もうすでに一線を越えてしまっていた瀬戸は、何の迷いもなくさや香に肉薄した。  
ぺたりと座りこんだままあっと短く叫んで後ずさろうとするさや香のふくらはぎを掴んで引き寄せた。  
自然とうつ伏せに倒れこんださや香にのしかかる。  
茶色いズボンを下着と一緒に膝のあたりまで下ろすと、陶器のように白くすべすべした双丘が目に入った  
「ごめんなさい…」  
さや香は瀬戸を振り返って目に涙を浮かべてそう口にした。  
さや香がここに通い始めた頃、瀬戸が目を離したすきにテーブルの上にあった果物を勝手に食べていたので、定規で彼女の尻を打ったことがあった。  
おそらく今自分の身に起こっていることが、あの時のものと同じ種類のものだと思っているのだろう。  
そして、自分がどんなお仕置きをうけるようなことをしたのだろうかと混乱しているに違いない。  
瀬戸は無言で後ろからさや香の脚の間に手を伸ばした。  
すでにはちきれそうなほど昂っている瀬戸に対し、もちろんさや香の側は受け入れる準備などできていない。  
しかし、瀬戸には床の上で女と交わる時のように、丁寧な愛撫を施すつもりはなかった。  
毎夜の妄想のように、一刻も早く繋がりたかった。  
それにいつ誰が教会に訪れるかもしれない。  
その前に思いを遂げてしまいたかった。  
 
さや香の口に指を入れて唾液をすくい取り、それを秘所に擦りつける。  
「ねえ、神父さま…、神父さまってば…!」  
何度呼んでも答えてくれず、荒い息使いで自分の秘所を弄る瀬戸に恐ろしくなったのか、さや香はとうとう泣き出してしまった。  
「やめて…。ねえ、何してるの? 重いよ…」  
これから自分の純潔を散らされるということなどおそらく知りもしないだろう。そして、その意味も。  
自分を受け入れられそうになるまで無理やりさや香を潤わせると、上服のボタンを外し、自分も膝までズボンと下着を下ろして肉茎を取り出した。  
うつ伏せのまま少し脚を開かせ、手で先端を少し押し込み、ぐっと腰に力を入れる。  
さや香が体を震わせて悲鳴を上げた。  
「痛い…やだぁ…!」  
瀬戸から逃れようとするさや香の頭を抱え込み、もう片方の手で彼女の口を塞いだ。  
「少し体の力を抜いて」  
瀬戸が低い声で言うと、さや香は抗うように首を振ってますます身を固くした。  
何度かなだめるように頭を撫でたが、さや香の反応は変わらない。  
瀬戸は諦めてさらに腰に体重をかけた。  
一瞬何かに引っ掛かるような感触の後、熱い粘膜に包まれた。  
さや香の絶叫が瀬戸の掌を震わせた。  
苦しそうに鼻で息をしながら泣き叫ぶさや香と対照的に、瀬戸は深い息をひとつつくと、ゆっくりと腰を使い始めた。  
さや香の中で出血が始まり、摩擦が滑らかになってくる。  
それとともに、瀬戸を拒んで押し返そうとする刺激に、めまいを覚えるほどだった。  
 
瀬戸はもともと信仰心が強いわけではなかった。  
妾の息子だった瀬戸は、彼が5歳の時に父親であった実業家が死んだ後、母と二人で路頭に迷うことになった。  
その時に転がり込んだのが小さな教会で、それが瀬戸とキリスト教との出会いだった。  
母親が教会の管理人や司祭の生活の世話をする傍ら、瀬戸は司祭から英語と神学、それと読み書きや算盤を中心に教育を受けた。  
瀬戸が15歳の時に母親もこの世を去り、教会に居辛くなった彼は寄宿舎つきの神学校に入学した。  
学校に行きたいという強い気持ちはあったが、貧しくほとんどまともな教育を受けていなかった瀬戸には、他に選択肢がなかったのだ。  
だから、神学生時代はこっそりカフェの女給と関係を持ったり、女を買ったこともあった。  
背がすらりと高く、少し冷たい雰囲気ではあるが男ぶりが良い瀬戸は、それなりに女にもてた。  
ただ、長いつきあいになると困るので、どの女とも一度きりの関係に留めるようにしていた。  
 
これほどの興奮と快楽を得たのは初めてだった。  
神学校を卒業してから女と交わったことがなかったせいもあるだろうが、神父としての禁忌を破ったことや、何も知らない可憐な生娘を腕づくで凌辱していること、それがここ何カ月か手に入れたくてたまらなかった少女であることといった、様々な理由が瀬戸を追いたてていた。  
徐々に呼吸とうめき声が上がって行く瀬戸に対し、さや香は諦めたように脱力し、男に背後から突き上げられるたびに小さく声をあげて嵐のような時間が過ぎるのを堪えていた。  
さや香の声は一層男を煽り、絶頂へと追い立てた。  
達する瞬間に昂りを引き抜き、柔らかなさや香の腿の間で果てた。  
しばらく少女を掻き抱いたまま呼吸を整えた後、体を離した。  
腿の間を破瓜の血と瀬戸の精液で濡らしたさや香は、うつ伏せたまま、顔だけを横に向けて目を閉じてすすり泣いていた。  
 
瀬戸は額に浮いた汗を拭い、服を整えながら眼鏡を探した。  
テーブルの上に置いたはずのそれはいつの間にか床に転がり、レンズにひびが入っていた。  
替えの眼鏡を持っていないので、しかたなくひびの入った眼鏡をかけて、台所に洗面器を取りに行った。  
台所の入口のそばの壁にかけてある鏡に自分の姿が映ったのを見て、瀬戸は溜息をついた。  
ひどい姿だった。  
床で事を行ったため、黒い神父服はあちこち埃や外から来た砂や土で白く汚れていた。  
いつもはきちんと整えている髪も乱れてぱらぱらと額にかかり、幾筋か汗で張りついていた。  
それに何より、獣欲を遂げたばかりの目は赤く血走りどんよりと濁っていた。  
 
