目測で四〇畳はあろうかという、必要以上に広大な洋室。  
 そこはまさに、権力を持つ者だけが住まう事を許された空間というべきだろう。  
 天井一面には白薔薇の刺繍絵が施され、床は隙間なく敷かれたモダンカラーのペルシャ絨毯が華やかさを演出している。  
 
 右の壁側にはチーク材で作られた重厚な洋箪笥に、ブルボン朝の彩りを添えた本棚。  
 ガラス戸を開閉するタイプのそれには、革張りのギリシャ辞典や帝王学、人身掌握術の指南書、果ては儒教や道教の本などが  
整然と並んでいる。  
 箪笥と本棚がある位置から、ぐるりと一八〇度振り返ると、赤煉瓦造りの大暖炉が黒塗の四角い蓋で塞がれ、左の壁側を悠然と  
支配していた。  
 
 他には、室内の中心に置かれたテーブルと二つのアンティークチェアー。  
 部屋の主が執務を行うために使うライティングデスク。  
 そして、コーヒーメーカーが据え置かれたキャビネットなどが設えられている。  
 
 全てが贅の限りを尽くした調度品の数々。  
 その中でも一際目を引くのが、キングスサイズの天蓋付きベッドであった。  
 明らかに一人用と呼ぶには無理のある巨大なベッドの上には、部屋の主である男が、肌触りの良さそうな布団を被って静かな  
寝息を立てている。  
 
 リゾート地にあるようなコンドミニアムなど逆立ちしても敵わないような室内は今、分厚いカーテンも閉められ、シャンデリアの照明も  
落とされているせいか、朝だというのに少しばかり薄暗い。  
 それでも、昇り始めた陽のおかげで、視界が不自由することはなかった。  
 
「ご主人様。朝ですよぉ」  
 常人であれば足を踏み入れただけで恐縮してしまうであろう、豪奢な室内。  
 しかし、その厳かな空間の中に場違い極まりない音が響いた。  
 小さな鈴を転がしたような……幼子特有の朗々とした声だ。  
「んっ……」  
 自分を呼ぶ舌っ足らずな声を聞いて男――景山章人(かげやま あきひと)は瞼を震わせて目を覚ます。   
「……あぁ、おはよう。みはる」  
 自分を起こすべく部屋に入ってきた女中に微笑みを返してから、章人はベッドから身を起こす。  
 眼前には、見るからに初潮すら来ていないであろう幼い少女が、ヴィクトリアンタイプのメイド服に身を包んで無垢な笑顔を向けている。  
 
 歳の頃は恐らく八歳か九歳辺り……少なくとも一〇歳は超えていないだろう。  
 潤いに満ちた黒髪を肩に掛かるくらいで切り揃えられ、前髪も全て同じ長さに揃えられた……いわゆるボブカットの髪形。  
 それをまとめるべくフリルが大きめのホワイトブリムを頭に乗せ、紺色のワンピースに身を包んでいる姿は、歳不相応ながら  
章人に仕える身分であることを表している。  
 
 ワンピースの上には汚れ一つない純白のエプロンドレスを重ね、スカートはコットンのペチコートで程度よく膨らませている。  
 フレンチメイドのように媚びた所が全くないその給仕服は、だぼついた様子もなく彼女の身体にフィットしている。  
 まるで幼少期のアリス・リデルを思わせる容姿は、女中というよりも幼児等身のドールが魂を宿して動き出したのではないかと  
錯覚してしまう。  
 それほどまでに、少女はどこか現実離れした雰囲気を醸し出している。  
 純真無垢で儚く、幻想的……。  
 そういった単語を並べても何ら違和感の無いほど、この少女は何者にも侵し難い雰囲気を纏っていた。  
 
「おはようございます、ご主人様。今日も良い天気ですぅ」  
 幼い少女は、起きた部屋の主に一礼してから、忙しなく足を動かしてカーテンの方まで駆けていく。  
「うんしょ……うんしょ……」  
 緞帳の如く分厚いカーテンを動かすのは相当に難儀らしく、小さな女中は刻苦しながら陽光を遮るそれを割り開いていく。  
 その様は何とも可愛らしく、眺めていると父性本能が働かずにはいられない。  
 
 少女の名は『みはる』。  
 章人の身の回りの世話を担当している、彼専属のメイドだ。  
「ふぅ〜……ご主人様、朝食はいつに致しますかぁ?」  
 一仕事終えたと言わんばかりに大きく息を吐き、章人の方を振り返ってから、みはるは再度、笑顔を向けた。  
 
 
 
            ×          ×  
 
 
 
 昭和八六年、大日本帝國――帝都東京。  
 未だに財閥が企業のヒエラルキー上層で利権や資本を独占している時代。  
 中でも景山財閥は、まさに国内最高位にある財閥といっても過言ではない。  
 その総帥こそが章人だ。  
 景山財閥とは――明治維新後、章人の曽祖父によって創立された  
一〇〇年以上の歴史と、日本政府という強力な後ろ盾を持つ持株会社である。  
 
 初期はセメント、造船、貿易、金融、炭鉱、鉄鋼業などの分野で巨万の利益を取得。  
 今では先代……即ち章人の父の方針により風力、太陽光発電などの環境エネルギー開発から銃器や戦車、果ては戦闘機などの軍需産業を一手に掌握している。  
 
 それ故に他の財閥からは快く思われていない。  
 だが、そんな妬み嫉みなど物ともしないほどの権力、財力を所有し、景山財閥は今日の財界トップとして不動の地位を築いている。  
 風説では、総資産が国家予算を超えているとも言われているが、無論それはナンセンスなデマに過ぎない。  
 
 その景山家の嫡男として産まれた章人は、景山財閥の御曹司として幼き頃から青年期まで徹底した教育を叩き込まれ、三〇歳を迎えた今年、隠居した父に代わって総帥の座に据えられた。  
 骨身を削るような激務と格式ばって息の詰まるような社交界に辟易しながらも、彼は若き総帥として徐々に頭角を表していき、やがて各界から一目置かれ始める。  
 
 今や政界、経済界において章人の名を知らぬものはいない。  
 手揉みして卑屈な笑みを浮かべ、自分を褒め称える政財界の人間達には冷やかな視線を向けている彼は、蕩尽で御破算の末路を辿る格下の財閥連中とは異なり、身命を賭して景山家と  
我が国に貢献すべしという確固たる信念を胸に秘めていた。  
 
「朝食か……直ぐに食べたいから、こっちに持ってきてくれるか?」  
「はい。かしこまりましたぁ」  
 先刻のみはるの言葉に、章人は返事を向ける。  
 殆どの女中がそうであるように、景山邸に仕えるメイドの大半は業務上、淡々と喋る手合いが多い。  
 だが、みはるは章人の世話をするのが心底楽しいらしく、嬉々とした様子を見せながら主人に深々と頭を下げる。  
 みはるの存在は、日頃激務に身をやつす彼にとって唯一の安息なのだ。  
 
