『絢敷道端草』妖花男を誑かし精を啖ふのこと  
 
「殿には、困ったものだ」  
柄盛藩家老らの声である。  
そして、同時に、  
「元凶は、側女のえいである」と、  
憤怒と憎悪の声ををあげていた。  
柄盛藩藩主、馳駒前左馬之助勝隆(ちくぜん・さまのすけ・かつたか)は、  
幼時より「其性好色」と評される人物であった。  
しかし「聡明比類なきこと、語るに及ばず」とも評され、  
前髪を落とす前から、前藩主であった父に、  
度々の助言をし、それがことごとく的を射ていたというほどの、出来物であった。  
前藩主が薨じ、勝隆が其の跡を継いだとき、  
誰もが、英主の下に、柄盛藩が一つの隆盛期を迎えるものと、信じていた。  
それが、である。  
勝隆は藩主就任から、一年を経ることなく、堕落した。  
もともと色好みであった勝隆は、  
女中などに手を出したりもしていたが、  
それでも、果たすべき務めは、滞りなく果たしていた。  
女中らも、玉の輿への途であるとして、  
ことさらに嫌な顔はしなかったし、  
人間、何らかの悪癖はあるものだと、  
家老たちも考えていた。  
 
それが、女中奉公として、えいという娘が入ってから、  
勝隆は一変した。  
昼となく、夜となく、えいを奥の間へと連れ込み、  
果たすべき務めをなおざりとするようになった。  
勝隆は、えいを正室に迎えたいと言い出したが、  
家老たちは、身上の問題として何とか勝隆をなだめすかし、  
えいを側女として迎えるというところで、妥協に至った。  
つまり、勝隆は、正室を持つことなく、  
側室を持ったのである。  
それでも、家老らは早々に嫡子が授かればよいと、  
その程度に考えていた。  
しかし、あれほどに、むつみあっているにも関わらず、  
勝隆とえいの間に、いつまで待っても子は出来なかった。  
そればかりか、えいは、一時と離れることなく、始終勝隆に付き纏い、  
勝隆も、えいをしゃぶるようにして愛でた。  
挙句、苦言を呈する家老らの建言を、  
勝隆の脇に侍ったえいが遮り、勝隆もえいの言を容れて、  
奥に引込むということさえあった。  
えいは、あの女は、藩主を壟断し、国政を蔑ろとしている。  
家老たちの憤りは、天を衝いた。  
 
★  
 
家老らは、一人の若い女中に命じ、  
勝隆とえいの“いたすところ”を、確かめ、  
その挙動に不審なところはないかを報告するよう命じた。  
女中は、勝隆とえいが奥の間に入ったことを認めると、  
襖を髪の毛ほどの細さに開き、  
息を殺して覗き込んだ。  
女中が見ていることを知るよしもなく、  
勝隆とえいは、するすると衣を脱ぎ捨てて、素裸になった。  
勝隆の体は、細身ながらも隆々とした筋肉がつき、  
まさに、数千の武士の棟領たるに相応しい風格を漂わせていた。  
だが、もっとも女中の目を惹いたのは、  
その股座にいきり立つ男根であった。  
腹につくほどに反り返るそれは、  
まさに天を衝かんばかりの怒りを漲らせているかのように、  
血管を浮き立たせ、悪鬼が振りかざす棍のように、  
勝隆の股間に聳えていた。  
女中は、それが自身の女陰を貫き、  
子宮を突く感覚を想像し、血がさんざめくのを感じた。  
一方のえいもまた、女中の目から見てさえ、美しかった。  
肌は白く、その身は豊かに肉付き、丸い乳房がたわわに揺れていた。  
腰は美しい曲線を描きつつくびれ、  
柔らかに膨らむ臀部へと繋がっている。  
四肢は、細く、長く、しなやかであるが、  
腿は柔らかな肉をたっぷりと湛えている。  
その両腿が行き会う部分には、  
髪と同じ、鴉の濡羽のような翳りがあった。  
そこは、すでにその奥から滲み出してくる蜜で、  
じっとりと濡れそぼっていた。  
勝隆は、布団の上に腰に胡坐をかいた。  
「えいよ。みせてくれ」  
「左馬之助様、もうそのようになっておられるのに」と、  
えいは、勝隆の逸物に、物欲しげな微笑を向けると、  
勝隆の促すままに、勝隆に尻をむけて、四つん這いになった。  
 
