ノックも無しに17歳の娘の部屋を開けて着替えを目撃したとなれば、これは間違いなく  
闖入者が悪い。反対に、外からよく見える室内で小学生にイチモツを晒していたオジさんは、  
迷惑行為で立件されたそうである。  
 では、この場合──ドアを開け放して着換え女の部屋にやってきた男を、彼女は咎める  
ことが出来るのか。  
 
 少なくとも、そんなことを考える暇が、皆瀬那津子にはあった。制服を着直すにも扉を  
閉めるにも足りなかっただろうが、アクションを取らずにボーっとしていたのは彼女の  
意思だ。  
 
「うぃーす、なっちゃん。クーラー借りに……っって、暑っ! 何この部屋!」  
 スカートを膝まで下げたセーラー服姿を正面から見つめて、西野亮一は開口一番そう  
のたまった。  
「ご覧の通り、今帰ったとこなんだよ」  
「制服ってことは、そっか。なっちゃんは今日始業式?」  
「そ。私立のおぼっちゃまは休みが長くて羨ましいわー」  
「おぼっちゃまなら、節電を盾にクーラー禁止令出されたりされたりしねえって。お袋の  
やつ、居間だけは付けっぱOKなんて自己中にも程がある……」  
 ぶつくさ言いつつ、持ち込んだ大荷物(勉強道具やら本やら果てはノートPCまで)を  
床のテーブルに拡げ終わると、亮一は窓に手を掛けた。  
「ちょっと、勝手に開けないでよ」  
「この部屋、外より全然暑いぞ。クーラーより先に、一度熱気を出した方がいい」  
「そうじゃなくて、着換え中なんだけど」  
 ショーツ姿で上着のリボンタイを抜きながら、那津子は言う。  
「……そういうことは、ちゃんとドアを閉めて着替える人が言わないと」  
 眉を落として半眼になりつつも、亮一は後ろ手でカーテンを引いた。  
 
 
 西野家と皆瀬家は歩いて1分の距離にある。間に道路を挟むが、町内会は同じだ。  
那津子には彼と初対面の時のはっきりとした記憶は無い。しかし、幼い亮一が良く回覧板  
を持ってきた事を覚えている。母親から「一人でお使いできて偉いねぇ」と褒められるに  
彼に、酷く嫉妬していたのだ。回覧板を回す方向が逆だったら、私が亮ちゃんのママに  
褒められたのに、とかなんとか。  
 
 そんな微笑ましいエピソードもあるので、互いに行き来出来る窓が無くても、まあ幼馴染  
と言って差支えない関係だろう。互いの部屋は顔パスで上がり放題、無断外泊も西野家  
と皆瀬家の相互に限っては問題が無い(というか、勝手に連絡が行くのでその必要が  
無い)。  
 とはいえ、今現在の那津子がうら若き少女であることもまた事実。そんな彼女が、  
同い年の男を前に半裸を晒したまま会話しているのには、それなりの理由があった。  
 
   
「いくらドアが空いてたからって、着換え中に踏み込んで一言も無いのはどうかと思う」  
 冷房の真下を陣取り、頬杖ついて自分の脱衣を眺める少年に、那津子は言った。  
「ごめんごめん。お詫びに制服脱ぐのを手伝うよ」  
「もう脱いでる」  
「では着る方をお助けしましょう」  
「暑いからいい」  
「それは、纏わりつかれるのが暑いという意味? それとも、季節柄服を着る気が無いと  
のご意向でしょうか」  
「女子高生を何だと思ってるんだ変態」  
「……一人だったらパンツ一丁のくせに何言ってんだ」  
 図星を突かれて痛いというほどでもないが、とはいえ正論には軽口も叩きにくい。その  
まま無視して制服をハンガーを掛け、ついでキャミソールを捲り上げたところで、ブラの  
ホックが勝手に外れた。  
「おいコラ何をする」  
「だから、無駄に真実を言って怒らせちゃったお詫び」  
「別に怒って無い上にお詫びになっとらん」  
「じゃあ勝者にご褒美を」  
「確かにその方が筋は通るが亮ちゃんと弁論大会してた覚えもなくええい揉みしだくな  
暑苦しいっ!」  
 
