鬼が出る、という。  
無理からぬ話である。  
天の巡りは乱れ、地は崩れ、人の心は麻のように荒んでいる。  
栄華を極め、天下泰平の境と呼ばれた都ですら、  
疫病がはびこり、夜な夜な匪賊が家屋敷を襲う。  
ひとたび雨が降れば、川は怒涛を打って人も家も薙ぎ払い、  
やんだかと思えば、ふたつきみつきと刺すような陽が照る。  
路傍には病や飢えで死んだ者の亡骸が打ち捨てられ、  
それを烏や野犬が貪る。  
嘆きが世を満たしている。  
地獄と変わらぬ。  
鬼も出ようというものだった。  
都の周りですらそのありさまである。  
辺鄙な山村ともなれば、もはやその様相は筆舌も尽く。  
和州のある寒村では、  
人がその日一日を生きることのみが精一杯であるというのに、  
さらに鬼が村を襲い、旅人を攫うという。  
鬼は、村の僅かの食い物を奪う。  
旅人は、男は殺され、  
女は慰み物にされるか、生きたまま喰らわれるという。  
だが、誰もが今日を生きることにしか興味がない。  
鬼を討とうという者は現われなかった。  
 
★  
山の奥、荒れ寺から声がする。  
下卑た笑いと女の喘ぎ。  
三人の男と一人の女だ。  
男たちは、汚らしく、髪も髭も伸び放題にさせていた。  
見るからにみすぼらしいなりだが、  
ふもとの村人に比べ、その体にはぎとぎととした精気が漲っている。  
男の一人が娘を犯している。  
十を幾つか出た程の娘だ。  
肉付きは薄く、白い肌の下の筋や骨が浮いて見える。  
肌の滑らかさ、髪の艶やかさから、  
良家の子女であるものと知れた。  
その娘が、まるで人と狒々の合いの仔のような男の慰み物にされていた。  
娘は、最初のうちこそは泣き叫んで抵抗したものの、  
今となっては精も根も尽き果て、  
されるがままに弄ばれていた。  
男が激しく腰を使う。  
娘が、壊れたかのように、律動に合わせて声を漏らす。  
ほっそりとした腹に、男の凶暴なものの形が浮かびあがり、  
抽挿を繰り返しては、激しく娘の奥をいたぶっているのが見て取れた。  
 
男が咆えた。  
その姿の通り、やはり狒々のような声だ。  
男の怒張は、娘の中でびくびくと脈を打って、  
その奥に濃く臭う、白い奔流を流し込んだ。  
すでにぐったりとした娘から、  
男は逸物を引きずり出した。  
栓を失った娘の秘裂からは、どろりとした精が溢れた。  
「やはり、都の女はガキでも抱き心地が違うぜ」  
狒々のような顔をした男が、満足げに言う。  
「肌触りっていうか、肉の感触っていうか、  
麓の村の骸骨に皮貼り付けた女どもに比べると、  
まさに雲泥の差だぜ」  
「だからといって、貴様、張り切りすぎじゃ。  
もうその娘、使えたもんじゃなかろう」  
熊のような男が、苦笑しながら言った。  
「そんなことを言って、貴様とて、散々愉しんでおったではないか。  
それに、ほと(女陰)のことなら、吐き出させればよかろう」  
狒々男は、娘の緩く膨れた腹に足を乗せると、軽く力を込めた。  
娘が呻いた。  
娘の秘裂が、ごぼりと白い粘液を吐き出した。  
 
「あまり、乱暴に扱うなよ」  
猪のような容貌の男がたしなめた。  
「都女はガキでも、使い古しでも上々の値段で売れる。  
それも、まぐわいが出来るからこそだ。  
死んだり、まぐわえんような体になったもんは、  
烏や犬の餌ほどの価にしかならんわ」  
男たちは、賊であった。  
麓の村々や旅人を襲い、食い物を奪う。  
女は犯しぬいたあとに人買いへ売り払う。  
この山には、鬼の言い伝えがあるが、  
この男たちの所業は、まさに鬼か畜生のそれであった。  
「貴様がやっておるのを見て、  
わしもまたやりたくなってきたではないか」  
熊男が、娘の腰をを掴んだ。  
軽々とひっくり返し、うつ伏せにさせると、  
尻を高く突き上げさせた。  
どろどろに汚れた秘裂から、臭い雫が糸を引いて滴った。  
熊男は、そこに指を突っ込み、ぐちゅぐちゅと掻き回した。  
娘が、身を捩ってよがる。  
 
