粒クリ  
 
包茎手術を決意する男の人よりも、きっと自分の方が遥  
かに死にそうな顔をしている。  
雑誌やネットでみるクリニックの記事。  
男の人が対象のものよりも女性対象のものの方が、柔かく  
ぼかしてあるけどその分深刻で重大な感じがする。  
曖昧にぼかす――つまりオブラートに包んで誤魔化さなき  
ゃならないくらい凄惨ということだ。  
 
これは個人的な予想だけど、たぶん男の人があそこの、  
ちょっと長い皮を少し切るのと同じくらいの重みなのは、  
瞼を二重に整形するとか唇がふっくらするようにヒアルロ  
ン酸を注入するとか、その程度に違いない。  
だって、隠れている場所じゃない。  
隠すべき場所かもしれないけど、パンツを下ろせばぴょこ  
んと外に出ているわけで、靴下を脱いで足の爪を整えて貰  
う、プロにペディキュアを依頼するのと同じくらいの気安  
さ…かもしれない。  
「足、臭かったらヤバいなあ。足の指、短いんだよね…ガ  
チャピンみたいって言われたら恥ずかしー」程度だ、きっと  
それくらいなんだ悔しい。  
 
見せられる映像を、食い入るように凝視するのも気が引けて、  
でもちゃんと見ないと施術はしてもらえないそうで、羞恥に  
俯きそうになる首に力を入れる。  
 
「場所が場所だけに、トラブルを招きやすいのです」  
 
今、斜め向かいに座る医師はそう言って、インフォームド  
コンセントの重要性を説いた。  
この手のクリニックには、無許可営業しているところも多  
いらしい。イタチの追いかけっこみたいに、警察の取り締ま  
りもいまいち効果がなく、被害者は年々増加傾向だそうだ。  
泣き寝入りも、多いらしい。  
 
高い費用を払って、施術されずに凌辱されるのだとしたら  
やりきれない。  
自分のあんな場所が写真や動画でネットに流出なんてした  
ら、きっと生きていられない。  
ただでさえ気にしてて、コンプレックスなのに、その場所  
を知らない誰かに、大勢に見られてしまうなんて。それも、  
金を払ったのはこっちで……そんなの怖すぎる。  
 
 
それにしても、施術を説明するこのビデオは、アニメでも  
人形を使ったものでもなく、顔こそ隠れていて音は一切無し  
だけど本物の女性を映している。  
一体だれがモデルなんだろう。恥ずかしくないのかな。  
あんな、すっぽりと皮に隠れて自力では1ミリも見えない極小  
のクリを撮影されて、大丈夫なのかなあ。  
 
耳かきによく似た形で、もっと持つ部分が長い棒の先が、  
クリの皮を捲り上げた瞬間、内腿がひくりと波打ったのが見えてドキリとした。  
真っ赤なクリの先端が漸く露出した。  
真っ赤…ということはきっともう充血しているのだろうけど、  
充血して尚小さくて、周囲の肉と皮に埋もれがち。もしかし  
たら自分のクリより小さいかもしれない。  
 
「女性のクリトリスの場合、皮が癒着して包茎になっている  
という確率はほぼありません。簡単に剥けますし、出血を伴う  
ことはありませんからご安心ください」  
「あ、はい…」  
 
音声のないビデオの代わりに、医師の説明が入った。  
なんだかハッとして、ぎこちなく返事した。  
どうしてこういうクリニックなのに医師が男なんだろう。  
 
女性がいいよ……。でも、同じものがついてる同性に見ら  
れるのも辛いかな。心の中で嗤っている気がして落ち着か  
ないかもしれない。  
だったら男の人でよかったか。  
でもせめて、もう少し優しそうな人がよかった。  
斜め向かいに腰かける医師は、いかにも医者という雰囲気  
で、近づいてふんふんと匂いをかげば消毒液の匂いくらい  
しか感じられなそうに思える。  
大事な場所を預けるんだから、イケメンじゃなくて構わな  
いけれどもう少し砕けた優しい感じの人がよかった。  
ノンフレームの眼鏡の向こうの怜悧な目を見ながら、あれ  
これと質問出来る程強くない。  
兄も姉もいないから想像でしかないけど、どうせならお兄  
ちゃんといった感じの、優しくて頼れて、何でも相談でき  
る感じの人が……。  
「おまえ、重くなったなあ」とか「子どもじゃないだろ?」  
とか言いつつも、お膝に乗せてくれそうな感じの人が……。  
 
 
「…では、何かご質問はありますか?」  
「え、えと」  
 
充血を促進させる薬を目薬みたいに時々垂らしながら、  
皮を剥いて、剥き出しに固定したクリをただ撫でさするだ  
け…に、ビデオは見えた。  
週に一回、半年。  
たったそれだけの施術を半年続けて、果たして改善するのか。  
たったあれだけのことに2分の1年分の給料手取り分を投入する  
価値があるのか。効果がなかったら。  
確かに自分の給料は高くない。  
派遣の事務員なんてたかが知れている。  
だけど、だからこそコンプレックスを克服して、素敵な男性に  
出会って、結婚して……派遣なんて長くは続かない。  
 