 
 
            ×                ×  
 
 
 
 みはるという少女は、初めからこの景山邸に仕えていた訳ではない。  
 元々彼女は、花街で女郎の身の回りの世話をする禿(かむろ)として働いていた。  
 その理由は……みはるが遊女と客との間に生まれた子だからである。  
 みはるの母は、我が子が二本足で立つ姿を見ることもなく、かさ(梅毒)が脳に達してこの世を去った。  
 以来、みはるは行くあても無いため、自分の親代わりとして面倒を見てくれた姉女郎の世話をする日々を送っていた。  
 
 そんな彼女に、転機が訪れたのは一ヶ月前。  
 ある日、花街に遊びに来ていた章人が、みはるを見初めたとき、すぐさま彼女を身請けしたいと言い出したのだ。  
 本来、まだ客を取ることも出来ない禿を身請けするという事は不可能である。  
 
 それを番頭が章人に懇々と説明していたのだが、彼は突然、小切手に億単位の数字を書き込んで番頭に渡し、『足りなかったら更に積もう』と言い放った。  
 これには番頭も姉女郎も目が眩んだのか、みはるの身請けをあっさりと承諾したという。  
 
 訳も分からぬまま、みはるは章人のいる座敷に呼ばれ、番頭から新しい主人だという事を聞かされた彼女は、流石に驚きを隠せなかったが、廓に足を運ぶ好色な男達の顔とは異なり、  
穏やかさをそのままを表す章人の微笑みに、みはるは幼いながらも魅了されていた。  
 それが初めての恋であるということを、知らぬままに……。  
 
 それからというもの、みはるは景山家に連れて来られ、章人の専属メイドとして彼の身の回りを世話するようになった。  
 禿の時に着ていた鈴付きの赤い着物とは違う、洋装のお仕着せは、最初の頃こそ着慣れなかったものの、一ヶ月経った今では、すっかり彼女の肌に馴染んでいる。  
 家事や雑務なども、禿時代の下積みとメイド長の教育の甲斐あって、一通りこなせるようになっていた。  
 
「お召し物を持ってきましたぁ」  
「あぁ、ありがとう」  
 洋箪笥の引き出しを手際よく開け、几帳面に折りたたまれたドレスシャツとノータックのスラックスを出した後、章人に差し出す。  
 それを受け取ると、章人は黒絹の寝間着を脱ぎ捨て、穿いていた下着も躊躇なく下ろした。  
 
「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」  
 真裸になった章人の姿を見たみはるが、珍妙な声を上げながら顔を両手で覆った。  
「ご、ご主人様!? 何で下着も脱ぐんですかぁぁぁぁぁぁっっっ!!」  
「うん? 何かおかしい事あるか?」  
 
 優男を象徴する細面の顔に似合わず、首から下――胸筋や背筋、二頭筋や大腿筋などが発達している。  
 しかしそれは、悪戯に筋肉を発達させたものとは異なり、無駄な贅肉を削ぎ落とした結果、造られた体型である。  
 また、臍に貼り付かんばかりに真上を向いて屹立した陽根が、彼の健康的な様子を表していた。  
 
「ま、前! 前を隠してくださいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!」  
 顔を覆ったまま、みはるが声を張り上げて猛烈な抗議をする。  
 先刻までの笑顔はすっかり消えて、代わりに狼狽と羞恥をないまぜにした表情が映っていた。  
「何を今更……もう見慣れたはずだろう?」  
「……」  
 
 やれやれとでも言わんばかりにかぶりを振る章人。  
 その言葉を聞いた瞬間、みはるの身体が硬直し、顔を覆っていた両手が下げられて彼女の表情が露になる。  
 双眸が完全に見開かれ、呆然とした姿は、まるでゼンマイが切れて動かなくなった人形そのものである。  
 かと思いきや、今度は杏子飴のように顔を真っ赤にして頭から湯気を噴き出していた。  
 まるで秋空の天気ように表情が移り変わる姿は、何とも微笑ましい。  
 
「にゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ……ととととと、とにかく!! はやく着替えてくださいぃぃ!! みはるはご飯の準備してきますから!!」  
 すっかり熱くなった両頬に掌を当てて、みはるは慌しく章人の部屋から出て行った。  
「……?」  
 彼女の心情を全く汲めない章人は、ただ首を傾げながら、みはるが出て行ったドアを見つめていた。  
 
 
 
            ×            ×  
 
 
 
 着替えを終え、櫛で適当に髪を梳いたあと、章人はコーヒーメーカーを弄り始めた  
 些か年季の入ったキャビネットの上に据え置かれたそれは、サイフォン式のもの。  
 昔、章人が留学先のアメリカのアンティークショップで手に入れて以来、一〇年以上も愛用しているお気に入りの品だ。  
 
 しかも電気タイプではなく、今日び珍しいアルコールランプで加熱するコーヒーメーカーはかなりの手間が掛かる分、芳醇な香りと深みのある味を引き出してくれる。  
 酒もシガーも全く嗜まない章人にとって、コーヒーを淹れる事が唯一の趣味と呼べるものであり、何より彼はこの時間が一番好きだった。  
 
 フラスコの中に入れた水をランプの火で熱し、程よく沸騰したところで細かく挽いた豆が入ってるロートを差し込み、暫し待つ。  
 すると、見る見るうちにフラスコのお湯がロートに上がり、豆がお湯に溶けてコーヒーが出来上がった。  
 その後にランプの火を消すと、ロートで完成したコーヒーが徐々にフラスコへと落ちてくる。  
 
 湯気とともに昇る香りを鼻腔で心地良く楽しみながら、章人は白磁のカップへコーヒーを移し、木製のマドラーでゆるゆるとかき混ぜた。  
「……うん」  
 カップをそっと口に付けてから傾けると、口腔の中で程よい酸味と苦味が同居したフレーバーが広がる。  
 章人が一番好む上質なモカの味だ。  
 
「朝食の用意が出来ましたぁ」  
 今まさに章人がコーヒーの出来に満足していると、みはるが銀色のアルミトレイに乗せられた料理を運んできた。  
 いつものように食卓として使うテーブルの上にトレイを置いて、みはるは食器やカップを綺麗に並べていく。  
「あぁ、ありがとう」  
 コーヒーの注がれたカップをみはると同じようにテーブルへと置き、章人は椅子に座った。  
 
 テーブルにはクロワッサンとほうれん草のポタージュ、ハムと緑野菜のサラダ、チーズオムレツ。  
 いずれも章人の好みのものだが、それでいてしっかりと栄養面を考慮された食事だ。  
 
