やはり獣の辛抱強さで待ち続けた。  
斗司明は窓際に立った。  
あの日と同じ、黄金の光が眼を焼き、顔を顰めた。  
錆び付いたポールの上に座る街路灯が、  
出番が来るのを今や遅しと待っている。  
遠くで運動部のランニングの掛け声が響いていた。  
「ここは関係者以外立ち入り禁止です」  
冷たく、硬い声が斗司明の背中を叩いた。  
 
斗司明がゆっくりと振り返ると、  
白い肌の女生徒が立っていた。  
校則どおりに一部の隙もなく着こなした制服。  
流れるような、艶やかな黒髪。  
ほっそりとした、しなやかな肢体。  
そして、端正で冷厳な面に、情炎を宿した双つの瞳。  
斗司明は乾いた唇を舐めて湿した。  
「俺は、お前の関係者のはずだぜ」  
斗司明はその場から動かない。  
「私の体がお望みですか」  
女生徒は、蔑むような口調で言った。  
「そんなものは、どうでもいい」  
斗司明の言葉に、  
女生徒の能面のような白い顔にひび割れが生じた。  
「私の体でなくてでも、女性の体ならば何でもいい、  
ということでしょうか」  
「そういうわけじゃない」  
斗司明の唇の端が吊りあがっていく。  
「むしろ、その考えは的外れだ」  
「ならば、一体何と」  
女生徒が踏み出した。  
後ろで、音もなく、ドアがひとりでに閉まる。  
女生徒は一歩、また一歩と斗司明との距離を詰めてくる。  
 
来い。  
もっと来い。  
もっと近づいて来い。  
斗司明の中の渇望が、彼女との距離に反比例して増大していく。  
女生徒が、手の届きそうな距離で立ちどまった。  
「あなたは、一体何を望んでいるのです」  
女生徒の無機的な声が斗司明を撃った。  
獣は、その音に、  
噴き出す火焔の熱を聞いた。  
獣が、女生徒を襲った。  
怒涛の如き量感と、雷光の如き敏捷さで、  
獣は女性とを床に組み伏せた。  
女生徒が抵抗する。  
獣はその細い両手首を掴み、自由を奪った。  
獣は、唸るような声で囁いた。  
「お前だ」  
少女の目が意外そうに見開かれた。  
「俺は、朱美、お前の全てをもらう」  
獣は、少女の、何かを言おうとする唇を奪った。  
朱美の目から涙が溢れた。  
 
★  
 
斗司明は朱美を犯した。  
壁に手をついて立たせ、その細い腰を掴んで、  
彼女の肛門を貫いた。  
いつものように朱美を裸に剥くことなく、スカートを捲り上げ、  
下着さえも足に引っ掛けさせたままで、  
背後から突き続けた。  
それはまさに、貪るという表現がふさわしい光景だった。  
斗司明は、一心不乱に朱美の体を堪能した。  
斗司明の腰が、朱美の白い尻を打つ。  
飢え、肉欲を内奥に溜め込んだそれは、  
朱美の腹の中の、柔らかな肉を責め苛んだ。  
朱美は泣いていた。  
密かに斗司明に操を立て、それが無残に裏切られた失望が、  
それでもなお、諦めきれずに耐えつづけた渇望が、  
いま、怒涛のような激情となって、それに報い、満たしていく。  
斗司明によってこれまで調教されてきたその部分は、  
主の帰りを待っていたかのように、  
熱をもって斗司明の怒張を迎え入れた。  
朱美のそこは、排泄のための臓器であるにも関わらず、  
十分な潤みを湛えて斗司明を包み込み、もてなした。  
 
はらわたがうねり、斗司明の陰茎をねっとりと舐る。  
斗司明は強く、深く突き入れ、  
朱美の奥を穿つと、堪っていた精を放った。  
朱美が呻いた。  
尻が、脚が、吐く息が震えていた。  
内腿が濃厚な匂いの腺液で濡れて、陽を浴びて黄金に輝いていた。  
朱美の中の空虚が、白く満たされていく。  
斗司明は休む間もなく、再び剛直を朱美の柔肉で扱いた。  
二度、三度と、これまで溜め込んできた煩悩と激情を吐き出させる。  
その度に朱美は、身をうち震わせ、歓喜の喘ぎをあげた。  
斗司明は背後から朱美を抱いた。  
振り乱された黒髪に指を潜らせると、朱美の髪は蛇淫の精の如くに、  
斗司明の指に絡みついた。  
「やっぱりお前が一番だ、朱美」  
斗司明は朱美の耳元に囁いた。  
朱美は、くすぐったそうに身を捩らせると、  
鼻に掛かった声で鳴いた。  
「ありがとうございます、斗司明さん。  
私も、私も斗司明さんのが一番、大好きです」  
朱美は、肩越しに唇を求めた。  
 
斗司明は、朱美の体を一杯まで捩じらせ、  
瑞々しい、ふっくらとした唇を吸った。  
斗司明の口腔内に、朱美の舌が割り入って来た。  
甘くうねるそれは、斗司明の舌と絡まりあい、  
より奥を目指そうとするかのように伸縮した。  
斗司明は、犯されている感覚に襲われた。  
唇を振り切る。  
二人の間が銀色の糸でつながり、それはふつりと宙に途切れた。  
斗司明は朱美の尻から陰茎を引き抜いた。  
肛門が引き止めるように締め付けてきたが、  
それを振り払うかのように力任せに引き出す。  
尻が外側に捲れ返る。  
亀頭がずぼと、音を立てて抜け出た。  
朱美の肛門は、白い粘液を吐き零しながら、  
まだ喰らい足りないというかのように、  
ぱくぱくと喘いでいる。  
朱美が切なげな瞳で斗司明に訊いた。  
「もう、おしまいですか」  
「いや」  
斗司明は朱美を仰向けに押し倒した。  
「俺は、お前の全てをもらう。全てだ」  
朱美は、斗司明の言葉の意味を察した。  
細く長い脚を寛げた。  
 
「あの日が危険日でなかったら、  
こんな遠回りをしなくて済んだのかもしれません」  
朱美は、どこか遠くを見つめるようにして言った。  
「さあて、な」  
斗司明は考えることを放棄した。  
朱美の膝を掴んで、  
脚をアルファベットのMの字になるように割り広げた。  
白い雫を溢れさせる紅い蕾の上に、  
瑞々しく濡れ輝く、肉の花弁があった。  
美しい桃色に照り光るその花弁の中央、  
たっぷりの蜜を溢れさせて息づく、  
朱美の雌芯がある。  
斗司明は、そこに己の獣性の化身を口づけさせた。  
「もらうぞ、朱美」  
「はい、斗司明さん」  
猛る獣は、淫花の奥を貫いた。  
朱美が歓喜に泣き痴れた。  
斗司明は、飢えが満たされるまで朱美を貪りつづけた。  
(了)  
 
 

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