「ふふ……まさか君の方からこんな申し出があるとは思ってなかったよ」  
 
 青年が、顔を伏せて跪く少女を、壊れ物を触る時のように丁寧に撫でる。  
 若い肌には薄く白粉が塗られ、瑞々しい張りと滑らかさを持つそれを指で堪能する。  
 うなじを、唇を、頬を、鼻筋を、そして、立派な簪(かんざし)で押さえられた、少し伸びた髪の毛を梳こうした瞬間――  
 少女の細い腕が素早く動き、青年の手首を強く掴む。  
 
「先に、お返事が欲しいです」  
 
 甘く、媚びるような声が部屋に響く。  
 少女が顔を上げ、掴んだ手を自分の頬へ誘い、うっとりした表情で自らそれに擦り付ける。  
 幼気で、可愛らしい少女が繰り返す、商売女の様な振る舞いという外見との差に、青年の口角が思わず上がる。  
 加えて、ずっと欲しかった玩具が、今目の前で掌の上にある様な感覚。青年の喜びは計り知れなかった。  
 
「……何の、返事だったかな?」  
 
 とぼける青年、しかし少女は今までの様に声を荒げることなく、柔らかい笑みで対応し、鮮やかな紅の塗られた唇を開く。  
 
「お側に置いてくれませんか? シド……様」  
 
 シドと呼ばれた青年の体が、歓喜にうち震える。  
 
「もちろん、喜んで……アイ」  
 
 二人は笑った。それぞれ、別の思いを抱きながら。  
 
∞  
 
 季節は初秋、収穫期を迎えるこの時期、青の国では一年間の評定と、更に今後の方針を議論するために、命を受けて各地に飛んでいた官人達が都へ舞い戻る。  
 それは、国境沿いで敵国を牽制しつつ、好き放題していた将軍、シド=サーディスも例外なく、自宅で無聊を託っていた。  
 評定の為に戻っているとは言っても、高い地位にいるものの、まだ若いシドに強い発言権があるわけではない。  
 その為、青年にとってこの時期は、まさしく退屈な時間であった。  
――さっさと前線に戻してくれればいいのに。  
 腰の剣を抜いて眺める。そこにはひどく精気の抜けた様な顔をした自分が映っていた。  
 ため息を一つついた後、二、三度振ってから鞘に納める。  
やることも無く、横になろうとしたその時、不意に陰から声をかけられる。  
 
「シド様」  
 
 声の主は家で雇っている小姓のもの。  
 上体を起こすことすらなく、青年は不機嫌そうな声を出す。  
 
「……何」  
「お客様がいらしております」  
 
――またか。  
 もう一度ため息をつく。  
 全ての官吏が自宅にいるこの時期には、様々な者がやってくる。  
 それは、知り合いだったり、腕を売り込みにくる者だったり、儲け話を持ってくる者だったり。  
 前者はともかくとして、後者二つに関しては、対応が面倒な上に、法の上でそれなりに話を聞く義務があった。  
 風貌からあまり乱暴そうに見えないシドには特に数が多く、騙そうと考える者もいるために、青年が不機嫌になるのも仕方無いだろう。  
 
「今後は何? 自称熊殺し? それとも怪しい髭の錬金術師とやら?」  
「いえ、女性です」  
 
 青年が跳ね起きる。  
 
「『女性』?」  
「ええ、大変可愛らしい……」  
 
 その刹那、シドが小姓を押し退けてゆっくりと玄関へ向かう――  
 そして、踊り出す胸を軽い衝撃が突いた。  
 
「うっ」  
「おっと!」  
 
 互いの動きが止まる。  
 突如漂う優しい香りと、服越しに感じる細さと柔らかさが、青年の心に刺さる。  
 
「……お、お久しぶり、ですね」  
 
 短い静寂の後、慌てた様な、聞き覚えのある声が青年の下の方から届く。  
――何だ、随分としおらしくなっちゃって。  
 シドがなだらかな曲線を描く女性の腰に手を添える。  
 すると、青年より頭一つ分程小さなその少女は小さく息を漏らし、シドの胸に体重をかける。  
 