「美味しそうだな」  
「はい、コックさんが頑張ってくれたみたいですぅ」  
 料理を盛り付けられた食器を並べた後、最後にセイロン産のアールグレイティーが淹れられたカップを置いて、みはるはホワイトブリムの  
位置を両手で直す。  
 これは、コーヒーが飲めないみはるの為に用意されたものだ。  
 
 一通りの朝食の準備が終え、みはるは章人と向かい合う形で席に着いた。  
 本来、使用人が主と食事を取るのは無作法である。  
主の食事時、メイドは斜め後ろに控えていなければならない。  
 最初の頃はみはるもそうしていたのだが、章人がみはると一緒に食事を摂りたいと言ったため、こうやって二人で食事をするようになっていた。  
 
 章人はそっと五指を交互に組み、双眸を閉じる。  
 大学時代、留学先でカトリックの洗礼を受けた章人にとって食前感謝の祈りは習慣ともいえる儀式の一つだ。  
 みはるもそれに倣い、両手を組んで肘をテーブルの上に置き、目を瞑った。  
 
 異国の宗教に関しては殆ど分からないみはるでも、これが日本でいうところの『いただきます』と同じ意味だというのは分かる。  
 暫く祈りを捧げた後、二人が同じタイミングで両手を解くと、章人は二つ折りにしたナプキンを膝の上においてスプーンを取り、背の部分でポタージュの表面をなぞる。  
 
「それにしても……」  
「うに?」  
「みはるがここに来てからもう一ヶ月か……」  
 緑色のポタージュを一口吸ってから、章人が感慨深げに呟いた。  
 
「はい、失敗ばかりして、ご主人様に御迷惑ばかり掛けてしまいますけど……」  
「そんな事はない。よくここまで献身的にやってくれている。感謝してるよ」  
「はぅぅ……ご主人様ぁ……みはるをおだてても何も出ませんよぉ……」  
 照れを隠すべく、みはるは白磁のカップを手に取って口元に運び、紅茶を口に含む。  
 
「俺は自分の思ったことしか言わん主義だ。仕事もちゃんとこなしてくれるし、よく気も利くし」  
「そ、そんなの……メイドなんですからトーゼンですよぅ」  
「膣と尻穴の締まりも抜群だしな」  
「ぶーーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!!!!!」  
 
 章人の言葉に、みはるは口に含んでいた紅茶を霧噴射の如く盛大に吹き零した。  
 辛うじて顔を俯かせた努力の結果、仕える主人に紅茶の飛沫を浴びせるといった狼藉は働かずに済んだが、代わりに優美高妙な純白のテーブルクロスが、ぶっかけられた紅茶によって  
琥珀と茶と赤褐色が混じった色彩名称不明な色に染まってしまう。  
 
「うわっ!? 行儀悪いぞ、みはる!!」  
「ご主人様が変なこと言うからですぅ!!」  
 綺麗に盛り付けされた料理がひっくり返りそうなほど力いっぱいテーブルを叩いたみはるが、生え揃ったばかりの永久歯を剥き出しにして叫ぶ。  
 
「俺は思ったことしか言わない主義だと言っただろう」  
「思っても余計なことは言わない努力をしてください!!」  
 ごもっともな意見だが、当の章人は納得が行かないのか、少しばかり渋い顔を作ってクロワッサンを千切る。  
 漫才のようなやり取りをするのも、二人にとって日常茶飯事だ。  
 
「むぅ……言葉というのは難しいな」  
「ご主人様の場合、そういう問題じゃないと思います……」  
 およそ似合わない溜息を大きく吐いてから、みはるはチェアーに座り直した。  
 どうやらこの幼いメイド、少しばかり天然の主人に苦労しているようだ。  
 先刻吐いた溜息が、何よりの証拠である。  
 
 
 
            × ×  
 
 
 
 朝食を終え、執務に取り掛かるべくライディングデスクに置かれたデスクトップのパソコンに向かい合った章人は液晶モニターを睨みながらフラットキーボードを叩いていた。  
 今日はオフィスに足を運ぶ日ではないといえ、景山家当主で財閥の総帥という位置にいる彼に本当の意味での休息はない。  
 彼が眠っている間でも、否応なしに執務は溜まってくる。  
 
 平民には想像もつかぬ富を有する代わりに降りかかってくるのは、途方もない重圧と殺人的な仕事量。  
 時折これを投げ出して逃亡したい衝動に駆られるが、これをこなさなければ景山家の信用に関わるという強迫観念が、彼を執務に向かわせる。  
 
「……」  
 無言のまま、章人は指先を休みなく動かす。  
 その動きは、まるでピアノ演奏でもするかのように滑らかで、まさに軽妙流麗という言葉が当て嵌まる。  
 キーを指先で叩く度に表示される文字数は、およそ一分間に三四〇。  
 常人ならば唖然とする速度である。  
 しかも、先刻から章人は打ち直している箇所が全く無いのだ。  
 この速さで、しかもミスタイプも無いとなると、もはや彼が精密機械か何かにしか思えない。  
 必要以上に広大な室内に、ただキーを叩く軽快な音だけが響き渡った。  
 
 
 
            ×            ×  
 
 
 
 ――四時間後。  
「ふっ……うぅ〜ん……」  
 椅子の背もたれに身体を預け、両腕を天井へ向けて伸びをする章人は普通なら一週間は掛かる執務を、驚異的な速さと正確さ、そして集中力を駆使して執務を全て終わらせてしまった。  
 それをこなしながらも憔悴した様子を表さない辺り、彼の強靭さが窺える。  
 
「ふぅ……」  
 一通りのチェックを終えて執務内容をUSBメモリーに保存すると、章人はカップの中ですっかり冷め切ってしまったコーヒーで喉を潤す。  
 冷め切ってしまったコーヒーは香りも旨味も半減してしまい、代わりに濃厚な苦味が自己主張するため飲み辛い。  
 しかし、喉が完全に渇ききった今の章人には、それが有り難かった。  
 
 コーヒーを一気に飲み干し、再び章人が背伸びをするのと同じタイミングで、部屋に乾いた音が響く。  
 誰かが扉を叩いている音だ。  
「ご主人様、失礼しますぅ」  
 その音に次いで、みはるが扉を開けて深々と一礼したあと、ペルシャ絨毯を踏んで入室してきた。  
 
「あぁ、みはる。丁度良い所に来たね。こっちへおいで」  
「うに?」  
 手招きしながら微笑する章人に、みはるは小首をかしげたまま疑問に満ちた相好を浮かべる。  
 しかし、主人の命に背くわけにも行かないので、柔らかな絨毯の上を歩いて章人の座っている椅子へと辿り着く。  
「どうしたんですかご主人様ぁ……ふにゃあっ!?」  
 