「おぅ、もうがばがばじゃねぇか。  
これじゃ、愉しめねぇか」  
「そんなこともあるまい」  
猪男が、いやらしい笑いを浮かべながら言う。  
「尻の孔はまだ使ってなかろう」  
その言葉に、娘が息を呑んだ。  
「や、いやぁ。お尻はいやじゃ」  
すでに枯れはてたはずの涙がまた、目の縁に溢れた。  
逃れようと、力なく這いずる娘を押さえつけると、  
熊男は尻を大きく割り広げた。  
「おうおう、可愛らしい尻の孔じゃ。  
じゃが、こんな小さな孔にわしのもんが入るかの」  
「舌で舐めてほぐしてやるのじゃ。  
酒でも掛けながら舐めてやると、乙なものぞ」  
猪男に言われ、熊男は娘の尻の上で徳利を傾けた。  
濁り酒が娘の尻に滴り、窄まりに小さな池を作った。  
熊男は、そこを舌で叩くようにして、ぴちゃぴちゃと酒を舐めた。  
すすり泣く娘の声に熱い湿りが篭もった。  
「なるほど、これはなかなかの妙味じゃ」  
熊男は、舌で娘の肛門をなぶった。  
舐めまわす。突付きまわす。  
娘は髪を振り乱して泣き喚いた。  
尻を襲うむずったく、もどかしい悦楽と、  
尻の孔をいじくられる羞恥とが、  
娘を激しく、乱れ狂わせた。  
 
熊男の舌は、肥満した蛞蝓のように、しばらく娘の尻を這いまわっていたが、  
ついにその先端を、娘の中にへと突き入れた。  
娘は、微かな悲鳴をあげた。  
熊男の舌は、娘の肛門を、その太さで無理やりにこじ開けて中に押し入ると、  
孔の径を広げるかのように、外側に向けてじっとりと、  
内壁をこすった。  
娘の顔が歪む。  
気持ちが良いのか、苦しいのか、恥ずかしいのか、  
もはや自分にも訳がわからなくなり、喜怒哀楽、いずれともつかぬ表情のまま、  
涙を零しつづける。  
「尻の孔は十分にほぐしておくのじゃぞ。  
でないと、まらを挿し込んだら裂けちまうからな」  
猪男が、酒を啜りながら嗤った。  
熊男に苛まれる娘を肴に、狒々男が徳利から直に酒を呷った。  
「しかし、こうも容易くことが成るとは思わなんだ」  
狒々男も嗤った。  
ぎとぎととした、醜怪な笑みだった。  
「村の食い物は粗末じゃが、それでも柿の実を盗るより楽に飯にありつける。  
しかも、村の連中は飢饉で一日を生きるので精一杯の上に、  
わしらを山の鬼と信じ込んでおるゆえ、手が出せぬときた」  
「さよう、連中の腰抜け振りときたらないわい」  
「じゃが、それのおかげでこのような生活ができるのじゃ。  
天変様々、地異様々、腰抜け百姓様々じゃな」  
「あと、鬼様々じゃ」  
猪男と狒々男は嗤いあった。  
熊男が、娘の尻から舌を抜いた。  
酒と唾液と腸液に濡れた尻の孔が、ぽっかりと丸い口を開け、  
磯巾着のように窄まっていく。  
「けつの孔がきゅうきゅう舌を締め付けてきやがる。  
もう堪えきれねえ。挿れるぜ」  
熊男は、隆々といきり立つ、己のものの先端を、  
娘の窄まりにあてがった。  
 
