さゆりは万策が尽きた。
目の前には幼馴染の明良が、変わり果てた姿で、
退魔師である彼女を襲おうと隙を狙っている。
明良は触手を幾本も従える悪魔の依り代となり、憑依されてしまったのだ。
グロテスクな触手がうねうねと動き、さゆりの行動を鋭く観察している。
さゆりは右手に護符を構え、悪魔に見せつけていた。
この「封魔の護符」は、戦いで護符を使い果たしたさゆりの手元に最後に残った、
禁断の札である。
それは退魔師の就任式で、巫女装束に身を包んだ新米退魔師1人1人が手渡された、
史上最強と謳われた逸品中の逸品だ。
実はこの護符、「封魔」とは名ばかりで、極めて残忍な効力を持つ。
強力な悪魔でさえ、これを食らうと細胞ごと木っ端微塵に吹き飛んでしまうと言われている。
それゆえに護符の製法は極秘とされ、また生産量も極めて少ない。
今さゆりは、生まれて始めて、その護符を使う構えを見せている。
護符の威力を知り尽くした悪魔への牽制には、この構えは確かに効果があった。
悪魔は隙をうかがいながらも、さゆりには襲ってこない。
しかし、悪魔の依り代となってしまった明良を思うと、
これを明良めがけて使うなどさゆりには考えられない。
悪魔とさゆりのにらみ合いが続いた。
緋袴の巫女装束に身を包み、長く伸びた黒髪を赤いリボンで束ねた、
美しい顔立ちの少女に今、焦りを示す汗が流れる。
護符を使うか、それとも捨てるか。
退魔師が護符を捨てるという事は、
悪魔からの激しい陵辱を受けることと、その後に待ち構える彼女の死を意味する。
ただし、さゆりを食らった悪魔は、彼女の体内に密かに仕込まれた神経毒に犯され、
生き残った明良を残して塵となって死ぬ。
一方、さゆりが護符を使うという事は、
退魔師としての任務の完遂と、幼馴染の明良の死を意味する。
生き残ったさゆりは、退魔師としての格を上げ、師範代の称号を得られるかもしれない。
助けるべき命は二つ。助かる命は一つ。
残された選択肢は、他にない。
さゆりは心を決めた。
それは自らの命を捨て、悪魔に陵辱されるという、辛い決意であった。
いや、それは戦いの前から、内心覚悟していたことでもあった。
依り代を持った悪魔を、その依り代ごと死に至らしめる事は、
退魔師だけに許された特権中の特権である。
人を死に至らしめることを許されてしまうほど、
一度悪魔に憑依された人間が生き残る可能性は少ないのだ。
さゆりは護符を地面に置き、履物と白足袋を脱いで素足になると、
静かに緋袴の帯を解き始めた。
退魔師としての誇りである装束を、傷付けられたくなかったのだ。
そんなさゆりを見ながら、悪魔は触手を揺らしながらも、まだ襲ってはこない。
さゆりの行動を、罠とみて警戒しているのか。
帯を解かれた緋袴は、その重力に抗うことなく、するりと白衣を伝って足元に落ちた。
さゆりは続けて白衣に手をかけ、帯を解いて袖を抜く。
空気を含みながら白衣がゆっくりと落ちると、襦袢の下から、
フリルとリボンに飾られた、薄いピンク地のショーツがあらわになる。
動きづらくなることが多いので、さゆりは肌着を着けてこなかったのだ。
さゆりは襦袢と下着だけの姿を、悪魔に晒した。
さゆりは頬を染め、羞恥に耐えるように下唇を噛む。
剥き出しになったショーツの周囲に冷たく風が流れ、なんとも心許ない。
本来退魔師の下着は白と決められている。
だが、さゆりもまた、一人の少女であった。
下着の柄選びは、化粧や着飾りを殆ど許されない退魔師さゆりの、
数少ない、密かな楽しみだったのだ。
それを悪魔に、そして明良に見られている。しかも、自分から見せ付けている。
ショーツの中からもじもじとした妙な感覚が生じ始める。
さゆりは慌てて、襦袢を解く。
へんな迷いを起こすと悪魔まで取り逃がして、今度こそ明良を助けられなくなる。
襦袢の下には、ショーツの柄に合わせた、
やはりフリルで縁取られたブラジャーがあらわれた。
乳房はふっくらとしたふくらみを持ち、それでいて張りがある。
美しい形をした少女の双丘が、布切れ一枚で覆われている。
さゆりは、染めたままの頬で勇気を振り絞って悪魔の方に向く。
そして、両腕を僅かに広げ、抵抗しないことを示しながら、
下着姿のまま、ゆっくりと悪魔に向かって歩き始めた。
本当のさゆりは、泣き出したい気持ちでいっぱいだった。
本当ならこれは「明良」に見てもらいたくて買ったブラとショーツだった。
もし明良に、自分への気持ちが少しでもあるなら、緋袴を脱がされ、
二人でベッドに腰掛けて寄り添い合い、軽い口づけを交わしながら、
ほんの少しばかり強引にリードされながらベッドに押し倒され、
処女を捧げるのが夢だった。
明良に襟元から手を入れられて、ブラとともに、そのふくらみを、
そしてつぼみのような乳首を感じて欲しかった。
太ももから白衣を掻き分けて、ひたかくしにしてきたさゆりのショーツに、
そっと手を触れて欲しかった。
興奮を必死に抑えながら迫ってくる明良を、ほんのちょっと怖く思いながら、
それでも身を委ねてしまう自分に酔ってみたかった。
装束のまま男と交わるなど禁忌中の禁忌であったが、
さゆりの妄想の中では、いつも退魔師としての姿で明良に身を任せていた。
だが、それももう叶わない。
今から自分は、明良であって明良ではない、醜い悪魔に処女を散らされる。
そうして四肢を食いちぎられ、さゆりともども悪魔が散る。
でも、それで明良が助かるならば。
大切な大切な、さゆりの初恋の相手が生き延びてくれるのならば。
目元に溜まった涙が流れぬように、必死にこらえながら、
さゆりは静かに、悪魔へとその身を捧げようとしていた。
(試作品・了)