〈4〉塔にて  
 
 あたりはすっかり暗くなり、小窓の外には満天の星空が広がっている。  
 二人がそれぞれに持参したランプの明かりを頼りに、神父は王女のドレスの背中のボタンを  
一つずつ、かすかに震える指先で外していった。恥ずかしげにうつむく王女の表情は見えないが、  
熱を帯びた息づかいと胸の呼吸が、彼女の緊張を伝えてくる。  
 一番下までボタンを外すと、王女の白い背中と肩が露わになった。まだ腕に袖を通したままの  
肩に神父が手を伸ばすと、王女はきゅっと身をすくめ、両肩を護るように手で覆った。  
「あ、あとは自分で、できるから…っ」  
 王女は忙しなく両袖を脱いだが、一つにつながっているドレスのスカートの扱いに手こずり、  
結局は彼に手助けを求めた。神父も女性の服の扱いなんて初めてで、二人して難儀しながら、  
やっとのことで一番上の一枚を取り除くことができた。  
「ご婦人の着替えというのは、大変なのですね」  
「だって、いつもは侍女が手伝ってくれるんですもの」  
 さすが、大勢の侍女を抱えるような高貴な女性の服は、一人で脱ぎ着できないような構造に  
なっているのだと、神父は妙なところで感心した。  
 上着を脱いだ王女はその場に腰を下ろすと、ペチコートの裾を少しだけたくし上げて、  
短い編み上げブーツの靴紐を解き始めた。これもやはりおぼつかない手つきなので、神父は  
王女に向き合って膝をつき、彼女が靴を脱ぐのを手伝った。  
 靴を脱がせると、白い靴下に覆われた足先が露わになった。小さな花柄が刺繍された絹の  
長靴下の白さと滑らかさが、なんとも艶めかしい。神父はその足先の片方を軽く持ち上げると、  
両手で包んでそっと撫でた。  
「やだ、くすぐったい」  
 王女がクスクスッと密やかに笑いながら身をよじった拍子に、ペチコートの裾が派手に  
捲れ上がった。王女はペチコートを引き戻そうとほとんど反射的に手を伸ばしたが、神父は  
とっさに、そうはさせじと彼女の手を手で制した。そのまま膝下の靴下留めに手を掛けて、  
靴下を下ろしていくと、彼女の素足が姿を見せた。  
 王女は恥ずかしそうに視線をそらした。男の前で素足を晒すのは、王女にとっては初めての  
ことだ。ましてや、触れさせるなど。  
「可愛らしい足」  
 神父はそう呟いて、愛しい足先をそろりと撫でた。  
「やだ、もう……、や…っ」  
 最初はくすぐったそうだった王女の声は、次第に別の気配を帯びてきていた。その艶めいた  
声色が、神父の欲情を掻き立てた。  
「本当に、可愛い」  
 神父はそう言って、王女の足首に愛おしげに接吻をする。王女は「あっ」と困惑の声を上げて、  
ぶるっと小さく震えた。彼女の白いつま先が、黒い僧衣の肩に触れる。  
 王女は慌てて、彼の手を振り払うように足をどけると、すっくと立ち上がり、寝床の代わりに  
重ねて敷き詰められた毛布の上に乗った。そして彼に背を向けると、フリルや繊細なレースが  
幾重にもあしらわれたペチコートの留めボタンを外した。  
 ペチコートはシュルッと音を立てて滑り落ち、バサリと重たげな音を立てた。  
 ぼんやりとした明かりの中に、膝を覆う丈の下履きと白いシュミーズにコルセットを締めた、  
華奢な王女の後ろ姿が浮かび上がる。  
 神父は自分の体が芯から熱くなるのを感じながら、下着姿の王女を背後から抱きしめた。  
「……苦しいわ」  
「え」  
「コルセットが、苦しいの」  
 脱がして欲しい、という意味だ。  
 神父は、初めて触れるコルセットの、その背中で蝶結びにされた紐に指をかけて、  
「これをほどけば、いいですか」  
と律儀に確認する。王女は恥ずかしげにコクンと頷いた。  
 蝶結びを解いて、きつく締められている紐の交差を、一つ一つ、順番に緩めてゆく。上から  
下まで紐を全部緩めたところで、ふぅ、と王女は息を吐いた。そして前板の留め金自分で外して  
