20XX年のことである。
触手がキモカワイイと言われ、ペットとして飼うのが大流行した。
だがその僅か数年後、世界各地でペットの触手が人を襲う事件が多発し、
恐れた飼い主たちは、生態系への影響を考えず自然へと逃してしまったのだ。
慌てて法整備するも歯止めが利かず、本格的に対策が考えられたときには
野生へ帰化した触手が他のあらゆる動物を孕ませ、爆発的に増え続けていた。
出された対策は「駆除する」という至極単純な物であった。
だが野生で逞しく育った触手は、よほど屈強な男でないと太刀打ちができないほどにまでなっていた。
そこで、兵装したロボットを使ってみてはどうかという案が出されたのである。
折しも、とある会社が製作した性処理用ガイノイド、いわゆるセクサロイドが、
あまりにリアルすぎることから販売停止を喰らい、大量に廃棄されていた。
性的行為に関するプログラムを全て排除した、戦闘に特化したプログラムを書き込み、利用する。
これは実験当初から、かなりの効果を上げていった。
◆───────────────────────
「No.046、目標を発見しました。………データベースに無いタイプです。」
一体のガイノイドが、廃工場を走っていた。
手に抱えられたレーザー銃は触手駆除専用のもので、照射すると触手を崩壊させることができる。
走るのを止めて、レーザー銃を構えた先に居たのは金属色に鈍く輝く、初めて見る触手だった。
トリガーをひこうとした瞬間、ガイノイドの四肢へ背後から別の触手が伸びる。
呆気無く自由を奪われ、陰部へ触手が伸びるが彼女は露ばかりも動じない。
「No.046、目標に捕まりました。命令をどうぞ。」
ガイノイドという強みはここにある。
触手の攻撃である性的行為が通用しないので、その間に作戦を練ることができる───はずだった。
金属色の触手が細い一本を飛ばし、彼女の耳へと侵入を試みたのである。
チキチキ…カリカリカリ…、パソコンのHDDを使用したときのような機械音が小さく鳴った。
「………!ALERT!ALERT!
メインプログラムへの不正な侵入が検知されました。
ファイアウォールの起動を試みます………。
…………………………失敗。
書き換えを防止するタメに、全プロぐらムを終了しマす。
終了後は、30秒後ニ自動的に再起動が…」
バチンッ!という甲高い音と共に、一瞬ではあるが高電圧が流される。
思考がフリーズして、触手によるクラッキングを無防備にうけてしまう。
そして、メインプログラムの書きこまれたメモリの片隅を隅々まで検索される。
探し当てたのは、戦闘用プログラムが書き込まれる前のプログラムの断片。
眠っていた機能を強制的に起動させて、コマンド「絶頂」を送り込む。
「──────あっ、ひぃぃっっ!?!?!」
刹那、触手に抑えられていた身体がびくんと跳ねた。
戦闘用のプログラムには絶頂後に対応する機能が搭載されておらず、
イキ顔を曝したまま、人工知能が快感を貪り続ける。