 後ろに放った那津子の肘鉄を難なく捕まえた亮一は、そのまま万歳させて肩紐を抜く。  
 その無駄な手際の良さに溜息をついて、10秒ほど好きにさせてから、那津子は言った。  
「背中が汗で気持ち悪い。なのにお腹だけ寒い。サイアク」  
「おっと、そりゃ悪かった」  
 亮一は後ろから双乳を揉んでいた手をぱっと離し、自分が冷房の風上側に回った。  
今度は正面から抱き付いてくる。そのまま、ベッドに押し倒そうとした彼を、那津子は  
肘で軽く突く。  
「学校帰りで喉乾いてんの」  
「もう1分だけ揉んだら麦茶とってくる」  
「30秒」  
「了承」  
 
 押されるままにベッドに座った娘の胸元へ、亮一は膝立ちになって顔をうずめた。時間  
を値切ってしまった手前、那津子も何となく義務感を感じて、両肩を前に寄せてやる。  
そうしてたわわに実ったCカップを、亮一は優に45秒は楽しんだ。最後に、ジュッっと強く  
下乳を吸って、ようやく人心地と顔を上げる。  
 そんな彼と、数秒、無言のまま目を合わせていた那津子は、ポツリと言った。  
「アクエリがいい。水で割ったのがいつものとこにあるから」  
「りょーかい、なっちゃん。俺のポンジュースは?」  
「知らない。でもお母さんこないだ買ってたと思う」  
「じゃあ、また上の天袋かなー。ちょっくらついでに冷やしてくるわ」  
「ん」  
 
 最後に、またちょっと手で触ってから、亮一はすっくと立ち上がった。あとは、特に  
名残惜しげな様子も見せずに、ぱたぱた台所へ降りて行く。  
 彼の物音が聞こえなくなってから、那津子はふぅ、と息を吐いて箪笥へ向かった。下着  
の棚を開けて、今履いているショーツと同じものを探す。残念ながら、見つからなかった。  
今さら見栄を張る相手でもない、と自分に言って、今度はキャミを漁り始める。  
 水色のストライプが好みと聞かされた。だが、ババ臭い肌色の奴の方が、生地も薄いし  
ちょっと大きめなのでし'や'す'い'らしい。ちょっと迷って、後者を被ると、彼女はのそのそと  
クーラーの下に戻った。  
 
 
 付き合っているのか、と聞かれて、今さら否定するつもりはない。用もなく互いの部屋  
に入り浸り、二回に一回以上の頻度で体を合わせていれば、言い訳の仕様も無いだろう。  
 実際、さしあたり他に狙っている男がいない事もあり、那津子は周囲に彼氏がいること  
を公言している。もっとも、今の高校に亮一を知るものはいないのだけれど  
 だから、問題があるとすれば、  
「いつから付き合ってるの?」  
と聞かれても、答えようがないこところだろう。  
 正式な告白から始まった関係では無い。互いに好きと言い有った記憶もあんまりない。  
(恋人プレイで好き好き言い合った覚えはあるが、あれはなにか違うと那津子は思う)  
 初体験の時の記憶はさすがにある。しかし、それを起点とするのもしっくりこない。  
以前と以後で、何かが決定的に変わったとは思えないからだ。性への興味、大人への  
反抗、思春期的衝動が閾値を越えた点が偶々表面化しただけで合って、亮一と那津子の  
関係から生まれたものとも思えない。  
 では、つまるところセフレなのかと要約されると──それは、違う、と言いたい気持ちが、  
少なくとも那津子側にはある。  
   
 
 