シュミーズと下履きだけになると、彼に背を向けたまま、小さな声で言った。  
「……あなたも」  
「あ、……はい」  
 
 焦って腰帯に手をやると、帯に掛けたロザリオに指先が引っかかった。神父はロザリオを外すと、  
わずかの間、それを見つめた。大きめの黒い珠が連なるその先には、銀の十字架が付いている。  
神学生時代に師からいただいたロザリオだ。その珠は彼の日々の祈りによっていくらか摩耗し、  
つるりと艶を帯びていた。  
 神父は腰帯を解くと、それでロザリオを丁寧に包み、それらを部屋の隅に追いやった。  
 足元まですっぽりと覆う長袖の僧衣は、襟元から裾までボタンが並んでいる。まずは詰め襟の  
ボタンを胸の途中まで開き、内側の白い襟を外す。窮屈だった喉元が解放された。  
 さらにボタンを外そうとしたところで、神父は背中に王女の視線を感じて、チラリと振り返った。  
「……なにか?」  
 王女は下着姿のまま行儀良く座って、神父の方を向いていた。じっと見つめていた理由を  
問われて、照れ隠しのようにちょっと小首をかしげる。  
「いいえ? ただ、神父様が服を脱ぐところなんか滅多に見られないわと思って」  
「滅多にって……、当たり前でしょう、二度三度あるようでは困ります」  
 神父はあきれたようにそう返す。  
 彼にとっても初めての経験、身体の熱さも胸の鼓動もさっきから激しくなるばかりで、  
落ち着いていられる余裕なんかまったく無いはずの状況なのに、王女の無邪気な言葉を聞くと、  
不思議と焦りは鎮まって、いつもの軽口が口をついて出てくる。  
 あの司祭館でのたわいもない雑談の時間が、今のこのときに繋がっているのかと思うと、  
奇妙な気持ちになった。  
 しかし彼女に見られていると思うとなにやら気恥ずかしく、変に緊張するが、何を今さら  
尻込みしているのだと、神父は最後の躊躇を振り払った。胸のところまで開けていたボタンを  
腰の辺りまで外すと、思い切りよく、バサリと僧衣を脱いだ。僧衣の下に着ているのは、質素な  
シャツと黒のズボン。神父は手早く靴と靴下を脱ぎ、ズボンも脱ぎ捨て、股間を覆う丈のある  
シャツ一枚になる。  
 王女の方に向き直ると、彼女は視線を横に外し、顔を真っ赤にして居心地悪そうにしていた。  
 ――ああ、なんて可愛いんだろう。  
 すぐにでも組み敷いてしまいたくなる衝動を抑えて、彼は王女の前に膝をついた。  
「姫様」  
 そう呼びかけられて、王女は上目遣いで彼をキロッと睨んだ。  
「違うでしょ」  
「え、……あ、ええと」  
 指摘された途端、かあっと頭に血が上り、神父はしどろもどろになった。王女はそんな彼の  
様子をじっと見守り、待ち構えている。  
「……エレーナ、さま」  
 神父の遠慮がちな呼びかけに、王女は言い直しを命じる。  
「『さま』も要らない」  
「……エレーナ」  
「もっとはっきり」  
 ついに神父は思いきって、力強く、愛しいひとの名を呼んだ。  
「エレーナ」  
 王女がとろけるような笑顔を見せる。  
「そうよ、リーノ。もっと、呼んで」  
「エレーナ。……エレーナ。愛しいエレーナ」  
 神父は王女を抱きしめ、今まで堪えてきた分を取り戻すかのように、何度も彼女の名前を呼んだ。  
エレーナ、と呼ぶごとに、心の奥に閉じ込めて抑えつけていた感情が解放されてゆく気がした。  
「嬉しい」  
 そう呟いた彼女の唇を、彼は唇で塞いだ。  
「ん…っ、んんっ……ああ……」  
 王女の愛らしい唇から、艶めかしい吐息が漏れる。彼は唇と舌を使って、まるでその愛らしい  
形を隅々まで写し取ろうとするかのように、接吻を続けた。それと同時に、彼は彼女を抱きしめて  
いた両手で、彼女のシュミーズを脱がしにかかる。  
 彼女の上半身を覆う薄布が胸のところまでめくり上げられたところで、二人は漸く唇を離した。  
