舞台はふもとのキャンプ場へ。  
探しに来た教師のおかげで俺達はなんとか降りる事に成功し、班長達と合流した。  
こっぴどく怒られたりしたが、左から右でなーんにも記憶しちゃいない。  
この登山大会は登山の後ふもとのキャンプ場で野外炊飯をし、その後コテージにて宿泊することになる。  
ちなみに、男子勢の強い要望で、炊飯に関しては二つの班が一緒となる。  
というわけで、俺達二班一同と三班の連合体で炊飯作業の真っ最中である。  
・・・とはいえ、女子連中に完全に任され、男どもでてんてこまいの状況。  
野外炊飯のお約束、カレーを作ろうとしているのだが、まるで戦場のような状態である。  
「春日伍長、状況を報告せよ!」  
我らが班長が軍人ばりに指示をだす。ていうか、絶対ノッてる。なんか適当な階級与えられてるし。  
「はっ!現在、我ら炊飯軍は、カレー軍の文字通り圧倒的な火力に押されております!」  
「ぬぅ・・・仕方ない、射撃手!主砲用意!」  
射撃手と呼ばれた奴が、ボウルに水を汲んでくる。主砲とは、鍋の中に入れる水の事だ。  
「撃ち方始めぃ!続いて第二撃、カレー粉を投入せよ!」  
女子連中に呆れた眼で見られつつ、俺達の闘いは続く。  
すべては美味い飯を食べるために。一部のバカはいい男だと見られたいみたいだが。  
と、次は風下にいたことで火の粉をまともに食らった奴がよろけた。  
「うおおおおおお!メディック、メディーック!」  
班長完全に壊れた。  
俺もいいかげんノれずに、米の様子をみたりする。  
だが、俺の頭の中では、相変わらずあの時の真由子の言葉が響き続けていた。  
 
             「ずっと・・・好きだったよ」  
 
ずっと?前からってことかよ?  
ていうか好きなんて・・・そんな素振りまったくなかったから・・・。  
いや待てよ、ありゃ冗談ってこともあるぞ?  
だがなあ、あいつは冗談とか嘘をいう奴じゃないし・・・だがあの言葉は信じられん・・・。  
いや、なんというか、あいつがそういう事を言うって事が信じられないんだよな。  
そういうタイプじゃねえのは知ってるから、尚更信じられない。  
 
「・・・・・−し?」  
しかしだなあ、俺の妄想とかそういう確率もあながち・・・。  
「・・・もーし?」  
いやね、そりゃ嬉しいですよ?だけどさ、真由子がそういうってのはあまり合わないというか・・・。  
「もしもーし?」  
いやいや、それはそうですよ?そーなんだけd「もしもーし!!」  
脳内会議の真っ最中に、耳元に大声を出されて現実に引き戻される。  
ていうか、鼓膜がキンキンいって死にかけてるんだけど。  
「誰だ、俺の耳元で大声を出したうつけ者は!」  
耳を押さえて怒りの形相で振り返ってみると。  
「え・・・あ、ごめん・・・うるさかった?」  
らしくなく口に手を当てながら謝る・・・真由子。  
怒鳴ろうと思って振り返ったのだが、とたんにさっきの事が頭を支配して顔が赤くなってしまう。  
「あ、いや・・・悪い」  
しどろもどろになりながらなんとか適当に言葉を返し、米の方へ視線を戻す。  
こうでもしていないと、なんだか変な事になりそうなので、俺は作業に集中しようとしたのだが。  
「あのさ・・・あ、アタシがやるよ」  
「は?」  
こいつが料理というのは信じられない。だって、家庭的なタイプに見えないし。  
だが、真由子は既にやる気満々のようだ。三角巾にエプロンを装着し、今か今かと指示を待つ。  
「あー、まあ、それじゃ・・・班長に聞いてくれ」  
「うん、分かった」  
俺は真由子の方を向かずに答えた。  
向いたらまた緊張して顔が赤くなりそうだったからだ。  
そんな俺とは対照的に、真由子はいつも通りに話し、そして動いている。やってる事はらしくないけど。  
どうやらカレー担当になったらしく、燃え盛る炎の上の鍋と格闘している。  
真由子が参加して働き始めると、見ているだけだった女子連中も入ってくるようになった。  
それぞれの方で指示をして動き、協力して炊飯作業を続ける。  
騒がしくも楽しい時間が、過ぎていった。  
 
「司令!敵、陥落!我が軍の勝利です!」  
「うむ、それでは試食だ!」  
いつまで続けとるんだこいつらは・・・。  
とはいえ、ついに完成した。大成功だ。  
途中から女子も協力してくれたおかげで、美味そうなカレーが完成。俺が担当した米も中々の出来であ 
る。  
それぞれの皿によそっていき、全員で両手を合わせて「頂きます!」ととりあえずやっておく。  
と同時に、飢えた男子共は恐ろしい勢いで食らう。食らう。食らう。  
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ」  
感極まったという風に言葉をため、そして全員裏で合わせたかのようなタイミングで一言。  
「「「「美味いッ!!」」」」  
こいつらバカ同士でシンクロニシティでもしてるんだろうか。  
といいつつ俺もカレーを口に運び、味わうようにして噛み、飲み込む。  
確かに、レストランなんかにも引けをとらなそうなくらい美味い。  
材料もそれぞれ程よい大きさに切り分けられていて、何よりカレー自体が絶妙な味わいなのである。  
「カレー担当って誰だっけか?班長だっけ?」  
「いいや、たしか・・・白羽じゃなかったか?」  
班長がそう言いながら真由子の方へ視線を向けた。つられて俺もそっちを見る。  
「え?ホントに?意外〜」  
女子の一人が言うと、真由子が軽く顔を赤くしながら  
「あ、アタシが料理するのって・・・そんなに変かな・・・」  
と言った。そこで、既に皿の上のカレーを平らげた男衆が眼を輝かせる。  
「いや〜、変じゃねーけど意外だよ。ていうか、美味い!白羽すげーんだなー」  
それを初めに、女子からも賞賛の声が上がり始めた。  
たちまち真由子の料理の腕を褒める声で一杯になり、当の真由子は嬉しそうな表情で話している。  
「な、十郎もそう思わねー?」  
突然話を振られ一瞬困ったが、とりあえず適当答えておくことに。  
「え?ああ・・・うん、美味いよな」  
我ながら上手く捌いたな、と内心思いつつ、真由子の方をチラッと見てみた。  
「・・・・・・」  
向こうもこっちを見つめていた。互いの視線が合ってしまい、慌てて眼を逸らす。  
 
