満場七三郎篤数は、室町時代中期の学者である。  
その研究分野は、現在で言うところの海洋生物学に相当し、  
日本近海の魚介の生態を極めて緻密な検証を積み重ね、  
『本朝巨海蟲藻録(ほんてふおほうみちゅうさうろく)』を記したことは、  
好古の者は誰しもが知るところである。  
惜しくも、『本朝巨海蟲藻録』は、戦国時代に焼失し、  
残存する写本も、不完全なものしかない。  
かくて、『本朝巨海蟲藻録』は、伝説の奇書として、  
歴史の陰にヘと葬られてしまったのであるが、  
なんとも、おそるべきは人の性かな。  
篤数の、後世に大いに誇られるべき書は失われたにも関わらず、  
その奇行の一部始終は、巷間に膾炙し、  
道聴塗説、巷間説話などとして、今の世に伝えられるものである。  
 
――――――――――  
 
篤数の家は、どこにあったのかは定かではない。  
吉備に在ったとも、伯耆に在ったとも、  
安房とも、阿波とも、はては陸奥や薩摩とも、  
脈絡のない言い伝えばかりが残っている。  
しかし、大きな家ではあったらしい。  
いずれの話にも、「屋敷」として表される。  
その、篤数の屋敷に、大きな壺が運び入れられた。  
それは、それは、大きな壺で、  
大柄な人足が四人がかりで担ぎ上げ、ようやく持ち込むほどの、  
大きく、重たい壺であった。  
篤数は、その壺に梯子を架けると、駆け上り、  
蓋してあった油紙を引き剥がして、その中を窺い、  
「よしよし」と満足げに笑ったものである。  
篤数は、人足どもに口止めを兼ねた、十分な金子を握らせて帰した。  
「さて」と。  
篤数は、その日から飽くこともなく、壺の中を眺め続けた。  
女中に命じて活き魚を買って来させては、  
それを壺の中に投じている。  
ときに、人ですら、食しがたい大海老やあわびなどさえ  
壺に投げ入れていた。  
女中達の間では、壺の中には、生き物がいるのだろうという話となった。  
しかも、壺の大きさたるや、人が一人二人は楽に入る大きさなので、  
そんな中にいるのだから、恐ろしい大きさの生き物だろう。  
女中達の間では、時を置かずして、「つぼのばけもの」と呼ばれるようになった。  
 
――――――――――  
 
ある晩のことであった。  
篤数は、女中の中で最も若い者を、呼び出した。  
女中とは言っても、まだ十を幾つか出たような娘である。  
場所は、件の大壺のある土間である。  
篤数は、壺に梯子を二つ架け、一方に娘を登らせ、  
自身も、もう一方に昇った。  
「ほうら、よくご覧」と、篤数は、若い女中に、  
壺の中を覗き込ませた。  
女中は、壺から吹き上がる臭気に顔を顰めた。  
臭い。生臭い。  
いや、磯臭いとでも言うのが正確なのだろうか。  
「もっと、もっと、よくご覧」  
篤数は、娘の尻を叩いて、壺の中を覗き込ませた。  
篤数の掲げる燭台の明かりが、壺の中に差した。  
娘は、思わず息を飲んだ。  
壺のそこには、巨大な、あまりにも巨大な蛸が鎮座し、  
感情のない双眸で、娘を見上げていた。  
娘は、総毛立つような嫌悪感を覚え、身を引いた。  
その時である、娘の背を、篤数が突き飛ばした。  
娘は頭から、壺の中に転げ落ちた。  
本来ならば、頸の骨を折り、頭蓋が砕けてもおかしくない高さであった。  
しかし、壺の底に蹲っていた大蛸の、柔らかな体が、  
娘を傷つけることなく、受け止めていた。  
しかし、やはり蛸は痛かったのだろう。  
天井からの闖入者に、大蛸は、怒りを露にした。  
 
