■山寺の夜■
昔々あるお山に、小さな妖狐が一ぴき棲みついていました。
彼女――キツネ娘はひょんな縁から禅寺のお坊さまと知り合い、交流を持つようになります。
時が巡り、いつしかキツネ娘はお寺を守り、お山一帯をも守護するようになっていました。
キツネ娘は肉食系・武闘派のあやかしです。
魑魅魍魎や悪党……外敵がお山に侵入したと知ると、真っ先に駆けつけ、片っ端からやっつけて回るのです。
餌場を荒らされたくなかった為の行動ですが、同時に
修行中の雲水たちの安全を確保する結果ともなりました。
肌寒い早朝のこと。
腹ぺこのキツネ娘は薄闇に紛れ、するりと僧堂に入り込みました。
腕には山菜・キノコ・木の実など、自分の縄張りで調達した山の幸をどっさり抱えています。
人間に対して親愛の情を示す為のお土産です。
いつも通り、最初は典座に向かいます。
「あぶらげ、もーらいっ」
キツネ娘用にと特別に設えられた祭壇にお膳が上げられており、油揚げと何品かのおかずが供えてあります。
キツネ娘がいつ訪ねて来ても良いようにしてあるのです。
その辺へ適当にお土産を置くと、キツネ娘はさっそくご馳走を摘みます。
お坊さまのこしらえる油揚げは天下一品です。
十分お腹が膨れると、キツネ娘は境内の散策に繰り出しました。
戸外に出た矢先、お寺をねぐらにしている野良猫がとてとてと近寄って来ました。
「にゃん」
「ア、かわいい奴がおる。猫ちゃんこっち来な」
ヒョイと猫を抱き上げるキツネ娘。
その時、ふいにお堂の方から男たちの野太い合唱――朝のお勤めが聞こえて来ました。
「おはげちゃんたち、今日も変なうた歌ってるね。ぷぷぷ」
尖耳をぴくぴくさせて音を拾い、愛撫しながら猫に話し掛けます。
読経の真似をして小鳥がさえずるようにお経を口ずさみながら、
キツネ娘は懐から干した魚を取り出し、野良猫に与えてやりました。
元々はお坊さまへの贈り物として山川で仕留めた獲物ですが、
獣や魚は生臭物だからと、受け取ってくれません。
人外同士通じるものがあり、しばらく猫と戯れます。
その後は境内に敷かれた玉砂利の上をコロコロ転がったり、
舞い散る赤い木の葉に合わせて踊ったり、冬眠中のカエルを土から掘り返し、
寝惚けた顔をつついて起こす意地悪……などして遊んでいました。
お寺の若僧たちが境内の清掃を始めていましたが、住職によく言い含められているのか、
キツネ娘を見咎める者は誰もいません。
キツネ娘は、背筋の伸びた剃髪の男たちを物色しました。
しかし、お坊さまより美味しそうな男は見当たりません。
“お坊ちゃん”のことを考えると、唾液が活発に分泌し、胸がきしみ、腰が疼くのです。
独り遊びにも飽き、キツネ娘は住職の居室に赴きました。
月日が流れ、かつて典座寮で修業を積んでいた若いお坊さまは、お寺の主僧になっていました。
縁側に座って足をプラプラさせながら待っていると、金ぴかの袈裟を纏ったお坊さまが戻って来ました。
「おや、来ていたのか。……また怪我を作って」
開口一番哀しげに言うと、お坊さまは棚から薬箱を取り出しました。
山を侵す悪者との戦いで傷つき、キツネ娘は全身に細かい怪我を負っていたのです。
時に、血塗れになって訪れることもありました。
怪我の理由を尋ねられた時、何となく話したくなくて黙っていると、
それからお坊さまは何も聞かず、手当てだけするようになりました。
処置が終わると直ぐ、キツネ娘はそこが自分の定位置であるかのように、
お坊さまの膝上にシュタッと飛び乗ります。
くるりと体を丸め、もこもこの毛玉になって膨らみます。
お坊さまの衣には伽羅や白檀の甘い香りが染みついていました。
鼻を鳴らしてそれを胸いっぱいに吸い込むと、キツネ娘は安らかな気分になりました。
お坊さまの広い掌が、なつく毛玉を優しげに撫でました。
一緒に日向ぼっこをしたり仲良く手を繋いで庭園を散歩したりした後、
例によって精気を分けて貰い、キツネ娘はお山に帰りました。
――しん……と静まり返った深夜のお寺。
キツネ娘は気配を殺し、月明りを頼りとして再び方丈に忍び込みました。
罰当たりにも、お坊さまに性的悪戯を働きに来たのです。
お坊さまはまるで父や兄のように接するだけで、一向に手を出して来ません。
彼が望めば、どんな艶やかな美女にでも化けられるのに。
それがキツネ娘にとって不満でした。
まず、目を覚まさぬようお坊さまの体にまじないを掛けます。
魔羅遊びがバレると後でこっぴどく叱られてしまうからです。
正座させられ、足の感覚が失せるまでお説教を聞く羽目になるのです。
暖かな布団にもぞもぞ潜り込み、逞しい足の間に割って入ります。
「キノコとおいなり発見イェイ☆ でっけぇ」
目当てのモッコリを探し出し、思わず舌舐めずりするキツネ娘。
根元を指で固定し、ふぐりを転がしつつ、ゆっくり頭を上下させ吸茎を始めます。
続けていると、やがて力強く肉茸が脈動しました。
子種の糸を引かせながら、満足げに口を離します。
「ん、んぅ……」
魔羅遊びの余韻に浸り、お坊さまにくっついて微睡んでいると、お坊さまが低く唸りました。
まじないが解けかけている証拠です。
キツネ娘は、鬼歯を剥き出しにして大あくびし、両手で重い瞼を擦りました。
空にはもう、清涼な朝の気配が近づいて来ています。
キツネ娘は密かな逢瀬を終わらせ、名残惜しげにその場を後にしました。
程なくして、山寺に払暁が射しました。
おすまい。
(-ノ-)/Ωチーン……合掌( ̄人 ̄)ナムナム