メイドは見違えるような衣装で、主の部屋に顔を出した。  
「旦那様、ただいま戻りました」  
「これはこれは、どこのお嬢様だ?」  
飾り立てられてはいても、主従の一線は越えずに接してくる。  
「外見くらい磨かれないと、旦那様が私をお入れになった意味がありませんでしょう?」  
花嫁学校といわれるフィニッシングスクールに何故か送り込まれたメイドは応じる。  
問答無用で放り込まれているので、主の意図が分からなかった。  
「スクールではどうだった?」  
主はメイドの姿を眺めながら尋ねる。立ち居振る舞いは使用人のそれではなくなっている。  
よく離れていられたものだと思うが、その分後の楽しみが大きいと我慢はしていた。  
「はい、皆様からはとても良くしていただきました」  
「おいで、よく見せてくれ」  
促されて主の前に行き、スクールの教育の賜物である完璧な礼を取って見せた。  
しごく満足そうな主だが、メイドにはその理由が分からなかった。  
気まぐれ、と言えばそれまでだが、家柄と財力が伴っていないと入学が難しいスクールに何故入れたのか。  
そもそも何故そんなスクールにメイド――使用人を入れようと思ったのか。  
 
そんなことを考えていたせいで、反応が遅れた。あっと思った時にはもう、主は立ち上がってメイドを抱きしめていた。  
「私に会えなくて寂しかったか?」  
「旦那様、何故私をスクールに入れたのですか? スクールのお嬢様方は皆様素晴らしい方々で、私を差別はなさいませんでしたが、  
私一人が場違いだったのは間違いありません」  
「皆上流階級の令嬢達だから、知己を得られてよかったな。何故お前を入れたかか。使用人たる者、主の心情や動きを知ってこそと  
思わないか?」  
その言葉にメイドは、自分が女主人付きになるのだろうと予想した。  
旦那様の奥方にお仕えするために、その方のお気に召すように言動を察知して立ち回ることを求められている。  
そのためにメイド風情をスクールに入れるとは、よほど旦那様は奥方になる方を想っていらっしゃるらしい。  
「分かりました。私は奥方様付きになるのですね。ご結婚が決まったのですか? おめでとうございます」  
ずきずきとする胸の痛みを押し隠して、メイドは笑みを浮かべる。  
どんな時でもあまり感情をむき出しにしてはならない、スクールでの教えが皮肉にも役立ちそうだ。  
旦那様が迎えるからには名家の令嬢に違いない。どんな方なのだろう。きっと美しくて教養もある方に違いない。  
「ああ、そうだな。とても私好みの人だ」  
のらりくらりと結婚を先延ばしにしていた主がやっとその気になったのだ。喜ばしいことだ。  
なれば、この状況は何なのだろう。  
「では、旦那様。手を離してはいただけないでしょうか。ご結婚が決まった御身としては不謹慎です」  
主の手は離れず、むしろ腰から下に移って不埒な動きをしている。  
片手はメイドの服のボタンをゆっくりと外している。  
「旦那様、おやめください」  
「ん? 動くと服が破れる。これの価値は知っているだろう?」  
そう言われると抗えなくなる。スクール用にと作られた服は、一着でメイドの給料など飛んでしまうような額だった。  
それをいいことに主は前をくつろげ、手を差し入れる。  
「だんな、さまっ、いけません」  
「そうだな、まだいけないな。もう少し色々やればいけるだろう。嬉しいぞ積極的で」  
「違います!」  
 
「奥方様をお迎えになるのに、私などとこんなことをなさるのが駄目だと申し上げているんです」  
「スクールに入れた成果を見たいだけだ。肌や髪、爪の手入れはいいな。触ると気持ちがいいぞ」  
「あっ、や……ん、だめ、です」  
するりと項をなでられ、ぞくぞくしたものを感じてメイドは息を乱した。主は目を細めている。  
「そうか、この触り方では駄目か。これならどうだ?」  
首筋をねっとりと舐められて、かくりとメイドの膝が折れた。背に回した手でそれを支え主はメイドの唇を貪った。  
「……んぁ、あ、ふ」  
合間に挟まる声に煽られながら主はメイドの服を脱がせていく。するり、と下に落ちたところでメイドが我に返って主の胸を押した。  
それをものともせずに、主はソファにメイドを押し倒した。  
腹部で重なりあう服、胸と白い太腿をあらわにして、メイドはなおも主の下から抜け出ようとするが、座面と背もたれの間に押し付けられて  
身動きがどれない。耳元に主の顔が寄せられる。  
「スクールでは夫婦生活についての講義はあったのか? 何と言われた?」  
主の言葉に耳まで真っ赤にして、メイドは顔を背ける。耳に吐息を落として耳朶を舌先でなぞると、メイドは観念したように小さな声で  
主の問いに答えた。  
「旦那様になる方にお任せするようにと……」  
「私はお前の旦那様だから、全面的に委ねてもらおうか」  
「意味が、違いま、んんっ」  
こり、と耳朶を噛まれてメイドの抗議が途切れた。  
 