大蛸は、娘の肢体に、太い触腕を絡みつかせた。  
まるで、皮膚のない生肉が、そのまま張り付いてくるような感覚に、  
娘は慄然とした。  
死んでまもない獣や魚の肉のように、触腕は柔らかく、  
ひやりと冷たかった。  
娘は、屍肉が纏わりついてくるかのような錯覚さえも覚えたが、  
その腕は、屍肉ではありえないほどの、  
凄まじい力で娘の手足を締め上げ、自由を奪った。  
娘は、もがき、逃れようとするが、  
蛸の腕は、娘の白い柔肌に、吸盤できつく吸い付いて離れようとしない。  
潮臭いぬめりに覆われた触腕は、娘の着物の下に、  
次々と潜り込み、その肌を蹂躙していく。  
触腕は、娘の白く、骨筋の浮いた背板に、  
ぬらりと照り返す帯を曳いては、撫でさする。  
柔くまるい乳房が、弄ばれ、歪む。  
娘は、壺の口から顔を覗かす篤数に、救いを求めた。  
篤数は、闇の中で、灯明に浮彫りにされた、  
その顔を、嘲弄に歪めた。  
「その蛸は、陸奥の更に奥の海にて揚がった“九十九の大蛸”というものだ。  
この近海で獲れる蛸とは違って、北海の蛸は大きさが一丈(約3m)にも及ぶ。  
しかも、そいつはどういうわけか、脚の数が恐ろしく多い。  
信心な漁師どもは、わだつみの神の化身と恐れておったが、  
果たして、そうであろうか。  
人と神との間には子は生じるという。  
人とけだものの間には、仔は生じぬものであるが」  
だが、蛸も娘も、壺の口から降りかかる篤数の言葉など、  
まったく意の外であった。  
蛸の腕の先は、娘の陰部にへと潜り込んだ。  
 
娘は、そのおぞましさに、眦が裂けんばかりに目を見開き、  
一層激しくもがいた。  
しかし、蛸の腕は、その抵抗すらも一笑するかのように、  
娘の四肢を締め上げ、時に力を受け流し、弄んだ。  
娘の陰部に潜り込んだ触手は、  
娘の柔肉に吸盤を吸い付かせたり、  
肉襞に覆われたそこを、激しく揉みしだいた。  
娘の肢体から、ずるずると力が溶け崩れていった。  
無理もない。  
人では、ありえぬ責めなのである。  
本来ならば、熱く滾った、硬い肉棒が突き込まれるそこに、  
冷たく、ぶよぶよとした、異形の指が詰め込まれているのである。  
しかも、娘の全身を締め上げる、そのおぞましい力は、  
命の危機すらも覚えるものであったが、  
それが、娘の淫性に、激烈な高ぶりを覚えさせ、  
さらに、異形のばけものに姦されているという背徳感が、  
それに一層の拍車をかけた。  
娘は、気付かぬうちに腰を振っていた。  
涙と潮と、大蛸のぬめりにまみれ、  
濡れ、喘ぎ、怯えるその上体とは裏腹に、  
娘の腰は、いやらしく、貪欲に、  
生き物としての欲を満たそうとしていた。  
それに応えようというのか、大蛸の指も、一本、また一本と、  
娘の腰にヘと集まってきた。  
白い腿をなぞり、内奥から溢れ出た蜜を浴びながら、  
大蛸の、疣のような吸盤にまみれた指が、  
また一本、また一本と、娘の秘裂にへと潜り込んでいく。  
娘の膣内に充ち満ちた触手たちは、  
やむことなく、吸盤でその内壁を擦りたて、腹中を圧迫した。  
その力が、娘の神経のとくに鋭敏な部分を責めると、  
娘の体は、まったく、その意に反して、  
発条(ばね)のように跳ね、体内に詰め込まれた触手たちを掻き混ぜた。  
それがまた、膣中の神経に、直に淫靡な悦楽を刻み込み、  
なお激しく、腰を使わせた。  
 
