なかなかタイミングよく雪は降ってこないけど、今宵はクリスマス。  
聖なる夜だ。  
道ゆく人波はどこか軽やかで、漏れ聞こえる会話はみんな楽しそうだった。  
けれど、2度目の大学受験を控えた俺には、そんなクリスマスなんか楽しむ余裕はない。  
 
うそだ。  
彼女はいない。  
数少ない友人と飯を食おうと誘っても断られたりして、俺は一人で駅前の商店街を歩いていた。  
イルミネーションがやけに眩しい。  
虚しくなってきた。  
コンビニでケーキでも買って一人で食うか。  
そう思って俺は手近のコンビニに入った。  
 
 
コンビニ袋をぶら下げて家路につく。  
しかし、途中の公園を横切るとき、それは起こった。  
 
声?!  
何か聞こえる。  
何かの叫び声のような…  
上か?!  
俺が首を上に向けると、何か赤い物体が俺めがけて落ちてきて、当然俺はよけようもなく…  
ぶつかった。  
 
「つぅっ、つつつ…」  
頭に鈍い痛みを感じながら俺は身体を起こした。  
倒れていたみたいだ。  
血出てないかな…、と頭に手をやる。  
指に長い髪がからみつく。  
大丈夫、傷とか無いみたいだ………、あれ?  
何だ?  
何で俺の髪がこんなに伸びてるんだ?  
と、俺は気づいた。  
着ていたはずの服が違う。  
赤い生地が大きく面積を占めていて、白いモコモコが…  
それは今日さんざん見慣れた服装だった。  
サンタクロースだ……  
え? 何でこんな?  
と、もう一度気づいた。  
俺、スカートをはいてる。っていうか、この格好は女サンタ。  
裾から覗く俺の脚は、薄いスネ毛の生えた見慣れた俺の脚ではなく華奢で細い脚だった。  
「はぁっ!?」  
思わず立ち上がる俺。  
そして、さらにもう一度気づいた。  
足元に俺が倒れていた………  
いや、俺の格好をした、何かが……  
 
 
*  
 
半角二次元板 朝起きたら女の子になっていました Part4  
SS 「聖なる朝にため息ついて」  
 
*  
 
 
とりあえず、俺(の身体)を公園に倒したままでいるわけにはいかないので、  
担いで家に帰った。  
と思ったが、かなり重い。  
幸い、公園から家へはあまり離れていなかったので無事家に帰ることができた。  
俺(の身体)のズボンから鍵をだし…、ドアの鍵閉め忘れてたみたいだった。  
気を取り直して、部屋に入り絨毯の上にかなり乱暴に俺(の身体)を横たえた。  
あ〜、重かった。運動でもして痩せないとな…。  
………いや、これは俺の身体じゃないわけで、けど、俺の身体だし…  
アホな思考のループをしていると、身体がブルッと震えた。  
あ、小便してぇ。  
え、これ、どうみても俺の身体じゃないんだけど、勝手にしていいのかな…  
けど、今は俺の身体だし、けど、ああ、漏る。  
とりあえず、たまっている水分を出さないといけない。  
俺はトイレに入った。  
スカートを脱ごうを思ったが、どこにどうするのかすぐ分からなかったのでスカートを腰までまくる。  
パンツに手をかけ膝まで下ろし…  
やはり、チンポが無かった………  
密かに考えないようにしたが、やはり女になっていたか…  
えーっと、とりあえず、便座に座ればいいよな、って冷てぇ。  
便座あげっぱなしだった…  
 
………くはぁ………  
溜まっていた尿意をすっきりさせると、自然にため息が漏れた。  
トイレットペーパーを適当にちぎり股間を拭く。  
……………  
恐る恐る指で股間を触ってみた。  
…うっ、チンポがない…  
この感触はやはりマンコか…  
端から見るとまるでオナニーみたいなんだろけど、まったくその気がない今は  
なんの快楽もなく、ただの身体の確認作業だった。  
いや、ちょっと気持ちよかったです、ごめんなさい。  
指を拭き、次は上着の上から胸を触る。  
あきらかに柔らかい膨らみが感じられる。  
女…だな。確実に。  
俺がそうやって便器に座ったまま身体の確認をしていると、部屋のほうから声が聞こえてきた。  
「うわぁぁ〜!!」  
俺は慌ててパンツをはくとトイレを飛び出し…かけて、水を流して、あらためて飛び出した。  
 