「ねぇ、厨(くりや)に言ってきてよ。今夜は宴だってね」  
「あ、はい」  
 
 陰から覗いていた小姓に命令し、邪魔者が居なくなったところで、二人は体を離す  
――あぁ、やっぱり。  
 立派な服(和服的なものをご想像ください)を着込み、控え目とはいえ化粧もしており、どこからどう見ても上流階級の人間。  
 それでも、シドは見間違わない。恋い焦がれる存在を見間違えるなどあってはならない。  
笑みを深めた青年が、彼女の名前を呼ぶ。  
 
「よくここがわかったね、アイ」  
 
 シドは、もう一度少女を強く抱き締めた。  
 
 
 そうして話は冒頭へ続く。  
 
∞  
 
 宴会を終え、酔いの回った青年に肩を貸しながら少女が廊下を歩く。  
 
「あーあ、久々にこんな飲んじゃったよ」  
「……大丈夫ですか?」  
 
 今までの敵意をむき出しにした彼女からは考えられない程優しい言葉に、いつもの張りつめた仮面の笑みとは違い、青年の頬がだらしなく緩む。  
 そんな様子を平然とした様で眺めつつ、アイは天使の様な笑みを零す。  
 二人は本当の夫婦のようで、過去に大きな確執があったことなどは微塵も感じさせない。  
 やがて、シドの寝室に到着すると、アイは肩の荷物をゆっくりと寝台の上に下ろす。  
 一息ついた後、少女は背を向けてその場を去ろうとして――  
 
「待った」  
「っと!?」  
 
 帯を掴まれ、急遽立ち止まる。  
 当然掴んでいるのはシド。ぼんやりとした燭台の火に照らされた、満面の笑みを浮かべながら。  
 それに対してひきつったような笑いを見せながら、アイは尋ねる。  
 
「な、なんでしょう?」  
「なんでしょうって……ねえ」  
 
くくく、と乾いた笑い声が響く。  
――「なんでしょう」だって? 気取っちゃって、わかっているくせに。  
 
「しようよ」  
 
 僅かに一言。それで十分という表情だった。  
 アイは視線を明後日の方角へ向けてとぼけるが、青年の誘いをそんなのでかわせるわけがない。  
 逆に、泣くふりをして、震える声で嘆願する。  
 
「思い合う二人が久しぶりに会ったていうのに、営みもせずに別れるなんて……悲しいなぁ」  
「……ってねーよ」  
 
 小さく、重い呟きが少女の口から漏れ出た。  
 はたして、それは青年の耳に届いたのだろうか。  
 一瞬沈んだ表情が再び笑顔に変わり、少女は言端に恥じらいを含めて言う。  
 
「い、一回だけですよ? 大分お疲れのようですし……」  
「もちろん。ほら、おいで。早く」  
「ひゃっ!? んむ……ふ、ぅ……」  
 
 少女の口から許可が出た途端、シドは袖を強く引き、近付いたアイに無理矢理口を寄せる。  
 唐突すぎたからか、青年の肩口を押して体を離そうとする少女もいとわず、青年は口内をなぶる。  
 閉じた唇を割いて舌をねじ込み、歯並びをなぞり、唾液を啜り、反対に送り込み――満足するまで一通り蹂躙した後、ようやくシドが口を離し、大きく息を吐く。  
 
「はーっ……たまんないなぁ、もー」  
「……い野郎が」  
「ん?」  
「あ、い、いえ! 何でもありません!」  
 
 漏れ出た言葉を隠すためか、あわてた様子で事無しを主張する少女に、シドは意味深な笑みをアイに向ける。  
それは、慌てる少女を微笑ましく思う笑みのようで、喜劇を一歩離れて見るときの笑いのようで―  
 
「アイ」  
 
 青年が少女に呼び掛けた。  
 
「君の言うとおり、僕は疲れてるみたいでね。体を動かすのも億劫なんだ」  
「ッじゃあ――」  
「だから」  
 
 今までとは異なる、内側から弾けるような少女の笑顔を、青年が言葉で抑える。  
 
「君がしてくれないかな?」  
 
 数秒の静寂、それは少女が意味を理解するのに要した時間。  
 
「はぁ!? じゃない、えと、え、ええぇ」  
「簡単だよ。今まで僕がしてあげたみたいにすればいいんだから」  
 
 今日一番の取り乱した様子を見せるアイを、シドは優しく諭す。  
 
「あ、あ、そんなの」  
「してくれるよね? だって君が言ったんだよ。お疲れのようです、って」  
「そんなつもりで言ったわけじゃ――ッ!」  
「嬉しかったなぁ。だって君が僕の事を心配してくれるなんて今までになかった事だからね」  
 