彼女は脱ぎやすいように両腕を上げ、彼はシュミーズを上に引き上げて、一気に脱がせる。  
彼女の後れ毛がハラリと揺れた。  
 露わになった乳房を、王女は思わず両腕で隠した。もちろん腕では隠しきれず、その豊かな  
谷間や、ふっくらと張りのある乳房の丸みがはみ出して見える。  
 
「やだ……、ジロジロ見ないで」  
「とてもきれいなのに」  
 神父はそう言いつつも敢えてその腕を取り除けようとはせず、そのまま、王女を床へとゆっくり  
押し倒した。そして王女に覆い被さるようにして、再び、唇を重ねる。  
 唇から首筋、首筋から鎖骨、鎖骨から乳房へと、小さな接吻を落としてゆく。彼女の身体の  
すべての部分が、愛おしく、賞賛に値する。  
 胸の上で交差された腕にも接吻をすると、彼女の護りは緩やかにほどかれ、乳房がすっかり  
露わになった。コルセットに締め上げられてツンと上を向いた胸とは違って、その膨らみは  
とても自然で優しげだ。夢の中で見たよりもよほど素敵だ、と彼は思った。  
 彼はほどかれた片方の腕にそっと手を添えると、その柔らかな二の腕から肘へ、肘から手首へ、  
手首から手の甲へ、そして指先にも接吻した。  
「あ…っ、あ…ん、んん…っ」  
 王女が恥ずかしそうに小さなあえぎ声を漏らす。彼女が大きく息をするたびに、その美しい  
乳房がふるふるっと揺れた。今度はその胸に手を伸ばし、大きな手のひらで優しく包む。その  
ふくよかさをじっくり味わうように撫で回しながら、空いたところにキスをした。柔らかだった  
乳首が、徐々に硬くなってくるのが感じられる。  
 神父は彼女の胸が早鐘を打つのを直に感じ、王女もまた彼の胸の鼓動を間近に聞いた。  
「エレーナ」  
「……なぁに」  
「愛しています」  
 私もよ、と答えた王女の唇に接吻して、神父は彼女の乳房から、なだらかな腹へと手を滑らせる。  
そして、彼女の恥部を包み覆う最後の障害を取り払った。  
 神父は身を起こして立て膝になると、仰向けでいる王女の裸体を、その頭からつま先まで  
眺め下ろした。  
 彼女は恥ずかしそうに目をそらせて視線を中に漂わせ、両腕は左右にだらりと、先ほどまで  
神父に愛撫されていた乳房は、荒い息づかいのもと、たわわに揺れている。ランプのほのかな  
明かりが、彼女の腕や胸元に落とされた接吻による唾液の跡を、チラチラと光らせていた。  
細い腰つき、そこから太股へかけての丸みを帯びた肉付き、そして内股気味に閉じられた両足の  
付け根には、髪の毛と同じ色の茂みが見える。  
 神父は緊張した口の中で唾を飲んだ。喉がコクリと乾いた音を立てる。  
 汗ばんだシャツを脱ぎ捨てると、彼も一糸まとわぬ姿になった。その股間には、すっかり  
大きく硬くなった肉茎が屹立している。  
 本当に良いのですか、と尋ねたくなったが、もう今さらその念押しはしないことにした。  
代わりに、もう一度、彼女に深い口づけを与えた。彼女もそれを受け入れる。  
 もう、それ以上の答えはいらなかった。  
 彼女の唇の柔らかさを堪能してから、遠慮がちに、歯の隙間に舌を差し入れると、わずかな  
戸惑いの後、彼女もそれに応じた。  
「ん……んん…っ、んぁ…っ」  
 互いの舌と舌を絡ませ、唾液を絡め、唇を貪りあった。  
 神父は王女のすぐ隣に添い寝するように身を横たえ、彼女を抱き寄せた。彼女も腕を彼の首に  
絡めてその身体を添わせる。彼は空いている方の手で、彼女の背中から肩、胸から腹を撫でて、  
ついにその先の茂みに手を滑り込ませた。  
「あ…っ」  
と、王女が小さな羞恥の声を上げた。  
 神父は、すぐにも両脚を押し開いて挿れてしまいたいという欲求の突き上げと戦っていた。  
 ただでさえ経験のない自分が、欲望の赴くままに行えば、初めての彼女を身も心も傷つけて  
しまうであろうことは容易に想像できた。神父として青少年の性行動を教育したり、新婚夫婦の  
