どれほど時間が経っただろう。王女は閉じていた目をゆっくりと開けた。  
 すぐ傍に、彼の寝顔がある。自分も少しの間、眠っていたらしい。あたりはまだ真っ暗で、  
床に置かれたランプの中の蝋燭がいくらか短くなっていた。  
 王女は裸のまま、毛布の中でもぞもぞと動いて、神父の腕にひたと寄り添った。  
 下腹部の奥に、じんわりと鈍い違和感を感じる。  
 ――夢じゃないんだわ。私、……。  
 この違和感こそが、自分たちの犯した罪の証。王女はそれを、改めて思い返す。  
 憎むべき未来の夫に対する、せめてもの抵抗と裏切り。  
 大事に育てた自分を人身御供にせざるを得なかった両親の立場をを思えば、その両親をも裏切る  
行為であることを少しだけ申し訳なく思ったが、罪悪感よりも、運命へのささやかな復讐が成立する  
ことの、その満足のほうが勝った。  
 と同時に、あまりに自己中心的なその満足感に、後ろめたさも感じた。そしてその後ろめたさに  
さえ秘めやかな喜びを感じていることに、我ながら驚いた。  
 愛する人に愛されるという、恋をする者にとってはごく自然にして至高の喜び。それに加えて、  
神に仕える身の彼が信仰よりも自分を選んでくれたという、背徳的な優越感。その陶酔感は、破瓜の  
苦痛をも凌駕した。  
 ――嬉しいだなんて、本当は、いけないことよね。  
 王女は、神父となった彼と聖堂で再会したあのとき、一分の隙もなく僧服を身にまとったその姿に  
胸の高鳴りを覚えたことを、今さらのように反芻していた。  
 
 薄暗い聖堂の中、彩り豊かなステンドグラス越しに差し込む光を背に、黒い僧衣に身を包んで  
静かにたたずむリーノ。いいえ、もう「リーノ」じゃなくて「エマヌエーレ神父」になっていた、  
彼。  
 私に気づいた彼がこちらに振り向くと、僧衣の長い裾がひらりと軽くたなびいて、伸びやかで  
落ち着いた声が、静かな聖堂に凛と響きわたって……。  
 「お美しくなられた」、その簡潔な一言にどれだけ私の胸がときめいたか、この人は知らない。  
 会えばきっとがっかりできるだろうと思っていたのに、とんだ計算違い。あんなに「神父」が  
似合っていながら、なのに、そんな、……反則もいいところだわ。  
 
 彼が神父になって残念だと言ったのは本心だが、逆に、いまの彼が神に仕える身だからこそ、  
いっそう惹かれたということは、なかったろうか。  
 王女はそう気づいて、自分の中にこれほどの魔性が潜んでいたのかと、ゾッとした。  
 ――彼が神父だからこそ、なんて……。  
 それでも、この政略結婚の話がなかったら、許されぬ恋心はずっと胸の内に秘めたまま、彼と  
こんな関係になることもなかったかもしれない。  
 終末の日に、神の裁きを受ける覚悟はできている。だが、彼も共犯に巻き込んだことは、やはり  
してはならないことだったのではないか。  
 そんなことを考えながら、王女は、愛しいひとの顔を見つめていた。  
「……どうかしましたか」  
 いつの間にか神父も目を覚ましていたようで、彼は目を開いて彼女の顔を見つめ返した。  
「起きていたの?」  
「ええ」  
「ねえ、夜明けまであとどのくらいかしら。暗くて分からないわ」  
「そうですね……たぶん、もうすぐ朝課の時刻だと思いますが」  
 朝課――それはまだ夜明けも遠いうちから始まる、聖職者の一日で最初の祈り。その時刻が近く  
なったので、彼はいつもの習慣で規則正しく目を覚ましたのだろう。王女は改めて、彼が聖職者だ  
ということを思い知った。  
 途端に切なさに苛まれ、王女は横になったままの神父にひしと抱きついた。彼は戸惑う様子を  
見せながらも、そのまま彼女を優しく抱き留める。  
「どうしました」  
「何でもない……何でもないわ」  
 ――お祈りのことなんか、神様のことなんか、いまは思い出さないで。  
 王女は神父の顔を両手で引き寄せた。彼女の名を呼ぼうとした彼の声は、覆い被さってきた  
彼女の唇によって途中で遮られた。  
「エレー…ん…っ、……ん、んん……」  
 まるで彼を自分の側に引き留めようとするかのように、熱く、執拗なまでに唇を重ね合わせる。  
彼女の情熱的な振る舞いにやや気圧されながらも、神父もまたそれに応えようとつとめた。  
 