 アイが言い切る前に追い詰める青年の様子は狩りのようで、少しずつ、少しずつ追い込んでいくその薄く開かれた目はネコ科の猛獣を思わせる。  
 断り難い幸せな雰囲気を醸し出すシドに、少女はたじろぐ。  
 うろたえた少女の背にさっと手をまわし、近くに抱き寄せ、目を合わせてから、青年は言い放つ。  
 
「返事は?」  
 
 煌々と輝く細い眼が生むその重圧に、少女が逆らうことなどできるはずがなかった。  
 
∞  
 
 アイの力無い肯定の後、二人は体勢を変えた。  
 少女が仰向けになったシドの胸のあたりに跨り、青年の顔に背を向ける形。  
 アイのぼんやりとした視線の先には屹立した男根があり、少女が小さく唾を呑んだ。  
 
「早くしてよ」  
「はっ、はいっ!」  
 
――どうしてこんなことになったんだろう。  
 心の中で自分に問うたその問いに答えは出ず、急かされるがままに頭を落とし、腰を上げ、四つん這いになる。  
 むせ返りそうな男の匂いに、冷や汗が流れるも、こんな状況でやめるなど青年が許さないのが分かるほどには、アイはシドをよく知っていた。  
――我慢……大丈夫……何度もされたこと、大丈夫……。  
 唾液に光る、赤い、小さな舌が伸び、目の前の醜悪なものの僅か前で止まる。  
 
「まだー?」  
 
 後ろからは青年の呑気な声。シドの見えない位置で、アイの拳が強く握られる。  
 目をつぶり、震える舌を前に突き出す――  
 シドが別の体温を感じる。柔らかく、濡れた、何かから。  
 青年が口角を上げたのを、少女の位置から見る事はできなかった。  
 
「ん……ふぅ……」  
 
 一度舌を付けた為に開き直ったのか、少し大胆に咥えこむ。  
 子供だけが持つ少し高い熱が与える心地よさと、生意気だった少女が従順になるその様子に、シドの興奮は高まり、次第に抑えられなくなるのは自明の理。  
 うすら笑いを浮かべながら、青年がすぐそばで忙しなく動く尻に手が伸ばす。  
 
「っはぁッ!」  
「ほら、続けなよ」  
 
 視界外からの刺激に、アイが顔を上げて悶える。  
 肩越しに恨めしげな視線を送られていることなど気にもせず、服の裾をまくり上げ、薄い尻肉の感触を楽しむシド。  
 
「駄目だなぁ、君くらいの年ならもっと食べて、健康的にいかなきゃ」  
「いっ、いじッる、の、やめろぉっ……!」  
「ん?」  
「あっ、ちがっ、あの……や、やめて、くぅ、だ、さいぃっ」  
 
 シドの下腹にしがみつき、交配をねだる犬のように尻を高く上げながら叫ぶ少女の声など、もっとしてくれと言っているようにしか聞こえないだろう。  
 事実、シドに止める気はなく、むしろ激しく指を動かし、少しずつ秘所を掠める。  
 
「言っとくけど、僕が出すまで舐めさせるからね」  
「!? 無、理、だよぅ……ひゃッ!」  
「ねぇ……陽が出るまでやったっていいんだよ」  
 
 半ば本気のその声に、少女はゆっくりと上体を起こして未だ力強いそれに舌を這わす。  
 同時に、シドが本格的に秘所を弄りだす。  
 アイは悲鳴を上げそうになるも、シドのものを奥まで咥えこんでいるために声が出ない。  
 指が陰部に入れられる度に体を震わせるも、感じてばかりでは終りがない為に、目に涙を浮かべながら顔を動かす。  
――よくもまぁ我慢するじゃないか。  
 与えられる快感に耐え、一心不乱に舐め続ける少女の姿に、シドが笑う。  
 