 突如、みはるが素っ頓狂な声を上げ、慌てふためく。  
 何故かというと、両腋に腕を差し込まれて抱き上げられてしまったからだ。  
「相変わらず軽いな。みはるは」  
「は、はうぅぅぅぅぅぅぅ……いきなり何するんですかぁ」  
 
 頬に朱を差して抗議の視線を向けるみはるだが、章人はそんな事など意に返さず、みはるを膝の上に乗せた。  
「いやぁ、急にみはるを抱き締めたくなってな」  
 そういって章人は彼女の黒髪をそっと撫でた後、幼子特有の弾力性に富んだ瑞々しい頬を指先でつつく。  
 こうして二人を見ていると主人と従者というよりは、まるで仲の良い親子のように見えるから不思議だ。  
 
「柔らかいな……赤ちゃんみたいだ」  
「み、みはるは赤ちゃんじゃありませ……ひゃぁうっ!?」  
 章人の言葉に反駁しようとしたが、言葉を最後まで紡ぐ事はできず、しかも珍妙な悲鳴まで上げてしまった。  
 何故か……?  
 それは、章人がみはるの右耳を甘噛みしていたからだ。  
 甘噛みといってもそれは、上下の唇で挟む程度に留めてはいるが……。  
 そればかりではなく、反対側の耳も指先でくすぐっている。  
 随分と慣れた手つきだ。  
「ご、ご主人さまぁ……ひゃあんっ!! み、耳はぁ……お耳はだめですよぉ……」  
 章人の胸を両手で押して必死に離そうとするものの、幼子程度の力ではどうなるものでもなく、徒労に終わる。  
 しかも彼女が抵抗するたびに耳責めは更に淫猥なものとなった。  
 舌で柔らかな耳介に舌を這わせたり、耳朶を口に含めて吸ったり、果ては舌を尖らせて耳孔へと侵入させたりなど……。  
 思いつく限りの愛撫を行って、みはるを責めていた。  
 
「ひぃやぁぁぁぁ……あぅぅぅ……だ、だめぇ……ですぅぅ……みはる……お耳弱いからぁ……舐められると……ふにゃぁぁぁ……って……なっちゃうんですぅ……」  
 顔中の筋肉をだらしなく緩ませ、目は眦が下がるほど蕩けて僅かに開いた口からは涎が垂れている。  
 およそ一〇に満たぬ少女が見せるような表情ではない。  
「ははっ、相変わらず耳が弱いんだな」  
「にゅぅ……ご主人様……いじわるですよぉ……いっつも、いっつもみはるの弱いところばっかりイジメるんですからぁ」  
 
 唇を耳から離すと、章人は笑いかけてもう一度頭を撫でる。  
 それに対し、みはるは頬を膨らませて可愛らしく拗ねる。  
 顔は今にも湯気が立ち上りそうなほど赤く染まり、肢体は微弱な電流を流されたかのごとく小刻みに痙攣していた。  
 純粋無垢な幼子が淫欲に蕩かされている……その姿が、この上なく牡の劣情を誘う。  
 
「みはる……」  
 従者の名を吐息にも近い音で呟くと、彼女のおとがいに指をかける。  
 同時に、未成熟の唇に自らの唇を重ねた。  
 今度はみはるも抵抗してはこない。  
 ただ目を閉じたまま、淡い恋心を抱く主人のキスを受け入れる。  
 唇と唇が触れ合うと同時に、章人は僅かに口を開けて舌を出し、みはるの口腔へと侵入を試みる。  
 それを予想していたかのように、みはるは自分の口腔を僅かに開けて彼の舌を受け入れた。  
 
「んっ……うぅんっ……むぅ……んんっ……」  
 みはるの息遣いが少しばかり激しさを増すと同時に、互いの舌が口腔の中で絡み合い、ぴちゃ……ぴちゃ……っという僅かな唾液音が、部屋に小さく響く。  
 主人と幼い女中が交わす濃厚な口づけ。  
 それは、二人の歳の差と身分の違いも相まって背徳的な光景でありながら、恋人が愛を確かめ合うべく行うものなど到底叶わないほど官能的で淫靡なものであった。  
「んぅ……ちゅっ……ぴちゅ……んむっ……」  
 
 口腔内での交わりは更に激しいものとなり、章人の唾液がみはるの口の中へと入り込んでいく度、音も淫猥さを増していく。  
 それは、水を含んで柔らかくなった泥をこね回す音にも酷似していた。  
「はぁ……はぁ……はぁ……やぁぁ……はぁんっ……」  
 口を離すと、蜜の糸が二人の舌先を繋いだまま水飴のように伸びて垂れ下がる。  
 その光景を細目で見咎めたみはるは、トクンッと、胸が高鳴ると同時に、子宮が熱を帯びて別の生き物のように収縮を繰り返しているのが分かった。  
 
「ご主人……さまぁ……」  
 平素の天真爛漫な声音とは違う、艶めいた媚声を発してみはるは章人を呼ぶ。  
 そんな声を発するのがまだ数えて一〇にも満たない少女だと、誰が想像できようか?  
「どうか……どうか……みはるにお情けをくださいぃ……」  
 濡れた瞳でそう訴える幼い少女は、章人の首に両手を回して懇願する。  
 
 初めて彼に抱かれた時、彼女は生まれて初めて人のぬくもりというのを感じた。  
 花街で姉女郎の世話をしていた頃、幾多の男が金で女を買い、床を共にするのが花街だと聞かされたとき、幼心に男という生き物に対して嫌悪感を感じていたみはる。  
 しかし、章人と夜を過ごしたとき、その嫌悪感は一瞬にして消え去った。  
 
 ただ女の身体目当ての男とは違い、彼はどこまでも優しかった。  
 性感を刺激されて戸惑う自分を。  
 性技が未熟で満足させる事が出来ない自分を。  
 破瓜の痛みに苦しむ自分を。  
 彼は暖かく包み、癒してくれた。  
 それは、彼女にとって幸福以外の何者でもない。  
 
 幼い頃から両親の愛情を受けた事などないみはるは、いつも心に大きな穴が空いているのを感じていた。  
 その穴の正体が何なのかさえも分からない。  
 ただ一つ言えることは……その穴の大きさだけ寂しさがあるという事。  
 花街にいた頃からそれは、まるで拭っても落ちない墨汚れのようにこびり付いていた。  
 しかし、その墨汚れは、章人の愛情を享受すると瞬く間に落ちていった。  
 それだけでなく、みはるが今まで感じていた心の穴すらも、章人は容易く埋めてしまったのだ。  
 今まで感じる事のなかった暖かみを与えてくれた章人。  
 彼はもはや、主人という枠組みを超えてみはるの中で大きな存在ともなっている。  
 父親……とはまた違う。  
 初めて感じる存在。  
 今やみはるにとって章人は、誰よりも大切な人という認識になっているのだ。  
   