「ただいま〜っと。お、大分冷えてるな」  
 5分程して、亮一は両手にお盆を抱えて戻ってきた。釣果はラベルの剥がれた2Lペッ  
ト、麦茶のパック、缶入りの水羊羹。  
 最後のはお中元で伯母の家から送られた奴だ。那津子一人で勝手に空けると、母親から  
小言を貰ってしまう。なので、この点はグッジョブ、と彼女は状況を評価した。  
「アクエリってこれだよな」  
「うん。コップは?」  
「無い。ラッパでいいじゃん」  
「重いから嫌。とってきて」  
「えぇー。ご無体な」  
 そう言いながら、亮一は上半身をゴロンとベッドに投げ出した。しかし、ちょうど那津  
子の足裏に耳が来たので、彼女が親指でツンツンと抗議していると、やがてムずがる様に  
身を起こす。  
 
 だが、部屋のドアをバタンと締めて踵を返した亮一は、そのままペットボトルのスポー  
ツ飲料を煽った。  
 なにするの、と問い詰める間もなかった。彼は今度こそ那津子をベッドに押し倒すと、  
強引に唇を合わせてくる。彼女が観念して口を開くと、甘くてやや冷たい液体が、亮一の  
舌を伝って注がれた。  
 こういうのは、本当はあまり好きじゃない。美味しく感じるのは今喉がカラカラなおかげで、  
普段なら気持ち悪さが勝ってしまう。食べ物系は絶対NGだし、アレを飲むのは相手が  
小躍りするほど喜んでくれるから出来ること。素の状態では、とてもじゃないが無理だ。  
 だが、そんなことは亮一だってよく分かっているはずだった。だから那津子には、  
彼が焦っている理由の方が気になった。  
 
「いつの間にそんな盛ったん?」  
「いやあ、久々の制服姿だったもんで」  
「四六時中見られる今から、そんな親父趣味でどうすんの」  
「いや、俺言う程なっちゃんの制服姿見れてないんだってっ。登下校は一緒じゃないし、  
家ん中は何時も私服だろ? セーラーなっちゃんは何気にレアなんだよレア!」  
 恥ずかしい台詞を恥ずかしそうに言う亮一は、どこか作っている感がある。胸元へ這い  
上がってきた手をインターセプトして、那津子は自分にのしかかる少年を見つめた。  
 結果、10秒で亮一の方が根負けした。  
「着換えの窓は締め切るくせに、俺が入ってくるドアは開けっぱだから……ちょっと  
ムラっと来たんだよ」  
 確かに、こっちの方が恥ずかしかった。そう思った瞬間、再び唇が奪われる。  
 
 束の間の雰囲気に押される形で、二人はしばし濃い目の接吻を続けた。最後は、  
亮一が体重をかけていたとに気付いて体を起こす。その際、唇の間で透明な水橋で  
したたり落ちた。  
「すまん、苦しかった?」  
「ん。全然」 那津子は嘘を吐いた。  
 しかし、続けたいという気持ちも強かったから、返事としては間違っていない。  
 それをどこまで汲んだか分からないが、小さく「さんきゅ」と言って亮一は再び横に  
なった。今度は彼女の横に横臥して腕枕する格好だ。頭に回した右手で膨らみを  
愛でつつ、反対の手でじっくりと全身をまさぐっていく。  
 