主に押さえ込まれていいように弄ばれているのに、メイドは乱れた姿をさらしているのが悲しかった。  
「お、くがた様を迎えるの、に、こんな……」  
「こんな、何?」  
胸を揉みほぎされて先端の尖りを舌で舐めしゃぶられながら、メイドは言葉を紡ぐが、一旦先端から離れた主の口が再びそれを咥えると、  
先鋭的なものが身内を走って、それ以上は続けられなくなる。  
主の肩を押す手の力も弱く、主のなすがままになってしまう。  
「ふ、ぁあ、あん、んくぅっ」  
下着の上から主の指で秘所がなぞられて、思わず声を上げて腰が動いていた。  
主は形を確かめるようになおも指を動かし、蕾を布越しに引っかく。メイドは吐息をもらして、まるで待っていたかのように足に力を入れた。  
「布越しでも透けて見える、素直でいい」  
横から指を入れながら、主は満足げだ。片手でベルトのバックルを外し、ジッパーに手をかける。  
「や、だめ、です。どうか、おやめください」  
眉を寄せて哀願するメイドを熱に浮かされたように見つめて、主は下着をずりさげた。  
「指は駄目か。では……」  
足の付け根に顔を沈ませて、ひくついて膨らんだ蕾に、秘所に舌を這わせて舐め、中を尖らせた舌で抉る。  
もうメイドはすすり泣いて恥ずかしい仕打ちに耐え、それでも反応を見せていた。秘所のざらつく上壁を曲げた指でこすって  
主はメイドを乱れさせた。蕾を強く吸い上げると体をわななかせてメイドの背中がそらされた。  
「あっああっ、だんなさまぁあっ」  
びくびくと体を波打たせた後でメイドはぐったりと力を抜いた。  
 
 
「前に愛していると言ってあったな。それに私はお前の旦那様だ。――また、私のものになりなさい」  
メイドの足を抱えて主は秘所に己を突きたてた。  
「ひぅっ、は、あっ」  
一気に奥まで貫いたせいかメイドの顔が歪んだ。苦しそうなのはそれまでで、動き始めると喘ぎが聞こえ始めた。  
熱くてきつい中は蕩けるような快感を生んでくれる。腰を振りながら主はメイドの腰を押さえて、奥へと突き上げる。  
二人の体重と振動でソファがきしむ。だんだんと主の腰の打ち付けようが大きくなり、メイドもそのたびに声を上げた。  
限界を感じ奥を突いて、主は背中を震わせてメイドの中に放つ。  
ひときわ高く啼いたメイドの声を快いものと聞きながら。  
 
つながったままで、主はメイドの顔に張り付いた髪の毛を指でどかす。メイドは息をどうにか落ち着かせて、低く呟いた。  
「旦那様、どうしてですか。使用人を弄んで、満足ですか?」  
主はメイドに仕方のない子だと言わんばかりの眼差しを注いだ。  
「メイドがスクールに入れるか? お前は名家の養女になっているんだ。家柄も財力もあるな。  
そして私が『旦那様』で、お前が『奥方様』だ。言っただろう、私好みの人を迎えると」  
だから、これは夫婦の営みだ、と囁かれてメイドは混乱しつつも信じられない喜びがわくのを感じた。  
「――だから、相性を確かめないとな」  
不穏な言葉とともに、メイドの中の質量が増す。  
「え、あの、だ、んな様」  
主はにっこりとメイドに笑った。  
「さあ、『旦那様』に任せなさい」  
絶句するメイド――未来の奥方の足を抱え直した。  
 
 
 
終  
 
 

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