触手は、娘の尻にも至っていた。  
娘の菊花は、初めこそは固く締まり、触手の侵入を拒んでいたが、  
娘が淫蕩に堕とされるにより、  
幾度か、その吸盤だらけの触手で擦りたてられると、  
ついには、その侵入を許した。  
娘の背筋に、慄きがさざめき奔った。  
指の一本でもきつかろう、その窄まりに、  
醜怪な容貌の触手が、無遠慮に、ずるりずるりと潜り込んでいく。  
娘の腹中の熱に保たれた腸内に、大蛸の指はあまりにも冷たかった。  
臓腑が造反を起したかのようにのたうつ。  
肛門が、いまさらながらに、務めを果たすべく、  
異形の侵入者を締め上げた。  
それに抗うかのように、触手は、娘の直腸の中でのたうった。  
触手は、むくと急に太さを増したかと思えば、  
途端に細く萎み、また、膨れる。  
そのようなことを繰り返しつつ、  
また別の触手どもが、娘の尻をこじ開け、  
窄まりを押し広げては、潜り込んでいく。  
尻の中に潜り込んだ触手どももまた、  
暴虐に内壁を擦りたて、押しひしげて、娘を喜悦に苦しめる。  
娘の腹は、膣と腸とから潜り込んだ触手に蹂躙され、  
異形に膨れて、蠢いていた。  
娘はもはや白目を剥き、筋が強張ったかのように開け放された口からは、  
止め処もなく唾液が溢れ、喉を奔り、乳房を伝い、腹の辺りまでを汚していた。  
娘の体に絡みついた触腕の尖端は、  
その開け放たれた、口腔にまで侵入し、娘の咽喉の奥をも弄んだ。  
 
娘の腹中を犯す触手の群れが、ごぼりと蠢くたびに、  
娘は背を仰け反らせ、秘裂からは、  
尿とも、腺液ともつかぬ汁が噴き上がり、大蛸に降りかかった。  
幾本もの触手を迎え入れ、弛み、だらしなく開ききった尻の孔からも、  
薄い黄色を帯びた、ねっとりとした腸液が滴っては、大蛸の身を汚していた。  
大蛸が、娘の体を締め上げる。  
膣中を満たす触手が、吸盤でその奥を、子宮口を吸い、弄ぶ。  
尻を犯す触手は、むくむくと膨れて、娘の臓腑を圧し、脅かしつつ、  
更に奥へ奥へと這い進む。  
娘の体は、孔という孔を大蛸に犯されていた。  
それはまさに、蛸壺であった。  
人としての尊厳を捨て、蛸を身に這わせることに喜媚する、  
肉壺であった。  
娘が何度目ともしれぬ奇声を上げた。  
それは、歓呼とも悲鳴ともとれぬ、獣の叫びのようだった。  
娘から吹き上がった体液が、  
表情のない、大蛸の顔を汚した。  
ひとり、篤数の哄笑ばかりが、  
生臭い大壺の中に落ちて、消えた。  
 
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以上は、世に伝え聞く満場七三郎篤数の説話のうち、  
元禄期の世俗小説集『街談色話漫蒐(がいだんしきわそぞろあつめ)』に  
所収されたものであり。  
当時、(一部好事家間で)比較的知名度のあった話であるらしい。  
しかし、その結末まで記されたものはなく、  
娘は蛸に喰われたとか、蛸も娘も篤数が殺した、  
正気に戻った娘が、篤数を殺した、  
あるいは、蛸に魅入られた娘が、  
やはり篤数を殺して、蛸の妻として海に消えた、等々、  
様々言い伝えられるのみである。  
現在では、篤数の実在自体に疑問符が付けられる次第であるから、  
果たして、この逸話自体も、エログロナンセンスを求める、  
好色な庶民が生んだ、幻影談と考えるべきであろう。  
なお、参考までに、陸奥から南蝦夷にかけて、  
大蛸とまぐわう娘の伝説が残されており、  
葛飾北斎の春画等に、些かの影響をもたらした可能性が考えられることを、  
附しておく。  
 
(了)  
 

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