森の中に入り、まず先にキルストリーク報酬を使うことにする。気付かないうちに、ゲ  
ームでいうとろの8キル相当までため込んでいた。リスポンがない分、たまりやすいのか  
もしれない。私は事前に選択していた“ブラックバード”を呼びだす。  
 手持ちのレーダーに敵の位置を教えてくれる効果。3キル時のスパイプレーンより高性  
能で、作中なら“迎撃不可”の設定である。実際に上空に飛んでいる姿は見受けられない  
ので、大方例の機械の発信信号でも拾っているのだろう。  
 とりあえず、少し離れたところに2人いるのを発見する。交戦中だろうか、銃声も時折  
聞こえてくる。小刻みに動き合ってるのもレーダーでわかるが、そのエリアは広くはない。  
 申し訳ないが、早期に天国に招待することにする。たまっていたキルストリークのうち、  
6キル相当の“迫撃砲チーム”を選択。範囲指定にはこの2人のエリアに2発と、丘の頂上付近を選んでおく。こちらも実際には飛んでくるものはないのだが、私のレーダーにはく  
っきりと弾道が表示され、そして。  
『あああああああああっ!』  
 遠くから、絶叫のユニゾン。フラックジャケットを装備していなければ、即死相当の攻  
撃を4発食らったことになる。  
 AKを構え、レーダーに注意しながら私は駈け出した。足を動かすたびに、そして10秒お  
きに脳がしびれそうになるが、気合いで堪える。交戦ポイントについたときには、1人は  
仰向けに、もう一人はうつ伏せになって、10mもない距離でともに倒れていた。  
 
 脱落のアナウンスはまだない。  
「別に、恨みはつらみはないんだが……」  
 戦闘不能状態であることは、日の目を見るより明らかだが、このままでは彼女たちは脱  
落とみなされない。ちょっと前の反省を踏まえ、やや遠目からAKの銃弾を数発ずつ撃ち込んでいく。  
 バンッ、バンッ、バンッ。  
「いひいっっ!?」  
 ブシャァッ。  
『NO.2 dead』  
 バンッ、バンッ、バンッ。  
「ああううぅぅぅっ!」  
 シュワッ……。  
『No.17 dead』  
 それぞれだらしなく弛緩し、股間から潮やら小水やらをまき散らして沈んでいった。ビ  
クビク痙攣しているのを気にせず、装備品をあさる。片方は幸いなことにAKを選択してい  
たで、所持限界まで弾丸を補充。それからマカロフをもう1丁とフラッシュバン1つ、ノヴァガス1つ、C41つを手にする。さらに。  
「RPG、か……持ち運ぶのは大変だけども」  
 この火力は魅力的だった。敵に渡るのも癪なので、こそっと木の根もとに隠す。  
 ここまで約1分半。すでにブラックバードの効果時間は切れていて、レーダーには何も  
映っていない。あの女も含めて、6名はいずこにいるのか。  
「やってやる……」」  
 私は、歩みを止めない。  
 
 
→※←※→※← 
 
 
「なんなのよ、あの人……」  
 茂みの中から、戦慄の光景を目の当たりにしてわたしは息をひそめ、“災厄”が去るの  
を待っていた。冗談じゃない。あんな無慈悲に天国に連れていかれるなんて、死んでもご  
めんだった。  
 これで3回目の参加となるわたしだが、あそこまで一等“狂っている”と言えるのは、毎回参加しては1位をかっさらい、主催者側の刺客ともいわれる長身長髪の女以外にはな  
かなかいない。前回前々回と、かろうじて3位入賞で賞金を獲得してきたわたしの戦法は、  
どこかのプロレスラーよろしく「ズルして騙して盗み取れ」であり、隠れ回って背後から、  
もしくは交戦中の人たちをまとめて倒す、というものだった。というかほとんどの女性が  
そうであり、誰しもが見えない銃弾におびえ、痴態を晒すことに恥ずかしさを感じるはず  
なのだ。ああやってまっすぐ突っ込んでいくことなんて想像もしないし、したくもない。  
 快楽ジャンキーなのか、戦闘ジャンキーなのか。どちらであってもろくなものじゃない。ないないづくしで反吐が出る。  
「ふうっ……」  
 下腹部は、熱を持ち出していた。前回前々回は、45分経過した時点で残り3名、つまり  
は賞金を確保できたので、わたしはあっさりとリタイアしたのだ。といっても、勝手なリ  
タイアは許されないこのゲーム、今動き始めてる機械が液体を規定量感知するまで脱落を  
認めてくれないのだが、人様によがり悶える様を見せたくはないので、こっそりと水をす  
くって服の中に流し込み、後はフラグの即死範囲外でちょっぴり機械を作動させて演技す  
れば脱落できたのだ。45分の時点で例の機械の刺激は、まるで銃撃を受けたようにきつく  
なっていたのだ。あんな状態でイカずに堪えるなんて出来そうもなかった。  
 だが、今回はそれも厳しそうだ。35分を過ぎたというのに、まだアナウンスはわたし以  
外に6人の“生存者”がいることを示している。賞金までに、あと4人。さすがにお金をも  
らえずに帰るのはばかばかしい。  
「んっ……なんで、こんななのに、平気なのよ……」  
 茂みの中、駆け上ってくる刺激にこらえるわたし。同じ刺激を受けているはずなのに、  
茂みの向こうでは装備品をあさっている姿がある。鈍感なのか、この程度じゃ満足できい  
なのか。もし後者なら相当にキている。  
 10秒おきに規則正しく刻まれる快楽信号。男の欲望を受け入れるそれと似ているようで、  
少し違う。生々しい感覚は一切なく、純粋なる快楽のパルスが、とくっ、とくっと注ぎこ  
まれてくる。今はまだ弱いが、5分刻みで強くなっていくのだ。  
 