「起きたか! 俺の身体!」  
俺の身体は足を崩したまま上体を起こした格好で呆然と座っていた。  
「あ、私がいる」  
俺の身体は、もちろん俺の声で話しかけてきた。  
「なぁ、お前何なんだ? 妖怪? 幽霊?」  
俺は、俺の身体の肩に手をかけ話しかけた。  
「私は……、サンタクロースです。………あれ? でも、私は私じゃないし、けど、私だし…、あれ?」  
などと、俺の身体は目を俺や、自分の身体や、部屋やあちこちに向け話し出した。  
……はぁ。  
「落ち着け、俺の身体。この格好みたらサンタクロースだってのは理解できるから」  
理解できてないけど。  
とりあえず、俺の身体はせわしなく動くのをやめ、俺のほうを向いた。  
「あ、信じてくれるんですか? サンタクロースを」  
「いや、こんな不思議なこと信じるっていうか、何か信じないと話始まらなそうだし」  
「……うっ、そうですよね…」  
いや、俺の身体っていうか、俺の顔で拗ねた表情されても困るし。  
「おっしゃるとおり、私はサンタクロースです。あ、名前はノエルです」  
と、ちょこっと正座をした俺の身体、もといノエルは頭を下げた。  
その前に俺は胡坐をかいて座る。  
「俺は鈴宮健太」  
「あ、スカートで胡坐はやめてほしいな………、う、なんでもないです。  
どうぞ好きなだけ胡坐かいてください」  
だから、俺の身体で身をちぢこませても困るし。  
 
で、いろいろ話をきいた結果、ノエルはサンタクロースを生業としている一族で、  
今年サンタデビューをすることなった見習いサンタらしい。  
なんでも、トナカイの引くソリから振り落とされたそうな。  
…で、  
 
 
「なんで、俺とノエルが入れ替わってんの?」  
俺は、ずばり核心を聞いてみた。  
「う」  
言葉に詰まるノエル。  
「…それは」  
「それは?」  
「………クリスマスだけに、奇跡でも起きたんじゃないかなーって」  
………だから、俺の身体で、可愛く身をよじって困った顔されても困るし。  
 
 
で、わからないことはわからないってわけで、なぜか話はノエルの仕事のことになった。  
まぁ、俺もサンタクロースがどうやって子供たちにプレゼントをくばるのか不思議だったし。  
知りたかったってこともある。  
人がサンタクロースからプレゼントをもらえるのは一生に一回だけらしい。  
そして…  
 
「直感?」  
「はい、本当にプレゼントを欲しがってるイイ子ってのは何となくわかるそうなんです」  
「それで?」  
「直感に従って、その子の家に向かうと、何故か窓の鍵は開いていて」  
「はぁ」  
「家の人も気づかなくて、その子も目覚めることもなくて」  
「で」  
「その子の枕元で袋に手を入れてみると、何故かその子が欲しがっていたオモチャが出てくるんです」  
得意な顔でノエルがサンタの(ノエルいわく)秘密を語る。  
「………それって、ノエルが何にもわかってないだけじゃないの?」  
あ、落ち込んでる。  
「だって、初仕事する前にソリから落ちたんだもん!」  
あ、立ち直った。  
いや、俺の身体でプンプンされても(以下略  
 
「で、25日のクリスマスの夜も、もう2時を回ってるわけですが」  
俺は携帯の液晶を覗きながらノエルに言ってみた。  
っていうか、これって26日って言わないか?  
「え…? ………きゃーっ! どうしよう、夜明けまでにプレゼントあげないと大変なことになっちゃう!」  
あ、夜明けまでですか……  
っていうか、もう大変な目にあってるって言わないか?  
「大変なことってなに?」  
とりあえず、聞いてみた。  
「プレゼントを配らないサンタクロースは、存在意義を失い消えてしまうんです」  
うわぁ、消えるってまた不思議な………あれ? 待てよ。  
「……もしかして、消えるのって俺のほう?」  
「かもしれません」  
しょんぼり俯きながらノエルが答える。  
それって大変じゃねーか。  
「でも!」  
とノエルは大きな声を出した。  
「え? なに?」  
俺がノエルの顔を見ると、ノエルは視線を外した。  
「そうしたら、鈴宮さんは元に戻れるかもしれません」  
あ……、そういうことか。  
つまり、サンタクロースの身体であるノエルの身体と、サンタクロースであるノエルの精神が消えると、  
残った俺の精神が元の俺の身体に戻れるかもしれないってわけか。  
「たぶん、その可能性が一番高いと思います」  
………  
 