娘は床を掻いて逃れようとする。  
だが、熊男の腕は、娘の体を万力のように捕らえて離さない。  
「おいおい、そんなもんぶち込んだら、尻が裂けるぞ」  
猪男がにやにや笑いながら言う。  
「前の穴さえ使えりゃいいんだろ。  
こっちは精々、こっちは精々愉しませてもらうぜ」  
熊男は、腰を娘に押し付けた。  
ずぶり、と、亀頭が娘の尻に埋まった。  
娘はもう、悲鳴もあげない。  
尻をぎちぎちに押し広げて埋め尽くす、それの苦痛と圧迫感に、  
歯を食いしばって耐えるのみだった。  
「おお、こいつは凄まじい。  
肉の輪がぐいぐいと締め付けてきやがる。  
前でやるのとは、また一味違うわい」  
熊男が、さらに奥へと突き込もうとしたときだった。  
「もし」と、澄んだ声が響いた。  
男たちが振り返ると、堂宇の入口に一人の女が立っていた。  
白い旅装束を纏っている。  
煌々とした月明かりに照らされたその面立ちは、  
すっきりと整っていながらも、成熟した女性の匂いを内に秘めていた。  
誰もが一目で、人品卑しからざる者だと思った。  
「もし。旅の途中、道に迷い、日が暮れてしまい申した。  
よろしければ、わたくしもその中へ入れて、夜露をしのがせてくれませぬか」  
女は、伏目がちに訊ねた。  
男たちは下卑た笑い声をあげた。  
「いいぜ、上がっていきな」  
「嫌だと言ってももう遅いがな」  
男たちの笑い声と、値踏みするような視線を浴びながら、  
女は堂に上がった。  
 
「こいつは上玉じゃねぇか」  
熊男が目を瞠った。  
娘の尻に挿していた逸物を抜き取った。  
ずぼ、という音を立て、娘の尻は虚しく口を開けた。  
娘は、排泄の快感を強いられ、背を仰け反らせ、果てた。  
女は、打ち捨てられ、  
ぼろぼろの板床に野犬の死体のように転がされた娘に目を落とすと、  
「まあ、惨い」と、感情のない声で呟いた。  
「惨いも何も、お前もこれからこうなるのさ」  
熊男が、いきり立つ怒張を見せ付けるようにして凄んだ。  
狒々男と猪男も、じりじりと焼けるような眼差しで迫ってくる。  
「わたくしの体がお望みですか」  
「その通りよ。それ以外に何がある」  
「今の世の中、銭などあった所で買うものもないしな」  
「見たところなかなかの家柄のようじゃな。  
たっぷり愉しませてもらうぜ」  
男たちは、黄色い歯を剥き出しにして嗤った。  
臭い息が、女の顔に吹きかかったが、女は眉一つ動かさない。  
「そのように焦ることも御座いますまい。  
宿のお礼で御座います。  
ゆっくりとご堪能くださいまし」  
女は、帯紐を解いた。  
 
男たちのぎらついた視線の交わる中で、  
女はするすると着物を脱ぎ落とし、裸になった。  
屋根の裂け目から、月の光が差し込んだ。  
女の裸体が、青白い月の光に浮かび上がった。  
四肢は細くしなやかで、その指は白魚のようだった。  
張りのある乳房は、掌に収まるほどの膨らみで、  
その先端はつんと尖り、真っ白な肌の中で、  
桜色に映えていた。  
尻には、たっぷりとした柔肉がつき、  
熟れた女の魅力を内に秘めている。  
女の物憂げな濡れた瞳は、見るものの肉欲を掻き立てた。  
漆のように艶のある黒髪がほつれ、  
紅い唇に纏わりついているのが、なお一層扇情的だった。  
その豊かな黒髪が流れる背中は、無駄な肉が一切なく、  
白い肌の下に息づく筋肉と、骨の形を浮かび上がらせている。  
男たちの視線は、女の股間に集中した。  
女のそこは、童女のように滑らかで、  
無毛の恥丘に、一筋の切れ込みがはしっているだけだった。  
美しく成熟した女体の中で、幼さを残したそこが、  
男たちの理性を焼き切った。  
熊男が、女を突き倒した。  
崩れるように倒れこんだ女の脚を掴んで、目一杯に広げさせる。  
切れ込みの奥に息づいていた媚肉が曝け出された。  
鮮やかな桃色をしたそこは、  
奥より滲み出る欲情で、濡れそぼり、艶めいていた。  
熊男は、女の股に顔を埋めた。  
 
