『どうしようもないオレに天から妖精が舞い降りた』  
(後編)  
 
 もしかしたら、彼女には、何らかの予感があったのかもしれない。  
 「今日はあなたに贈り物を届けに来たの。これはあなたを守るためのもの……受け取って」  
 彼女との再会から3年、想いを通わせてからも、そろそろ1年近くが経つかという霜が立ったばかりの冬の初めに、ゲルダはいつもより厳粛な顔つきで、俺にひと振りの短剣をくれたのだ。  
 「おろ、なんだ、藪から棒に? こないだやった指輪のお返しのつもりなら気にするこたぁないぞ。アレ、祭りの露店で買ったモンだからそんなに高くはないし、それに、その……」  
 一瞬言い淀んで視線を宙に彷徨わせる。  
 「こ、恋人にアクセサリーのひとつ買ってやるくらいの甲斐性は、あるつもりだぞ。こう見えても、一応国軍の正規兵だから相応の給料は貰ってるんだし」  
 うひぃ〜、こっ恥ずかしいぜ!  
 「フフッ、う・そ、ね。あれ、本物のアクアマリンなんだから、安月給の兵隊さんには結構したはずよ。でも……ありがと♪」  
 (ぐわぁ、やっぱバレてるか。まぁ、俺としては、その、なんだ。婚約指輪代わりのつもりだったから、それなりにちゃんとしたモノ渡したかったんだよなぁ)  
 もちろん、ただの(ゲルダに言わせると「妖眼-グラムサイト-」とかいう特殊能力があるそうだけど)人間の男である俺と、雪妖精の彼女が正式に結ばれることは難しいだろうが、こういうのは心意気の問題だしな!  
 「でも、今回のコレは、お返しじゃなくてお祝い。昇進おめでとう、小隊長サン♪」  
 ゲルダの言うとおり、つい先日俺は、ウチの部隊──国軍第八戦士団のおける「小隊長」に任命された。  
 人間3000と、亜人や妖精、妖魔、竜など人間以外の団員2000あまりから成るウチの戦士団において、「小隊長」というのは20人程度の小隊を指揮する役割を果たす。  
 普通は、戦場の機微に通じた熟練兵か、国の士官学校を卒業した優秀な毛並みの士官候補生が就く役職で、正直、ベテランと言うには程遠い俺なんかがホイホイ引き受けていい代物じゃあないんだが……。  
 長引く「大戦」の影響か、人材不足は深刻らしい。俺みたいな凡人にまで指揮権が回ってくるくらいだからなぁ。  
 もっとも、「第八戦士団」は元々俺達が傭兵団だったころの人材を中核メンバーに構成された部隊だし、傭兵時代の隊長が士団長を務めているおかげで、それほど規律とか礼儀にうるさくないのが救いだ。  
 
 「とは言え、20歳そこそこの若僧が小隊長って言われてもなぁ」  
 「いいじゃない。ケインは天才じゃないかもしれないけど、任されたことは責任感をもってちゃんとこなす人だし、その点が評価されたんでしょ」  
 恋人の優しいお言葉が身に染みるねぇ。  
 「それはさておき、この短剣、結構な貴重品じゃないのか?」  
 俺の唯一の取り得とも言える「眼」には、半透明の蒼い刀身から立ち上る魔力がハッキリ見てとれる。  
 「大丈夫。それ、私が作ったの。私の「力」で凍気をしっかり固めておいたから、簡単に溶けるようなことはないわよ。そうね、冬が終わるまでは大丈夫だと思うわ」  
 「へぇ……」  
 言われてみれば、確かに刀身は金属でもガラス質でもない、まさに「溶けない氷」とでも言うべきモノで出来てるみたいだ。  
 「まぁ、俺の得物は長槍だし、ちょうどいいや。いざと言う時のセカンドウェポンとして大事に使わせてもらうよ」  
 「ええ、戦場に行く時は、肌身離さず持っていてね。もちろん武器としても使えるけど、どちらかと言うとお守りに近いモノだから。魔法──とくに、氷雪系の魔法は無効化し、火炎系の魔法もある程度弱めてくれるはずよ」  
 「おう、愛しのゲルダだと思って大切にさせてもらうぜ!」  
 「もうっ、ばか♪」  
 