台所に入り、流しに伏せてあった洗面器に甕に汲み置きしてあった水を入れ、手拭いも持って部屋に戻った。  
ストーブのやかんから湯を洗面器に移し、ちょうど良い温度に調節して、テーブルの上に置いた。  
倒れたままだった椅子を起こし、そこにまだぐずぐずと泣いているさや香を浅く座らせた。  
洗面器のぬるま湯に手拭いを浸して堅く絞り、涙に濡れた目元を拭ってやる。  
眼鏡をかけて近くで見ると、頬も汚れているのがわかった。  
一度手拭いを濯いで、頬の汚れも落としてやる。  
「怖い思いをさせたね」  
さや香の足元に屈んで顔を覗き込むと、彼女は潤んだ目で瀬戸をじっと見つめた。  
汚されたばかりだというのに澄んだままの瞳に胸が苦しくなり、瀬戸はすぐに視線を逸らした。  
膝のあたりまで下げられたままのズボンと下着を脱がせる。  
脚を広げると内腿に純潔と欲望の証がこびりついていた。  
この時になって瀬戸は初めてさや香の秘所を見た。  
彼女の髪と同じように少し色の薄い茂みにささやかにおおわれた性器に薄く血が滲んでいた。  
先に性器を拭うと、手拭いに赤い色が滲んだ。  
それが見えなくなるまで何度か繰り返し、次に内腿を清めた。  
 
後始末を終えてさや香の服を整えると、もう一度さや香を椅子に座らせ、彼女の手を取った。  
「いいかい、このことは私たちだけの秘密だよ。誰にも話しちゃだめだ」  
諭すように言うと、さや香は無言で頷いた。  
だが何か瀬戸に言いたそうに、ぎゅっと唇を噛んでこちらを見つめている。  
「どうしたの?」  
と、瀬戸が尋ねると、  
「神父さまは、あたしのことが嫌いになったの?」  
今にも泣きだしそうな表情で答えた。  
少し声が震えていた。  
「嫌いになんてならないよ。どうして?」  
瀬戸はさや香の頬に触れた。  
「じゃあ、どうしてあんなに痛いことしたの?」  
言葉を探したが、どうしても答えられなかった。  
「本当にすまなかった」  
「じゃあ、もうあんな痛いことはしないでね」  
子供にでも言い聞かせるように、さや香は自分の前にしゃがんでいる男の白髪混じりの髪を撫でた。  
「約束する」  
「ならいいわ。許してあげる」  
さや香はそっと口元に笑みを浮かべた。  
「さや香ちゃんは、私の事が嫌いになった?」  
「ううん、あたしは神父さまのこと好きよ。ときどき怖いけど、優しいし、物知りだし、いろんなことができるから大好き」  
精神が幼く無知な少女を凌辱して、何も教えないままこんなことを言わせている自分が、神父である以上に人間としてどれだけ酷いかという自覚はあった。  
だが、彼女が自分を拒絶してはいないのを知ったことで、これで終わりにするのが急に惜しくなってしまった。  
「これからもここに来てくれる?」  
「いいわよ」  
何を当たり前のことを聞くのだという風に返事をするさや香に愛おしさがこみあげ、瀬戸はさや香の唇を塞いだ。  
少し啄ばむようにして離れると、  
「へんなかんじ」  
とさや香がはにかんだように微笑んだ。  
 
 
翌日、午前中の仕事を終えた瀬戸は眼鏡の修理をするために町へでかけた。  
「レンズが取り寄せになるから、少し時間がかかるよ」  
洋画家のような雰囲気を持つ眼鏡屋の主人は、それまでの代わりの眼鏡にと、いくつかカウンターの上に並べた。  
試しにかけて、レンズの度が合うものを選んだ。  
いつもの細い銀縁のとはまるで違う、太い黒縁の眼鏡だった。  
鏡を覗くと、見慣れない陰鬱で神経質そうな男がこちらを睨みつけていた。  
自分の顔はこんな風だっただろうかと凝視したが、変化はなかった。  
それに、レンズも壊してしまったものより少し大きく、どこか座りが悪いようで落ち着かなかった。  
何度かかけなおしては位置を調整する瀬戸に、眼鏡屋の主人は、  
「すぐ慣れますよ」  
と言い、簡単に作った見積書を渡した。  
眼鏡屋を出て少し歩いた露店で、林檎を売っていたので、さや香に剥いてやろうとひと山買った。  
 
乗合馬車の乗り場にちょうど馬車が止まっていた。  
瀬戸が荷台に乗りこむと、病院帰りと思しき老女や、買い物帰りの親子が軽く会釈をした。  
瀬戸もそれに応えて頭を下げてベンチに腰を下ろしたところで、  
「あれ、神父さま」  
と、声をかけられた。  
声の主である、向かいに座った大きな風呂敷包みを抱えた男には見覚えがあった。  
確か、駅前の海産物問屋の若い衆だったはずだ。  
これから農場の方に乾物でも売りに行くのだろう。  
「眼鏡を変えたんですか? 誰だかわかんなかったや」  
「ちょっと、壊してしまって」  
「ふうん。そっちの方が男前に見えますよ」  
ハンチングの下のにやにや笑う狡猾そうな目が、もしかして自分が眼鏡を壊した理由を知っているのではないかというあらぬ妄想を抱かせた。  
男が差し出してくる裂いたするめを受け取りながら、瀬戸は曖昧に笑った。  
 
 

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