「そんなに僕の事が嫌い?」  
「ふ、うぅ、ぺろ……はっ、はぁ……むぐっ」  
「……聞いちゃいないか」  
 
 シドがつい漏らしてしまった一言は、幸い――いや、不幸にもアイの耳には届かなかった。  
 そして、アイの必死の口撃がついに実を結ぶ。  
 
「んッ……出すよ、アイ」  
 
 口に頬張ったそれが一瞬膨れ上がり、次の瞬間それが震えるとともに、白く濁った体液が中へ放出される。  
 二、三度と続いた強い波を終え、口を離したアイは身を起こし、出されたモノを脇に吐き出す。  
 
「けほっ! かっ……は、かはっ」  
 
 身を襲った快感に耐える為に体をよじらせたことに、シドがはだけさせたのも相まって、アイの服は既に乱れており、青年に向けられた背中は殆どが露出している。  
 その病的なまでに白い肌には珠のような汗が浮かび、さらには喉に絡まった精液を吐き出そうと必死に咳き込む震えが背部にもまわり微かに震える。  
 暗がりに浮かぶその姿は、儚さと妖艶さを掛け持ち、たとえどんな性癖の持ち主だろうと、逆らうことなどできやしない誘惑。  
 
「ふぅ……」  
 
 大体を吐き終え、疲れ切ったアイが、口の端から垂れる子胤も拭わずに仰向けに横たわる。  
 呼吸を荒げ、シドの目も気にせず、酸素を取りこむことにこだわるが――  
 少しは気に払うべきだったのかもしれない。  
 事実、この場で青年が向ける視線は慈しみなどではない。  
 どこを見るともしれない深い黒の瞳。  
薄紅色に色づいた頬。  
呼吸と共に上下する、薄い胸。  
 衣服がずれ、地肌に巻かれた帯の隙間からのぞくへそ。  
 微かな陰毛が愛液によって肌に貼りつき、蝋燭の火に反射する秘所。  
 シドの口元が、凶暴な弧を描いた。  
 すっかり力の抜けた脚を持ち上げ、開かせる。アイに抵抗する力は欠片も残っていない。  
 熱をもった秘所に自身をあてがい、一気に腰を突きだす。  
 
「ッ!」  
 
 少女が短く声を漏らす。ただし、それは悲鳴ではない。  
 もう一度、抜ける寸前まで戻り、再び突き上げる。  
 
「ひぁあッ!」  
 
――もう間違いない。  
 シドが手を伸ばし、アイの顎をそっと支え、尋ねる。  
 
「気持ち良いの?」  
 
 返事はない。その代わり、首を、小さく――縦に振った。  
――はっきり気持ち良いって意思を示したのも初めてだな。  
 もともと、前回薬を飲ませた時、気持ち良いという感覚は染みついていた。  
 それが今、はっきりと認めたのだ。変わらない表情の奥で、青年は感動していた。  
――『もうそろそろ』落ちるかな。  
 横になっていた少女の体を抱き起こし、頬に口づけをする。  
 
「……本当に可愛いね、君は」  
 
 
 それから先、言葉は無かった。  
 青年は動物のように腰を振り、少女は最奥を突き上げられるたびに嬌声を上げる。  
 いつしかアイもシドの体を抱きしめ、シドはその締め付けに応える。  
 そして、青年の堰が切れた。  
 
「ッく……!」  
「んんんんぅッ! ふぁ、く……」  
 
 二度目にも関わらずアイの中に大量に精を放った後、シドが倒れこむ。  
 少女が慌ててその体を揺すった。  
 
「お、おい……」  
「……すぴー」  
「は、はあぁ……?」  
 
 返事の代わりに青年の口から漏れ出るのは静かな呼吸。  
 抱きつかれたまま、少女がため息をつく。  
 
「なんだよ、それ……」  
 
――何か、もっと……。  
 そんな考えがアイの頭の片隅をよぎり、すぐに掻き消す。  
 そして、自分よりはるかに小さい娘のお腹を抱いて寝息をたてる男の頬をつつく。  
 
「……本当に寝てる?」  
 
 答は無い。胸は規則正しく上下し、鼓動は穏やか。どこからどう見ても――  
 
 その瞬間、少女の顔つきが変わる。今までの優しい顔つきではなく、どこか険のある、皮肉交じりの笑顔。  
 
「お似合いの死に方だな……ばーか」  
 
 アイの鼓動が速くなる。  
気取られない様、ゆっくり、ゆっくり頭の上に手を伸ばし――  
ふと、動きを止める。  
それは、あるべきものがなかったから。  
――そ、そんな……。  
 慌てて抱きつかれたまま付近に目を光らすも、見当たらない。  
 そもそも、燭台の火だけでは寝台の端まですら見えないのだ。  
 仕方がなく、少女が届く範囲に手を伸ばしたところで、指先に触れる硬い物。  
 