「はぁ、あっ……」  
 じわっと、股間が濡れ始めるのがわかる。今回も含め、今まで一度も不意な快感……つ  
まりは攻撃を受けたことはない。まだ暴力的とは程遠いこの機械がひとたび牙をむけばど  
うなるのかは、装備をとられ地面に伏したままの二人の股間が雄弁に物語っている。  
 じっとしないと、こらえられない。だが、じっとしててはお金は手に入らない――  
 このゲームは、都合のよい収入源なのだ。過去2回、それぞれ100万ずつ。痴態を見せな  
ければ、アイドル崩れが出ているイメージビデオの類よりも健全で、高収入を得られる。  
あんなビデオに出て稼ぐよりよっぽどいいのに、今回はその希望が、薄い。  
 世の中は金なのだ。少しでも稼いで、親が抱えた借金を返さないと、うちの家は離散し  
てしまう。だから、イメージビデオに出演して、年の割には大きな額を稼いできたという  
のに。  
『あのねー、もうお前はイメージビデオじゃ設けられないから、AV出ろよAV』  
 所属していた事務所社長からの非情な宣告。だがわたしは知っていた。別に売れ行きが  
悪くなっていたのではなく、社長のお得意先から、たんにわたしが男の物を加えこんでよ  
がる様を撮影したいという要望があっただけなのだ。事務所を逃げ出したわたしが得られ  
る高収入の職といえば、身体を売る仕事くらいしかなかった。  
 そんな中で気晴らしにやっていたFPSを通じての“ゲーム”への招待。渡りに船とはこ  
のことだ。過去2回で200万。今まで稼いできた分を合わせればあとたった100万、つまりは3位入賞1回で、わたしが、家族が救われるのだ。  
「くうっ、お金を、稼がない、と……」  
 すでに茂みの向こうにあの女はいない。ジャマーを抱えていたわたしはレーダーに映ら  
なかったのだろう。ジャマーのスイッチを切り、まだピクピク痙攣している二人に近づく。  
めぼしい装備はあらかた取られていたが、一個だけ、隠してたものがあったので、それを  
手にする。ロケットランチャー。重くておいていったのだろうか。だが、これがわたしの  
切り札になる――  
「これで、後4人……」  
 疼きはやまない。それでもわたしは、あの女を追うように歩き始めた。深い理由はない  
が、あの女の後なら、少なくとも攻撃されない、そしてもしかしたら“おこぼれ”を頂戴  
できるかもしれないからだった。  
 
