私は今、町の目抜き通りを歩いている。そう、ただ歩いているだけだ。
それなのに私の顔は朱に染まり、頬は熱く火照っている。ひょっとしたら目も潤んでいるかもしれない。
そしてすれ違う人の視線が不審そうに私を射抜く、ような気がした。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
それでも私は、ともすればその場にへたりこみそうになるのを堪えて背を伸ばし、何気ない様子で歩を進めていく。
しかしジワジワと背筋を這い上がってくる感覚はそんな私の努力を嘲笑い、ここらでいいよと甘い囁きを寄越してくる。
悪魔の誘惑だ。ここで歩を止めたら最後、私は破滅する。
自らに施した仕掛けで愉悦を引き出し、その愉悦に屈して公衆の面前でふしだらな姿を見せる淫らな女。
これまで私が築き上げてきたものを一瞬で打ち砕くそんな光景を想像して、私は身震いした。
「くうっ・・・・・・んんっ」
その身震いがまた新しい感覚を生む。
きゅんと締まった下腹部の肉がそこを埋めているモノを締め付け、
締め付けられたそれは私の中の壁を擦り上げ、天井を緩やかに押し潰そうとするのだ。
誰か、誰かこれを止めて。
そんな私の悲痛な叫びはただ胸の内でこだまするだけで口から漏れることはない。
言葉を発する変わりに私がしたことは舌を噛むこと、しかしそれすら甘噛みも同然だった。
くちゅり
モノが埋めるそこから、にわかに液が溢れ出す感覚が伝わる。
いけない、私は青くなる。本来私のそこを覆うべき布地を、今この瞬間私は身につけていないのだ。
であるならば膝上のスカートの下で息吹くここから漏れ出た潤みは、やがて私の足に流路を描いていくに違いない。
勘付かれてしまう。絶対に勘付かれてしまう。
そんな恐れがまた私の体に戦慄きをもたらし、その動きがさらなる肉の締め付けを呼び込む。
もう止まらない。
肉の悦びがこの身体を打ち震えさせ、それが新たな悦びを生み出すループだ。
ダメだ、このままではダメだ。こんな町中で、こんな大勢の前で私は登頂するわけにはいかない。
傍らの寂れた雑居ビルに駆け込んだ私は、その一番奥にあったトイレに駆け込んだ。
しかし無情なるかなそこにあったのは和式、腰掛けることが出来ない。
だがもう限界だ。私はここで絶頂するしかない。
戸を閉め、せわしなくバッグから取り出したハンカチを口に詰め込み、私は便器をまたぐように立って壁に背を預ける。
そしてスカートを捲り上げると、茂みの中で息づくそれはひくひくと、淫猥に蠢いていた。
ああ、みじめだ。町中で密かな楽しみを貪り、あげく便所でその頂点を迎える。
そんな寂しい遊びでしか今の私は自分を慰めることが出来ない。
だがそれこそが私の望み、だから今はその望みを叶えてあげよう。
割れ目に伸ばした指は、奥深くで私を苛む道具の底部にあるスイッチを探りあてた。
迷うことはなくそれを入れると、淫具は私の中で定められた動きを始める。
「ううぅぅぅぅっっ、おああぁぁぁぁあっっっ!!」
お決まりの安っぽい動きだった。
しかし恨めしいまでに敏感になった私の体は、どんな単調な刺激にも強烈に反応してくれる。
もう私もヤケだった。
右手の指は裂け目の上に居座った木の芽に、左手はシャツの下で慎ましやかに佇む突起を摘みそれぞれを刺激する。
すると私の全身に快感が走り、いよいよその時が目前に迫っていることを告げた。
もはや声も出ない。ハンカチ越しのまどろっこしい呼吸などとうに諦めていた私の、荒い鼻息の音がやけに響く。
そしてついに、指が止まった。止まっても競りあがってくるこの感覚はもうどうしようもない。
突き出した腰が甘く砕け、顎は突き出て息が止まる。
「んんおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」
ぎゅっと閉じた瞼の裏で光が炸裂し、一拍遅れて私は凄絶な呻き声を上げていた。
ついにイッた、イッてしまった。身体中の筋肉という筋肉は弛緩し、腰が砕ける。
もしハンカチをくわえ込んでいなかったら、きっとだらしない笑い声を上げていたに違いない。
やがてずるずると背が壁を滑り落ちていき、みっともなくも私は便所の床に尻を押し付ける。
さらに緩みきった私の足の間から漏れでた黄色の小川が、私から逃げるようにその流れを伸ばしていた。
ああ、またやってしまったな。扉をくぐっていくそれを見ながら思ったのは、ただそれだけだった。