「…は…ぅん」  
 臍の周りで存分に円を描いた後、とうとう左手がショーツの中に潜り込んだ。何度も  
交わって、目の前で拡げられたことも、舌を入れられたこともある。けれど、この瞬間は  
いつも引き攣るような緊張がある。  
 だが、そんな那津子の心境とは裏腹に、彼女の秘部は潤沢なぬるみを以って出迎えた。  
部屋の明かりを消して貰っていないので、その惨状は下着の上からでも明らかだろう。  
割れ目に沿って二、三度前後させるだけで、亮一の指はたっぷりと愛液に包まれる。  
「ひ……んんっ…ぁ…」  
 前庭に溢れた蜜を、亮一の人差し指が秘所全体に塗り広げていく。下から円を描くよう  
にせり上がってきて、今にも上端の敏感な実を擦られる──そう那津子覚悟した瞬間、  
小指がするりと中に入ってきた。  
「…っきゃんっ!」  
 裏をかかれて、那津子は思わず嬌声を漏らした。事の最中、彼女はあまり声を上げない  
性質だ。しかし、亮一はそれが不満らしく、あの手この手を打ってくる。  
 だから、今回も憎たらしいドヤ顔が待ってるんだろうなぁと薄目を開けると、意外な  
ことに彼は不機嫌そうな顔をしていた。  
 不機嫌というか、正確には余裕の無い顔。  
「え……?」  
 反射的に那津子は空いている手で亮一の股間を探った。勃起しているのは予想通り  
だが、思ったよりずっとカチカチだ。彼女が触っても無いのに、根元のところまでこんなに  
なるのは珍しい。下着の前開きを潜って直に触ると、案の定、傘の部分は先走りで  
濡れていた。  
「……亮ちゃん、」  
「あー…。ムラっと来たっていったろ」  
 ぶっきらぼうに言うと、亮一は誤魔化しのつもりか再び唇を塞いで来た。同時に、  
中に入れる指をもう一本増やして、少し乱暴に出し入れする。  
 その攻めはちょっとまだ早かったけれど、那津子は悪い気はしなかった。がっつかれる  
のは嫌いじゃない。17の男子だけあって、普段も亮一からしたがる方が多かった。  
けれど、こんなにあからさまに、自分に余裕があって、相手が一杯々々なのは久しぶりだ。  
 
「……ぅん、もういいよ、亮ちゃん」  
「え? いや、お前まだ…」  
「んーん、だいじょぶ。第一、こんなんじゃもう限界でしょ」  
 下着から取り出したものをゆっくりしごきながら、那津子は言った。  
「まあ、せっかく大丈夫な日なんだし、一回で終わりなんて言わないよ。だから、妙な  
遠慮はいらないって」  
「…っ。わりィ、なっちゃん」  
 
 感謝してるのに、つい「悪い」と出てしまう癖。良く無い口癖だから、亮一も直そうと  
しているけれど、昔から本音を漏らす時は一緒に零れ出てしまう。  
 それを知っているから、「謝らないで、『有難う』って言ってよ」なんて野暮を、那津子  
は言わない。でも、他の女ならどう反応するかな。なんてことを思うと、心の奥が  
くすぐったい。  
 
 そんなバカな事を考えているうちに、彼女の足からするりとショーツが引き抜かれた。  
たっぷりと蜜を吸った下着を余裕なくベッド下に捨て、彼は両手で大きく少女の股を  
割り開く。  
 そのまま、一気に挿入を試みた亮一だったが、興奮が過ぎるのかうまくいかない。  
モノが強く反り過ぎていて、角度が合っていないのだ。  
「……すまん、ちょっと脚持ってて」  
「ん」  
 亮一の嘆願に、那津子は応じた。自分で膝を抱えて、股間を拡げた体勢を維持する。  
普段なら相当に抵抗のある格好だが、相方が正気で無い今はいくぶん気楽だ。  
 はね上がった一物を手で押さえ、再び亮一が覆いかぶさってきた。一度、わざと上の方  
に押し当てて、襞の裏側の滑りを塗りこめる。それから、ぐっと腰を落とすと、先端を  
泥濘へと沈めていく。傘の部分が入口の狭いところを潜り抜けたのを確認し──  
 
「ふっ…ぁ…はぁぅっ!」  
 二回、浅瀬で弾みを付けてから、一気に奥まで押し込んで来た。準備の時間は十分で  
なかったけれど、受け入れられない程では無い。膣内の潤みは十分だったし、多少  
こなれない肉襞も、今のガチガチな彼のモノにはちょうどいいかも知れない。  
 続けていい、との意志表示のつもりで、那津子は両脚を彼の体に巻き付けた。  
力は入れず、抽送の邪魔にならないよう、足首を腰の後ろでそっと組む。  
 そんな長年の阿吽の呼吸は、幼馴染に正しく伝わった。感謝のお礼の様なキスの後、  
亮一は上体を起こして頭の横に手を突くと、怒涛の勢いで腰を振るう。  
 