 
→※←※→※←  
 
 
 尾行されている、ということに気付いたのは、歩みを再開して割とすぐのことだった。  
なんてことはない。自分以外の足音が、自分の歩みとほぼ同じペースで聞こえれば誰だっ  
てわかる。距離はおよそ100m。振り返って撃ちぬくにはやや距離がある。  
 さて、どうしようか。40分を迎えたところで、あの機械の作動は一段と強いものに変っ  
ていた。サブマシンガンでのかすり傷レベルは超えており、おそらくアサルトライフルで  
腕を撃ち抜かれたくらいだろうか。どくっ、どくっ、と心臓は大きく動き、股間から液体  
が零れていくのを感じる。こんな状態で派手な戦闘は難しい。  
 撒くか、それとも。  
 一呼吸をおいて、とっさに前方に走りだし。そして一つ二つと曲がるフェイントを入れ  
たあと物陰に隠れる。遅れて派手な足音を立てて、まだ高校生くらいの派手な茶髪の女の  
子が私の前を通過する。  
「しまった、撒かれた……!?」  
 少し先であたりを見回すその姿は、完全に素人のソレだ。ゆっくりと茂みから抜け、AK  
を向ける。だが、私もあの感覚に気を取られて油断していたのだろう。彼女は振り返り、  
今まさに自身を撃ちぬかんとする私を視認する。  
 先手必勝、と引き金を引こうとする私に、彼女の叫びが届く。  
「待って! わたしはあなたを撃たない!」  
 両手をあげ、投稿姿勢。それどころか、彼女が手にしていたサブマシンガンも地面に投  
げ捨てた。  
「……どういうことだ?」  
「簡単よ、わたしと共同戦線を組まない?」  
 共同戦線。いささか聞きなれない言葉。  
「……どういうことだ?」  
「わたしと一緒に戦わないかってことよ。わたし、ただ100万が欲しいだけなの。こんな  
ところで負けてられない……!」  
 その瞳には強い力がともっていた。10秒おきにきっちりと私たちを刺激するソレは、彼  
女にも確実に刺激を与えていて、すでに股間の部分は用をなしてないようだった。  
 
「そんな条件、飲めると思うか?」  
「飲めると思うわよ。ほら」  
 くるりとこちらに背を向ける。そこには、隠してきたはずのRPGがくくりつけられてい  
た。  
「あなた1人じゃ持てる量に限りがあるでしょ? わたし、撃つのとかは全然ダメだけど、  
これくらいならできるわよ?」  
「なるほど」  
 しばし黙考する。今ここで彼女を脱落させるのは簡単だった。だが、常にRPGが手元に  
ある、というのは確かに魅力的だった。  
「……すぐに撃ちぬくかもしれないぞ?」  
「あなたはそんなことしないわ。さっきの戦いの様子を見てたけども、あなたは狂ってる  
けども、目的のために狂ってるようにしかみえないもの」  
「そんな評価か」  
「ええ、でも魅力的でしょ?」  
「……わかった。勝手についてこい。私に銃口を向けた刹那、天国に連れていく」  
「ありがたいボディーガードね」  
「ついでに、昇りつめそうなときは、もれなく“背中を押してやる”」  
「ありがたすぎて涙が出そうね」  
 
 奇妙な共同戦線だった。だが、あの女を倒すには、RPGが必要となりそうなこともあっ  
て、私は動く弾薬庫を使うことを選択した。  
「あまり足音を立てるな」  
「無茶、言わないで。重いのよ、これ。それに、あなたとちが、ってわたしは普通、の女の子。さっきから、膝、震えてうまく、歩けないの」  
「……私だって一緒だ」  
 気を抜けば、持って行かれそうな刺激は止んでくれやしない。甘い痺れは徐々に力強さ  
を増し、私から運動能力、思考能力を奪っていく。  
「そうは、みえないけど。もしかして、慣れてる?」  
「そんなわけ、あるはずないだろ……交際経験もない」  
「ふうん、モテそうな、顔立ちとス、タイルなのに」  
「私は、変わってるからな……」  
 それっきり会話は止まる。そもそも会話していること自体が滑稽なのだ。無駄な音はこ  
ちらに敵をおびき出す餌でしかない。しかし、足音はもう気にする余裕もない。足をあげ  
ることが難しくなり、摺り足のような歩き方になってしまう。  
 早く敵を見つけて、倒さないと。  
 願いはかなうのか、前方に発砲音。そして。  
「ひいっ!!?」  
 後ろから喘ぎ声が聞こえる。距離と音から察するに、大したダメージではないはずだが、  
彼女は立ちどまり、膝が笑っていた。  
「伏せろ!」  
「無茶、言わないで、わたし、正面切ってはまだ一度も戦ったことないもの……」  
「くっ……」  
 抱きかかえて、どうにか木陰に隠れる。彼女の息は荒く、頬は赤く、そして股間の染みが濃さを増していく。  
「耐えろ、でないと3位にすらなれない」  
「わかってる、わよ……!」  
 刹那、彼女は自分で自分の頬を強くつねる。赤く跡が残るくらいに、強く。  
「はあっ、はあっ、これでちょっとは、耐えられる……」  
「……よくやった。ここで待ってろ」  
 幹に持たれかけさせ、私はすっかり手になじんできたカラシニコフを構える。  
「大丈夫、すぐ終わらせてくる」  
「そうだと、嬉しいわ」  
 
