「あーあ」
夫は今日も発泡酒(じゃなくて第三のビールだっけ?)のCMを見ながらため息を吐く。
「…ったく、何度めよ」
「だってさあ、この笑顔がもう他人のものだって思うとさあ」
「そんなの仕事でしょう。この人は女優さんなんだから」
そう言ってやると、彼はあからさまにむくれた。
「だーかーら!夢のないこと言うなよ!」
「何が」
「だって、ありがちじゃん。共演した俳優と結婚なんてさあ。こっちの夢が台無しだよ」
とか何とか言って、医者と結婚した女優に対しても「夢が台無し」って言ってたじゃないか。
私だってあの俳優のことはけっこう好きだったし、今度のドラマも楽しみにしてるんですけど。
それに正直、あのCMの親父ドリームっぽさにはわりとイラっとくるし。
「なんか、両方知ってるとよぎるんだよねえ。あの『おかえり!』はアイツに向かって…とか」
「考えすぎでしょ。大体、発泡酒とか飲みそうな夫婦じゃな…あっ」
「やっぱり役者っていうのはあくまで夢を売る商売だからしょうがないよね」
「それはそうと…さっきからこの手は何かな」
「ああ、右手」
「だから、どこを触って…」
「だって、嫌じゃないでしょ」
まあ、嫌だったら払いのけてますが、何もテレビ見て芸能人夫婦の話をしながら妻の乳を揉まなくても。
「…テレビ消しなさいよ」
「あ、忘れてた」
「なんか片手間?」
「いや、今から本気出す」
ここで「こっちはやる気削がれた」なんて拗ねたらこの人はどんな顔するかなー、なんて。
でもまあ、こっちもわりとやる気なので、拗ねるかわりに彼の襟元をぐっと引き寄せキスをした。
秋の夜はまだまだ長い。