夜長の秋には不似合いな、汗ばむほどの熱気に満ちた部屋がある。
明るい月明かりに青白く照らされたベッドの上で、
半裸の少女が、細い指で自らの股間をまさぐり、甘い快感に酔っていた。
白いシーツを引き伸ばすように、ぴんと突っ張った美しい素足。
湯気が立ち上らんばかりに、小さな汗をうっすらと浮かべた白い肌。
緊張で乾いた唇を湿らせるように、ねっとりと舌を這わせる、あどけない口元。
熱のこもった、湿った吐息を漏らしながら、恍惚の表情を浮かべているのは、
二度にわたって淫魔との性交に溺れてしまった、あの少女だ。
左手で自らの小さな胸を揉みしだきながら、
少女は右手で小陰唇とクリトリスを擦りあげ、自慰がもたらす快楽を追い求めた。
性欲から一時たりとも逃れられない、
獣のような自分に耐えがたい屈辱を感じながら。
その少し前。
少女は小首を傾けて、精一杯清楚な笑顔を作り、神父様におやすみの挨拶をした。
いつも通りの挨拶をしたつもりだったが、
意識しすぎてかえって力んでしまい、仕草がぎこちない。
笑顔の下の張り詰めた表情を悟られまいと、少女は急くように踵を返した。
身に付けたネグリジェが風をはらみ、裾がふわりと舞い上がる。
ふくらはぎから踵にかけてのなだらかな曲線があらわになり、
少女特有の甘酸っぱい香りが、わずかに漂う。
いくら清純な振る舞いをしても、その素肌の下に疼く、
性への渇望は隠しようもなかった。
少女は、はやる心を抑えながら自らの部屋へと足を運ぶ。
突き当たりのドアの前で一度立ち止まり、緊張した表情でごくりと喉を鳴らす。
ドアノブを持つ手は汗ばみ、心臓の鼓動はずっと高鳴って痛いほどだ。
少女は目を見開き、震える息を吐きながらドアを開け、
見慣れた部屋に足を踏み入れた。
落ち着け、落ち着けと自らに念じ続けながら、後ろ手にドアを閉じたその瞬間。
少女の緊張が一気に解け、それまで抑え込もうとしてきた性欲が、
身体中に猛然と湧き出してきた。
細い身体をドアに預け、少女は熱にうなされるように、
苦悩に満ちた目で天井を見つめる。
性に翻弄され続ける身体に戸惑いを隠せない様子で、
幼さを残す頬がたちまち情欲の色に染められる。
胸元のなだらかな双丘が小さく上下し、その頂に発情した乳首の形がぷっくりと浮かぶ。
少女の性器がじくじくと疼きだした。おそらく、ぐっしょりと濡れている。
全身が熱を帯びて火照り、美しい肌から汗が浮かぶ。
少女は押し寄せる性感に眉を寄せて耐えながら、困惑と恥辱にまみれた表情で、ほうっと息を吐く。
薄く開いた薄桃色の唇から、万に一つも淫らな声が漏れぬように、
右手の人差し指をそっと噛む。
ひとりの物寂しさから自らを抱きすくめたくなって、
左腕を曲げ、乳房を這うようにして右肩へと伸ばす。
だがそれと同時に、今度は少女の股間の花びらが愛撫をねだりだす。
蜜を絡め、肉を擦って性の喜びを与えて欲しいと少女にぐずる。
少女の唯一の性の相手である森の淫魔なら、幾本もの触手で裸身を優しく束縛し、
少女の唇を触手で愛撫しながらクリトリスを吸ってくれるのに。
幼い乳房を揉みながら乳首にまきついて刺激を与え、
膣に触手を挿入して子宮口に密着し、少女を性の充足感で満たしてくれるのに。
それは少女の2本の腕と指では、決して得ることの出来ない快感だった。
少女は性欲の繚乱にいてもたってもいられなくなり、
小走りにベッドに駆け寄ると、倒れこむようにしてシーツの上に飛び乗った。
うつ伏せのままもどかしげに靴を脱いで、白い素足をあらわにする。
シーツに体を預けると、淫魔による熱く優しい愛撫が途端に思い出された。
昼間、少女に密着した触手が、皮膚の隅々までを丁寧にさすってくれた、
あの感触が恋しくてたまらない。
少しでもあの肉体感を得るために、少女は枕に顔をこすりつけるようにしてうずめ、
上半身を白いシーツに密着させて身体をくねらせる。
枕に残る太陽の匂いが少女の鼻をくすぐり、温かさが頬に伝わる。
そのあまりの心地よさに、少女は恍惚の表情を浮べてしまう。
生地と肌との摩擦が生み出す淡い快感に酔いしれながら、
少女はいそいそと膝を立て、薄山吹のネグリジェの裾を両手で持ち、腰までたくし上げた。
突き出した腰の上で、少女の白いパンティが剥き出しになる。
ひんやりとした空気が、まだ丸みの足りない少女の尻に伝わっていく。
だがそんなことはお構い無しに、
少女は取り憑かれたようにパンティの両脇から中指と薬指をくぐらせ、
一気にパンティをずり下ろした。
桃のような美しい尻が丸出しになる。
少女の尻の割れ目は薄く開いていた。