「ん…っ、……んん……、はぁ…、ん、んぅ……」  
 唇の合間から漏れる熱い息づかいと、湿った水音。毛布の中で横向きに抱き合い重ね合った肌か  
ら、直に温もりと鼓動が伝わってくる。どちらからともなく、互いの肩や腕、胸、背中、そして  
腰から尻へとまさぐりあううちに、二人の息づかいはさらに熱を帯びて、肌も火照り始めてきた。  
「お願い」  
 王女の甘い囁きに、神父は愛撫の手を止めた。  
 ぎこちない沈黙。  
 彼はその続きを躊躇っているのだ。それに気づいた王女の声が沈む。  
「……後悔してる?」  
「いいえ――むしろ、後悔していないことに罪悪感を覚えます」  
「私もよ」  
「でも、その、……痛みとか、もう、大丈夫なのですか」  
「そんなこと。平気、気にしないで」  
 本当は、まだ身体の芯に鈍い痛みを感じていた。だが、夜明けまでの残りわずかな時間、許される  
限り愛し合いたいという欲求の前には、そんな痛みは些細なことだった。  
 それでもなお、気まずそうな彼の様子に焦れて、王女はそっと彼の下腹部に手を伸ばした。  
おずおずと伸ばした指先が、彼の陰部にそろっと触れる。  
 神父は思わず、低いうめき声を漏らした。  
 その反応に、恥ずかしさでこわばっていた彼女の手は柔らかさを取り戻し、さらに先へと、指先を  
そろりと這わせていった。指先で軽く触れ、なぞり、やがて大胆にも手のひらでそれを包みこみ、  
優しく撫で始める。  
「エレーナ、そんなこと、を…っ、あなたが……あ、あ…っ」  
 ほんの少し前まで男を知らなかった高貴な姫君が、羞恥に顔を赤らめながらも、自分のような男の  
性器を弄んでいる。彼女にそんなことをさせていいのかという後ろめたさと、もっとして欲しい、  
もっと淫らなことを――という欲望の狭間で揺れながら、神父は快感に身を委ねた。  
「気持ちいい? ねえ?」  
 はい、と神父はあえぎあえぎ答える。王女は、ふと手を止めた。  
「どうしたら、私も気持ちよくなれるのかしら」  
 その呟きに、さっきの交合でやはり彼女は快楽に達せなかったのかと、神父は察した。  
「すみません、やっぱり、さっきのは……辛かったのではありませんか」  
「でも、女の人はみんな、初めての時はそうなのでしょう?」  
 王女が訳知り顔で言う。  
「ちょっと前に結婚した侍女が言ってたわ。こういうことは、慣れなんですって。初めは痛くても、  
 何度かすると、そのうち気持ちよくなれるらしいわ」  
「慣れ……って、侍女たちと、そんなお話までなさるんですか」  
「あら、嫁ぐ日を間近にした娘は、みんなこういう話を聞かされるのよ?」  
 相変わらず妙なところで無邪気な彼女に、神父は思わず苦笑した。告解室で信者から聞かされる  
こそこそと卑猥な告白とは違って、健康的にあっけらかんとしているところが、かえって直接的に  
本能に誘いかけてくる。  
「わかりました。でも、あなたに無理な我慢をさせたくはないのですが」  
「我慢なんて。――お願い。あなたが、欲しい」  
「私もです。エレーナ、あなたが欲しい」  
「抱いて……何度でも、抱いて――…あっ」  
 今度は自分の陰部を撫でられて、王女がびくりと反応した。  
 神父は、腕を絡めてしがみついてくる王女をそのまま仰向けに寝かせると、彼女の腕を緩やかに  
ほどいた。彼女のふっくらと滑らかな乳房のあちこちを唇で啄みながら、自由になる片方の手で、  
下の茂みの奥を優しく刺激する。初めてのときよりはいくらか余裕もできて、ゆっくり時間を  
掛けて、ちろちろと細かく指を使ってやる。  
「あ…っ、…はぁ…っ、ぁんっ、ああっ、…はぁ…はぁ…、やぁんっ…」  
 乳房や乳首を吸われるたびに甘い吐息を漏らし、敏感な花芯を小刻みに攻められるたびに、  
彼の指の動きに合わせて、艶めかしい声を上げてぎこちなく身悶えする。  
 王女のそこは、最初の交わりのときに花芯から零れた二人の体液で既にぬるりとしていたが、  
その奥から、また新たな白い蜜がトクトクと溢れ出てきた。彼はそれを指ですくい取ると、王女の  
陰部に塗り広げ、さらにそこを弄ぶ。二人の耳を刺激する、ピチャピチャと卑猥な水音。  
 