大丈夫なのか。自分の選択は間違えていないだろうか。  
 
こちらの悩みを見透かしたように、医師が静かに口を開いた。  
 
「クリトリスの包茎に悩む女性のほとんどは、クリトリスが  
小さすぎることにあります。稀にオナニーのしすぎで皮が伸  
びてしまった場合もありますが、本当にごく稀です。小さい  
クリトリスを大きくするには、刺激を与えて育ててあげるの  
が一番効果的なのですよ」  
「く、薬を注入するっていう方法もあるって聞きました」  
「あれは一時的にクリトリスを増強させますが、永久的では  
ありません」  
 
そんなことはとうに調べていた。  
あんな場所に注射針で…怖くてその方法は除外していたが。  
 
「それに、薬剤を注入して大きくすると、感度が鈍くなりま  
すよ?昔流行った勃起促進薬と同じです。勃起するけれど快  
感は無く…って、この説明では女性には分かりづらいですか?」  
「あ、いえ…。」  
「薬を使うと、ただ膨らんでいるだけですから、生活に支障  
をきたすこともあります。必要に応じて、興奮している精神  
状態のときに膨らみ露出するのが自然で、日常的に勃起して  
いたら辛いと思いますよ」  
「そう、ですね…」  
 
まあ確かに、四六時中クリが飛び出ていたら下着をはくのも  
苦労するだろう。  
どう頑張っても引っ込んだままの今よりはマシかなとも思った  
けれど、どうせ選べるなら、興奮に連動して大きくなっていく  
ほうがいいに決まっている。  
 
それに、あんなことに100万以上も、と言っても、じゃあ  
誰かに頼めるのかといえば無理な話だ。  
友人知人に頼める内容ではないし、彼氏でもいたらもしか  
したらと思うけれど、コンプレックスが原因で彼氏いない  
歴=年齢なのだ。  
だからこそこうして一発奮起して貯金を全投入する決意  
を固めたのだ。  
 
「あ、あの…あのビデオのひと、びくびくってしてました。  
い、痛いんでしょうか…」  
「痛みは全く無いとは言い切れませんが、痙攣は快感によ  
るものですよ?」  
「……。」  
 
本当だろうか。痙攣といったら電流を通されたとか急に走っ  
て足を攣ったとか、そんなイメージだ。快感とは程遠い。  
不審な気持ちが顔に出ていたのか、医師が冷たいばかりに見  
えた眼差しを幾分緩めた。  
駄々っ子の妹でも宥めるみたいな顔になって、  
「私は男性ですから、女性の性感やオーガズムについて実体  
験として理解しているわけではありません。でも、女性が望  
まないのに傷めつけたり苦痛を味あわせてもクリトリスは大  
きくはならないということを医師として理解しています」  
ふわりとほんの微かに笑った。  
白衣と眼鏡、という衣装的なものが怖く見せているだけで、  
もしかしたら本当は優しいのかもしれない。  
違う。怖くて不安で堪らないから、自分をこれから施術する  
のだろう医師を「優しいひと」と思いこもうとしているのかも。  
 
「…ちゃんと大きくなりますよ?好きな人の愛撫に悦びを示  
すことができるようになります」  
 
指の長い大きな手がにゅっと伸びてきた。  
頭を撫でられそうな雰囲気に、やっぱり優しい人なんだ、  
と安堵してホッと息を吐きつつ目を閉じた。  
目を閉じたのに、医師の手が触れたのは膝の上で所在なさげ  
にスカートの布地を弄っていた私の手だった。  
片方、そっと掴まれ持ち上げられて、慌てて目を開く。  
 
「この手の、小指の先くらいには大きくなります」  
「…は?えっ?そんなに?」  
「なりますよ」  
 
医師はふふふ、と何となく黒いような、悪戯っぽい笑みを  
見せてから、「では実際の施術は次回から」と続けた。  
 
「料金は、ご納得いただけたなら次回までにお振り込みください」  
 
 
 
結局、料金は振り込んでしまった。  
忙しかったのに、貴重な昼休みを費やしてまで銀行へいき、  
全額を振り込んだ。  
もう後には引けない。怖くても恥ずかしくても耐えるしかないのだ。  
 
医師の説明では、施術の最中はどうしても体が暴れてしまう  
とのことで、四肢をベルトで固定するか、もしくは助手が  
ベルトの役をするらしい。  
どちらでもいいと言われたから、迷ったがベルトで固定  
されるほうを選んだ。  
小さくてみっともないクリを、何も大勢に披露しなくていい。  
見て、心の中で憐れむのは医師だけで十分だ。  
 
会社の備品室程度の小さな部屋は、淡いピンクの椅子が  
ひとつと、銀色のワゴンだけというシンプルさだった。  
入口とは別の扉を隔ててシャワールームがあるが、そこも  
さして広くは無かった。  
 