濡れ光る花びらもめしべも、菊花の紋のように可愛くすぼまった少女の肛門まで、
月の光に青白く浮き上がる。
生殖器が外気に触れた刺激を感じ、少女は興奮の鼻息を漏らす。
そのまま切羽詰ったように、右脚を折り曲げてパンティを抜き取ると、
左足を伸ばすようにして腰を落とし、ベッドに寝そべる。
もぞもぞと腰をシーツに擦り付けながら、少女は右手を口元に寄せて、
その中指と薬指を夢中で舐め上げ、唾液でぬらす。
そうして、折り曲げた右脚の付け根で淫らに咲く少女の花びらとめしべに、
濡れた指を這わせていった。
物言わぬ月が見下ろす中、少女は神にも打ち明けられぬ淫らな行為に溺れていく。
たった2度の性行為で、淫魔に剥き出しにされてしまった少女の性欲は、
もうとどまるところを知らない。
2本の指で膣口の周りを撫で、快感を与えながら染み出した蜜を指先にまぶす。
粘膜にぴたりと密着させ、小陰唇の内側を優しく擦る。
溢れる快感に少女は枕に顔をうずめ、更に全身をシーツに密着させる。
淫魔の触手による愛撫が脳内を駆け巡り、少女は中指の腹をそっと伸ばし、
クリトリスに押し当てる。
少女の妄想の中で、触手の粘膜がむっちりとクリトリス全体に密着し、
皮を剥きながら吸い上げるように擦る。
その刹那、再び密着し、クリトリスを優しく圧迫して責めて立てる。
あの淫らな口づけを思い出して、
少女は声を押し殺しながら腰をがくがくと震わせ、軽く絶頂に達した。
少女はもはや自慰の虜であった。何度も何度も、絶頂に達した。
くっくっと小さな声と鼻息を漏らしては、ベッドに身体を摺り寄せ、
妄想の中で淫魔に愛撫をねだる。
膣の中で触手が射精し終える度に、
少女は温かみのある淫魔本体の触感にうっとりと身を預け、
抱きかかえられるような感覚に甘えた。
少女の性欲が快復すると、恥じらいながらも淫魔に性器を差し出して、
尻を振って淫魔に自身の発情を知らせる。
それを合図に待ちわびていた次の触手がうねり、
少女の膣口の周囲を愛撫して濡らし、肌と粘膜を密着させながら挿入する。
濡れそぼった少女の膣がしっかりと触手と絡み合い、抽送にあわせて少女も腰を振る。
快楽をむさぼりながら、膣をきゅっきゅと締め付けて射精を促す。
果てることのない、淫魔との情交。
甘えても甘えてもしっかりと受け止めてくれる、
経験したことのない安心感を思い出す。
淫魔への恋しさで胸がいっぱいになり、切なくてたまらない。
少女の頬を、一筋の涙が流れた。
全身がふるふると震え、シーツをぎゅっと握り、身体を小さく丸める。
一度流れた涙は止め処なく溢れ出し、声を押し殺して激しく嗚咽した。
それは、恋する少女が、二度と会えなくなった恋人を思って流す涙に似ていた。
少女は、淫魔にぶたれて、追い返されるように帰ってきたのだ。
その日、少女は陽が傾きかけるまで淫魔と性交に没頭した。
淫魔の最後の射精を受け止めた後、少女は全ての触手に順に唇でちゅっと触れ、
後戯の余韻に浸った。
触手もまた、惜しむように、少女の膣口に密着し、粘着音を立てながら淫らな口づけをした。
我慢が出来ないのか、たまに浅い挿入をする触手もいたが、少女は体内に優しく受け入れ、
触手の先をきゅっと膣口で締め付ける。
肛門に触れようとする悪質な愛撫は手で拒絶した。
だが、少女はむず痒いような快感を密かに、だが確かに感じている。
次の性交時に肛門性交を求められて、拒めるかどうか分からない。
情欲に溺れてしまう自分を何度も恥じたが、
淫魔が相手なら、自分はどんな淫らな要求に応じられる事を伝えたくて、
その思いが少女を更なる淫行へと誘った。
少女は淫魔の本体に向かって両手を広げて抱き寄せてもらうと、粘膜にそっと口づけした。
恥らいながら唇で優しく吸って、舌で舐め上げた。
細い両腕で淫魔を抱きかかえて頬ずりし、小ぶりな乳房をきゅっと押し付けた。
身も心も全て委ねきり、もはや恋する乙女のような仕草で、情交の終わりを惜しんだ。
事態が急変したのは、この後だ。
用意していた服に着替えた別れ際、少女は迷いながらも、人間の言葉で淫魔にお願いをした。
――自分が「あなた」の相手をするから、他の娘達を襲わないで欲しい、と。
頬を真っ赤に染め、後ろに回した両手をもじもじと動かしながら、俯きがちに少女は言った。
建前は自己犠牲だが、本音はただの独占欲だ。
婉曲的な表現が生んだ、珍妙な恋の告白だった。
もちろん毎日は無理でも、少女は可能な限り淫魔に会いに来るつもりだった。
時間の許す限り淫魔と交わって、獣欲を満たしてあげるつもりだった。
そしてその願いは叶うのではないかと、内心密かに期待もしていた。
ひゅんっ!