  * * *    
 
 渡された時は、気休めというか精神的な絆のひとつとして受け止めていたんだが……まさか、それから半月もしないウチに、「お守り」のお世話になるとは思わなかった。  
 王都の東の国境付近で、ここ2、3年で最大規模の衝突が起こり、俺達第八戦士団も戦いに参加した。  
 数的劣勢を覆すべく夜陰に乗じて行われた奇襲自体は成功し、敵の本陣に大きなダメージを与えることは出来たんだが……敵もさるもの。土地勘のない俺達は、敵の執拗な追撃を受けて散り散りに自陣に逃げ帰るハメになった。  
 幸いにしてウチの小隊は、先導する俺の目が特殊なこともあって、罠や伏兵を見破りつつ、本陣近くまでは、ほぼ無傷で帰って来れたんだが……。  
 ひとりどうしてもしつこい魔術師がいやがった。  
 かなりの老齢のクセして、その身ごなしにはまったく隙がなく、ちょっとでも気を抜いたら黒焦げにさせられそうな剣呑な気配を放ってやがる。  
 傭兵時代からの俺の後輩で副官的な役割を担ってもらってるローランに隊を託し、俺は単身足止めのために残った。  
 
 ──言っとくけど犠牲になるつもりとかは全然ないぞ?  
 ウチの隊は新人が多くて、対魔法戦ではまだほとんど役に立たん足手まといだから、さっさと退場してもらったまで。ローランなら、それなりに頼りになったんだろうが、撤退を指揮する人間もいるしなぁ。  
 そもそも、「炎は崇高」とか「人も獣も皆燃えれば灰」とか物騒なコト抜かすパイロマニアな爺ぃを、まともに相手する気はサラサラない。  
 森の地形を利用して、敵の攻撃魔法の直撃をかわしつつ翻弄。ゲルダにもらった氷の短剣も大いに役立ってくれた。  
 そして、魔力不足かスタミナ切れか、呪文詠唱が途切れた隙に槍を投げ付ける。とっさに相手は杖で防いだものの、その杖がポッキリ折れたため、一転俺に有利な状況となった。  
 え? 魔術師の杖を壊したらすでに俺の勝ちだろうって?  
 いや、熟練した魔術師は、杖の助けがなくても、威力と精度は大幅に落ちるが魔法のひとつふたつは使えんこともないらしい。  
 隊長からもゲルダからもそう聞いてた俺は、杖を切ってからも油断なく短剣を構えつつ緊張を緩めなかった。  
 警戒する俺の様子に「今は此処まで」と断念したのか、老魔術師は転移魔法(たぶん帰還呪文の札でも持ってたんだろう)で姿を消し、辺りに敵の気配が完全になくなったことを確認して、ようやく俺はひと息つけ……なかった。  
 なぜなら。  
 先程の炎術師-フレイムウィザード-との交戦の結果、辺りが半ば山火事みたいな状況になってたからだ。くそぅ、好き放題に燃やしやがって……。  
 
 おかげで、俺は脱出できる道を探して、炎の中を彷徨うハメになった。  
 炎術師の魔手から俺の身を守ってくれたゲルダの短剣は、ここでも役に立ってくれたが、それでもなんとか森を抜ける頃には、俺は全身のあちこちにヒドい火傷を負うハメになった。  
 (ここまでかぁ、残念無念……)  
 ガクリと膝をつき、最期を覚悟した俺の脳裏に過るのは、戦友でも故郷の村でもなく、見た目はまだ幼いが、それでも俺にとっては愛しい妖精娘の泣き顔だった。  
 「バカッ! そんな簡単にあきらめないでよ!!」  
 ──いや、それは幻影ではなく本物だったらしい。  
 俺の危機を虫の知らせで感じ取ったのか、ゲルダが駆けつけてくれたのだ。  
 一瞬にしてその場に氷でできたテントのようなシェルターが造られ、俺はその中でゲルダの治療を受けることになったんだが……なにせ、火傷がひどい。  
 一応、手元にあった治療薬の類いは持って来てくれたんだが、全身の皮膚の半分近くが焼けただれているこの状況では焼け石に水だ。プリーストかせめてヒーラーのような腕のいい治療魔法の使い手でもいない限り絶望的だろう。  
 とりあえず、ゲルダの冷気魔法で患部に薄い氷の膜を貼って一時的にもたせているらしいが……妖精ならぬ人の身では、そのままだと逆に凍傷で遠からず死に至る。  
 「はは……いくら寿命が違うとは言え、あと2、30年はお前のそばにいられるつもりでいたんだがなぁ」  
 