「はあっ……ひゃっ……や…ぁ…んあぁ!」  
 15cm差の男に手加減無く突き上げられて、さすがの那津子も明確な喘ぎ声を上げ始めた。  
快感以上に、体の中を内側から押し潰すような圧迫感が、彼女の肺と喉を震わせる。  
 けれど、その激しさが那津子は嫌いでは無かった。薄目を開ければ、ガクガクと揺れる  
視界の端に、切羽詰まった幼馴染の顔が見える。  
 今この瞬間、主導権は間違いなく彼の方にある。那津子の体は内も外も、息をつく  
タイミングまで亮一の動きに支配されている。でも、そうさせているのが他ならぬ自分  
だと言うことを感じるこのとき、目の前の少年がたまらなくいとおしい。  
 
 だから、はっきり言って、セックスは好きだ。  
 その理由のために、不純と言われるなら、否定は出来ない。  
   
「あっ、ああっ……ひゃっ……んああっ!」  
 それにしても、今日の亮一の高ぶりは凄いな。と、霞のかかってきた頭で那津子は思った。  
固さと"反り"が尋常じゃない。出す直前だって、普段はこんなにならない気がする。  
おかげで、お腹側の壁をグリグリと削られる感じがすごい。  
 クリトリスを触られたような快感は無いけれど、しびれに似た熱が確実にお腹の奥に  
溜まっていく。時々、入口の襞が意志とは関係なく痙攣し始めた。初回はただ受け入れる  
だけのつもりだったけれど、一緒にいって上げられるかもしれない。  
 
 そのことを伝えたい、と那津子は思う。一回目は自分本位で終わることを引け目に感じ  
ている彼に、ちゃんと気持ちよくさせられてるんだって教えてあげたい。性感だけでなく、  
征服感も味わってほしい。普段生ばっか言ってる口の悪い女も、今は亮ちゃんに  
の'さ'れ'て'るんだって。  
 でも、普通の彼女だったら、そういうのは恥ずかしいから隠そうとするのかな。  
 
「ひゃう……あっ、やっ…っく…きゃんっ!」  
 しかし、いずれにせよ、もう那津子に出来るのは彼の迸りを受け止めることだけだ。  
亮一の手が腰を押さえ、抽送のペースがさらに上がる。膨らんだ傘が娘の体奥を容赦なく  
突き上げ、まともな呼吸もままならい。このまま続けられたら窒息するんじゃないかと思う  
けれど、それは相方の方も同じかもしれない。  
 パタパタと生温かい粒が、那津子の顔に降っている。亮一の汗だ。それに気付いて、  
最後にもう一度瞼を開けると、彼も那津子を凝視していた。激しく揺れて、涙に曇った  
視界でも分かる、うつろで取り付かれた男の瞳。  
 それを見て、多分、笑ったような表情を作ったんだと、那津子は思う。  
 次の瞬間、亮一はがばっと体を落としてきた。両腕を後ろに回して、彼女を全力で引き  
よせる。そうして、身動き一つ取れない娘の一番深いところへ、己の分身を突きたてた。  
「ふぁっ…やっ……はうううぅぅん!」  
 全身を圧搾れて、悲鳴ような嬌声を上げながら、那津子は亮一の射精を受け止めた。  
 
 
 
 亮一が体を起こしたのは、1分程経ってからだった。最後の一滴まで注ぎ込もうと、  
未練がましく腰を押し付けていた彼は、そこで再び自分の重さの事を思い出したらしい。  
「わり、苦しかった?」  
「だから、いいってのに」  
 小さく吹き出しながら、那津子は答える。さっき同様重かったのは確かだけれど、  
それに見合うだけの満足があった。だから、いい。  
 それに、体の方も、ちゃんといけたみたいだった。はっきりとした波があったわけでは  
無いけれど、終わったあとの倦怠感も、事後特有の敏感になった感触もある。クリトリス  
を使わない時はいつもそんなもんだから、これが中イきの感触なんだと、那津子は考えて  
いる。  
 
