オレは、まどろみの中にいた。
暗闇の中でぽつんと、オレだけが一人浮かんでいるような…そんな感覚だ。
ここは夢の中なのだろうか?
それとも、本当にこんな世界にいるのか?
わからなかった。
夢であるならばいつかは醒める。
だから、そのときまで考えるのはやめよう。
そしていつしか、自分が何者だったのかさえ忘れかけていた。
…
…
……
その時、何かが見えた。
光だ。
オレは吸い寄せられるようにそこへ向かっていた。
自分の意思でなく、その光に吸い寄せられるように…
その中でオレは、徐々に自分が何者だったのかを思い出していった。
こうなるまでオレがいたのは、どこだったろうか…
そうだ、森の中だ。森の中を、仲間同士4人でどこだったかへ向かって歩いていたんだ。
オレの名前は…そうだ、シャリオ・ウォルスだ。剣を生業としていたんだ。
連れは、確か女魔術師のカルラ・ニール、悪友で相棒で剣士のロン・フェリオ。
で、最近知り合ったやけに薬草に詳しい武人、ティム・アラン。だんだん思い出してきた。
ん? 待てよ。森で何があったんだ?
そうだ、森の中にある祠に向かっていたんだ。そこに行って、祠に巣食っている魔物を倒すのを頼まれていた。
だが、まんまと罠にはまった。奴は幻術を使い、いつの間にか幻覚を見せられてそのまま倒されてしまった。
そこから先は…憶えていない。
…
光がだんだん大きくなる。
それにあわせて吸い寄せられるスピードも速くなる。
そして光が視界すべてに満たされた瞬間、オレは目を覚ました。
「ん…?」
目を開けると、岩陰が見えた。
ひんやりとした空気が、全身に直に絡みつく。俺はどうやら服を脱がされたようだ。
どうやらここは洞窟の中らしい。起き上がろうとしても、体が重くて思うように動かせない。何か毒でも盛られたん
だろうか?
「気がついたようだねぇ、人間さんよ」
頭の上から声がする。
俺の顔をのぞいたそれは、青黒い肌をした奇妙な男であった。
「な、何者だ貴様!」
「ふむ、人間ごときに貴様呼ばわりされるとは我も見くびられたものだ。まあよいわ。名乗っておこう。我はこの祠
に住まう者、ジェフェニエス。お主ら人間からは魔物として恐れられている」
「祠の…魔物!」
「我の平安をわざわざ損なおうとする輩に施す慈悲はない。が、久々の闖入者だ。お主らで思う存分楽しませてもら
うことにした」
「俺たちで、楽しむ?」
そいつはその問いには答えず、怪しい色の小さな薬びんを取り出した。
「手始めに、この薬だ。どんな薬か知りたいか? フン、教えぬ。お主自身が体で知るとよい」
そう言ってジェフェニエスと名乗る魔物は指を鳴らす。
すると、俺の口が意に反してあんぐりと開かれていく。
閉じようとしても、言うことをきかない。
「無駄だ。いくら抗おうともすでに我には逆らえぬ」
そして俺の口が開ききると、やつは薬びんを開けて中身をそこに流し込んだ。
俺は、やはり自分の意思でなく飲み込んでしまう。
ドクン
ドクン
心臓が脈打つ。
体中があっという間に火照りだす。
それに対応して、俺の股間の大槍がビクン、ビクンといきり立つ。
まさか、これは…
「これは…媚薬!」
「ご名算。これは人間にとっては飛びっきりの媚薬だ。だがね、やることはまだ終わらんのだよ」
そう言ってやつは更なる小瓶を取り出した。
さっきとは色が異なる。
「さっきのは下ごしらえ。これのほうが本当のお楽しみなのだがね」
また指を鳴らす。もう一度開いた口に薬が流し込まれる。
「これは人間に試したことはないのでな。レシピどおりに調合しただけだから、成功かどうかもわからぬぞ」
ジェフェニエスが不気味に笑う。
そして、やつの思うがままに俺は薬を飲み込んでしまった。
ドクンッ
ドクンッ
さっきよりも大きく心臓が脈打つ。
まるで体中がこねられているようで、痛む。
大槍はさっきよりも大きくビクンビクンと言っている。
何だ?
何かが飛び出しそうだ。
俺は目をつぶって歯を食いしばり、股間に精一杯の力を込めた。
そうしなければいけないと思ったからだ。
何かの屈辱を防ごうかとするように。
何かを護ろうとするように。
だが、それに反して「何か」は飛び出そうとする。
こらえきれない。もう、だめだ。
ポンッ!
まったく予想と反する音だった。
これはまるで、ワインのびんからコルクを抜くような、そんな音に似ていた。
俺は、目を開けた。
無理やり首を起こし股間を見ると、さっきまでいきり立っていた大槍が消えている。
ビクンビクンとした感覚も、そういえば消えていた。
体中をこねられる感覚はまだそのままだが。
「フフハ、フハハハハハハハハ! これは思わぬ結果が出たわい」
ジェフェニエスの高笑いが聞こえる。
「この薬と媚薬でこんな効果が得られるとはな、これは収穫だ」
そして、やつは何かを拾って俺の目の前に突きつけた。それは、光の関係で陰になってすぐにはよくわからなかった。
だが、これに見覚えはある。まさか…。
「見ろ。お主の得物は袋ごと飛び出していったぞ!」
やはりそうだった。
これは、俺の股間の大槍と、離れず働く玉袋だった。
次の瞬間。
体がビクンと脈打って、例の感覚が一気に加速する。
「ガ、ガフッ…」
骨ごと体が変わっていくようだ。
苦しい。
その苦痛のためか、俺の意識はまた遠くなっていった…
目が覚めたときには、目隠しがされていた。
痛みも収まっていた上に、前の時にはまったく体が動かなかったが今度は普通に起き上がれる。
「目を覚ましたようだな」
ジェフェニエスだ。
「そうなってはさぞ違和感があろう」
やつの声は笑っていた。
確かに、彼の言うとおり少し変である。
胸に重みがあるし、脚もなんだかまだバランスが取りづらい。
「何が起きたか、お主の目で見極めるがよい」
そう言って、やつは俺の目隠しを取った。
目の前には、女がいた。
金の髪に蒼い目。そこそこかわいい。
だがよく見ると、その女は俺の動きと左右逆に連動して動く。
つまり、鏡だった。
「これでこの組み合わせの効能がわかった。さて、もう少ししたらもっと楽しいことになるぞ。それまで、ゆっくり待っておれ! フハハハハハハッ!」
やつは従えていた手下を使って、俺に足枷をはめさせた。
そして、高笑いをしたまま手下とともに去っていった。
俺の身に起きたことを理解しろといわれても、理解できるものではない。
だがそこにあるのは現実である。
「俺…女になっちまったのか…」