 「馬鹿な事言わないで! 死なせるものですか!」  
 半泣き顔のゲルダは、目じりの涙を拭うと、キッと何かを決意したような顔になった。  
 「ねぇ、ケイン、私のこと、好き?」  
 何をこんな状況でとは思ったものの、身近に死神の足音が聞こえているせいか俺は素直に答えた。  
 「ああ、もちろん。人間も、そうでない者も含めて、俺の知ってるすべての女の子の中で、ゲルダが一番大好きだ」  
 「そ、そう……ありがと。じゃあ、私とけっこんしても後悔しないかしら?」  
 (は? 結婚!?)  
 熱に浮かされた俺の頭にも、その言葉は流石に十分なインパクトを与えたが、よく考えてみれば、全然問題はない。  
 「それでゲルダと一緒にいられるって言うなら、むしろ望むところだよ」  
 「もぅ……できればそういう嬉しい台詞はもっと違う状況で聞かせて頂戴」  
 はは、ソイツぁ無理だ。この切羽詰まった状況だからこそ、こんな気恥ずかしい言葉も照れなく言えるんだから。  
 「それじゃあ……ケイン、ひとつになりましょう」  
 そう告げると、ゲルダはその華奢な身体にまとった蒼いドレスをサラリと脱ぎ捨てた。  
 ──って、待て待て! 確かに、結婚した男女が身体を重ねるのは至極当然の話だが、モノには順番というものがだなぁ……。  
 「し、仕方ないでしょ。妖精族に伝わるけっこんの儀式には男女の交わりが不可欠なんだから」  
 ゲルダによると、彼女と結婚することで俺にも疑似的に「雪妖精の眷属」という資格が生まれ、「冷凍系魔法で傷つかない」という特性ができるらしい。  
 また、雪妖精にとっては、ただの氷ですら傷ついた身体への治療薬の代わりになるので、その方面の効果も期待できるとのこと。  
 そ、そういうことなら……いただいちゃってもいーのかな?  
 
 薄絹のドレスを脱いだゲルダの裸身はとても綺麗だったが、それでも未成熟な印象は禁じえない。  
 普段の予想(というか妄想?)通りにペッタンコな……けれど、初めて会った頃から比べれば多少のふくらみを見せている胸。  
 そのささやかな変化は、今後に歳月をかければ、三国一の美女として知られるかのルーウェリン女王の如く、豊かな隆起へと成長してくれるのではという期待を抱かせてくれる。  
 「ちょっと! こういう時に他の女性のことを考えるのはマナー違反よ?」  
 おっと、こりゃ失礼。  
 仰向けになったままの俺は、俺にまたがるゲルダの胸にソッと手を伸ばし、やさしく揉みほぐす。  
 