「んっ……あぅんっ……ご主人様ぁ……か、カチコチになってて……熱いですぅ……みはるのお股……焼けちゃいそうですよぉ……」  
 抱き合った状態で、膝の上に座るみはるは股座の下に当たる堅い陽根に気付いて再び耳まで赤く染める。  
 しかし、抱きついたまま腰を前後にスライドさせているのを見るに、物欲しそうにしているのが明白だ。  
 現に、みはるは腰を動かしながら自分の淫裂に猛っている陽根を擦り付けて性感を高めている。  
 その光景がどうしようもないほど淫靡で、淫婦のように浅ましい。  
 先刻から吐き出される熱っぽい息と蕩ける視線。  
 それら全ては、彼女が既に女の悦びを知っている事を物語っていた。  
 
「欲しいか? みはる」  
「……」  
 切り揃えられた黒髪を指で梳きながら質す章人に、みはるは無言のまま頷く。  
 相当に恥ずかしかったのだろう。  
 俯いたまま動かなくなってしまった。  
「ご、ご主人さまぁ……みはる……こんな……こんなふしだらな子で……ごめんなさいぃぃぃ……」  
「気にするな。俺は嬉しいよ、みはるが正直でいてくれて」  
 あまりの羞恥に悲泣するメイドの頭をそっと撫で、章人は彼女の肢体を抱きかかえてからベッドに足を進めた。  
 
 
 
            ×           ×  
 
 
 
 みはるを横抱きにしたまま天蓋付きのベッドに辿り着いた章人は、慎重に彼女を下ろすとベッドの上に幼い身体を仰向けに寝かせる。  
「ご主人様……」  
 幼子を象徴する鈴を張ったような目を潤ませ、主人を見据える幼いメイド。  
 語らずともそれは、肉悦と温もりを同時に欲しているという訴えを示しているのだと理解できる。  
 
「みはる……」  
 誰よりも愛しく想う少女の名を呼ぶ章人は、みはるに覆いかぶさったまま人差し指で唇をなぞり、次第に顎から咽頭へと指を滑らせていく。  
「んっ……んはぁっ!!」  
 首元をなぞった瞬間に、みはるは身体を跳ねさせて驚きの声を上げる。  
 幼い身体に備わった性感帯は何よりも敏感で、何よりも繊細だ。  
 故に、それだけの愛撫でも彼女は悶えてしまう。  
 
「はぁ……はぁ……んっ……くっ……ふぅん……」  
 幾度となく、みはるは甘ったるい呼吸を繰り返す。  
 情炎に心を焦がされたのか身体の力は完全に抜け、口元から涎を垂れ流す有り様。  
 可憐な幼子は、完全に肉欲に我を呑み込まれていた。  
「かわいいよ……みはる」  
 もう一度唇を重ねた後、章人はエプロンドレス越しに、膨らみすらない胸を掌で撫で回す。  
 
「ふゃっ……ひぁぁぁんっ!! ご、ごしゅ……じん……さまぁ……え、えっちな……やぁぁ……さわりかたはっ……んはぁぁぁっ……いけま……せんっっ……」  
 口では拒む言葉を紡ぎながら、抵抗らしい抵抗は全くしなかった。 上等なお仕着せ越しに感じる絹のような手触りを持つ胸は、手に僅かな力を込めて揉んでも十二分に柔らかい。  
 その感触を楽しみながら、章人はベッドに沈む幼いメイドが着ているお仕着せのスカートを掴むと、緩慢な動作でたくし上げる。  
 
「やっ……あぁ……」  
 大腿まで捲られたエプロンとスカート、その下に穿いたペチコートは五分咲きのアサガオのように広がり、シミ一つない肌と  
純白のタイハイストッキングを晒す。  
 その光景を見るみはるが、恥じらいの声を上げた。  
 
 やがて、スカートが腰まで捲られると、みはるの性器が露になる。  
 本来、洋装には下穿きを穿くのが当然なのだが、禿の頃より着物に慣れ親しんでいたせいかドロワーズやズロース、ショーツの類はどうしても自分の肌に馴染まず、  
仕方なしに何も穿かないままでいるのだ。  
 
「ご、ご主人さまぁ……見ないでくださいぃ……」  
 両脚を固く閉じ、涙声で哀願するみはるに章人はこれ以上ないくらいの微笑を向ける。  
「ダメだよ。隠しちゃ」  
 笑んだまま無慈悲な言葉を発すると同時に、章人は両膝に手を掛け、脚を左右に割り開いた。  
「やぁ―――あぁぁぁっっっ!!」  
 可愛らしい悲鳴とともに開かれた両足を掴まれたまま、みはるはきつく目を瞑り、首を左右に激しく振った。  
 章人の視界に晒された秘裂は、当然ながら黒い繊毛は一本として見つからない。  
 にも関わらず、牝の象徴ともいえる割れ目からは赤身肉のようなビラが対になってはみ出ていた。  
 その肉唇は潤みを帯びて柔らかさを増し、ふやけたまま濡れ光り、扇情的な光景を演出している。  
 
「凄いな……こんなにして」  
「にゃうぅぅぅぅぅ……」  
 章人の呟きに、みはるは再度羞恥に彩った声を上げる。  
 牝蜜にまみれた淫唇は、牡による侵入を待ち望んでいるかの如く蠢き、充血して厚ぼったく膨んでいた。  
 それを見咎めた章人は、自分の人差し指と中指を口に含んで唾液を付け、みはるの『あけび口』を二本指でそっとなぞる。  
 
「ひゃんっ!?」  
 ビクン、っと小さな腰が跳ねてベッドのスプリングが軋む。  
 しかしそれにも構わず、章人は肉厚の大陰唇を撫でつつ緋色の花扉をくすぐるように弄んだ。  
「んっ……うぅぅんっ……んはぁ……はぁ……」  
 みはるの声が艶を増していく度に、彼女は人差し指を軽く噛んで淫声が漏れないように努める。  
 歳不相応なその挙動が、更なる牡の欲を掻き立てた。  
 
 章人は左手で掴んだままだった彼女の足を自らの口元に寄せると、大腿に口を付けたまま吸い付き、痣を刻んでいく。  
 みはるが自分だけの女だと証明するかのように……。  
「んっ……ふぅ……ふぅ……んふぅ……むぅ……」  
 口を塞ぎ、声を押し殺しているせいか、荒い息遣いが鼻腔から漏れる。  
 頬や額はうっすらと汗ばんでおり、黒髪が顔に貼り付いている姿は、この上ない艶やかさを演出していた。  
 