性生活の相談を受けたりと、知識だけはあるのだ。いや、神学校の図書室にあった、学術的に  
詳細な医学書や、様々な変態行為まで赤裸々に記録した異端審問書のことを思えば、性行為に  
関する知識は、品行方正な一般信徒に比べてむしろ豊富と言えるかもしれない。  
 だが、やはり知識と実践は別物だ。  
 わからないなりにも、彼女の苦痛はできる限り少なくあって欲しい。彼女を愛するからこそ、  
彼は己の暴走を懸命に抑えていた。  
 できるだけ優しく、柔らかな茂みを撫でる。それから少しずつ掻き分けるようにまさぐると、  
その奥の熱い花びらが指先に触れた。王女はビクンと身体を震わせる。  
 ゆっくりと、花びらの外縁をなぞるように指の腹を滑らせる。そこは既にいくらか潤っていて、  
彼の指先はトロリとした露で濡れた。  
 
「エレーナ」  
 名前を呼ばれて、彼女は「ああ…」と小さく身悶えした。彼女の秘部がじわっと潤いを増す。  
「かわいい……、エレーナ」  
 そう囁かれて、王女はなおも身体の芯を熱くした。彼に名前を呼ばれるたびに、言い知れない  
悦びに満たされ、下腹部が熱くなる。恥ずかしいところがどんどん熱く濡れてゆくのを自分でも  
感じていて、恥ずかしさと嬉しさとで、もう何も考えられなかった。  
「リーノ……、あ、ん…っ、リーノ…っ」  
 敏感な秘部が指で弄ばれ、潤いを増してゆくのを感じながら、王女は火照ったように顔を  
赤くして、困惑と陶酔がない交ぜになった表情で彼の名を呼んだ。  
 彼は彼女のぬるぬるとした陰部を愛撫しながら、入口の在りかを探した。花びらの内側に  
指を滑らせていると、下の方で、ぬるん、と指が引き込まれるように落ち込むところがあった。  
試しにほんの少しだけ、指をその中に入れてみようとすると、「あッ」と王女が鋭く反応した。  
「すみません、痛かったですか」  
「う、ううん……痛くない、けど、なんか……、怖いような……感じ」  
 初めて異物が触れるのだから、反射的な抵抗感も当然だろう。  
 いま、そこはどうなっているのだろう。  
 見てみたいという好奇心に駆られて、彼は身を起こし、内股に閉じられていた彼女の両脚を  
膝からゆっくりと左右に割り開いた。  
「やぁ…ん」  
 王女が泣き声のような嬌声を上げる。恥じらいゆえのわずかばかりの抵抗も空しく、彼女の  
陰部は彼の目に晒された。濡れそぼったそこは、初めて直に触れるひんやりとした外気を感じ、  
王女はぶるっと下半身を震わせた。恥ずかしさと緊張で、とても彼を正視できない。  
 逆に神父の方は、明かりの加減で陰に隠れたその部分をもっとよく見えるようにと、彼女の  
両脚を上に持ち上げ、顔を近づけた。ランプのほのかな明かりに照らされて、ぽってりとした  
花びらを濡らす露が光っている。花びらの内側に見える桃色の襞を優しく撫でさすり、蜜の  
絡んだ指の腹で、上の方にぷくりと顔を出している小さな花芯に触れると、王女が「ひっ」と  
声を上げた。  
「痛いですか?」  
「ううん、……痛いわけじゃない、けど……」  
 痛くはないのかと、もう一度そっと花芯を撫でると、彼女は「ひゃんっ」と、およそ自分の  
意志からではないような声を出した。痛いとこそ言わないものの、とても敏感に感じるようだ。  
「気持ちいい?」  
「わ、わかんない……、なんか、ひりひりする……感じだわ」  
 見ると、そのもっと下の方の、凹みのような小さな穴から、トロリと白い蜜があふれ出て  
きた。目指すべき花園の門はここに違いない。  
 そこに顔を近づけると、女体の臭いむんと鼻を刺激した。露の降りた茂みにキスをすると、  
彼女はビクン、と足を震わせ、彼の頭を挟み込むように太股を閉じかけた。神父はそれを  
両手で再び押し広げると、今度は茂みの下の花びらに舌を伸ばした。ちろちろっと舌先で  