 「んっ……」  
 ゲルダの鼻から、今まで聞いたことのないような喘ぎが漏れる。  
 (ちっちゃくても……女なんだなぁ)  
 頭では分かっていたつもりでいたことを目の前で改めて再確認して、俺はあり得ないくらいに興奮していた。  
 いや、もしかしたら「死」に瀕した身体が本能的に子孫を残そうと奮起しているのかもしれない。  
 「うそ……想像してたのより、ずっとおっきぃ…………」  
 ゲルダが息を飲む。男にとっては嬉しい台詞だが、俺のはせいぜい人並み。まぁ、妖精族とは体格が違うからな。  
 「それとゲルダ……「想像」、してたんだ?」  
 ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて見せると、ゲルダは顔を赤くして目をそむけた。  
 「わ、悪いかしら? 私だって女ですもの。恋人の男性と……その、結ばれることを想像くらいするわよ!」  
 やや逆切れ気味にそう宣言すると、彼女は露わになった自分の股間(どうやら雪妖精は「はいてない」らしい)の蜜壺に手をあてがい、浅く指を差し込む。  
 幸か不幸か、彼女も結構興奮していたらしく、ヌチャヌチャと湿った音が狭いシェルター内に響く。  
 人間ならせいぜい13歳くらいにしか見えない無垢な美少女(しかも自分にとって「最愛」と呼ぶべき女性!)が、自らの上にまたがって自慰をしているという光景に、俺の股間のバスタードソード……は言い過ぎかショートソードは、さらなる膨張を遂げんとする。  
 けれど俺は懸命に自制するよう努めた。間違いなく、その儀式とやらで、俺の逸物はゲルダの未成熟な女性器を貫くことになるのだろう。そうなった時、おそらくは初めてであろう彼女の苦痛を少しでも和らげるためには、あまり大きく堅くし過ぎるのは考えものだ。  
 そんな俺の考えを読みとったのか、ゲルダは潤んだ目で微笑む。  
 「そんなの気にしなくていいのに。でも……ありがとう」  
 彼女は、そのまま一瞬腰を浮かし……俺の陽根の上へと腰を下ろす。  
 ニュルリという感触とともに、俺の亀頭部が柔らかいモノに包まれる感触があった。  
 「はぐっ……」  
 妄想してたのの何倍も気持ちいい感触に、こんな事態なのに頬が緩んでてしまう俺とは対照的に、目の前のゲルダの顔は苦悶の表情を浮かべている。  
 「お、おい、あまり無理するなよ?」  
 「心配して、くれるのね。でも、だいじょう、ぶ」  
 一瞬嬉しそうな表情になったゲルダだったが、自らの体重によって腰が落ち、俺の剛直がグググとその柔襞へと割り入っていくにつれて眉を寄せる。  
 「ひンッ……」  
 半ばゲルダの胎内に呑み込まれたイチモツの先端部が何かに行く手を阻まれているのがわかる。  
 (これって……アレだよなぁ)  
 女性の純潔の証。  
 長寿な妖精とは言え、生きて来た年月は自分とさして変わらず(それでも、2歳程年長ではあるが)、これが初恋だと聞いてはいたから、そうだろうとは思っていたが、いざ自分がそれを突き破るとなると、少なからず躊躇してしまう。  
 「っ……っっ、くっ……つ、つづけて、ケイン……変に長引かせるほうが……つらい、から」  
 
 けれど、目じりに涙を浮かべつつ懇願する愛しい恋人の懇願に男が逆らえるだろうか、いや、逆らえまい!(反語)  
 意を決して俺は、下から腰を突き上げる。  
 その瞬間、ブツッと彼女の膣内の何かを突き破る感触がして、彼女が息を飲んで絶叫を堪えるのがわかった。  
 騎乗位の姿勢の彼女の背に、これまで数回しか見せてもらったことのない、透明な水色の翅翼(はね)が六枚現れる。おそらく、ソレを気にしている余裕もなくなったのだろう。  
 
 世界中で一番愛しくて、大事にしたい相手を、よりによって自らの手で泣かせている。  
 なにものにも代え難く、神聖で純粋な女の子を、自分の欲棒が汚している。  
 
 そんな罪悪感と倒錯した興奮のせいで、いまにもイッてしまいそうだが、俺は懸命に耐えた。恋人が激痛を堪えて自分のために尽くしてくれていると言うのに、ココで醜態を晒すわけにはいかない!  
 
 と気負ってはみたものの、俺もついさっきまで正真正銘の童貞野郎だったのだ。限界が訪れたのもそう遠くはないだろう。  
 「げる、だ………ゲルダ、ゲルダぁ!」  
 彼女の名前を呼びながら、細心の注意を払って腰を動かすことしかできない。そもそも  
 「ひうン! ぐぅ……あぁっ……け、いん」  
 痛みに耐えつつ、それでも多少は慣れたのか、ゲルダの声に心なしか甘い響きが混ざり始めた頃、唐突に限界が訪れた。  
 「ゲルダ……すまん……出るッ」  
 「いい、わ……そのまま……」  
 彼女の言葉を聞くか否かというタイミングで、俺の肉棒が膨張し、そのまま子種を噴出する。  
 「あぁ……あつぅい……」  
 ドクンドクンと彼女の未成熟な胎内に精液を吐き出し続ける俺に、ゲルダが唇を重ねてきた。  
 その瞬間、スウッと意識が遠くなり……不甲斐ないことに俺は昏倒してしまった。  
 