 飛び出して、銃声方向にあいさつ代わりに連射。遠くに見えた姿が一瞬立ち止まるのが  
見える。  
「当たった……つうっ!」  
 だが、別の方向から銃声が三発。一発が腕を掠め、また刺激が駆け上ってくる。だが、  
立ち止まったらハチの巣になるのは明らかだった。  
「ツーマンセルかっ!?」  
 銃声と銃声の間を縫うように駆けていく。左右を見ると、先ほど見た女と反対側にもう  
1人いるのがわかる。その内右の方から、ピっとピンを抜く音が聞こえ、直後目の前にフラグが投げ込まれる。私はとっさに拾い、左へと投げ捨てる。  
 破裂音。そして。  
「あああっ!」  
「ひぎいぃぃぃぃぃぃぃっ!」  
 自分と、そして左から来てた相手が効果範囲だった。私は即死範囲を免れていたので、  
軽い衝撃で済んだ(でも累積がやばく、声は漏らしてしまった)が、左から走ってきた人  
物には直撃コースであっただろう。  
『No.12 dead』  
 脱落のアナウンス。だがどうなっているかを確認する余裕はまだない。  
「もらったっ!」  
「っ……!」  
 トマホークの投擲を、すんでのところでかわす。アレにあたると即死効果だ。この状態  
でたまったらひとたまりもない。  
「まだよっ!」  
 続いて飛びかかってくる人影。手にはナイフ。  
「くっ!?」  
 なんとかかわし、振り向きざまに2発、カラシニコフをお見舞いする。  
「あああっ!」  
 だがどうやら足に当たったようで、絶頂までは持っていけない。振り向かれて撃たれた  
のを避けきれない。  
「いいっっっっ!?」  
 身体が崩れそうになるほどの、快感。見たくもないが、私のそこは今赤く色づき、ひく  
ついているに違いない。ぽたぽたと股間から垂れる液体。キル判定を受ける一歩手前なの  
は明らかだが、動きようがない。  
「こ、これで、終わり……」  
 ナイフをもち、近寄ってくる相手。どうすることもできず、ただひたすら、快楽を感じ  
ぬよう歯を食いしばった私だったが、攻撃の瞬間が訪れることはなかった。  
 
「終わりなのは、あなたよ」  
「んっっっあふうぅぅぅぅっ!!!」  
『No.13 dead』  
 ブシャアッっと、ナイフを持った相手は股間から潮をまき散らし、果てた。その背後には、先ほどまで喘ぎ苦しんでいた“動く弾薬庫”の姿があった。  
「大丈夫、か……?」  
「大丈夫なわけ、ない、じゃない……それに、どう見ても、あなたの方が、つらそう」  
 けなげに力強く振舞っているが、膝の笑い具合は相変わらずで、息も荒く、今そのミリ  
タリーパンツを脱がせれば淫美に濡れた肢体を見ることができたであろう。  
「助かっ、た……」  
 そのまま私は仰向けに倒れる。なおも例の機械が作動するが、“即死効果”に比べれば  
幾分ましであろう。10秒ごとに身体が反応してしまうのは致し方ない。  
「やっ、ちゃった……」  
 彼女もその場にへたり込む。そういえばさっき、正面切っての戦いは未経験だと言って  
いたはずだ。  
「今まで、どうやって勝ち残ってきたんだ……」  
「あなたみたいな状態のを、さくっと」  
「なら私もやるか?」  
「いいわ、あなたがいないと私、勝ち残れそうにない、もの。少なくとも、あと1人、なんて、この状態では、無理」  
「なるほど……」  
 とりあえずの窮地を潜り抜けた私たちが再度歩き始めるには、さらに1分ほどの時間を費やすこととなった。  
 私“達”以外にあと3名。ゴールは見えてきたのだが――  
「つうっ!」  
「これ、考え、ひうっ、た人、あく、しゅみ……」  
「同感、だ、くっ」  
 45分を過ぎ、例の機械の作動間隔は、10秒から5秒へと切り替わっていたのだ。  
 
 

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