急に心臓の鼓動が強くなった。
「あれ?」
体がどんどん熱くなってきて汗が滴り落ちる。体中が軋む様な痛みが走る。何か自分の中に自分ではない何かが生まれてきている感覚だ。
「何なのよ?」
月から目を離そうとしても体が動かない。わたしは食い入るように月を見つめている。
「あああ!」
口から涎が垂れている。そして体中に何か力が漲ってくる。思わず雄叫びのような声を上げて下着を引き裂いてしまう。
わたしの姿は、全身から茶色い獣の毛が勢いよく生えだしている異常な姿にしか見えなかった。
体からむわっとした獣の臭いが部屋中に立ちこめる。急に足のバランスが悪くなり床に引っ繰り返ってしまった。足が短くなって今の体型では支えきれなくなってしまった様だ。
全身に力が漲っていて、それを発散させないと爆発しそうな感覚である。口の中に血の味が広がっている。犬歯が牙になって他の歯も鋭くなっているみたい。手足の爪も伸びているようで、形も微妙に変化して肉球みたいなのも出来た。
全身は既に獣毛ですっかり覆い尽くされた。普通の大きさの乳房も徐々に引っ込んで獣の乳房が三対盛り上がってくる。
「ああ…あぉっ…うおっ…」
もはや人の言葉を喋る事も限界になってしまった。女性らしい体型が筋肉質ながっしりした姿に変わっていき、骨格や骨盤も変形していった。遂に尻尾まで生えてきてしまった。茶色の長くて太い尻尾が左右に揺れている。
頭部も変形が始まってひ弱だった顎が前に伸びて強靭な顎が発達すると鼻も黒く湿り出す。目は黄色に光って耳は三角形になって頭頂部に移動する。
「うおおおお!」
わたしが雄叫びをあげた頃には、何時しか変身が完了していたようだ。本当なら窓を突き破って外の世界に飛び出して行きたいのだが、なんとか自我を失うことなく体の中の勢いを抑えることが出来るようになった。