『ルキア先生の憂鬱』  
 
 英雄とも呼ばれた今は亡き大魔法使いロカを父に持つ少年ルカくん。幼い日に見た父のように偉大な魔法使いになろうと、ウェールズの隠れ里にある魔法学校で懸命に学び、スキップしまくりで11歳で魔法学校卒業となったのですが……。  
 最後の卒業課題として出されたのが、「日本の中学校で1年間先生をすること」。  
はたして、彼は無事に卒業課題をクリアーできるのでしょうか?  
 ──というわけで、やって来ました関東某県にある"間寺刈(まじかる)学園"。  
 ルカはここの女子中等部で教鞭をとることになっていたのですが、赴任早々……というか赴任してくる日の朝にポカをして、魔法を使っているところを教え子(予定)のふたりの女生徒に見られてしまいます。  
 どんより落ち込んだルカを迎えた学園長は、歓迎の意を述べつつも、先刻の魔法バレについて咎めます。  
 目撃した女生徒は学園長の孫とそのルームメイトだったのが不幸中の幸い。ふたりに口止めして魔法のことが広まることは阻止できたのですが……。  
 「しかし、何もお咎めなし、というわけにはいかんのぅ」  
 「はい……(うぅ、魔法バレって、確か小動物にされて半年間魔法界のために無料奉仕、だよね?)」  
 「時に、ルカくん。キミはイタチとキツネとウサギ、どれが好きかね?」  
 「(来たっ!)あのぅ、それじゃあ、できればキツネで……」  
 「ほほぅ、なかなかマニアックじゃな。ホレッ!」  
 
 ──ポンッ  
 
 学園長の魔法が杖から放たれた瞬間、お子様には似合わぬスーツに身を包んだルカの姿は煙に包まれ……煙が晴れたときにはそこには狐耳&狐尻尾のついたミニスカ和服姿のルカ少年、もとい少女が立っていました。  
 「ホッホッホッ、可愛いキツネっ娘の一丁できあがりじゃ。我ながら上手くいったわい」  
 「あ、あの〜、学園長、これは?」  
 「うむ。知っての通り、魔法バレは本来小動物化の末、1年の無料奉仕じゃ。しかし、今回の件はそこまでするほどのことではないでな。戒めのため少しだけケモノの要素をお主に付加したわけじゃ」  
 「それは何となくわかりますけど……でも、なんで女の子なんですか?」  
 「バッカモン!! ケモノ耳と言えば美少女か美女と相場が決まってるじゃろーが!」  
 なんだか訳がわからないものの、「萌」について力説する学園長の迫力に負けてうなずくルカくん。  
 「は、はぁ、そういうものですか」  
 「なあに、心配するな。この学園を去る時には、キチンと元の姿に戻してやるわい」  
 
 「で、でも、こんな姿でみんなの前に出るのは……」  
 「ああ、それも心配ない。この木の葉を頭に載せて、バック転してみなさい」  
 「ええっ、そんなの無理ですよ!」  
 12歳の少年としては、結構運動能力は高めのルカですが、いきなりバク宙ができるほどではありません。  
 「いいから、ホレ、やってみそ」  
 妙にカル〜い、学園長の言葉に従い、渋々渡された葉っぱを頭上に載せて、トンボをきるルカ。バク転、難なくできちゃいました!  
 
 ──ドロン!  
 
 「うわっ、なんですか、これ!?」  
 煙の中から現れたのは……やっぱりルカくんです。  
 ただし、三角のキツネ耳とフサフサしたしっぽはなくなっており、着物ではなく半袖ブラウスにエンジ色のブレザーと同色のミニスカートという格好──ありていに言うと、女子中等部の制服姿でした。  
 「おお、よう似合っておるぞ」  
 「え? ええっ!?」  
 「ははは、日本ではキツネは人間に"化ける"という伝承があってな。お主もキツネ娘のはしくれになった以上、そのように人間に擬態する能力が使えるわけじゃ」  
 「あ、それは聞いたことがあります。けど、なんで制服なんでしょーか?」  
 「ああ、それは周囲の環境からしてもっとも違和感のない姿に擬態したのじゃゅろう」  
 なるほど、その理屈には一応納得がいきます。  
 
 「ふむ、ちょうどよいか。ルカくん……いや、その姿で男の名前は変じゃな。よし、これから当分はルキアと名乗りなさい」  
 「は、はぁ……なんか、死神だったりクイズの学校にいたりしそうですが」  
 いろいろあり過ぎて頭がテンパり状態のルカくん改めルキアちゃんは、力なく答えます。  
 「後者はキミも似たようなもんじゃろう? ともかく、ルキアちゃん、キミは当面3月まで、女子中等部の英語の教育実習生と働くと同時に、授業をする時以外は2−Aに転校生として編入してもらう」  
 「ええっ、そんなの無茶ですよ! 第一、ボク、まだ11歳になったばかりですし」  
 「(その12歳で教壇に立とうとしとったぢゃろーが)その点は心配ない。自分の体をよく見てみなさい。何か違和感を感じないかね?」  
 「違和感って言われても……女の子になってるし、スカートはいてるから違和感ありまくりですよォ〜。あれ、でも、なんだかちょっと背が高くなったような?」  
 「うむ。それにホレ」  
 
 ──ツンツン……ポニョン!  
 