まるで、処女のように恥らう素振りを見せるえいに、  
勝隆は顎で促した。  
えいは、膝立ちになると、  
たっぷりとした白い尻肉を、自ら両手で鷲掴み、割り開いた。  
女中は目を瞠った。  
黒々とした柔毛を纏わりつかせた女陰は、  
処女のように鮮やかな桃色で、行灯の明かりに濡れ輝いている。  
尻肉の狭間に穿たれた窄まりは、秘裂から溢れ出た蜜であろうものにまみれ、  
濡れてひくひくと蠢いていた。  
その光景は、あまりにも淫らで、うつくしく、  
いやらしいにもかかわらず、女中の目を吸いつけて離さなかった。  
女中は、自身が女であるにもかかわらず、  
えいに欲情していることを覚えた。  
えいは、自身の指を口に含むと、たっぷりとねぶり、  
滴るほどに唾液を絡ませて、己の腰にヘと這わせた。  
女中は、えいがその指を女陰に指し込んで、  
そこを解きほぐし、勝隆のものを迎え入れられるよう整えるものだと思った。  
だが、えいは、唾液にまみれた指を、  
尻肉の間の窄まりに向けた。  
うすく、菫色に色づいたその中心、不浄の花の花芯に、  
えいは自らの爪を突き立てた。  
「ああ」と、えいが絶え入りそうな声で鳴いた。  
その悩ましげで、苦悶に震える面とは裏腹に、  
えいの尻は、はしたなく自らの指を咥え込んだ。  
指の中ほどまで呑み込まれた頃合で、  
えいは、今度は指をゆっくりと引き抜いていく。  
唾液とは、また異なる体液でべっとりと濡れた指が、  
えいの尻から引き出されてくる。  
その指に、貪欲にも、肛門が吸い付いていた。  
えいは、指を中で曲げていたのだろう。  
指を抜き出した瞬間に、肛門が一際激しく捲れ返った。  
背筋が、突っ張っり、えいが呻いた。  
えいは、その抜き出した指を、再び窄まりに埋めた。  
今度は全部を引き抜くことなく、  
中で軽く曲げた指が引っ掛かるところまで抜き、それをまた埋める。  
段々と、指の動きが激しくなる。  
襖越しの女中の耳にも、そこから溢れ出てくる淫らな水音が聞こえてくる。  
 
えいは、そこに潜らす指の数を段々と増やしていった。  
最初の一本に、二本目の指を添えて抜き挿しし、  
さらに三本目を添えては、今度は押し広げるようにして、  
指の束をひねり回す。  
もう一方の手の指も加わり、窄まろうとする筋肉の輪を拡げ、押さえ、  
またその指も一本、また一本と、数を増やしていった。  
えいは、苦痛と羞恥の色に顔を染め、涙で頬を濡らしていた。  
その桃色の唇からは、熱い吐息が途切れ途切れには溢れ、  
昂ぶる勝隆の鼻息の音と、尻から垂れ流される水音と混じり、  
香のたゆたう閨房の空気に、さざ波打った。  
初め、えいの菫色した窄まりは、指先で隠れるほどの可憐なものであったが、  
いまや、左右あわせての八指を貪り、菫色はその縁にわずかに残すばかりの、  
桃と紅蓮の色をした大肉花となって、ほとびれ咲いていた。  
えいが、ようやく、指をとめた。  
左右それぞれ四指の尖端を、尻肉の狭間に開いた口の縁に掛けて、押し開いた。  
ぽっかりと開いたえいの尻孔は、勝隆と、  
盗み見る女中の眼前に、その奥まで曝け出された。  
えいの呼吸に合わせて、その内壁は蠢き、糸を引き、  
涎を垂らして、その空虚さを埋めるものを求めるように、息づいていた。  
えいが、情けを乞うように、濡れた瞳で勝隆を見返った。  
勝隆が、獣のような唸りをあげて立ち上がった。  
勝隆は、尻を広げるえいの指を振り払うと、  
自身の餓えた剛直を、えいの尻にあてがい、突き込んだ。  
すでにほぐれ、開ききったえいの尻孔にも、  
勝隆のそれは、あまりにも太く、長く、硬かった。  
えいが、泣き叫び、髪を振り乱す。  
勝隆は、それを背後から圧し、征服者の咆哮をあげた。  
女中は、なぜ勝隆とえいに子ができぬのかを、悟った。  
勝隆は、えいの体に溺れている。  
勝隆は、えいの尻孔に呑み込まれているのだ。  
おそらくは、幾度か女陰での媾合も経たのであろうが、  
えいは、あの妖しい肉花で、あの妖しい肉花に、  
勝隆を惑わし、捕らえこんだのだろう。  
肛媾では、子が出来ようはずもない。  
えいの魔性から勝隆を解き放たねば、  
永劫馳駒前勝隆に子が出来ることはないであろう。  
女中がそう考えている間にも、勝隆は、  
えいの肉体の更なる深みに呑み込まれていた。  
 