「……」  
 暫し無言のまま女中の痴態を眺めていた章人は、蜜で濡れた人差し指と中指を静かに……ゆっくりと彼女の膣口に差し入れた。  
「んひゃぅぅぅぅっっっ!!」  
 突然の事に、みはるは大きく目を見開いて身体を痙攣させる。  
 しかも今度は一回だけではない。  
 何度も身体を震わせ、そのまま痙攣が止まらないのではないかと心配したくなるほどだ。  
 その姿を例えるなら、生まれたばかりの子牛……と比喩するのが妥当であろう。  
 
 人肌以上に熱く、ぬめりを帯びた牝穴は充分なほどに蕩けていながらも、侵入者を絞り尽くすかのごとく窄まり、章人の指を締め上げていく。  
 凄い膣圧だと、章人は素直に感心した。  
 こんな小さな身体なのに、ここだけは驚くほど力強く逞しい。  
 恐らくみはるは、生まれながらにして男を悦ばす術を備えているのかもしれない。  
 もしあのまま廓で過ごし、遊女となっていたのなら、揚羽蝶のように数多の男を虜にしたであろう。  
 
 そう思いながら、章人は膣の天井部分を指の腹でグッと押し込み、或いは摩擦で痛みを感じないよう細心の注意を払いながら優しく擦る。  
 何よりも傷付きやすい粘膜を激しく擦るのは愚の骨頂だという考えを持つ章人は、神経を充分に研ぎ澄まして彼女の膣内を弄った。  
 力はあくまで抜き、繊細な動きを忘れない。  
「んくっ……んゆぅぅぅぅ……ふぅ……んっ……ふやぁぁぁぁっ!?」  
 
 息遣いが先刻よりも激しさを増し、とうとう耐えられなくなったみはるは身体を捩りながらシーツを握り締める。  
 荒波のように押し寄せてくる快楽は、彼女の身体を熱し、激しく心を昂ぶらせた。  
 中枢神経までもが熱を帯び、まるで脳髄を釜で煮込まれるような感覚に襲われる。  
 
「んっ……」  
 一心不乱に未成熟の膣を愛撫していた章人は、突如としてその指の動きを止めた。  
「ふぇ……?」  
 先刻まで押し寄せてきた快楽が静まりを見せると同時に、みはるは困惑の声を上げたまま、少しばかり不満そうな顔で章人を見据える。  
 
 その表情を見て、章人はまるで聖人君子のような笑顔を浮かべると同時に、親指で包皮の被ったままの淫核を擦りながら膣に挿入していた二本指の動きを再開した。  
 しかも今度は、二本同時に動かすのではなく、それぞれを独立させて膣壁を擦るやり方で。  
「あぁぁぁぁぁぁ―――ふやぁぁぁぁぁぁ―――――!!」  
 
 不意を付かれたみはるは、突然の事に声を殺す事も出来ず、官能的な絶叫を室内に響かせてわなないた。  
 最も敏感で、最も弱い尖りを弄られ、膣壁……とりわけ尿道に近い天井部を擦られると、もう彼女は思考を巡らせるのも叶わず、ただ交尾中の猫のように叫ぶ事しか出来ない。   
 
 ばらばらに動かされる二本指がざらついた天井と蛇腹状の膣壁を擦るたび、開いた両足を震わせて悶える幼いメイド。  
 もはや彼女は、主人に身も心も支配され尽くしてしまったのだ。  
 
「これくらいで充分……か」  
 指で粘膜を刺激していくうちに、膣口からどぷどぷと溢れ出す液が透明なものから白濁した牝蜜に変わったのを見て、章人は指を引き抜き、幼子の秘所へ自らの顔をうずめる。  
 同時に、彼は濁り蜜にまみれた牝の花びらに唇を付ける。  
「はっ―――!? いやぁぁぁっ……ご主人……さまっ……み、みはる……さっき、お手洗いに……行って……きたから……汚い……ですぅ……」  
 章人のやらんとしている事に気が付き、みはるは彼の頭を秘所から剥がそうとするが、章人はそれに構わず膣口に舌を差し入れた。  
 
「あはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」  
 再び響く淫声。  
 しかもそれは、さっきよりもずっと甘ったるい。  
 生温かい舌で膣入り口を嬲られると、形容しがたい感覚が腰椎を襲い、危うく腰が抜けてしまいそうであった。  
 もう恥じらいなど考える余裕すら失った彼女は、シーツが破けてしまいそうなほど強く握り締め、必死になって快楽に耐える。  
 その姿がひどくいじらしい。  
 
 章人は唇と顎を陰唇に擦り付けるように顔を動かし、舌ではみ出たラビアを丹念に刷き、最後に淫核を指で剥き身にして口に含み、吸い上げる。  
 充血して膨らんだ肉芽を吸引する音は品性の欠片もなく、まるで排水口に水が吸い込まれていくような音であった。  
「―――――――ッ!!」  
 目の前で銀色の火花が燦然と輝くのを見ながら、みはるは声なき悲鳴を発する。  
 最も敏感な部分に強烈な刺激を与えられると、いよいよ彼女の性感は最高潮にまで高まり、みはるは背中が折れそうなほど身体を弓なりに反らして硬直した。  
「はぁ……はぁ……はぁ……んっ……はぁ……はぁ……」  
 
 それから数秒後……ようやく彼女は元の体勢に戻り、放心したまま天井を見つめた。  
 この感覚を味わうのは、相当な疲労感が身体を襲う代わりに途方もない幸福感を与えてくれる。  
 章人の愛撫は、みはるにとって最高の恩恵なのだ。  
 
「イッたか? みはる」  
「ふぇぇ? は、はぃぃぃぃ……みはる、もうフワフワですぅぅぅぅぅぅ……」  
 大粒の涙を零し、頬を紅潮させたみはるは、主人の問いにそう答える。  
 羞恥をかなぐり捨て、牝の本能に全てを委ねた彼女は、内からじんわりとこみ上げる歓喜を噛み締めながら、もう一度口付けを交わしてくれる章人の唇を貪った。  
「ご主人……さま……あの……今度は……みはるにも……させて……ください……」  
 遠慮がちだが、艶めいた声を発する幼いメイドの言葉を聞くと、章人はベッドの上でシャツを脱ぎ捨て、スラックスのファスナーを緩慢な動作で下ろした。  
 
 
 
            ×            ×  
 
 
 