「ちょっと、顔洗ってくるわ」  
俺は立ち上がり、洗面台へといった。  
鏡に映る俺。  
ノエルの身体をした俺。  
肩にかかる黒髪はきれいで、瞳は深い藍色で、可愛く整った鼻で、健康そうな唇で、背は150ちょっとくらいで  
細い肩をしていて、胸は両手で隠れるくらいで、足は細くて、身体は色白で、下の毛は薄くて…  
いやいやいや、そうじゃない。  
話した感じノエルは嘘のつけないタイプだった。  
ちょっとボケキャラで、素直な感じで、言わなくていいのに俺のことを考えてくれてて…  
ここは、手伝わなきゃだめだろ。男なら。  
ちょっと可愛い女の子になったからって………いや、これはこれで大変だけど、  
今はノエルのこと考えてやらなきゃいけなくて…  
俺が鏡に映ったノエルの顔を見つめて考えにふけっていると  
 
「あーっ、なに私の顔みつめてるんです? ほれちゃいました?」  
背後から声をかけられた。  
本人は明るくしているつもりの声だ。  
いや、俺の声だ。  
そんなこと俺が一番わかる……はずだ。  
「あぁっ!!」  
俺が珍しくシリアスなこと考えてると、ノエルは突然大声をだした。  
「え? 何?」  
「鈴宮さん、私の身体でトイレ入ったでしょう?!」  
な、なに?  
「私の身体でエッチなことしたんだー」  
ジト目がきた。  
「い、いや、身体の違いについては調べてみたけど…」  
つい、うろたえる。  
何か悪いことしたか? 俺。  
………したか。。  
「あ〜あ、変態さんに私の身体が汚されちゃったぁ」  
言ってることと違って、明るい声でノエルは言った。  
…あ、俺落ち込んでたかな?  
ノエル、場を明るくしようとしてくれたんだな。  
よし、次は俺の番か。  
 
「うん、ノエル、出かけよう」  
冷水で顔を洗い、気分を切り替えて俺は努めて明るく言った。  
「え? どこにですか?」  
「そりゃ、お前の初仕事に、だよ」  
「え? でもでも、鈴宮さん、元にもどれないかもしれないですよ?」  
「いや、結局、可能性の問題だし、俺が消えるかもしれないだろ?」  
「え? でも…」  
ノエルは下を向いたまま動かない。  
「……それに、ノエルに消えて欲しくないんだよ」  
俺は聞こえないように小声で言った。  
「え?」  
「さー、行こう。行こ行こー」  
「えー、何て言いました? さっき」  
「ささ、行こうぜ。早く早く〜」  
俺は恥ずかしいのをごまかすため声を出して、ノエルの背中を押して玄関へと向かった。  
 
サンタクロースしようにも袋がなかった。あの大きい白い袋。  
それを聞いてみた。  
袋ならなんでもいいらしい。  
で、俺のリュックを中身ぶちまけて使うことにした。  
 
「で、トナカイのソリが無いから、適当に歩いてみるしかないか」  
「えーっと、そうなりますね」  
ノエルと俺は苦笑いだった。  
歩けば事足りる場所に住んでいる俺は車やバイク、自転車でさえも持っていなかった。  
「まぁ、この辺も子供けっこういるから、いい子ぐらいいるさ」  
「はい、頑張ります」  
直感って頑張ってどうにかなるものでもないような…。  
俺とノエルは並んで歩きだした。  
そういや、ケーキとかどこに置きっぱなしだっけ…  
「あ、ごめん、喉渇いたしコンビニで水買っていい?」  
「……健太さん、散歩と勘違いしてません?」  
「あ、とうとう下の名前で呼びますか。ま、いいや。ペットボトル、リュックにいれといて」  
「はぁ〜、はいはい」  
あらためて歩きだした。  
なんか緊迫感ないな、俺。  
 