淫核を歯でしごく。  
尿道を舌先でほぐすように弄る。  
肉襞の重なり合う、潤みの奥を強く吸う。  
その度ごとに女は熱く、蕩けるような声をあげて身をよじった。  
白い喉が仰け反る。  
薄く肋が浮かび上がる。  
乳房が弾み、震えた。  
「もう、我慢ならねえ」  
熊男は、女のそこに、己の逸物を押し付けた。  
ずぶり、と亀頭が女の中に潜り込んだ。  
子供の腕ほどはある、太く、長い陰茎が、  
女の中に飲み込まれていく。  
女は、細く、長く声を漏らしながら、それを全て受け入れた。  
熊男のものが、女の中に納まった。  
女の中は凄まじかった。  
熱く、蕩けるような肉襞がねっとりと絡みつき、包み込む。  
女陰全体がうねり、のたうち、波打って、  
陰茎を扱きあげた。  
熊男は、腰を使うまでもなく、果てた。  
己の中に脈動とともに子種を浴びせられたのが余程良かったのか、  
女は快哉を叫びながら、身をくねらせ、腰を振るわせた。  
細く長い脚が、熊男の腰に絡みつくと、  
女は自ら腰を使った。  
熊男が慌て、止めるのも聞かず、  
女は髪を振り乱し、乳房を揺らして、  
狂ったように腰を動かした。  
熊男は、再び精を放った。  
 
己が犯す前に、精を搾り取られたことに、  
熊男の自尊心は傷つけられた。  
娘を弄んだ上に、この女に立て続けに二度も放ったことで、  
いささかの疲れはあったが、  
熊男は、この女を服従させるべく、  
激しく責め立てようとした。  
女の細い体を抱きすくめ、激しく腰を使う。  
女は涙を流して叫んだ。  
悲鳴ではない。  
喜悦の長鳴である。  
「貴様ばかり愉しみやがって。  
俺たちにもいいかげんに代わりやがれ」  
猪男が苛立ちを隠すこともなく言う。  
「代われるものか。  
この女はすげぇぜ。今までに抱いたどの女よりいい」  
熊男は息を切らし、なおも腰を動かしながら答えた。  
猪男は、女の上に覆い被さる熊男に足をかけると、  
力を込めて蹴っ転がした。  
ごろりと反転して、熊男と女の上下が逆になった。  
猪男は、女の尻肉を掴むと、むんずと押し広げた。  
柔らかな尻の谷間に、可愛らしい窄まりが露わになった。  
窄まりは、肌理細やかな周りの皮膚に引っ張られ、  
ひくひくと口を開け閉めしていた。  
果たして、これが糞をひり出す孔であるのかと、  
疑わしいほどに可憐で、整った色形をしている。  
それが、女陰から溢れ、流れ出た蜜と汗とに塗れ、  
月光を浴びて艶めかしく照り輝いている。  
猪男は、自らが熊男に言ったことも忘れ、  
まだほぐしてもいないその菊門に、  
怒張を押し付けた。  
女が、切なげな声をあげる。  
 
「入れて、入れてくださいまし」  
猪男は、自らのものを、女に突き込んだ。  
ずぶ、と小さな窄まりに亀頭が呑み込まれる。  
巨躯に相応しく、やはり巨大な猪男の逸物が、  
女の尻を抉じ開け、貫き、ぐいぐい深くへと刺さっていく。  
「あああ、ああ、あ、あ、ああああ、  
あ、あ、あ、ああああああああああああああああ」  
女の声が止まらない。  
瑞々しい果実のような唇に縁取られたそこは、  
無意味な叫びと唾液を垂れ流すだけの洞穴となっていた。  
女は、熊男の腕を振り払うと、背を弓のように反らせ、  
眦も裂けよとばかりに目を見開いた。  
熊男が咆えた。  
もともと締め付けのあった女の膣が、  
尻に猪男のものを迎え入れたことで、なお狭くなり、  
熊男のものをさらに強く責め立てたのだ。  
熊男は、何度目とも知れぬ精を放った。  
それは、猪男も同じである。  
女の尻の中は狭く、熱かった。  
入口の肉の環が猪男の陰茎をきつく締め上げ、  
その奥は、ねっとりとした腸壁が絡みつき、  
女の呼吸に合わせて、収縮と弛緩を繰り返して、揉みしだく。  
猪男も、女の中に入れただけで精を絞られてしまったのだ。  
そして、やはり猪男も凶暴性を露わにした。  
女の肩と髪を掴むと、猪男は性器同士での媾合のように、  
激しく腰を打ち付けた。  
 
