若き神父はそろそろ礼拝堂を閉めようと鍵の束とランプを携えて、扉を開けて建物の中に入った。  
月明かりが差し込むだけの礼拝堂に、人影が一つ見えた。  
真ん中あたりの列のベンチに腰かけ、まっすぐに正面の祭壇を見つめているようである。  
「誰?」  
ランプを掲げて声をかけると、人影はゆっくりとこちらを振り向く。  
「神父さま」  
静かに発した声には聞き覚えがあった。  
「きみか」  
村はずれの娼館で働いている娘だった。  
遠くの町から売られてきた娘で、この教会の熱心な信者だった。  
ブルネットの髪をいつもきっちりとお下げに結い、首元までブラウスのボタンを嵌めた姿からは、とても春を売って生きているようには見えなかった。  
「何かあったの?」  
神父が尋ねると、娘は首を横に振った。  
「いいえ、何もありません。今日は夜だけ休みをもらえたので、静かな場所でひとりになりたくて。でも、そんな場所、ここくらいしか思いつかなかったんです」  
「そうか。もう閉めようかと思っていたんだが、それならば、ゆっくりしていきなさい」  
そう言って、外へ出ようしたところを呼びとめられた。  
「いっしょにいて下さいませんか?」  
「ひとりになりたかったんだろう?」  
「やっぱり、ひとりは寂しいです。お嫌でなければ、少し隣にいていただけませんか?」  
娼婦とは思えないほど可憐で意地らしく暮らしている娘を、神父は普段から憎からず思っていた。  
もちろん、それはこの娘と情を通じたいというようなものではない。  
娼婦のような仕事をしていることを普段から懺悔し、熱心に教会に通っている彼女の支えになりたいと思っていた。  
おそらく満足に食事を与えられていないだろう彼女に、パンやスープや果物を分け与えることもあった。  
そんな娘に一緒にいたいと言われ、断れるはずもなかった。  
「私でいいのなら」  
隣に腰かけると、石鹸の匂いが漂ってきた。ここに来る前に、身を清めてきたのだろう。  
「もちろんです。ありがとうございます」  
薄暗い中、娘の瞳が月明かりを反射してきらきらと輝いていた。  
日々のつらい暮らしのなかで、彼女はどうしてこんなにも清らかでいられるのだろうかと、神父はこの娘を崇拝したいような気持に襲われた。  
「君を見ていると、自分が恥ずかしくなるよ」  
思わず口にしてしまった言葉に、娘は恥ずかしそうにうつむいた。  
「そんな…わたしなど…」  
それきり言葉が途切れ、沈黙が流れたが、不思議と気まずいものではなかった。  
暗い聖堂の中で、隣で静かに目を閉じて座っている娘の穏やかな息遣いを感じているだけで、心が癒されるようだった。  
 
