薄桃色の小さな唇をきゅっと結び、少女は緊張した面持ちで小岩に腰掛けていた。  
陽の光のあたる森の小道から少しそれた草むらの隅で、少女はずっと、下を向いたまま動かない。  
小さな手を膝の上に揃えて乗せ、何かに耐えるように、か細い腕をぴんと伸ばして突っ張っている。  
 
自分はいったい何をしているのだろう?  
 
そう自問しようとしたが、神経が高ぶっているのか、  
雑念がどっと頭の中に流れ込んできて、思いが上手くまとまらない。  
無方向に渦巻く意識に嘲笑われるように、少女の可憐な心はなすすべもなく翻弄されていた。  
 
 
空気が冷たい。  
ふわりと風が揺れるだけで肌に寒さを感じ、見開いていた瞳をぎゅっと閉じて耐える。  
秋口の気候には不釣合いなほど袖の短い、ピンク色のワンピース姿。  
少女は薄着だった。  
異常、の一歩手前ほどの違和感を漂わせている。  
 
ゆったりとしたサイズのものをわざと選んだにもかかわらず、  
腰から腿へのラインはわずかに煽情的な曲線を描いていて、  
大人に差し掛かった、少女なりの性徴を主張している。  
膝が半分顔を出すほどの裾丈は、神父様が見たら「はしたない」と咎められてしまうにちがいない。  
健康的に伸びた剥き出しの脚、染み一つない美しいくるぶし、きゅっとすぼまった小さな踵。  
そしてその先は裸足だった。  
つま先には力が入って、小さく丸まっている。  
 
いつもは下ろしているブロンドの長髪を、今朝は初めて結ってきた。  
すらりとしたうなじを抜ける風に、心細さを感じずにはいられない。  
憂いを帯びた少女の睫毛が小さく震え、形のよい鼻先はほんの少しだが赤味がさしていた。  
 
そっと飲み込んだはずの唾液が、「んっ」となまめかしい音を立てる。  
びくりと肩が動き、少女の緊張はますます高まってしまう。  
 
 
自分はいったい、何をしているのだろう?  
 
ぐるぐると回る頭の中で、異常な行動を続ける自分に何度となく問いかける。  
だが、その度に焦りに似た感情が心をかき乱す。  
それら追い出すように、ぎゅっと目を瞑ってかぶりを振った。  
 
いつもならば、少女はそろそろ街に到着して、  
小さな噴水のある石畳の広場の隅で、優しい笑顔を湛えて立っている頃だ。  
 
花売りを生業とする少女のバスケットに、しかし、今日は一輪の花も咲いていない。  
中に入っているのは――下着と、着替えの為の服、それに靴だった。  
 
数日前、街へと通じるこの道で少女は淫魔に襲われた。  
泣き叫ぶことも叶わぬまま、誰も見ていない森の奥で、  
幾本もの触手に、大切な処女を奪われた。  
強姦だった――少なくとも最初のうちは。  
 
 
恐怖で身体の動かない少女に、思いもかけぬ淫魔の巧みな性戯が、容赦なく浴びせられた。  
おわん型の膨らみをもった少女の乳房は触手によって執拗に愛撫され、  
小さなピンク色の乳首は唇にも似た感触で優しく吸い上げられた。  
靴を脱ぎ取られた素足に、  
服を絡め取られて剥き出しになった腋に、  
反らした顎の下に覗く、ほっそりとした首筋に。  
まるで少女の身体を知り尽くしているかのように、触手が馴れた動きで全身を撫でさする。  
少女の性感を幾重にも封印していた、理性という名の薄絹が、  
触手によって、一枚ずつ、丁寧に剥ぎ取られていく。  
性の合意を伴ってもいないのに、全身から泉のように湧き出る快感に、少女の頭は激しく混乱した。  
 
 
少女の幼い花びらとめしべに、突起を持った触手が密着して絶え間なく擦り上げる。  
美しい眉をぎゅっと寄せて、押し寄せる快感と闘ってきた少女の最後の理性は、  
腰から熱く湧き上がる感覚にあっけなく白旗をあげた。  
性器に与えられる甘い快感に少女の膣はそっと蜜を出し、小陰唇をうねらせてついに触手を自ら中へと導き入れた。  
初めてのセックス。初めての交尾。  
頬は羞恥と快感で朱に染まり、ふと力の抜けた口元からは熱をもった吐息が漏れる。  
触手は呆れるほど自在に形を変え、まるで処女膜など存在しなかったかのように、少女の子宮口をまっすぐ目指して侵入する。  
挿入から抽送は驚くほどスムーズに進み、触手と絡み合うひだとの摩擦による快感は、少女の身体の隅々を駆け巡った。  
破瓜の痛みよりも先に、初めてのオーガズムが近づいている。  
それが何かも分からぬまま、少女は両脚を広げ、  
つま先まで突っ張らせて、その快感を逃すまいと追い求めてしまう。  
ついには声を詰まらせながら腰を大きく反らし、生まれて初めての絶頂をむさぼるように味わった。  
リズミカルに少女の膣が収縮と弛緩を繰り返し、中で蠢く触手も、たまらず射精する。  
温かな液体がじんわりと体内に広がっていくのが、少女にも分かる。そしてまた、腰がはねて膣が締まった。  
幸福感を確かめ合うように触手を圧迫して、2度、3度と射精を促す。  
1本の触手が果てると、他の触手たちが待ちきれないように少女の膣口に群がった。  
そして、奪い合うように2回目の挿入が始まる。  
 