舐め上げると、王女は身体をびくつかせてあえぎ声を漏らす。  
「んん…っ、んっ、やっ、やだ、そんなところ、舐めちゃ…、あ、ああ…っ」  
 その反応が嬉しくて、神父はそこを舌で優しく攻め続けた。ピチャピチャと卑猥な音を立て  
ながら舐め続ける。さっき見つけた狭い入口にそっと舌先を差し入れると、王女は、  
「や…ッ!」  
と、ひときわ鋭い声を上げた。彼の唾液と、蜜壺から湧き出てくる彼女の愛液とが混ざり合って、  
そこはもうぐしょぐしょになっている。彼の肉棒も、もう痛いほどに熱くなっていた。  
「エレーナ」  
 もう、これ以上は堪えようがない。  
「いいですか」  
「……ええ」  
 王女はぼうっとした表情で、コクンと頷く。  
 神父は自分の肉棒に手を添えて、彼女の入口にあてがった。陰茎の先が触れた瞬間、彼女は  
思わず身を固くした。その緊張を少しでも取り除こうと、彼は彼女の胸にキスをした。  
「大丈夫……きっと、大丈夫です。力を、抜いて……」  
 王女はギュッと閉じていた目を薄く開くと、また静かに瞼を閉じた。そして、彼女が何度か  
大きく呼吸をしてその身体から強張りが取れたとき、神父はその呼吸に合わせて、自分の肉棒を  
彼女の中へとゆっくり押し込んだ。  
 
「あっ――いッ、ああああッ!」  
 王女の美しい顔が苦悶に歪む。  
「く…っ」  
 彼は狭くきつい肉の壁を徐々に押し分けるようにして、漸く、彼女の奥まで陰茎を埋めた。  
 彼女の中は、想像よりも遙かに柔らかく、とろけるように熱い。あまりの快感にすぐにでも  
出してしまいそうになるのを、彼は必死で堪えた。  
「エレーナ」  
 呼びかけられても王女は声も出せず、目元にうっすら涙を浮かべ、肩で息をしている。  
「……大丈夫ですか」  
「だい、じょうぶ……。思ったより、痛くない……わ」  
 痛くないという表情ではない。心配を掛けまいと我慢しているのだろう。  
「すみません」  
「いいのよ、リーノ。……少し、痛いけど、それよりもずっと、私、嬉しいんだから」  
 そう言って無理に微笑む彼女の、なんと健気で、なんと妖艶なことか。  
 胸の奥から愛おしさがこみ上げ、ぞくぞくと興奮が全身を熱く駆け巡る。彼女の中でじっと  
していた陰茎の先が、びくびくっと震えた。神父は思わず、喘いだ。  
「あ、あ、あっ」  
「えっ?」  
 次の瞬間、神父はウッと呻いて、静かになった。  
 ハァハァと荒い息を吐く彼に、王女は困惑気味に尋ねる。  
「ねえ……、もしかして、いま……?」  
「す、すみません……」  
 王女は返事の代わりに、神父をギュッと抱き寄せた。汗ばんだ肌と肌を胸から腹まで重ね合い、  
神父は王女の耳元に顔を埋める。  
「……気持ちよかった?」  
 からかうような彼女のささやき声に、神父はかあっと顔を赤らめた。羞恥と申し訳なさで、  
きまりが悪いことこの上ない。  
「ねえ?」  
「……はい。とても」  
 素直に白状すると、王女は、  
「なら、いいわ」  
と言って、嬉しそうにふふっと笑った。  
「しばらく、このままでいて。あなたを……感じていたいの」  
「痛くありませんか」  
「大丈夫よ。もう、さっきほどには痛くないみたい」  
 神父は王女と繋がったまま、彼女の首筋や鎖骨にキスをしたり、肩や背中、尻や太股を愛撫  
したりして、彼女を慈しんだ。王女も彼の後ろに腕を回してその肩や背中を撫で、顎や胸元に  
キスを返す。  
 そうこうしているうちに、彼女の中に挿れたままのものが、またムクムクと大きくなってきた。  
彼女もそれを感じたようで、「あ……」と恥ずかしげに声を漏らした。  
 神父は王女に密着させていた上半身を少し起こして、肘で自分の身体を支えた。彼女の唇に  
長めのキスをした後、遠慮がちに頼んでみた。  
「少し動いてみてもいいですか?」  
「え、……ええ」  
「痛かったら、やめますから」  
