私の名前は書記子(かきこ)
リビングでタブレットを起動して、いつもの日課になっているビューアーを立ち上げる。
いくつかのスレッドを確認して、ため息をつく
「また、あのコね」
新着コメントに、見慣れた乾燥的な文字。
あのコが保守作業をやっているに違いない。
ココは色々な人の思いが詰まった場所だ。
物語を書く為だけではない。
その物語の感想だけでなく、アイデアや妄想その他リクエストまで、次の物語を創る人の糧となる。
勢いのあるテーマのスレッドは伸びるが、そうではないスレッドは、忘れられて地に帰る。
例えそのスレッドが無くなっても、書き手は別のスレッドに綴るに違いない。
だが、いずれ現れるかもしれないそのテーマの物語を待ち望む思いが、保守と形なのだと私は思う。
なのであくまでも、保守は単なる“延命作業”であってはならないはずだ。
「あのコ、解っているのかしら?」
私の一方的な思いにしろ、魂がこもっていないなら、魂をこめるのが、私のすべき事だ。
「触手にでも襲わせてやろうかしら」
いやいや、あそこは勢いがあるから必要はない。
催眠術か媚薬を飲ませて、うんと焦らした後、彼女に私を襲わせるのも一興だ。
思わず笑みがこぼれてしまったが、私はタブレットの電源を落として、立ち上がる。
どうしようか、ゆっくり考えよう。
いずれにしても、ここでは言葉に力を持ち、魂が宿ると現実になる世界なのだから…。