「んっ……んぷっ……ぴちゅ……」  
 室内に響き渡る水音。  
 その音はまるで小動物が水を飲むかのように小さなものだが、音のみを聞いて幼いメイドが主人の肉茎に娼婦さながらの奉仕を行っているなど、誰が想像できようか?  
 彼女は今、一糸纏わぬ姿でキングスサイズのベッドに仰臥している章人の肉棒に小さな舌を這わせていた。  
 
「んっ……うぅんっ……んみゃ……」  
 亀頭を赤身のような舌で丹念に刷き、膨張した肉竿を指で扱きながら行われる口淫は、拙いながらも懸命さが窺える。  
 山形になった薄紫色の亀頭から肉傘までを舌の上下運動によって舐めた後、鈴口を舌先で軽く突き、再び亀頭全体を舐め回す。  
 みはるの口では、成人男性の肉根を咥える事は不可能なためか、舌による性技のみとなってしまう。  
 
「くぅ……うくっ……」  
 しかし、それでも充分なほど章人は満足していた。  
 寧ろ、咥え込むという事が出来ないという制約があるからこそ、舌技が異様なまでに上達し、遊女さながらの床あしらいの術を身に付けているのだ。  
 恐らくその閨房は、才能によるものだろう。  
 
「はぁ……んっ……ご主人さまぁ……気持ちいいですかぁ?」  
 甘えた声でみはるが鳴くと、章人は何も言わぬまま、みはるの頬を指先でそっと撫でる。  
 それが肉悦を示す合図であるというのは、二人のみが知る暗黙のもの。  
 頬を愛撫され、主人が満足しているという事が分かった幼いメイドは肉茎に口付けしたまま微笑んだ。  
 主人に褒められたことが――悦んでもらう事が何よりも嬉しい。  
 そう物語るかのような笑みである。  
 
「んっ……ちゅっ……うぅぅん……んぷっ……」  
 もっと章人を悦ばせたい。  
 胸の内で彼に精一杯の思いを込めて肉竿と裏筋に舌を這わせた後、緩やかな動作で下降し、陰嚢に辿り着くや否や、躊躇なく片方の睾丸を袋とともに咥え込んだ。  
 あどけない唇が胡桃ほどの大きさがある睾丸を咥えて飴玉のように口の中で転がす……その光景は息を呑むほどに淫靡で、初経すら訪れていない少女には  
およそ醸し出す事など不可能な色気を漂わせている。  
 
「……うぅっ!!」  
 陰嚢を吐き出し、再び肉幹に舌を滑らせていたみはるの顔を見ていた章人は、脊髄を駆け抜ける心地良い痺れと精管を『塊』が奔っていく感覚に、顔を顰める。  
「み、みはるっ……もうっ!!」  
 章人が切迫した声を発した瞬間に、彼の大腿から爪先までが小刻みに震え、腰が大きく跳ねた。  
 同時に、彼の欲望を象徴する迸りが鈴口から噴出する。  
 
「きゃあぅっ!!」  
 悲鳴を上げて白濁の塊を顔で受け止めたみはるは、切り揃えた前髪から卵型の顔までが噴出したそれに蹂躙されてしまう。  
「むっ……うぅぅ……ご主人様の……あったかい……ですぅ……」  
 噎せ返るような青臭い匂いが鼻腔を刺激し、顔に付着した白濁の奔流をみはるは指先で掬い取って口元に運んでいく。  
 表情は朝の時とは異なり、すでに顔全体の筋肉が弛緩するだらしないものになっている。  
 どう贔屓目に見ても主人に仕える者の表情ではない。  
 完全に甘美な毒に脳髄まで支配された一匹の牝だった。  
 
「……」  
 一度の射精により、力を失いかけていた章人の牡肉だが、みはるの痴態が新たな刺激となって再び反り返る。  
「はぁんっ……ご主人さまぁ……まだこんなに凄くなってるんですねぇ……みはる、嬉しいですぅ」  
 猛る陽根に指を絡ませ、みはるは淫蕩に溶けた表情を見せながらロングスカートの中で太腿を擦り合わせる。  
 衣擦れの音が、口淫のときに響いた水音よりも大きく木霊した。  
 
「みはるぅ……ご主人様と一緒になりたいですぅ……ご主人さまぁ……みはるを……みはるをもっとふしだらな子にしてくださぃ……」  
 牡を欲する懇願。  
 しかもそれは、ロングスカートを空いた片手で捲り、色素沈着のない秘部を晒しながら紡がれた。  
「あぁ……分かったよ」  
 自分を敬愛してくれる少女からの要求を断れるほど、章人は非情な人間ではない。  
 起き上がると同時にみはるの両肩に手を掛け、彼女を優しく押し倒す。  
 その力に反発することなく従ったみはるは、自分が普段寝ている使用人用のベッドとは完全に異なる柔らかな感触を心地良く感じながら自らの背中を預け、  
章人が股に入り込みやすいよう両脚を広げる。  
 
 もうそこに恥じらいの感情はない。  
 あるのはただ、主人に満足してもらいたいという滅私奉公の心と、更なる悦びを味わいたいという欲望。  
 対極となる感情が混じり合う中で、みはるは微笑みながら主人が来るのを待った。  
 その様相を見据えた章人は、みはるの臀部に枕を敷いて腰を僅かに高くする。  
 二人にはかなりの身長差があるため普通に挿入すると、みはるが少しばかり痛みを訴える。  
 なのでこうする事によって角度が合って平常時の挿入より遥かな快楽を得られるのだ。  
 
 陽根の根元を軽く握り、花扉がはみ出た淫裂に尖りを押し当てると、牡を待ち望んでいた膣口から更なる濁り蜜を零れさせる。  
 ぬめりを帯びているそれが亀頭を濡らし、程よい潤滑となって先端を膣口に埋没させるのを助けた。  
 
「んやぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」  
 ずぶずぶと肉傘が牝の腔に埋め込まれるとともに、みはるの口からが甘い嬌声が響く。  
 ぬちゅ……っという充分に潤んだ証拠である音が膣口から聞こえるとともに肉竿の半分までが侵入し、そこで止まった。  
 みはるの体躯を考えれば、当然ながら根元まで挿入することは不可能。  
 だがその代わり、亀頭を絞り尽くすような狭さが章人の思考を麻痺させる。  
「ご主人様……あぁっ!! んふぅ……ふぅんっ……」  
 眉間に皴を寄せ、何度も荒い息をつきながら主人を呼んで右手を伸ばす。  
 その手を章人は優しく握り、抽送すら満足に行えない狭い膣内で肉茎を動かすことなく静止していた。  
 
「みはる……」  
 膣内に陽根が馴染むまでの間、章人はみはるの眦から零れる雫をそっと指で拭い、その頬に口付けする。  
 他の使用人とは違って特別な感情を抱くこのメイドに、彼は惜しみなく自分の愛情を注いだ。  
 みはるもその愛情に応えるべく、自分の手を握ってくれた暖かくて大きな手を握り返す。  
 自分の未来を変えてくれた、愛しい人の手を……。  
 