 
「この家かもしれません」  
「鍵かかってるぞ」  
 
 
「こ、この家かも」  
「声聞こえるな。あきらかに起きてる」  
 
 
「あ、窓開いてる」  
「お?」  
「しー、静かに」  
「……」  
「いきます」  
「がんばれ」  
「袋の中ペットボトルしか入ってませんでした(T△T)」  
 
 
「あ、やばい起きた」  
「逃げろ」  
 
 
さんざん住居不法侵入を繰り返したけれど、ノエルは一度も成功しなかった。  
途中、子供でなくても大人にプレゼントを上げるケースもあると聞いて、並んでる家をかたっぱしから挑戦してみた。  
ノエルの身体を持った俺に、サンタクロースの能力があるかもしれないと変に考えて俺が挑戦してみたりもした。  
だめだった。  
 
「よし、ノエル、次はあっちの通りに行こう」  
俺もノエルもへばっていたが、俺はまだ望みを捨てたくなかった。  
「ノエル?」  
返事がない。  
振り返ると少し離れてノエルが座り込んでいた。  
「ノエル? 急がないと、さ、行こ」  
俺はノエルの手をとった。  
身長差20cmもあると身体が重い。  
これが身体が元どうりならノエルを抱きかかえて歩かせることができるのに。  
「もう、いいんです」  
「ノエル、そんなあきらめないで」  
「健太さん…」  
ノエルが顔を上げた。  
寂しげに微笑んでいる。  
寒さでうっすらと赤くなっている頬。  
「あ………」  
まだ、太陽は見えてないけど顔色がわかるくらい明るくなった空。  
「夜が明けます。鈴宮さん、帰りましょう」  
ノエルが立ち上がって言った。  
お尻を払い、歩き出す。  
「健太さん…」  
ショックで歩けなかった俺の肩抱いてノエルは歩きだした。  
 
「健太さん、玄関閉めてました? 開いてましたよ?」  
ノエルが明るく言う。  
俺とノエルは部屋に帰ってきた。  
「ノエル……」  
「朝日が完全に昇るまで消えることはありません………、たぶん」  
「ノエル……」  
「私、健太さんともっとお話がしたいです。座りましょう」  
「う、うん」  
ノエルは微笑んでくれたが、それは明らかに無理があった。  
俺の顔だから、俺が一番わかるさ。  
しばし、沈黙が続いた。  
「鈴宮さん、こんばんわ。私はサンタクロースです」  
あらためて、ノエルが挨拶をしてきた。  
「え?」  
ノエルは俺のリュックを手に持っていた。  
「何か欲しいものありませんか? プレゼントしますよ」  
あ…  
俺は泣きそうだった。  
俺の欲しいものは……、ノエル、君が……  
「喉渇いたから、水くれない?」  
ノエルの顔が笑顔になった。  
 
「はい。あ、ありました。ちょっと飲みさしですけど」  
笑いながらペットボトルを差し出す。  
俺はそれを飲み、フタをしてリュックにしまった。  
「はい、健太さんの番ですよ」  
俺はリュックを受け取り真顔を作っていった。  
「お嬢さん、俺はサンタクロースです。何か欲しいものございませんか?」  
「………じゃあ、け、………お水をください。喉渇いちゃいました」  
「さ、出てくるかな〜」  
俺はリュックに手をいれ探すふりをする。  
「はい、ありました。どうぞ」  
ありがとう、とノエルは言いおいしそうにペットボトルに口をつける。  
俺の身体をした中身はサンタクロースな女の子。  
見た目は俺なのに、俺はすごく愛しくなった。  
「ノエル…」  
「……健太さん」  
俺はノエルを抱き寄せ…、もとい抱き寄せられた。  
 
残されたわずかな時間で俺たちは抱き合った。  
不思議な感覚だった。  
俺は女の身体をしているから抱かれていることになるのに、ノエルの細い身体を抱いている感じがした。  
口づけするたびに、男の俺の顔が迫ってくるという不思議をとおりこして拒絶感さえ湧くだろうに  
俺は平気だった。  
「あ、あぁ…」  
ノエルが俺の身体に触れるたび、俺の口から可愛い吐息が漏れる。  
お返しに俺がノエルにふれるたびノエルが低い声で応える。  
 