  * * *    
 
 コトが一段落したあとで聞いたところ、俺が「結婚」だと思っていたのは、どうやら「結魂」の間違いだったらしい。  
 結婚も「二世の契り」なんて呼び方をすることもあるが、「結魂」はまさにその上を行く深い繋がり。なにせ、魂と魂の一部を結び付け、離れないようにするのだから。  
 その副作用によって、俺は彼女と文字通り「生命」を共有することとなった。  
 簡単に言うと、俺とゲルダの寿命が平均化されたのだ。800年近く生きるはずだった彼女は、その半分足らずしか生きられなくなってしまった。たとえて言うなら80歳まで生きる長寿の家系の人が「貴方は40歳くらいで死にます」と宣告されたようなモノだ。  
 「本当に良かったのか、ゲルダ?」  
 「いいのよ。私ね、ずっと思ってたの。もし私がニンゲンだったなら、あなたとずっと一緒にいられるのに、って。だから、全然後悔はしてない。  
 ケインこそ、いいの? そんなに長く生きてると、普通の人間として過ごすのは、きっと難しいわよ」  
 確かに、おとぎ話とかでも、不死や不老長寿を手に入れた人間は、発狂したり迫害されたり大概悲惨な末路をたどっている。けれど……。  
 「ああ、お前が共にいてくれるなら、大丈夫だ」  
 俺はひとりじゃない。この可愛らしく、ちょっと我がままでやきもち焼きだけど、誰よりも愛しい「妻」がそばにいてくれるなら、どんな時だって楽しく暮らせるに違いない。  
 「愛してるよ、ゲルダ」  
 「! うれしい……私もよ、ケイン」  
 そうして、俺達は改めて誓いのキスを交わしたのだった。  
 
 ……と、ココで終われば綺麗なハッピーエンドなんだが。  
 
 「ほほぅ、人がわざわざ助けに来てやれば、ちゃっかり女とイチャついてるとは……なかなか隅におけんな、ケイン」  
 「げぇっ、士団長ぉ〜!?」  
 「小隊長ってロリコンだったんだ……」  
 「ち、違う、ちっちゃい子が好きなんじゃない! 好きになった娘がたまたまちっちゃかっただけだ!」  
 「も、もしかして、私、他の人にも見られてるの!? きゃあーーー!」  
 どうやら無事本陣にたどり着いたローランが、救援をよこしてくれた……のはいいとして、何故、アナスン戦士団長御大が来られるのでせう? ていうか、何だよ、このカオス!?  
 
 ともあれ、俺はそのまま本陣に帰還。ゲルダも俺と結婚した影響で普通の人間にも見えるようになってしまった(そして実体化を解く能力を失った)ので、同じく客分として本陣へ。  
 結局その戦いは俺達の国が勝利する形で幕を閉じ、比較的我が国に有利な形で10年間の休戦条約が結ばれることになった。  
 しばらく大きな戦いがないと踏んだ俺は、上層部に転属願いを出して、いまの職にありついた……ってワケだ。  
 辺境警備隊は、3〜4年で転任するから、俺達夫婦が歳食わなくても不審に思われないからな。  
 そういや、そろそろ此処も……。  
 「ケイン、王都から手紙が来てたわよー」  
 お、噂をすれば……どれどれ。「辺境警備隊隊長職ケイン・ニーゲン。以下の地への転任を命ずる。新しい赴任地、ルミクニガータ」……って、どこだ、ここ?」  
 「あ、それ、私の故郷ね」  
 は?  
 「北方の辺境で、人間はかなり少ないかな。代わりに私達雪妖精とか雪狼(フエンリル)が住む里が近くにあるの。ちょあうどいいから里帰りして来ようかしら」  
 実は、俺とゲルダは、当時の部隊のみんなの好意で王都で人間流儀の結婚式を挙げたんだが、彼女の実家──雪妖精の家族の方には、事後報告だけで、未だ直接顔を出したことがなかったりする。  
 ゲルダいわく、彼女は雪妖精の王族……に代々使える侍女の家柄で、母親が現女官長、いちばん上の姉も女王に仕えているという、結構な名門らしい。  
 そんな嫁の実家に、駆け落ち同然で一緒になった旦那(ほぼ無位無官)が顔を出すって……どーいう罰ゲームだよ!?  
 「まぁまぁ、ここは覚悟を決めて、「娘さんを僕が美味しくいただきました!」って頭さげるトコロだと思うよ?」  
 その文章はおかしいだろ!? つーか、そんな事言ったら氷漬けにされるぞ!!  
 
-おわり-  

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