「ねぇ、ちょっと、マーくん頼まれてくんない?」  
 幼馴染であり、半年ほど前から一応恋人関係にもある同級生の奈美から頼まれたのは、俺達共通の友人、義雄の様子を見て来ること。  
 「アイツ、最近ちょっと変だと思わない?」  
 「いや、そりゃ、あんなコトがあったんだし、ヘンにもなるだろ」  
 「あんなコト」というのは……実は、十日程前に義雄の彼女の由梨が交通事故で亡くなったのだ。  
 酔っ払い運転のクルマに跳ね飛ばされてガードレールにブチ当たったのだと言う。  
 体自体は軽度の擦過傷で済んだが、問題は頭で、打ちどころが悪かったらしく、意識不明を経てその日の夜に帰らぬ人となった。  
 由梨の両親はもちろん、義雄の落ち込み具合もハンパじゃなかった。  
 (アイツ、由梨ちゃんにベタ惚れだったからなぁ)  
 元々由梨は奈美の中学時代からの親友で、気の強いが少々ガサツな由梨と、内気だが気配りのできる由梨は、非常によいコンビだった。  
 で、幼馴染ということで奈美と一緒にいる機会の多かった俺達ふたりも自然と由梨と面識ができ、そうこうしている内に、カタブツ眼鏡と綽名される義雄が、何をトチ狂ったのか屋上で由梨に告白。  
 彼女も恥ずかしがりながらコクンと頷き、それを受け入れたのだ。  
 (なんでそんなに詳しく知ってるかと言えば、奈美とふたりでコッソリ影から見守ってたから。ソコ、覗きとか言うな!)  
 で、微笑ましいでラブラブカップルを間近で見てるうちに、アテられた俺達も気が付いたらくっついてた……ってワケだ。  
 まぁ、それはさておき。  
 そんな熱愛中の彼女を喪った義雄の嘆きは尋常じゃなかった。彼女の親友だった奈美はもちろん、男の中では義雄の次に仲の良かった俺も少なからずショックは受けてたが、それも義雄の落ち込みの比じゃない。  
 俺たちは代わる代わる義雄を慰め、励まし、何とか由梨お葬式に連れ出したまではいいんだが……不思議なことに、霊柩車で火葬場に運ばれたお棺から由梨の遺体が消えていたのだ!  
 
 当然「すわ、死体泥棒か!?」と大騒ぎになった。フランケンシュタイン博士の犯行説だの、由梨キョンシー化説だの、色々噂されたが、現在も由梨の死体の行方は不明。  
 警察も懸命に捜査を進めているみたいなんだが……いまだ目立った進展はないらしい。  
 そんなこんなで、義雄のヤツもすっかりマイってる……と思いきや、由梨の葬式の翌々日には、ごく普通に登校して来やがったんだ。  
 アイツの由梨への傾倒ぶりを知ってる俺達は、流石に不審を覚えたんだが、義雄いわく「僕がちゃんと学校に通わないと、由梨に怒られるから」とのこと。  
 いかにも義理がたい義雄らしい言い草だし、同時にあの真面目な由梨なら、確かにそんなことを言って義雄を叱責しそうだ。  
 それに、確かに義雄はまだ本調子ではないらしく、あの秀才眼鏡のヤツが授業中にボーッと居眠りしたり、休み時間もなんだかダルそうにしている。放課後も、俺達の誘いに乗らず真っ直ぐ家に帰っちまうし。  
 まぁ、こればかりは時間が心の傷を癒してくれるのを待つしかないよなぁ、と俺は「理解ある友人」としてのスタンスを保っていたんだが、俺より短気な奈美の方が、どうやら焦れたらしい。  
 ま、そろそろ俺もアイツに喝入れてやろうかと思ってたし、ちょうどいいか。  
 
 と言うわけで、放課後、奈美と別れて義雄の部屋に俺は足運んだ。  
 言い忘れていたが、義雄は高校の近くのアパートにひとり暮らししてる。1年の頃に実家が隣りの市に引っ越して、通学が大変になったからだ。  
 ソレ(ひとり暮らし)もあって、「男の子ならではの気晴らし(本とかビデオとか)させてあげなさいよ」というのが、奈美の意向なのだろう。  
 男の欲求に理解がある女性というのは大変希少で喜ばしいことなんだろうが、現在進行形の恋人としては、もうちっと恥じらいというモノを持ってほしい気もする。これは、兄ふたり弟ひとりという家庭環境に起因するのかもしれんが。  
 外見に関しては、少なくとも顔は(彼氏の贔屓目抜きにしても)十分「美少女」の範疇に入るんだがなぁ──まぁ、胸はあんまりないけど。  
 「胸なんて飾りですよ! エロい男(ひと)にはソレがわからんのです!」とプンスカ怒る脳内彼女をなだめつつ、俺は義雄の部屋のブザーを鳴らした。  
 
 …………鳴らねぇ。壊れてんのか?  
 何気なくドアノブに手をかけたところ、あっさりドアが開いたまではよかったんだが……。  
 
 「あ゙っ……ま゙は ろ う ん゙!?」  
 「な、真人!?  ……って、い、イタタタッ!」  
 
 神様(ゴッド)、玄関先で、親友(ツレ)が、死んだはずの彼女に口淫(フェラ)させてるのを目の当たりにした時、俺はどんな顔すればいいんでしょうか?  
 脳内で奈美が「笑えばいいと思うよ」とツッコむのを感じつつ、俺は茫然と立ち尽くすのだった。  
 

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