「健太さん……、私、初めてなんです。ごめんなさい」  
「なに言って、……え? いっ痛ったたっ…いっあっああぁ痛!」  
何か身体が裂ける感じ。  
俺は身体を動かして上へ逃げようとしたが、ノエルが肩に腕を回しているから逃げれなかった。  
「健太さん、大丈夫?」  
ノエルが俺の顔を覗き込む。  
「男だから、だいじょうぶ……、って今は女か…、いや、大丈夫」  
俺は痛みをこらえて笑顔を作った。  
ノエルはそんな俺をみて微笑んだ。  
「動きますね」  
「う、うん、いっ、つっ…、くぅん、んっ」  
俺はなるべく声を殺して耐えた。  
気づくとノエルは腰をぎこちなく動かしながら泣いていた。  
「ノエル?」  
「嬉しい、私、健太さんに抱いてもらってるんですよね。身体は違うけど、そうなんですよね?」  
ああ、そうか、ノエル女の子だもんな。男になってるけど女の子だもんな。  
「健太さん、好き、少ししか会えなかったけど、好きです」  
まだ、身体に鈍い痛みはあるけど、俺はノエルと抱き合っていた。  
「俺もノエルが好きだよ。ずっと、ずっと好きだから…」  
「く、うぅ」  
気のせいなのかどうなのかわからないけど、ノエルは俺の中で果て、俺は熱く感じた気がした。  
零れた精液を指で触ったとき、俺は何か充実した気持ちを感じていた。  
 
「……………ノエル?」  
俺はふと思ってノエルに話しかけた。  
「はい?」  
疲れたけど、一仕事終えたーって顔をしたノエルが返事をする。  
「あのさ……」  
俺は思っていた疑問を口にする。  
「もう、時間7時半過ぎてるんだけど…」  
ノエルは何か考えてるようだった。  
「……え?」  
考えてなかった…。  
「もう、とっくに朝じゃねーか、なんだよ、これ」  
そうだ、ヤルことに夢中になってたけど、考えて見れば日が昇りかけてたんだから時間過ぎるわな。  
「………奇跡ですね」  
「ですねじゃねー!」  
カーテンの隙間から完全に朝日が差し込む中、俺の可愛い声が部屋に響いた。  
 
「まぁまぁ、落ち着いてください」  
「説明してくれるんだろうな」  
俺はノエルが消えなかったことに安心しつつも、説明を求めた。  
「プレゼントは大人にもあげることができるんです」  
「それは聞いた」  
「プレゼントは形のないものであることもあるんです」  
「それは聞いてない」  
「…言うの忘れてました」  
「………」  
「私が、今朝帰ってきたとき部屋の鍵が開いてました」  
「みたいだな」  
「で、私が健太さんにプレゼントの希望を聞いたとき、健太さんは心の中は何を求めました?」  
「う……」  
さっき、さんざん言った言葉だけど、改めて言うのは恥ずい。  
「私にいてほしいとか思ってません? このこのぉ」  
肘でつつくな。  
「ぬっふっふ、健太さん、私に惚れてますね」  
何かニタニタ笑いやがる。  
 
ん? …待てよ。  
「ちょっと、待て」  
俺はノエルに思ったことを告げる。  
「俺が、初めにお前を連れてきたときも鍵が開いていた」  
「え?」  
「お前、俺がプレゼント聞いたとき、すこし口ごもったよな?」  
「え? な、何がですか?」  
「お前こそ、俺に抱いて欲しいとか思ったんじゃねーの?」  
「な、な、何いってるんです? 大体抱くのは私のほうであって」  
「泣いてた」  
「ひ、卑怯ですよ、あんな時のコトを持ち出すなんて」  
「ふっふっふ〜、勝負あったな」  
俺は不敵に笑う。  
なんだ、ノエルにサンタクロースの能力があったにしろ、俺にあったにしろ同じだったんだ。  
ノエルも笑顔だ。  
これで良かったんだろう。  
 
「あれ?」  
二人でくすくす笑っているとノエルが眉をひそめた。  
「ん? どうした?」  
「もしかしたら、身体が元に戻りますようにって願えばよかったのかも…」  
「え…?」  
「あ…」  
一生に一度しか?  
もう、戻れませんか?  
けど、俺はノエルと出会えた。  
ノエルは俺と出会えた。  
「はぁ〜」  
「はぁ〜」  
俺たちは同時にため息をついて、そして笑った。  
 

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