「今、ここで脱いでみせてよ」
「え?ここで?いま?」
「そう。今」
「えーっ。もう、しょうがないなあ…お兄ちゃんったら…」
ぶつくさと文句を言いつつも、妹は着替えを始めた。
しゅるり。まずスカーフを引き抜く。
それからジジジ…と、胸のジッパーを引き下ろす。
中に着ているキャミソールが露わになる。今風のものなんかじゃなく、スタンダードな、薄手の白い下着。
うっすらとブラも透けて見える。フルカップの、色気も何も無いものだ。
だが、それが兄には一番魅力的に思える。
「…もっと?」
「もっと」
恨めしそうに兄を睨む。けれど拒まない。
脇のジッパーに手を掛け、スカートも脱ぐ。
すとん。足元に落ちて輪を描く。
「そこでさ…一度くるって回ってみて」
兄が注文をつける。
「…回るの?」
「そ。ターンしてみて」
「えーっ…」
けれど妹は拒まない。
くるる…くるり。
キャミのスカート部分が、まるでドレスのように舞う。
これも純白のショーツが、ちらちらと見え隠れする。
「うん…可愛いよ」
「えっ…そんなこと言わないでよ…」
動きを止める。確実に…恥ずかしがっている妹。
「次…は?」
頬を赤らめて、自分から兄の注文を受けようとする。
「…もう服着ていいよ」
妹の気持ちを悟りながら、兄はあえて次を望まない。
「…」
少し悔しそうな顔色を浮かべてから、妹は部屋着を拾い上げた。
スカートを履いてから、パーカーに首を入れる。
袖に両の腕を通し終えて、兄に向き直った。
「…おしまい」
「…おしまい」
同じ言葉を繰り返す。鏡のように。
「じゃ…自分の部屋行っていいから…」
「あ…うん」
部屋を仕切る重いスライドカーテンを押し開け、妹は自分の部屋へと入っていった。
けれど閉める前に一度だけ、兄を見やった。
「…」
兄も、自分を見つめていた。先ほどまでと変わらず、ベッドに身体を投げ出した、ラフな姿勢で。
けれど何も言わない。ただ見つめているだけ。
兄の目の前で着替える。
この行為を幾度と無く繰り返してきたけれど、兄はいつもただ見ているだけ。
触れもしない。それ以上のことも望まない。
本当は、それ以上の事を…。
「…」
妹も何も言わず、後ろ手にカーテンをゆっくりと閉めた。
それからベッドに寝そべり、兄の気配をうかがい続けた。
今そこまで、歩いてこないものかと。
この重いカーテンが、兄の手で開け放たれはしないのかと。
そして寝そべるわたしの元へ近寄り…。
わたしはいつだって、じっと待っている。
その日が来ないものかと。
ね?お兄ちゃん…。