男の動きは性急だった。
扉を閉じた瞬間、千冬は正面から抱きすくめられる。
そのままベッドに押し倒されるかと千冬は身を固くしたが、
男はその場で千冬の体をまさぐった。
「や…っ、やぁっ…!」」
千冬の長い髪をかき上げると、鼻を近づける。
シャワーを浴びてきたばかりの髪は、わずかな水気とシャンプーの香を含んでいた。
その感触と匂いを一通り楽しむと、いつかと同じように、男は千冬の耳をしゃぶった。
「んんぅっ! やっ、やあっ…!!」
耳への刺激に弱いことは、千冬自身、身に染みて分かっていた。
分かっていた所でどうにかなるはずもなく、首筋まで舐められ、千冬の脚はがくがくと震えた。
首筋を嬲る舌はそのままに、男の手がブラウス越しに千冬の体に触れる。
片方の手は胸の膨らみをなぞり、そのボリュームと柔らかな弾力を確かめるようにいやらしく揉む。
「なんだ、思ったよりデカいじゃないか」
「……っ!」
耳元でささやかれ、カッと、千冬は顔が熱くなるのを感じた。
ブラウスのボタンが男の手によって、器用に外されていくのを視界に捕えた瞬間、
「だ、だめ…っ」
千冬は思わず、男の手をつかんでしまった。
男の筋張った指はボタンではなく、少女のたおやかな手に包まれていた。
「どういうつもりだ」
「……ぁ」
男の視線が、千冬に下ろされる。
射すくめられ、千冬は慌てて手を放した。
「ご、ごめんなさい」
取引をしたのだ。
男のすることに抵抗など許されるはずもない。
取引をなかったことにされるのではないかと、千冬は縋るように男を見上げた。
そんな千冬を男は憐れむように見下ろした。
そして、溜息とともに思いを吐き出すと、
「舌を出せ」
と、短く命じた。
「……え?」
「聞こえなかったのか? 舌を出せと言ったんだ」
「は、はい……っ」
一度、男の行為を妨げた千冬には、躊躇さえ許されなかった。
ぎゅっと目をつぶると、ふっくらとした唇から、恐る恐る舌が差し出される。
赤く色づき、誘っているかのような唇を、男は舌ごと奪った。
「……ふっ、んぐっ」
もれる千冬の息に、男の体は熱くなる。
逃げる舌を追って、更に深くねじ込み、唾液を貪った。
柔らかい唇にきつく吸い付いては軽く歯を立て、呼吸すら奪い追い詰めた。
千冬にとって初めてのその感覚は酷く甘美で、頭の奥がじんじんとした。
「ふ…っ、は、はぁ」
いよいよ千冬の足はおぼつかなくなり、男に体重を預けるような姿勢になると、男は千冬を抱き上げた。
「………っ?!」
ベッドの前まで軽々と持ち、そのまま押し倒す。
自分の身体を千冬の脚の間に割り込ませ、閉じられないようにした。
シーツに広がった千冬の黒髪に誘われるように、男は千冬に手を伸ばし、ちょうど胸のふくらみまで止まっていたボタンを外した。
途中まで外されていたブラウスのボタンをすっかり外し終わると、男の手は下腹部、さらに下へと這っていった。
「……やっ…んっ」
ビクリと千冬の脚が跳ね上がるが、男の動きを阻むほどではなかった。
下着の隙間から指をすべりこませ、秘部の周りをなでた。
そこはわずかに潤んではいたが、男を受け入れるには足りない。
空いた手でブラをずらし、つんと立った乳首を口に含んだ。
「あっ…あぁぁっ」
舌先でつついてやれば、千冬は切ない声をあげ反応を返す。
男の舌技は巧みだった。
触れるか触れないかの位置でじらしたかと思えば、舌を乳首に押し当てて、先端をこねたり、唇で乳首を挟んで吸いついた。
「おいおいお前、処女なんだろ? なんでこんなに湿ってるんだ」
わざと笑いを含んで男は声で言う。
割れ目から愛液をすくい、指に絡みつかせると、ヌチャヌチャと音を立ててかき回した。
「や、言わな……で、くださ…うぅっ」
中指が膣内へ侵入すると、男はゆっくりと指を抜き差しさせる。
千冬は目を瞑っていたが、膣壁を擦れるたびに、指が出入りするのが生々しく感じ取れた。
ぐちゅ、ずぷっ、じゅぽ、ぴちゃ……
「お、音、や、やだ……あっあっあっ…やぁぁっ!」
下腹部のもっと下から熱が何度もこみ上げ、そのたびに千冬は気をやった。
愛液が男の指から滴り、シーツに染みが広がり始めた頃、男は指を引き抜いた。
代わりに、いきり立った自身を千冬の秘所にあてがう。
「千冬」
息も絶え絶えの千冬は頷きで、男の呼びかけに答えた。
「もう一度だけ聞いてやる。本当にいいんだな。
たとえ途中で取引を破棄しようとも、今日、今ここで、俺に抱かれたという事実は残るんだぞ」
「はい」
すぐさま返って答えに、男は驚いた。
少女の表情を見ようと、身をかがめ、顔を近づける。
千冬は涙で潤んだ目で、男を見上げていた。
涙が快楽によるものか悲しみによるものか、男には測りかねた。
しかし、男はその目に腹から突きあげるような欲を覚えた。
「それで、構いません」
千冬の手が、男の肘をつかんだ。
それが合図だった。
「いくぞ」
男は容赦なく、男性器を押し込んだ。
千冬の両手首を掴み、覆いかぶさると獣のように犯した。
男の下で、千冬の目は固く閉じられ、全身が強張っていた。
華奢な体はされるがままで、まるで人形のように突き上げられる。
先ほどとは違い、快楽より痛みが勝り、声にならない悲鳴が千冬の食いしばった歯の間から漏れた。
「……っ! ……っっ!!」
千冬の秘所から滴る鮮血は、男の性器に絡みつき、シーツにも散った。
それでも男は何度も腰を叩き付け、中を抉った。
硬く閉じていた千冬の瞼が、衝撃でかすかに開いた。
「……ぁ」
千冬は目を見開いた。
息が触れ合うほど近くに、男の顔があった。
男の額にも玉の汗が浮いていた。
それより千冬を釘づけにしたのは、男の表情だった。
泣きそうな顔をしていた。
快楽など一片も感じていない。
苦痛に苛まれる男の顔だった。
「ど……して……?」
千冬のつぶやきは、ベッドのきしむ音と、自身の悲鳴でかき消された。
ただ、その表情は千冬が気を失う瞬間まで、千冬の頭から離れなかった。
続く