「太郎ちゃん!太郎ちゃん!」  
千夜(ちや)は俺の部屋に勢いよく入ってくると、ぽすりとベッドにダイブして俺の上に寝そべりながら言った  
「明日の飛行機爆発した!」  
このドヤ顔である  
俺は軽く二、三ほど頭を撫でてやり、いくらちっこい千夜でもいい加減重いので降りてもらう  
「どうしようね!?太郎ちゃん明日修学旅行いけないね!?」  
「ふうん、そうだな」  
起きてしまったし、取りあえず明日の荷物の再確認でもするか  
下着類はOK、寝巻きはジャージあるしいっか  
「太郎ちゃん!もう修学旅行なしだって!!学校お休みだって!!」  
「そいつはすげえや」  
カメラは・・・現地でインスタント買えばいいかな  
「太郎ちゃん、太郎ちゃん!!」  
「千ぃー夜」  
尚もきゃいきゃい騒ぐ千夜の肩に手を置き、一言  
「もう十時だぞ、いつもならもうおねむだろ?おばさんも心配するから寝なさい。あと変な嘘もつかない」  
「う、うう〜だってぇ・・・・」  
千夜は情けない声を出して俺を見た  
まあるい瞳の端っこに、うるうると涙が溜まっていく  
「太郎ちゃんが・・・・遠くに・・・行っちゃうんだもん」  
「あのなあ、たかだか四日間だぞ?」  
「四日長いもん・・・」  
「そんなんでお前将来なにになるつもりなんだよ・・・」  
「太郎ちゃんのお嫁さんだもん・・・」  
「・・・あーもう、お土産、ぬいぐるみさん買ってきてやるから・・・いい子で待ってろ。な?」  
あやすように言って、頭を撫でる  
千夜はぎゅうっと俺のお腹にしがみついて、放そうとしない  
ひとつ年下の千夜は林間学校や修学旅行というイベントがある度にこうやってぐずるのでもう慣れてしまっている  
昔から千夜は俺が近くに居ないとすぐ泣く子だった  
現在はそれ程酷くないが、今でもやっぱりお子様で、手の掛かる妹のようだ  
そこがまた可愛くて、放って置けないわけだが  
「・・・しかたねえな」  
俺は最終手段を使うことにした  
携帯を取り出し、コールする  
「あ、おばさん・・・千夜、今日俺んちに泊めるんで。はい・・・すいません、はい・・・ありがとうございます」  
電話を切り、千夜を引っぺがして布団に寝かせる  
「よし、今日は俺と寝るぞ。おやすみ」  
照れくさいのでそれだけ言って電気を消す  
むぎゅうと俺にがっしり抱きついて千夜が顔を上げる  
目が赤いが、もう泣いていないようだった  
「たろうちゃんのにおいがする、えへへ」  
鼻声でそう言うと頬を染めて笑う千夜  
不覚にもどきりとして、そっぽを向いてしまう  
「ん・・・」  
少し艶かしい幼馴染の息遣いを感じながら、俺はふと思った  
そうか・・・千夜ももう子供じゃないんだよな  
なにか、決定的なものが変わったことを感じながら、俺はもう少しだけこの『兄妹』のような関係を続けたいと、そう思っていた  
 

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