やがて、どこからか獣の遠吠えが聞こえ、娘が怯えたように息を呑んでわずかに身を寄せてきた。  
「狼だね。でもずいぶん遠くだ。心配することはない」  
娘に目をやると、本当に怯えた様子で固く目を閉じていた。  
神父は溜息をつき、  
「怖いなら、しばらくそうしていなさい」  
と声をかけた。  
すると娘は、彼の右腕を抱きしめるようにして自分の体を密着させた。  
やわらかなふくらみを上腕に感じ、今度は神父の方が息を呑んだ。  
「少し離れてくれないか…」  
娘の気を悪くしないように言うつもりだったが、娘の体の感触が思考を阻害し、直接な物言いになってしまった。  
「どうしてですか?」  
娘が潤んだ瞳でこちらを見ているのが視界に入り、神父は目を逸らした。  
「神父さまは、わたしのことがお嫌いですか?」  
「そうじゃない」  
娘から離れようと、彼女とは反対の方向へ体をずらしたが、それを追うように娘は神父の肩に手を載せてきた。  
「神父さま、以前からお慕い申しておりました」  
耳を甘咬みしながら囁かれ、背中をぞくぞくと悪寒のようなものが走った。  
「やめなさい!」  
神父は慌てて娘の体を引き剥がした。  
その時見えた妖艶に微笑む顔つきは、彼が知っているこの娘のものではなかった。  
「おまえは誰だ!?」  
「あなたが抱きたがってる娘じゃないの」  
狼狽した神父をからかうようなその口調も、いつもの娘からは想像もできないものだった。  
「まさか…!」  
「ご明答。自分で化けてもよかったんだけど、ちょっと体を借りたのよ。どうせなら、お互い楽しい方がいいでしょう?」  
神父はベンチから逃げ出そうとしたが、中央の通路に出たところで、急に脚がきかなくなり、体のバランスを崩して床に倒れてしまった。  
「最近、若い神父が減ってきて、食事するのも大変なのよ」  
くすくすと笑いながら近づいてきた娘は、神父を仰向けにすると腹のあたりに馬乗りになった。  
「何をするつもりだ…」  
神父は娘を押しのけようとしたが、固く戒められたかのように身動きが取れなかった。  
「知らないわけじゃないでしょう?」  
神父を見下ろしながら、娘は三つ編みを解いて、ブラウスのボタンを途中まで外した。  
緩やかなウエーブをたたえて広がる艶やかな髪と、ブラウスの胸元から覗く白い乳房に、こんな状況だというのに鼓動が速くなった。  
「ちゃんと反応できるじゃないの」  
内腿に当る神父の股間の感触を娘が嘲笑った。  
あまりの屈辱に、神父は目を閉じた。  
「いいこと教えてあげようか?」  
神父に馬乗りになったまま、娘はぐっと身を乗り出してにやりと笑った。  
「この娘ね、あんたのこと本当に好きなのよ。優しくされて、すっかり惚れちゃって。客を取ってる時も、あんたのこと想像してるのよ。よかったわね。せっかくだから、さわってあげなさいよ」  
娘は神父の手を取って、スカートの中に導いた。  
「やめてくれっ…」  
手を引こうとしたが、娘の力にかなわず、むりやり滑らかで柔らかな感触を味わわされた。  
「そんなこと言ってぇ。優しくしておけば、自分もおこぼれにありつけるかもしれないなんて、思ってたんじゃないの?」  
「そんなっ…」  
「図星なのね。かわいい」  
娘は自分の唇をゆっくり舐めると、これから起こるであろうことに怯えて震えている神父の唇に押し当ててきた。  
 
荒い息遣いとともにしばらく神父の唇を貪り、娘は唇を離した。  
神父はすでにすぐにでも放出してしまいそうなほど昂っていることを自覚し、目に涙を浮かべて神に祈った。  
「神父と初心な娼婦のプラトニックな心の交流なんて、聖人にでもなったつもり?」  
二人の唾液でぬらぬらと光る唇をもう一度舐め、娘は神父の股間に手を伸ばした。  
「かわいそうにねぇ、この娘が毎晩客を取ってるところを想像して、悶々としてたんでしょう?」  
固くなった部分を手のひらで強く押され、全身に鳥肌が立った。  
「まあ、心配しなくても、この娘、客を取ってる時もあんたの好みの通り、初心な感じだから。だから、人気があって客も多いんだけどね。毎晩、少なくとも三人は取ってるのよ」  
「やめてくれ…」  
娘の話に、どうしてもその場面を想像せずにはいられなかった。  
「また大きくなったんじゃないの?」  
娘は嬉しそうに神父のズボンを脱がしにかかった。  
下着とともに膝まで引き下ろした拍子に目当てのものが勢いよく姿を見せると、娘は歓喜の声をあげた。  
「それじゃあ、遠慮なくいただくわね」  
そう言うや否や、なま温かいものに包まれ、神父は低く呻いた。  
「やめろ…頼む…」  
歯を食いしばって耐える神父を気にも留めず、娘は神父の昂りを根元までくわえ、口中で味わっていた。  
「ああっ…」  
生まれて初めての感触に、すぐにでも気をやってしまいそうだった。  
脂汗を流しながら耐える神父の顔を上目遣いで見ながら、娘は口中で脈打つものに舌を絡ませた。  
舌先で鈴口をくすぐってやると、神父は女のような声を上げてあっけなく放出した。  
「ああ…」  
どくどくと放ちながら、神父は目から涙を溢れさせた。  
「いっぱい出しちゃって。どれくらい溜めてたの?」  
白濁を美味そうに飲み下し、娘は下品に問いかけた。  
「ああ美味しかった。やっぱり若いといいわね」  
娘はすすり泣く神父の頬を撫で、服を脱ぎ始めた。  
「出なくなるまでいただくわよ」  
白い裸体を晒し、娘は再び神父に馬乗りになった。  
そして未だ萎えない先端を秘所に押し当てた。  
娘のそこはすでに十分潤っており、そのぬめりに神父は声を漏らした。  
「やっぱり経験がないと感じやすいのね。すぐに出しちゃってもいいのよ」  
「お願いだ、やめてくれっ!」  
「一緒に楽しみましょう」  
神父の必死の訴えも聞き入れず、娘は腰を沈めた。  
若い神父を犯す喜びですでに十分潤っていたその部分は、やすやすと彼を迎え入れた。  
「いやだ…やめてくれ…」  
神父は快楽と屈辱の狭間で嗚咽を漏らし始めた。  
「動くわよ」  
娘がゆっくりと腰を振り始めた。  
初めて味わう熱い粘膜に数度擦られただけで、神父は達してしまった。  
彼は言葉もなくただ涙を流していた。  
その様子を見下ろしながら、  
「いいわよ。その調子でどんどん出しなさい」  
娘は腰の運動を続けた。  
「こんないいものを持っているのに、神父だなんてもったいないわね」  
淫魔があの可憐な娘の姿や声で、下品なことを口走り、淫らな行為をしていることが耐えられなかった。  
しかし、同時にそのせいで自分がこんなにも昂ってしまうことを自覚し、神父は何度も放出しながら神に懺悔した。  
こんなことになってしまったのは、おそらく今自分を貪っている淫魔の言う通り、娘にわずかにでも下心があったからだろう。  
その心の隙を突かれてしまったのだ。  
そう思うと、娘にも申し訳ない気持ちが湧いてきた。  
 