 やがて、彼の指が一本、蜜の湧き出る穴から中へと、するりと押し入ってきた。  
「あッ…?」  
 痛みとも異なる異物感に、王女は思わず腰を引いた。彼の指がぬるりと抜ける。  
「痛い?」  
「いいえ、……全然」  
「――のようですね。すんなり入りましたから」  
 彼は再び、指を膣の奥へと差し入れて、ゆっくりと抜き差しを始めた。  
「え、……やっ、あっ、やだっ、指で、なんて……そんなぁ…っ、あ、あんっ」  
 粘液でぬるぬるの壁の間を泳ぐような指の動きに合わせて、クチュッ、クチュッ、といやらしい  
音が立つ。  
 中に入れていない指で外の花びらを優しく弄びながら、密壺の浅いところで指を動かす。しばらく  
単純な動きを繰り返していたが、彼女の身体が慣れてきたと思われるところで、入れている指を、  
膣中の壁を撫でるように動かした。ぬるぬると柔らかい壁の中で、少しばかりの堅さを感じさせる  
天井に触れた。襞のように波打つその天井を指の腹でなぞりながら、ゆっくりと指を引き抜いて  
そのまま花芯へと撫で上げると、王女が鋭い嬌声を上げた。  
「やッ、ああぁ…ッ!」  
 その声に、神父は下半身がゾクゾクと奮い立つのを感じた。彼女のあえぎ声に反応して、激しい  
熱さが体中を駆け巡る。  
 ぽてりと肉厚な彼女の花びらと、ぷっくりと敏感な花心を、彼女の蜜にまみれた指で、ねっとりと  
優しく撫で回してやると、王女は蕩けたあえぎ声を発した。  
「…はぁ…、んっ、あぁ、あ……ああ…っ、…はぁ、はぁ…、んくぅ…っ」  
「気持ちいい、ですか?」  
 王女は涙目になりながら、何かを必死に堪えるように、無言で頷く。  
 と、そのとき、小窓の外から、どこかの修道院で鳴らされている朝課の鐘のかすかな音が、深夜の  
ひんやりとした風とともに運ばれてきた。  
 神父は一瞬、無意識にそれに耳をそばだてていたのかも知れない。快感のうねりの中にいた  
王女は、そのかすかな音に気づくと、神父に抱きついて、自分の足を彼の足に絡ませた。無意識か、  
それとも意識的にか、愛液まみれの彼女の陰部が、硬くなった彼の陰茎に押しつけられている。  
 王女は顔を真っ赤にしながら彼の肩に顔を埋めて、いやいやをするように小さく首を振った。その  
はずみで、触れ合っている陰部がさらにぐいぐいと重なり合う。  
「エレーナ?」  
 王女は答えず、ただ小さく首を振るばかり。  
「心配しないで。夜明けはまだずっと先ですよ」  
 そういうことじゃない、そうじゃないの――王女はそう言いたかったが、言えなかった。  
 と、自分を抱き留める彼の片方の腕が、自分の背中からおしりまでを撫でるように、するすると  
降りてくるのを感じた。  
 そして彼の手が、腰骨の辺りを撫でた――と思ったとき、彼が囁いた。  
「いいですか」  
 コクン、と頷く。  
 最初の時と同じように、心を楽に、身体の力を抜く。  
 その直後、彼の太くて硬いものが、奥までいっぱいに入ってきた。  
「う、ん…っ、んくぅ…っ」  
「大丈夫ですか」  
 荒い息の合間に、彼の気遣わしげな声が聞こえる。  
「大丈夫、平気だわ」  
 初めての時のような鋭い痛みは、もう無かった。ただ、身体の芯を押し広げられるような鈍い  
感覚と、そこを熱く太いもので塞がれているという奇妙な違和感ばかりで、それがどう快感に繋がる  
のかは、よくわからなかった。  
 ――満たされている。私、このひとのものに、満たされている。  
 それだけは心の底から実感できた。まるで、探し求めていた足りない自分の欠片を、そこに埋めて  
もらっているような感覚。  
 蕩けるような顔で、あえぎあえぎ、切なそうに自分の名を呼ぶ彼。彼にこんな顔をさせている、  
こんな声を出させているのは、紛れもなく、この私。  
 自分の中で本能のままに動く彼自身を感じながら、そんなことを考えていると、それだけで  
身体の芯が熱くうずく。  
 ――お祈りのことも、神様のことも、全部忘れて。私のことだけ考えて……!  
 