 「キャッ、何するんですか、学園長先生!」  
 思わずつつかれた胸を押さえて後ずさるルキアちゃん。  
 「(ほぅ、自然と女の子らしい仕草が身についとるようじゃな)見たところ身長は155センチ前後、バストの方もBの70といった感じじゃろう。それなら中学2年生の女の子として問題ないと思うがの」  
 「ふえっ!? 5センチも身長伸びちゃったんだー」  
 「いや、悩むべきところはそこじゃないだろう!」とツッコミたいところをあえて自重する学園長。  
 
 「でも生徒と先生の兼任なんてできるんですか?」  
 「大丈夫じゃ。我が学園には"準教師"という制度があっての。特定の分野に特に秀でている生徒は、その教科に関してのみ"講師"として教師に準じる立場で教壇に立つことできるのじゃ。講師として教えている科目については、自動的に単位修得できることになっておる」  
 似たようなことを大学過程で行っている学校はあるが、中学生でそれは普通ないだろう。  
 「無論、君が受け持つ英語以外の教科では、他の一般生徒同様に授業を受けてもらうので、そのつもりでな」  
 「そ、そんなのでいーんですか?」  
 「ま、とりあえず3月までの話じゃ。それまでで無事に先生をしていけるとわかれば、4月からは正規の教員として取り立てよう。それに、日本にまだ慣れておらぬキミにとっても、ちょうどよい研修期間じゃと思うがの」  
 
 「……と、まぁ、おおよそそういった事情があっての。ほのか、アスミちゃん、ルキアちゃんの学園生活を助けてやってもらえんかね?」  
 孫とそのルームメイトを呼び出した学園長は、ルカ──ルキア・オータムリーフのフォローを、ふたりに依頼します。  
 ただし、魔法の事は極力簡単に説明し、またルカくんが魔法で女の子の姿になったのではなく、元々女の子だったのが魔法で男の子の格好をしていたかのようにあえて誤解させるような言い回しを使用して。  
 「いいですよ。困ったときはお互い様ですし」  
 「ウチも構へんで〜」  
 そのため、ふたりは「ちょっと訳あり(実は魔女っ子?)な転校生の世話」を頼まれたと思い込み、快く引き受けます。  
 
 「じゃあ、改めて自己紹介するわね。あたしは、神室坂明日美。アスミって呼んでね」  
 「ウチは、穂村焔乃香。ほのかでエエよ」  
 「る、ル…キア・オータムリーフです。よろしくお願いしますぅ」  
 ルキアちゃんは、ふたりのクラスメイトがいい人そうなのでホッとすると同時に、なんだか騙しているようで(実際にそう誘導したのは学園長ですが)、ちょっと申し訳ない気分になっているようです。  
 
 
<オマケ>  
 
 「そうそう、ルキアちゃん。魔法を使うときは変化の術が解けて耳と尻尾が出るので、注意せんといかんぞ。  
 それと、キミの先生としてまた魔法使い見習としての行動は、逐次監視させてもらうからの。もし、そこで不適切もしくは不注意な行動をとるようなら、キミの「キツネっ娘ポイント」が溜まる仕組みになっておる。現在はとりあえず50じゃが、これが100になると……」  
 「ひゃ、100になると?」  
 「本体が完全にキツネ(妖狐)になる。まぁ、その状態でも人間に化けることはできるから当面問題はないが。逆に0になったら、完全な人間の姿に戻してあげるので、頑張るようにな」  
 「は、はいっ、がんばります!」  
 
 ──バタン!  
 
 ふぅ……行ったか。ところで、気づいておらんのじゃろうのぅ。  
 首尾よく春に正規教員になれればよいが、もし準教師のままじゃと、「1年間先生をした」とみなすには、今から大体高等部を卒業するくらいまでこの学園にいる必要がある計算じゃということに。  
 まあ、ワシとしては半人半妖獣耳の可愛い魔女っ娘が、それだけ長く学園に留まってくれるのは嬉しい限りじゃが(ニヤソ)。  
 
 

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