風切音が鳴って、目の前が一瞬くらんだ。
それが淫魔の返事であることに気づくまで、少女は数秒の時間を要した。
少女の右頬が赤く腫れ、身体が左によろめいている。
右手でそっと触れて、頬全体がひりひりとした痛みに覆われていることを確認する。
淫魔が触手をしならせて、少女の右頬をぶったらしい。
甘い妄想に包まれた彼女の心は一気に冷え、状況を理解できないという表情で淫魔を見つめる。
淫魔は、冷たく少女を見下ろしている。
そこから何をしたのか、少女はよく覚えていない。
いろいろと叫んだような気もするし、お願いだからと淫魔の本体に抱きついた気もする。
だが、その度に跳ね除けられ、頬をもう一度ぶたれ、少女は悲しみのあまり泣き出したのだった。
もし淫魔が本気で少女をぶったら、首ごと跳ね飛ばされていたはずだが、
そんな淫魔の配慮を感じる余裕は、少女にはなかった。
とにかく、少女は手に何も持たずに、一人すごすごと村まで帰った。
結った髪はほつれ、頬は赤く腫れた上に涙の跡が幾筋も残り、足を引きずるように俯いて歩く。
その異様な姿は目立たない訳がなく、何人もの村人に心配そうに声を掛けられた。
何事もなかったかのように振舞う算段だったのだが、もうそんな企み事を遂行する気分にはなれなかった。
やっと正気に戻ったのは、神父様の家に帰ってからだ。
育ての親の神父様には、絶対に心配はかけられない。
少女はつとめて明るく、いつも通りの自分を装った。
いや、この異常な精神状況を15の少女が隠し通せる道理などありはしないのだが、
神父様の優しい問いかけに、少女は花売りで学んだ最高の笑顔で、何でもないと押し通した。
その営業的な笑顔が却って神父様を心配させたが、
まっすぐ清純に育ってきた少女を信じて、
神父様はそれ以上、何も問わなかった。
それで済めば、単なる少女の淡い恋物語で終わったことであろう。
少女はいつの日かきっと明るい笑顔を取り戻し、
村の少年と、人間としての恋に落ちて、幸せに結ばれる未来が待っていたに違いない。
しかし悲しいかな、性の快楽が恋心に先んじてしまったこの少女の場合、
そうは事が運ばなかった。
食の進まない夕餉を何とか胃に流し込んで落ち着いたあたりから、
少女は腰の辺りがむずむずと疼きだすのを感じた。
若い肉体の性の回復力と、普通の性行為では決して得られない濃厚な快楽の記憶が、
早くも少女の心と身体を蝕み始めたのだ。
淫魔にぶたれた悲しみもそっちのけに、少女は激しく狼狽した。
明日の仕入れの花の種類を考えたりして気を紛らわそうにも、
情欲が雑音のように割り込んできて、一向に集中できない。
繕い物をすれば針で指を刺し、片付け物をすれば皿を落とす。
挙句の果てに意味もなく犬のペロと遊んでみたが、もちろん何の解決にもならない。
そうして混乱した頭のまま、自室にこもって夢中になって自慰行為を続けた。
舌で濡らした親指と人差し指で乳首をそっとつまみ、
僅かにねじって乳首を吸われた時の感触を思い出す。
そうっと中指と薬指を膣に差し入れて動かし、
触手で満たされた時の性の充実感を呼び覚ます。
無心になって自分の指を舐め、
淫魔への恋慕と、触手の粘膜から分泌される蜜の味を想像して、唾液を飲み込む。
でも、いくら自分自身を慰めても、淫魔に教えられた性の知識を振り絞って、
これまでの自慰では得られなかった肉体的快楽を感じても、今度は心が満たされない。
そしておぞましいことに、それでもなお自慰が止められない。
狂おしいばかりの肉欲に抗うことも出来ず、
夜毎少女はクリトリスを擦りあげ、情欲に溺れる日々を送った。
(了)