「くっ……あぁ―――!!」  
 突如として、章人が大きく呻く。  
 水田に浸された泥のように柔らかな膣が小刻みな蠕動を始め、亀頭に強烈な刺激を与えたのだ。  
 膣内から多量に分泌された潤滑の蜜により、その快楽は二乗三乗にも跳ね上がる。  
「はぁ……はぁ……はぁ……」  
 膣の動きに翻弄されながらも、章人は射精すまいと大きく息を吐き、心を落ち着かせた。  
 一旦冷静さを取り戻すと、彼は幼い女中が捲ったスカートから覗く秘所にもう片方の手を伸ばし、先刻愛撫した紅の粒を指先でくすぐる。  
 
「ひゃぁぁぁぁぁっっっ!? ごしゅ……じん……さまっ……そこはぁ……そこはぁ……だめぇ……ですぅ!!」  
「どうしてだ? ここを触られるのが一番好きだって言ってたじゃないか?」  
「い、今は……今はダメなんで……ひゃうぅぅぅぅんっっっ!!」  
 ベッドの上でみはるは再び身体を反らし、落雷に打たれたかの如く身体を震えさせた。  
 それまでの小刻みな動きではなく、がくがくと震えるような強烈な痙攣。  
 みはるの限界が近づいていることを、それが如実に物語っている。  
 章人は幼いメイドがじきに昇り詰めるのを察して、指先で弄んでいた肉粒を指の腹でぐっと押し込み、遠慮なく振動を送った。  
「あぁぁぁぁぁっ!! やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!」  
 もう一度、みはるの肢体が若鮎のように大きく跳ね上がり、激しく身を捩る。  
 同時に、陰茎の半分までをくわえ込んでいた秘部が更にぎちぎちと締め上げていく。  
「あぁぁぁ……うぅぅっ」  
 章人が臀部の筋肉と腰を激しく痙攣させると、再びせり上がってくる欲望の塊が尿道付近まで迫り来る。  
 やがて……どくどくと肉棒全体が大きく脈打つと同時に、熱い体液が子宮口めがけて迸った。  
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!!!!!」  
 欲望の塊を子宮口に叩き付けられ、みはるは大きくわななきながら更に身体を弧状に反らせる。  
 それに伴い、みはるの秘部から湧き水が流れるような音が聞こえてきた。  
 濃い色をしたそれは、彼女の尿道から際限なく排出される黄金水。  
 頂にまで昇り詰めたみはるは、力が抜けて全ての筋肉が完全に弛み、失禁してしまったのだ。  
 弱々しく溢れる濃厚な液体は、章人が肉棒を引き抜くと同時に溢れ出た精液や子宮頚管粘液と混じり合い、ベッドのシーツを汚していた。  
 
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」  
 幾度となく呼吸を繰り返し、起き上がることも放尿を止めることも叶わないみはるは、ベッドに寝転んだまま、細緻な意匠を凝らしたシャンデリアと  
白薔薇の刺繍を施した天井を見上げていた。  
 その姿は、まるで糸の切れた人形を髣髴とさせる。  
 力を失ったみはるに覆い被さり、恍惚とした表情を浮かべる彼女の唇に、章人はもう一度自分の唇を重ねる。  
 今度は舌を絡ませ合うような官能的なくちづけではなく、互いの温もりを確かめ合うように行う軽いものだ。  
 それから数秒の間……二人の唇が離れた時、ようやくみはるの膀胱から漏れ出す尿は数滴の雫を飛ばして終わりを迎えた。  
 
 
 
            ×            ×  
 
 
 
「あ、あう〜っ」  
 情けない声を上げながら、みはるはベッドの惨状を直視していた。  
 章人が寝るために設えた天蓋付きのキングスベッド。  
 そのシーツは今、みはるが迸らせた黄金水によって広大な黄色い『シミ』が広がっていた。  
 これではもう使い物にならない。  
 仕える身でありながら、主人の寝具を汚してしまったという想いが、彼女を自責の念に苛む。  
 
「気にするな。シーツはベッドメイキングのときに取り替えれば良い話しだし、何よりこんな事は今に始まったことじゃないだろう?」  
 肩を落とす幼いメイドに、章人は慰めの言葉をかけるが、最後の一言が明らかに余計なのはいうまでもない。  
 
「うぅ……やっぱりみはるはダメなメイドです。ご主人様のベッドにおもらしばっかりするなんてぇ……本当にみはるはドジでダメダメダメでクズでゴミカスでウジムシなんですぅ……」  
「いや、そこまで言わなくてもいいだろう」  
 段々と自己嫌悪で自分を卑下していくみはるを、章人は頭を撫でる。  
 こういう時、女にどう接したらいいかをあまり心得ていない章人にとっては、かなり対応に困るものであった。  
 
「まぁ……その……何だ。俺はみはるが悦んでくれただけで充分に嬉しい」  
 頬を掻きながら、章人は照れくさそうに言った。  
「うぅ……ご主人さまぁ……」  
 自己嫌悪による悲しさと、主人の慰撫による嬉しさがない交ぜになったみはるは、章人の身体にしがみ付いたままぐずぐずと泣きじゃくる。  
 今まで甘えられる人間がいなかった反動ゆえか、章人には歳相応に甘えることが多い。  
 章人の着ているシャツが濡れるほど、みはるは彼に小さな身体を預けたまま泣き続けた。  
 
 暫くして、ようやく泣き止んだみはるは、手際よくシーツを片付け始める。  
 相好にもう悲しみの色はない。  
 泣いてすっきりしたのだろう。  
「ご主人様、すぐに新しいシーツに交換しますので、少しだけ待っていてくださいね」  
「あぁ、分かった。でも慌てなくていいぞ」  
「いいえ、これもみはるの仕事ですから、すぐにやっておきたいですぅ」  
 言いながら、みはるは自分の両手でやっと抱えられるまでに畳んだシーツを持って扉の前に立った。  
「そうか……じゃあよろしく頼むよ」  
「はいっ!! えっと……その……ご主人様……」  
 章人の言葉に溌剌とした声で応じた後、途端にみはるは身体をもじもじさせる。  
「うん? どうした?」  
「みはるは……いつも失敗ばかりのメイドですが……いつか……いつか……ご主人様に完璧にお仕え出来るようになってみせます……だから……」  
 そこまで言ってから、みはるは言葉を区切り、小さく深呼吸する。  
「これからも、よろしくお願いします。ご主人様」  
 繋いだ言葉を言い終えて、みはるは溢れんばかりの笑顔を浮かべた。  
 
 
 
END  
 

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