正気に還った時、自分が神父と交わってしまったと知ったら、彼女はどう思うだろうか。  
「神父に惚れた…この子だって悪いんだから…気にすることないわ…ああっ…」  
淫魔には人の心を読む能力でもあるのか、喘ぎ声を上げながら娘に慰められた。  
その時の彼女の視線が、いつもの自分を慕って語りかけているときのもののように見え、神父は再び娘の胎内深くに放った。  
その瞬間、彼女は不敵な笑みを浮かべた。  
「ふふ…どうもごちそうさま…あとは二人で楽しみなさい」  
そう告げた瞬間、神父は急に戒めが解かれたように、体が軽くなったのを知った。  
そして、自分の上で腰を振っている娘の声や表情もはっきりと変化していることがわかった。  
「あっ、あっ、あっ…もうだめ…」  
おそらく客と交わっている最中だと思っているのだろう。  
娘は目を閉じて切なそうな表情で、男の胸に手を置いて必死で喘いでいた。  
憎からず思っていた娘が正気に還っても続ける淫らな姿に、神父は恐る恐る彼女の滑らかな尻の膨らみに手を添え、自ら突き上げ始めた。  
「すごい…すごいです…」  
まだ相手が誰なのか気づいていない娘は、白い喉を反らして歓喜の声を上げていた。  
やがて相手の様子をうかがおうと、目を開けた娘は、  
「わたし…」  
と、神父とつながったまま顔を強張らせた。  
「いいんだ」  
神父は娘を安心させるように微笑んで彼女を抱きしめると、体を反転させ、娘を組み敷いて唇を塞ぎながら腰を使った。  
 
すべてを終えた頃には、空が白み、小鳥のさえずりが聞こえていた。  
神父は交わっていた場所のすぐ側のベンチの側面にもたれかかり、事情を知って泣きじゃくる娘を抱きかかえて座っていた。  
「わたしのせいで、神父さまを汚してしまいました」  
何度も謝罪する娘の髪を撫で、  
「私の心が弱かったからだ」  
と、静かに告げた。  
「わたしは悪い女です。神父さまを汚しているというのに、望みがかなって、幸福だったんです」  
「私はもう、告解を聞けるような存在ではないよ」  
自嘲するようにではなく、自然とそんな言葉が口から出てきた。  
覚悟が決まっていたせいか、不思議と心が軽かった。  
「二人でどこかへ行こうか。知っている人が誰もいない土地で、悔い改めながら生きて、裁きを待とう」  
「神父さま…」  
神父は娘の柔らかな体を抱きしめ、穏やかな頬笑みを浮かべた。  
 
 

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