 神父はあくまでも王女の身体を気遣いながら、ゆっくりと腰を動かし始めた。  
「あ…っ、あっ、……はぁっ、んくっ、ああっ」  
 王女の苦しげなあえぎ声に、神父はいったん腰の動きを止めた。それに気づいて、王女は  
動きを続けるよう促した。  
「大丈夫、平気よ。そのまま、続けて」  
「エレーナ」  
「本当よ、痛いんじゃなくて……なんか、声が出てしまうの。恥ずかしい」  
「恥ずかしいなんて。素敵な声ですよ。もっと、聞きたい」  
「やだ、そんなこと言って……、――あっ、……あんっ」  
 神父は再び腰を動かし始め、王女はその動きに反応して嬌声を上げた。  
 
 彼は恍惚の表情で、彼女の狭い肉壁との摩擦から来る、痺れるような快感に没頭していた。  
さっき放った精液のために彼女の中はぐちょぐちょになっていて、腰を使うたびにヌチュッ  
ヌチュッと淫靡な音がした。中の熱さと滑らかさ、外の肌の温もりと柔らかさ、艶めかしい  
あえぎ声、すべてが有機的に混ざり合い、快感となって彼の身体を駆り立てる。  
「素敵です……、エレーナ、とても、素敵だ」  
「あんっ…、リーノ、リーノ…っ、なんか、変な感じ…っ、ああっ、あぁんっ」  
 苦悶が混じっていた彼女の顔からは次第に険しさが取れて、法悦の表情へと変化していく。  
彼は腰の動きを次第に速めていった。  
「あ、やっ、いやっ」  
 王女の眉間に一瞬しわが寄った。  
「エレーナ?」  
「やっ、違うのっ、やめないで……、あっ、でも…っ、ああっ」  
 言われなくても、神父は腰の動きをやめなかった。やめられなかった。  
「エレーナ」  
 呼びかけた次の瞬間、彼の身体を芯から痺れさせるような快感が駆け巡った。再びの頂点が  
やってきたのだ。  
「エレーナ、エレーナ……!」  
 電光のような快感が身を貫く。神父は愛しいひとを抱きしめ、何度もその名を呼びながら、  
再び彼女の中にドクドクと勢いよく精を放った。  
 
 彼女も達したのかどうかはわからなかった。神父が思わずつぶっていた目を開けて見ると、  
王女はぐったりと、呆然とした表情で宙を見つめていた。  
 彼女に重たくのしかかっていた自分の身体を起こし、繋がっていたものを抜こうとすると、  
「ん…っ」と彼女が反応した。すっかりおとなしくなった陰茎を引き抜くと、彼女の陰部から、  
わずかに鮮血の混じった精液がドロリと流れ出てきた。  
 彼女の純潔と、破瓜の証。  
 やがてゆらりと身を起こした彼女も、自分の股間から流れ出ているものを見て、戸惑ったように  
顔を赤らめた。  
「どうしよう、毛布を汚してしまったわ」  
 真っ先に心配するのがそれか、と苦笑しながら、神父は王女のハンカチを取ってきて、それを  
彼女の陰部にあてがい、汚れをぬぐってやった。  
「すみません。あなたのハンカチなのに、勝手に使いました」  
「それはいいの。それに……」  
「それに?」  
「これだけ汚してしまったら、後はもう一緒ね」  
「ええ?」  
 問い返した神父に、王女は大胆にも両腕と両脚を絡みつかせて、今度は彼女が彼をなだれ込む  
ように押し倒す形になった。  
「ちょ、待ってください…っ」  
「ダメ?」  
「ダメとかじゃなくて……ちょ、ちょっと、休ませてください」  
「じゃあ、こうして、添い寝させて」  
 王女は甘えたように、神父の胸に頭をもたせかけた。  
「本当を言うとね、なんだかちょっと眠いの。男女の営みって、疲れるものなのね」  
 無邪気なのか、わざとなのか。神父は苦笑した。  
「まったくもう……あなたという人は」  
 そう言って、神父は王女の頭を抱き寄せると、傍らにあった毛布を引き寄せた。そして一緒に  
それにくるまると、安らいだように微笑んで、瞼を閉じた。  
 

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