■お坊さまのお稲荷■  
 
昔々あるお寺に、典座寮の若いお坊さまがいました。  
ある日、お坊さまは参拝客に振る舞うための精進料理を作っていました。  
 
その様子を、物陰からこっそり覗く視線があります。  
粗末な身なりの愛くるしい童女です。  
しかし人間ではありません。  
狐の耳としっぽを生やした妖怪です。  
キツネ娘はヨダレを垂らしていました。  
ほんのり湯気の昇った出来たての油揚げを、物欲しげに凝視しているのです。  
 
「珍しいな、あやかしの娘か。……ほら、おいで。お稲荷さんをこさえてあげよう」  
心根の優しいお坊さまは、微笑んで手招きしました。  
キツネ娘はぱあぁっと顔を輝かせます。  
 
甘辛く煮た焦げ色の皮に、具だくさんの山菜おこわを詰め、小皿に取ってやります。  
お腹をすかしたキツネ娘は、稲荷寿司を夢中になって頬張りました。  
「おいちいっ」  
口元にご飯粒を散らかしながら貪る光景は、お坊さまの心を和ませます。  
 
お坊さまは、異形の者にも慈悲の心を持って接しました。  
相手が誰であろうと、誠意を込めて、おもてなししたいと考えているのです。  
 
「食べ終わったら、もうお帰り。お師匠様に見つかれば大目玉を喰らうからね」  
「はあい。またねー、お坊ちゃん」  
元気にぴょんぴょん飛び跳ね、キツネ娘はいずこかへ帰って行きました。  
 
次の日もまた、キツネ娘が厨(くりや)を訪ねて来ました。  
 
「お坊ちゃん、おいなりちょうらい」  
「すまない、今日は油揚げを切らしているんだ。  
 代わりにお結びを握ってあげるから、そこで待っていなさい」  
作務衣の前掛けで手を拭き拭き、お坊さまは言いました。  
 
「やだいやだい! おいなりがいいんだい!」  
ところが、キツネ娘はジタバタと駄々を捏ねます。  
「弱ったな……」  
 
困って頭を掻くお坊さまを尻目に、キツネ娘がはしゃいだ声を上げました。  
「アッ、おいなりあるやん。お坊ちゃんのおいなり見っけ!」  
なんと罰当たりにも、キツネ娘は褌のモッコリを鷲掴みにしたのです。  
「もみもみ」  
紅葉のような手が二個のふぐりを揉み上げました。  
 
真っ赤になったお坊さまは、慌てて叱り飛ばします。  
「コッ、コラー! 何をする、止めなさい!!」  
「ぁ、あう……お坊ちゃんが怒った」  
「いや、あの……」  
あどけない童女がベソをかいたので、お坊さまは怯んでしまいました。  
 
「ちゅっ」  
するとキツネ娘はドサクサに紛れ、お坊さまの口を啄ばみます。  
「ヤタァー! ひっかかった、ひっかかった」  
ころころ笑い転げるキツネ娘。  
「大成功! 大成功!」  
喜びにプリプリしっぽを振りながら、キツネ娘はいずこかへ逃げて行きました。  
 
まじないの接吻を受け、ごっそり精気を吸われたお坊さまは、その場にへたり込みました。  
魔性の狐にまんまと騙されてしまったのです。  
お坊さまは股間の怒張を抑えることが出来ませんでした。  
 
その後、煩悩を振り払うため座禅を組み、老師に喝を入れて頂きました。  
それから若いお坊さまは、より一層修行に励み、立派な僧侶になったということです。  
 
おすまい。  
(-ノ-)/Ωチーン……合掌( ̄人 ̄)ナムナム  
 

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