猪男の腰と、女の尻肉がぶつかり合い、  
頬を張るような音が響く。  
肉茎が引き抜かれると、女の肛門は外側に捲れ返り、  
突き込むと、周りの皮と肉とを巻き込んで、腸内に呑み込まれる。  
猪男は、女の髪を引っ張った。  
女の頭が仰け反る。  
「どうだ、痛いか、辛いか、気持良いか」  
「痛ぉうございます、辛ぉうございます、気持良うございます」  
女は涙を流し、涎を流し、顔をくしゃくしゃに歪めて答えた。  
だが、そのあられもない姿さえ美しかった。  
「俺ばっかり、仲間はずれかよ」  
狒々男が不満そうに徳利から酒を呷った。  
その狒々男に強請るようにして女は宙を引っ掻いた。  
涎の溢れつづける口が、ぱくぱくと開く。  
暗いその穴で、赤い舌がのたうっているのが見える。  
狒々男は、女に誘われるようにして、  
女のもとへ歩み寄ると、  
熊男の頭を跨ぎ、自らの逸物を、  
女の口に突っ込んだ。  
 
狒々男の剛直は、女の喉にまで達した。  
女の目から、どっと涙が零れた。  
狒々男のものに、女の舌が絡みつく。  
喉の奥がびくびくと震え、亀頭を揺さぶる。  
この女は、尻のみでなく、口も不世出の名器であるようだった。  
狒々男も他の二人と変わらぬ途を辿り、  
他の二人と同様に、女を犯した。  
見苦しい、畜生のような男が、三人がかりで、  
たった一人の美女を犯している。  
もはや、誰の目にも正気はない。  
三人の男たちの目には、女を征服しようとする凶暴さと、  
女の体に呑み込まれて行く溺者の光しかなかった。  
 
★  
 
東の空が白み始めた頃、冷やりとした風に撫でられ、  
娘が目を覚ました。  
狒々男に尻の孔を穿たれ、抉られて気を失っていたが、  
ようやく目を覚ましたのだった。  
荒れ果てた堂の中には、咽返るような、淫蕩な臭いが漂っている。  
誰の声もしない。  
男たちは寝ているのだろう。  
逃げるならば今だ。  
娘はそう考え、足音を殺し、外へと這いずった。  
未だに尻が痛く、立てそうにはない。  
すっと伸ばした手が、何かに触れた。  
冷たい。  
夜気に包まれ、まだ薄暗い中、目を凝らしてみると、それは、  
人間の体だった。  
はじめからそうであったのではなく、  
色を抜き取られたかのように白い、人間の体が転がっている。  
抜き取られていたのは、色ばかりではない、  
全身の血という血、髄という髄、精という精を  
ことごとく抜き取られたかのように、  
その体は干からびていた。  
娘は悲鳴を上げた。  
仰け反って尻餅をつく。  
尻の孔が痛い。  
だが、それにも構わず、屍体から逃れようと這い退がる。  
手が、また冷たいものに触れた。  
娘はそれが何かの予想はついたが、  
反射的に、その予想の正誤の確認をしてしまっていた。  
 
やはり、それは、干からびた屍体だった。  
飛び退いて、目を凝らすとさらにもう一体の屍があった。  
娘は、堂の角に這い逃れると、  
膝を抱いてがたがたと震えた。  
三体の死体は、もはや見る影もないが、  
その身の丈からすると、自分を犯していたあの三人の賊であろう。  
昨晩までは全身に脂ぎった精気を滾らせていた三人が、  
たった一晩で木乃伊のようになって死んでいる。  
娘の脳裏に、この辺りの山の噂が蘇った。  
「目が覚めたな」  
澄んだ、そして冷たい女の声がした。  
娘の視線が飛んだ、堂の奥の影から、  
ゆらりと美しい女が現われた。  
全裸の女は、全身にどろどろとした、  
臭い立つ粘液を纏いつかせていた。  
「寝たままでも良かったのじゃが、  
やはり、声をあげさせたかったのでの」  
女は、また、ゆらりと娘に一歩近づいた。  
開ききった陰門と肛門から、どろりと白い粘液が溢れ、  
腿を伝っていく。  
 
「怖ければ泣いてよいぞ、  
痛ければ叫んでよいぞ」  
女は、ゆらりゆらりと娘に近づく。  
娘は歯の根も合わぬほどに震えていた。  
「それもまた、愉しみのひとつじゃて」  
女は娘の肩に手を置いた。  
その手は、氷のように冷たかった。  
 
鬼は、人を誑かし、男は殺し、  
女は慰み物にした上で喰らうという。  
娘の声は、誰の耳にも届くことなく、  
虚しく暁の空に溶けて、消えた。  
 
 

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