少女は、抵抗しなかった。  
 
狂おしいほどに甘く続いた交接の後に、淫魔があっさりと自分を解放した理由が、少女には未だに理解できなかった。  
覚えているのは、草むらに寝かされ、ご丁寧に裸体の上に服まで掛けられた状態で、快感による失神から目覚めてからだ。  
数刻の後、よろよろと彼女は起き上がると、着衣もそこそこに、隠れるように村に帰った。  
 
野道で淫魔と性器を交え、初めての絶頂を迎えましたなどと、誰に打ち明けることができようか。  
ふらふらになりながら家に辿り着いた後は、育ての親の神父様への挨拶もそこそこに床に就き、  
秘所でうずく快感の残り火を、少女自ら、秘かに慰めた。  
だが、悲しいかな少女一人では、いくらクリトリスに指を絡めて擦り上げても、熱く溢れ出るあの快感は再現できない。  
そればかりか、迫り来る絶頂の恐怖にすら勝てず、大事な所で自ら指を止めてしまう。  
その切なさともどかしさに狂いそうになり、彼女は夜毎オナニーに耽っては、一人ベッドの中ですすり泣いた。  
 
結局、自分ではない他の誰かに性器を擦られる事でしか、あの快感は得られないのだと彼女は察した。  
自分ではない、他の誰か――。  
 
普段、清楚で大人しい振る舞いを見せていても、少女は少女だ。  
秘かに想いを寄せる少年ぐらいなら存在する。  
だが、いくら好きとはいっても、幼い頃からふざけあってきた同じ村の少年に、  
いきなり淫らな交わりの相手を頼むことなど、内気な少女には死んでも無理な話だった。  
 
だからといって、この疼きが神父様への懺悔で許されたぐらいで消えてなくなる類のものじゃない。  
そんな事ぐらい、私にだって分かる。  
でも、他の男、あまつさえ見ず知らずの男には身体を差し出せない。私は売春婦じゃない――。  
思い余って飼い犬のペロに自らの性器をそっと差し向けてみたが、犬には言葉が通じず、力も弱かった。  
少女自身、とても満足できるものではなかった。  
そればかりか途中で神父様に見つかりそうになって、驚きのあまり失禁しかかった。  
もう二度とこんな危ない橋は渡れない。  
少女はそこまで追い詰められた。  
誰も見ていないところで、誰にも知られないように、どうしてももう一度、あの快感を味わいたい。そのためには…。  
 
同じ相手に、もう一度抱かれること。  
単純な答えが、そこにあった。  
 
あまりに淫らな発想に、最初少女は激しく自己嫌悪したが、  
結局、あの甘い性の喜びに勝つことはできなかった。  
目に涙を溜めつつも、少女は心を乱したまま、周到に準備を重ねた。  
 
そして今、少女は小岩に腰掛けている。  
森に入ってから、ずっと緊張のし通しだ。  
身に付けたワンピースが秋風にはためき、袖口から乳房と、その頂にあるピンクの蕾が見え隠れする。  
下着もつけずに、少女は一人、身を硬くしてその時を待っていた。  
 
ずっ、ずっ、ずっ。  
 
静かな森に、草の上を這いずる音が、少女の耳にかすかに届いてくる。  
まだ2回目なのに、少女は瞬時に、その音が意味するものを理解した。  
人ならざる異形の気配。  
触手をくねらせ、淫魔が近づいているのだ。  
少女が放つ甘酸っぱい匂いを求めて、淫魔が少女に近づいているのだ。  
 
頭の中で必死に思い描いたのに、少女は結局、この先の事は何も考えられなかった。  
人には言えない淫靡な企みごとを山ほど積み重ねたのに、  
いざその欲望が叶うと、思考がぴたりと止まってしまう。  
――あの時と同じように、淫魔に身を委ねよう。  
それが少女の出した、性に対してあまりにも真っ直ぐで、幼い答えであった。  
セックスを理解するには少々早かったはずの少女の花びらは、彼女の両脚の付け根にひっそりと息づき、  
これから始まる淫魔との狂おしい交わりを予感して、今まさに、甘く匂い立っていた。  
 
(了)  
 
 

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