 彼の腰の動きが激しさを増してきた。ぱんっ、ぱんっ、と肌が触れ合う軽い音が響く。  
 まるで、泣き声のような声、それに彼の苦しげなあえぎ声が絡み合う。  
「あっ、あっ、はぁ…っ、あっ、あんっ、あぁんっ」  
「エレーナ、はぁっ、はぁっ、エレーナ…っ」  
「ああっ、リーノ、リーノぉ…っ」  
 夢中で彼の名を呼ぶうちに、ずっと消えなかった異物感と違和感の向こうから、得体の知れない  
ざわめきが押し寄せてくる気がした。それは波打ち際のさざ波にも似て、ゆっくりと押し寄せて  
くるかと思うと、間際でサワサワサワッと細かな感覚の襞を立てていった。  
「あ、ああッ?」  
「エレーナ?」  
「あ……リーノっ、わかんないっ、わたし、なんか、……ああああッ」  
 身悶えする王女の腰を、神父は両手でしっかりと引き寄せて離さなかった。と、王女の両脚は  
ぴくりと跳ね上がり、同時に彼の陰茎をきゅうっと締め付けてゆく。王女はもう無我夢中で、  
自分でも訳がわからなかったが、彼の陰茎に強く巻き付くようなこの感覚は、初めての時とは全く  
違うものだということは気がついていた。  
 私、どうなってしまうのかしら――。自分の身体なのに勝手に反応してしまう、制御がきかない  
という不安におののきながらも、ただそのうねりに身を任せるしかなかった。  
 神父の方は、ただでさえまだ狭くきつい彼女の膣に締め付けられて、思わず「うあぁッ」と  
快感の雄叫びを上げた。それに王女の甲高い嬌声が重なる。  
「あ、あ、あああああーッ!」  
 いままでになく差し迫った声だった。その身体がぶるぶるぶるっと小刻みに震える。彼の陰茎を  
包む肉の壁はなおも中へと吸い込むように締め上げる。  
 体中の熱い血潮がそこに集中したように感じた、その次の瞬間、神父は低いうめき声を漏らして、  
王女の身体の奥深くに精を注ぎ込み、そのまま果てた。  
 
 まだ荒い息の下、神父は今度は早々に彼女と繋がっている部分を離して、彼女の横に臥した。  
王女もはぁ、はぁ、と息を弾ませながら、ぐったりと横たわっている。  
 事後の汚れのことなど、もはやどうでもよかった。寝床代わりに敷いた毛布にも、身体に掛けて  
いた毛布にも、たっぷりと染みができてしまっている。  
 彼女の腰の辺りにできた大きな染みの跡を見て、今さらのように神父は顔を赤らめた。王女も  
彼の視線でそれに気づき、恥ずかしそうにサッと目を逸らしたが、やがてチラリと上目遣いで  
挑発的な微笑を見せた。  
「ここ、こんなに濡れてしまったわね。誰のせいかしら?」  
「あなただって、たくさん濡らして――」  
「もう、バカ!」  
「うわっ」  
 馬鹿正直な神父に向かって、王女は手近にあった枕を叩きつけた。  
「バカ、ばかばかばかばかっ」  
 王女は一気にまくし立てると、一転、ぴたっと神父に抱きついた。  
 そして、彼の耳元で、恥ずかしそうに囁く。  
「あなたのせいでしょう? だって、……気持ちよかったんだから」  
「本当に?」  
「ええ、……きっと、そうだと思う。頭が真っ白になって、わけがわからなかったけど、あの感じ、  
 嫌じゃないわ」  
「そうですか。……なら、良かった」  
 二人は照れくさそうに微笑んで、口づけを交わした。そのまま、王女の方から積極的に彼の唇を  
求めてくる。  
「――だから、ねえ、リーノ?」  
「ちょっ、だから…って、あの、ちょっと休ませてくださいと――」  
「冗談よ、冗談」  
 そう言って、王女は疲れた頭をコトンと床に下ろし、瞼を閉じた。神父も、やれやれと安堵した  
様子で体を休め、息をついた。  
 窓の外はまだ薄暗い。  
 ――もうすぐ、夜明け前の祈りの時間だろうか。  
 ふとそんなことを思いだしたが、神父は裸のまま毛布にくるまって、隣の王女に息が掛からない  
ように、こっそり大きなあくびをした。  
 いつしか、二人は静かな寝息を立て始めていた。  
 

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