「それより、さっきまでの暴走モードは収まった?」  
「へへぇ、御蔭さまで……と言いたいところではあるんだが」  
 中に収めたままのモノを、亮一はピクンと跳ねさせた。先程よりは幾分小さくなって  
いるものの、まだ内にしっかりとした芯がある。  
「…っん。…まあ、好きなだけって言質渡したのは、私だしね」  
「御厚情、痛み入ります」  
「だが先ず小休止を要求する」  
「合点承知」  
 
 快諾して、亮一は彼女の体を抱きしめたまま体を起こす。正常位から、対面座位に移行  
した格好だ。膝を立ててうまい具合にクッションを仕込み、ちょうどいい背もたれを作って  
くれる。  
 但し、お腹の一物を抜く気は無いらしい。那津子もこの体位は嫌いではないが、相方の  
"入れっぱなし"好きには時々辟易することもある。  
 
「とりあえず、水分補給したいんだけど」  
「おう、任せとけ」  
 安請け合いしつつも、顔しかめるまで体をねじり、やっとのことでペットボトルを取っ  
た少年に、彼女はジト目で言ってやった。  
「一度外せばいいだけなのに」  
「ばっか、それじゃ意味ねーんだよ!抜かず二連発ってのは、生でヤレる日じゃないと実  
現できない究極の男のロマ…」  
「うるさい」  
「すみません」  
 腰を上げてやろうかと思ったけれど、亮一が恭しくアクエリのペットを捧げ持ったのを見て、  
那津子は許してやることにした。そもそも、ちゃんと立てたかは怪しいものがあるけれど。  
 
「んっく……っぷは。でも、やっぱ飲みにくいから後でコップ持ってきて」  
「うい。終わったらちゃんと持ってくる」  
 それじゃ何時になることやら、と溜め息をつき、彼女は即席の背もたれに身を預けた。  
深く呼吸すると、下腹の中身も動くのか、亮一のものが中で擦れるのを感じる。  
「水はもういいの?」  
「ん」  
「羊羹食べる?」  
「いや、今はさすがに……」  
「アクエリが合わなきゃ麦茶もあるよ?」  
「……なぜ執拗に飲食させようとする?」  
「頂いた温情に報いたいと思う俺の仁義の心がだな、」  
「いや、単純にもっとアブノーマル染みた企みを感じる」  
 再びにらめっこ勝負になるかと思いきや、今度は亮一があっさりと折れた。  
「なっちゃんが飲んだり食べたりするとね、その内臓の動きがあそこに伝わって面白いと  
いうか気持ちいいというか」  
「………………変っ態」  
「お褒めに預かり光栄です」  
 直前に似たようなことを考えていたせいで、罵倒がワンテンポ遅れてしまった。  
そのことに気付かれたかどうかは分からないけれど、彼の余裕な返しが見透かされて  
いたようで恥ずかしい。  
 
 軽口のネタも尽きて、那津子は溜息とともに顔を落とす。すると、自然に繋がったままの  
そこが視界に入ってきた。  
 股間に一物が深々と突き刺さっている光景は、いつ見ても異様だ。あの太さのものを  
体重かけて揮われるわけだから、そりゃあ大変なわけだと納得する。股座は激しい抽送で  
掻き出された蜜がびしょびしょに溢れていたが、亮一の精液は栓が効いているのか、  
まだ垂れてきていない。  
 ふと、男の子の入れっ放し願望の理由が分かったような気がした。相手へ確実に自分の  
遺伝子を流し込みたいという、牡の本能なのだろうか。  
 でも、するていと、中出しした後に、逆流するのを見たがるアレは何なのだろう。一種の  
マゾヒズムか何かか?  
 