 
そして舞台は宿泊するコテージへ。  
当然男子班と女子班で分断され、それぞれの部屋に入る。  
ここでも俺と班長は一緒だったわけで、俺以外の連中はウノやらトランプやらにうつつを抜かしていた。  
俺はさっさと寝ようと布団に潜りこみ、消灯時間を待つ。  
・・・だが教師連中は知らない。俺達のこの姿が仮の物である事を。  
大半がカードゲームをやり、一部の人間が寝ようと布団に潜る。  
このような一見「普通」の風景が、より教師の目を欺くのに適しているのだ。  
そして予想通り、見回りの教師が部屋のドアを開け入ってきた。  
「お前ら、さっさと寝ろよ」  
「へーい」  
遊んでいた奴等が散らかったテーブルの上を片づけていると、俺達が寝ているか見に来た教師がぼそり 
と呟く。  
「バレないようにな・・・」  
さりげなく頷く。  
この教師は俺らの担任なんだが、中々物分かりがいい。  
俺達が何をするのか察しており、そのために協力してくれる頼れる味方だ。  
「それじゃ、こいつらの管理頼んだぞ」  
「了解です、先生」  
何気なく班長と話しながら、さらにさりげなく先生が何かを班長に手渡した。  
それに気づいていない振りをしつつ、班長が「ほれ、寝るぞ」と全員を布団に潜りこませる。  
先生が、去り際に背中を向けながら、親指を立てた。「御武運を」という意味合いでだ。  
そしてドアが閉められ消灯されると、班長がさっそくその何かを広げ出す。  
例にもよって持っていた懐中電灯。そして、布団に潜っていた全員が班長の周りに集まった。  
そしてその何か―――何枚かの紙だ―――を広げてみていた班長がガッツポーズを取る。  
「ナイス先生!」  
小声でそう言い、集まった者達もそれを覗き込んでみた。当然俺も。  
その紙の内容はこのコテージの見取り図(見回りのコースも書き込まれている)と、俺達の目当ての  
方々からのメッセージが書かれた紙。  
「裏の河原にて PM11:00〜」  
大声で叫びたくなる気持ちを押さえつつ、そばにいる者同士で喜びを分かち合う。こいつらアホか?  
俺は、なんとなく行ってみるだけ・・・もしかしたら、あいつがいるかもしれないという期待もあるけ 
ど。  
 
「・・・諸君」  
勝負私服になった班長。その前に集まる男達も私服へと変じている。  
「これより我々が入る場所は死地だ。だが、一騎当千の諸君なら、必ず成功させられると信じている」  
珍しく真面目な面持ちの班長。そして男達。  
「覚悟はいいな?ない者は残りたまえ」  
誰も離れない。そりゃそうだ。  
「・・・よし。それでは、我々はこれより死地へと赴く」  
班長が俺達に背を向け、そして振り返る。  
その口元には、まるで戦争映画の鬼軍曹がたまに見せるような笑みが浮かんでいる。  
「征くぞ、諸君」  
音を立てないように走り出す班長。その後に続く男・・・否、漢達。  
はたから見ると相当アレな図だが、まるで本当に死地へ向かう戦士のような表情である。  
そして先程の見取り図を見ながら、見回りの教師とニアミスしないように進む。  
向かうはコテージの裏にある河原。  
的確にハンドサインで班長が指示を出し、それぞれが指示の通りに動く。  
アイコンタクトで意見を交わし、一瞬も止まる事なく進む。  
気分はまさに、S.W.A.Tか何かの特殊部隊である。これも業なのだろうか。  
と、ようやく河原へ向かえる裏口に辿り着いたという時に、問題が発生した。  
紙には書かれていなかった何者かが、裏口の前に立っているのである。  
一部から「殺してしまおう」などと物騒な声も上がったが、さすがにそれは出来ない。  
こいつらだとやりかねないのだが、なんとか俺が止めた。・・・俺がなんとかするという条件付きで。  
「頼んだぞ、我らの活路を開いてくれ」  
仕方なく、その立っている奴の背後に忍び込もうとしていたところ・・・。  
「そう警戒するな、俺だ」  
この声は・・・先生だ!  
「おまえらがどんちゃん騒ぎやってる間、他の先生がこないように見張っといてやろうと思ってな」  
事情を察して出て来た男達と班長は、涙を流しながら先生と握手を交わしている。こいつらアホか。  
「勇気ある戦士に・・・敬礼ッ!」  
ビシィッッ  
班長の声を合図に、男達が敬礼をする。なぜか、俺も付き合わされた。

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