勝隆は一心に、えいの尻を抉り続けた。  
勝隆は、陰部同士ですら激しく、女体を壊しかねない粗暴さと、力強さで、  
えいを突き続けた。  
荒々しい呼気は、熱病に冒されたかのようであり、  
餓えた獣の唸りにもまた似ていた。  
真実、勝隆は、飢えと渇きに狂わされた獣が、  
熟れた柔肉を喰らうかのように、えいを貪っている。  
その瞳に、もはや正気の光は、毫ほども残されてはいなかった。  
えいもまた、狂喜に咽び、啜り泣いた。  
本来、穢れを吐き出すことのみを役目とするその孔を、  
自らの指でこじ開け、その奥までを男の眼下に晒したのだ。  
その恥辱たるや、女中には察するにも及びがたく、  
しかもなお、えいはそこを、凶器のような肉茎で貫かれているのだ。  
えいは、腸を掻き回されるたびに、  
呻きとも叫びとも嗚咽ともつかぬ声で鳴いた。  
火柱のように熱く滾った勝隆の陽根は、  
それさえも融かすばかりに煮え返る、  
えいのはらわたに呑み込まれていた。  
「左馬之助ぁっ」  
えいが、鳴いた。  
白い頤を反らし、背を仰け反らせた。  
四肢が、棒に変わったかのように、突っ張る。  
勝隆をしゃぶる肛の唇が、きゅうと、締め付けた。  
勝隆も、吼えた。  
それは、純然たる咆哮であるのか、  
それとも、自らが犯しているものの名を叫んだのかも判然としなかった。  
勝隆の指が、えいの白い尻肉を握り潰さんばかりに、掴み締めた。  
勝隆は、一際深く、えいに突きこむと、  
まるで修羅の立像の如くに、動きをとめた。  
えいが、恍惚の表情で泣き、震えている。  
えいの腰は、乳を嚥下する赤子のように、引き攣り、撥ねていた。  
まさに、そうなのだろう。  
本来ならば、勝隆の子を、馳駒前の家の嫡子となるべき子種を、  
えいはその尻にへと堕とし、啖っているのだ。  
悩乱し、喜悦とも苦悶ともつかぬ面で、勝隆の精を啜り続けるえいの姿が、  
女中の目には、妖しく美しくも、あまりに邪悪な毒華と見えた。  
 
勝隆が、腰を引いた。  
えいが、呻く。  
多少萎えたりとはいえ、尖端に返しがついた、あれほどの剛直なのである。  
尻の中を、肉襞に覆われた、柔らかな腸の内壁を、  
抉り、引っかかれている感覚を想像し、女中は総毛だつのを覚えるとともに、  
自身の女芯が、震え、潤むのを感じた。  
勝隆の陰茎は、みだらな、あまりにみだらな音を立てて、  
えいの尻から這い出した。  
その瞬間、またえいは体を引き攣らせ、嬌声をあげた。  
勝隆は、腰が抜けたように、えいの尻を前に座り込んだ。  
えいもまた、しばらくは息を乱し、布団に顔を埋めていた。  
なおも高々と掲げられた白い肉丘の狭間には、  
萎えることを知らぬ、鮮紅の妖花が、  
白い雫をねぶり尽くそうとするかのように蠢いていた。  
えいが、また、己の肉花に、白い指を添えた。  
ごぼり、と、肉花はその花芯から、汚穢と入り混じった精を溢れさせた。  
えいは、勝隆に、慈悲を乞うように、挑みかかるように、  
尻を揺らし、妖しくねだった。  
勝隆が立った。  
まだ、赤々と指の跡が残された白い尻を、再び鷲掴みにする。  
勝隆は、えいの尻に口を開けた妖花に、  
また、己のものを与えた。  
勝隆が吼える。  
えいは、身を震わせて、歓喜に鳴いた。  
 
★  
 
女中は、勝隆とえいの“いたすところ”を、最後まで見届けた。  
えいは、四度目の半ばに一際高く叫び、気を失ったが、  
勝隆は、その肉人形と変わらぬ身をも犯し続け、  
七度目の精を放つと、  
えいに己のものを咥えさせたまま、力尽きた。  
翌朝、女中は家老らにその顛末を語った。  
家老らは、早急に手を打つこととした。  
ある日、家老らは勝隆に狩りをすすめた。  
また、勝隆が狩りにいっている間、女中はえいに入浴をすすめた。  
たとえ、えいがどこぞの間者で、怪しげな術を用いるとも、  
身一つであれば、いかほどのこともあるまい。  
そう考えた家老らは、手練の者を集め、  
えいが入浴中、襲撃させた。  
果たして。  
 
剣士たちが風呂場に踏み込むと。  
そこにあったのは、首と胴とが切り離された、あの女中であった。  
えいの姿はどこにもなく、以来、ふたたびえいが姿を現すことはなかった。  
勝隆はこの日を境に心乱れ、狂気のうちに病み、間もなく世を去った。  
柄盛藩は、かくて断絶となった。  
あの、えいという妖女は一体何者であったのか。  
柄盛藩断絶を目論んだ、どこかが差し向けた忍であったか、  
勝隆が弄んできた娘達の怨嗟の化身か、  
はたまた、狐狸や妖怪の類であったのか、  
その真相は、闇の中である。  
馳駒前家の城の跡地には、いまも、  
妖艶なまでに紅い花が、露に濡れて咲くという。  
 
※関藤観斎編著『絢敷道端草』(万延元年4月初版刊行)所収、  
 「妖花男を誑かし精を啖ふのこと」を編訳、重版分を併せて適宜増補したものです。  
 

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