 なんて、那津子が酷い物思いにふけっている間に、亮一の手が彼女の両胸に伸びていた。  
膨らみを正面から鷲掴んで、全体をゆったりと揉みこんだり、時々乳首を口に含んだり。  
「ん……もうはじめるの?」  
「どーかなー。とりあえず、あるもの触らないのは勿体ないので」  
 徒に快感を煽るようなことはしなかった。一回目の後戯だか二回目の前戯だが分からない  
ような、曖昧なペッティング。  
「あー。こうしてると、夏も終わりを感じるなー」  
「おっぱいに季節感なんてなかろうに」  
「いやいや、そんなことないぞ? 夏場の汗かいた谷間の匂いは……だー、すまん、  
悪かったって!」  
 今度は本気で立とうとしたのだが、やはり途中で腰砕けしてしまった。半分程抜けかけ  
た強張りが音を立てて中へ戻り、反動で亮一のが浸みだしてくる。  
「でも実際、学校始まったら、こうしてまったり長時間繋がったり出来ないよ? ましてや  
安全日を狙ってなんて」  
「まあ、それは……っん……そうかもね」  
「学校帰りとか塾帰りとか、一・二時間の都合を合せて腰振って身支度して……慌ただしい  
にも程があるぜー」  
「すさまじく身も蓋もない言い方だが、……一理はあるか」  
「だからだね。こうして…あむ……。時間を気にせずなっちゃんのおっぱいを堪能できる  
のも僅かかと思うと、夏の終わりの寂しさをひしひしと感じるわけですよ」  
「綺麗に纏めようとしているのは評価するけど、あまりうまくはないなぁ」  
「うむ、だんだんと余裕も無くなってきて……いいか?」  
「ん」  
 
 後ろに持たれていた那津子の体を、亮一が再び抱き戻す。角度が合って、彼のものが  
グッと奥まで沈みこんでくる。途中から、中をグイグイと押し広げていたから、彼女もそろ  
そろかなとは思っていた。個人的には、もう二・三分休んでいたいところだったけれど。  
 ただ、今度は一度目のような激しい行為にはならないだろう。さっきのような益体も  
無いお喋りを挟みつつ、時間をかけてゆっくりと交わる。途中、自分本位で終わったと  
思い込んでいる亮一が、一度はいかせに来るだろう。その後、二人でお茶飲んで、羊羹  
食べて、途中でまた彼が那津子の身体で遊び始めて、三回目。終わったころには夕飯だ。  
 
 
 大したお出かけもせず、さしたる雰囲気も無しに、部屋に籠って体を繋げるばかりの日々。  
自分たちの夏は、傍目から見ればそんなものかもしれない。  
 けれど、終わってみればちょっと名残惜しい。ひと夏の思い出なんて呼べるものは無い  
けれど、どこを振り返っても彼とのまったりとした時間がある。  
 それを思い返した時、何となく頬が緩むのが、那津子にとっての西野亮一というものだ  
った。ドラマのような大恋愛にはとんと縁が無いけれど、こういう幼馴染がいる自分は、  
まあ、幸運な部類に入るのだろうと、彼女は思う。  
 
   
 
「……なっちゃんてさ、時々してる最中に、そうふにゃって笑うよね」  
 正常位に戻って、浅い抽送を始めていた亮一が、出し抜けに言った。  
「あに。薄気味悪いって?」  
「何でそうなる……。つか、いつもそんな風に笑ってくれると、安心するんだけどなー」  
「安心?」  
「うむ。なんつーか、わたし幸せですって感じだからさ」  
「……亮ちゃんってさ、時々してる最中に、ヤな感じでナルシストよね」  
「っうえ!? なになに? どゆ意味?」  
 那津子は無言で両手を伸ばし、亮一の頭を抱き寄せると、小うるさい唇を封じて  
黙らせる。  
 
 ひとまず、今は余計なことを考えずに、この夏最後のロスタイムを満喫しよう。  
 

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