「あっ!」  
 
 と、叫び、すぐさま口を塞ぐ。  
 懐の青年は、静かに寝息を立てている。  
――よかった。あって。  
 震える手で『それ』をゆっくり引き寄せる。  
 それは――簪。出会った時、触られそうになったあの。  
 強く鳴り響く心臓の鼓動に震える手で、ゆっくりと本体の、二股になった部分を掴み、引っ張った。  
 表れたのは、本物の針。  
 長く、鈍く光るそれは立派に人を殺傷せしめる。  
 
「ふ、ふふふ、ふふふふふ……」  
「何が面白いの?」  
 
――それは勿論、ようやくあの腐れ外道をこの手で――  
 そこまで言った後、おかしさに気付く。  
 この場には少女と、眠っていた標的一人だけ。  
 アイの背中を寒気が走る。  
 ゆっくり、ゆっくり振り向いた先に、そいつは居た。  
 特別早くもない動きで、アイの持つ針を取り上げて部屋の隅に捨てる。  
 逆らえなかったのは、初めて会った時の笑みを青年が見せていた為。  
 懐かしい、獲物をなぶる獣の目。  
 
「お、お前……寝てたんじゃ……」  
「あれ、敬語は? もったいないなぁ、可愛かったのに」  
 
 後ずさる少女を這いずって追いかける。だが、空間には限界がある。  
やがて壁に行きつき、互いの距離は片方が手を伸ばせば届く位置へ。  
   
「面白い物持ってるんだね」  
「あ、あはは……」  
 
 逃げようにも、既に前方は固められ、後方は壁。  
 乾いた笑いを浮かべる事しかできないアイにシドは言う。  
 
「さ、夜は長いよ?」  
「い……いや……」  
 
 闇夜に悲鳴が、木霊した。  
 
 
 
∞  
 
 
 
文字通り一晩中愛し合ったシドが、窓から入る朝陽に息を漏らす。  
 
「……ふぅ」  
 
――僕もまだ若いな。  
 自嘲の笑みを浮かべながらシドは異臭を放つ寝床を見やる。  
寝台の上には未だ呼吸荒く、白濁にまみれた少女が横たわっている。  
 あと少しで朝廷の時間。シドが朝服を急いで身にまとう。  
 
「おい……」  
「ん?」  
 
 体勢を変えず、さらに鳴き続けた為に半分枯れた声が、丁度剣を佩いた青年を呼びとめる。  
 自分のした事に対して全く心を動かすことなく、呑気な声が返ってきた事に、アイが唇を噛んだ。  
 
「いつから……いつから、気付いてたんだよ」  
「何だ、そんな事?」  
 
 壁に掛けた冠を取り、ついた埃を落として浅くかぶる  
最後に剣を佩き、全ての準備を終えてから、青年が振り返る。  
 
「最初っから、ね。そうそう、召使いに言って好きなだけ金を貰っていってくれ。残念ながら、時間が無いんだ。」  
 
怨みを込めて睨みつける少女の顔を柔らかに撫でる。  
 
「続きがしたかったら、僕が帰るまでここにいるといい」  
 
 心底楽しそうな声、別れのあいさつも無くシドが姿を消す。  
 
「……畜生」  
 
――遊ばれた。  
 その五文字がアイの頭の中で踊っていた。  
 
 
 対して、宮城へ行く道すがら、シドは昨夜の行為に思いを寄せていた。  
――ふふ、七日は頑張れそうだ。  
 その考え通り、睡眠不足にもかかわらず足取りは軽く、顔色は良かった。  
 
「気付いてるかな、アイ」  
 
 誰に言うともなく、青年が一人ごつ。  
 
「体を重ねよう、って言った時、君はこう言ったんだよ  
 一回だけなら……ってね」  
 
 それはもしかしたら、シドの隙を突く為の苦渋の決断だったかもしれない。  
 しかし、その一方で、シドを見るだけで拒否していた時とは違う何かが、アイの中に生まれたという事。  
 一時とはいえ、体を許してもいいと思うほどに。  
 
 

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