シャワールームで首から下を丁寧に洗った。  
貸し出されたガウンを着て、椅子に座るべきか立っていた  
方がいいのか逡巡する。  
普通の丸椅子とかなら、気にせず座った。  
でも目の前にある椅子は、婦人科にある内診用の椅子によ  
く似ている。自分からさっさと座るには気が引ける。  
 
踵を乗せるらしい緩いカーブにどきりとして、そのすぐ  
そばに垂れているベルトに胸がきゅっと竦んだ。  
やっぱり婦人科でみた内診用のそれとは違う。  
そもそも、腹の上辺りにカーテンが無い。  
婦人科のあれは、医師と目が合わないようにとの配慮なのか  
知らないが、カーテンで上半身が隠される。  
生理不順で触診を受けたときとは違うのだ。  
 
これから、足を広げられ、クリを弄られるのだ。  
あのビデオの女性が、顔だけ自分にすり替わる。  
足の付け根に太い筋を何度も浮かばせて、最後には膣が  
ぱくぱくと口を開閉していた。肛門も、まるで身悶えるみ  
たいに激しくひくついていて、あんな反応を自分の体は経験  
したことが無い。  
あんな風に、あんなに激しい反応を見せてしまうようなことを、  
これから自分は体験するのだ。  
野生の馬が…違う。ゾウの大群が大移動しているみたいに、  
心臓が爆音を奏で始めた。  
 
 
入ってきた医師に「座りましょう」と促され、こくこくと頷く  
ものの膝ががくがくして、指先も震えていて上手くいかない。  
 
ぎくしゃくしながら座るには、椅子の位置が自分には少し高い。  
医師が施術するための椅子だから、高さは医師の身長に合わ  
せてあるのだ。仕方ないとは思うものの、緊張の挙句にすっ  
転んだなんて醜態を晒すのは嫌だ。  
 
踏み台に立ち尽くしておろおろしていると、医師が手を貸し  
てくれた。漸く座面にどさりと乗り上がり、おずおずと体を  
椅子に沿わせる。  
 
医師は私がしっかり座ったのを見届けてから、「少し動かし  
ますよ」と言った。  
何を動かすのだろう。歯医者の診察台のように仰向けになるのか。  
だが、背凭れが倒れることはなく、椅子は美容院のそれのよう  
にスッと静かに、更に高く持ち上がった。  
限界まで低くしてあったけど、それでも私には高かったのか……。  
自分に白けて少し緊張が解けて、よくよく見れば、椅子は  
そんなに高いというわけでもなかった。落ちついて踏み台を  
補助に座れば余裕だったのだ。  
 
「お、お手間を……」  
 
恥ずかしくて俯きながらの謝罪は、医師の耳まで届いたかどうか。  
だが医師は私が何か喋ったということは察したらしく、作業の手を止めた。  
 
「録画機能はありませんが、モニターで見えるようになって  
ますから、安心してください」  
 
えっ!?モニター!!  
 
医師がパネルを操作すると、天井から機械音と共にテレビ  
画面のようなものがしずしずと下りてきた。  
医師はそれを、丁度私が良く見えそうな位置に角度を手動  
で調節する。  
 
「モ、モニター……。てことは、カメラが……?」  
「ありますよ?丁度、足の間から撮影します」  
 
ほら、と言って医師がスイッチを押すと、モニターが淡く  
光り、それから私の恥部が大写しになった。  
 
「…っや、やめ……」  
「ちゃんと確認していてください。医療行為ではなく、  
猥褻行為だと思えたなら、すぐにストップの声を。どうしても見ていたくないと思ったら、目を閉じても構いませんが」  
 
トラブルにならないようにとの配慮は、何も患者のためだ  
けではなく、医師にとっても、なのだろう。  
分かる…分かるけど…。  
 
 
恥ずかしくて心臓が止まるんじゃないかと思ったが、心臓  
は停止するどころか大暴れで、もはや胸に収まらず口から  
飛び出てしまいそうになった。  
顔が熱い。頭がくらくらする。  
心臓に「ハウス!」と何度も言い聞かせて、同時に口を押  
さえていた手を掴まれ、肘かけにベルトで固定されてしまう。  
二の腕と、手首の少し上。それから足も膝を中心に上下15  
センチ程の所で2か所。  
医師がパネルのスイッチを操作すると、緩く開いていただけ  
だった足がぐぐぐ、と更に左右に広がった。  
腰のあたりに鈍い震動を感じて何かと思えば、足だけではな  
く腰の位置がじりじりと変わっていく。  
 
「そ、そんな……っ」  
 
腰が上向きに角度をつけられ、すげられた。  
足を閉じて隠したくても、足はベルトで椅子に固定され  
ている。  
手術室のような、やたらと煌々としたライトが恥部を容赦  
なく照射する。  
医師がカメラの位置を修正したのだろう。モニターの画像  
が激しく乱れた次の瞬間には、さっきまでよりも余程鮮明  
な画像に変わった。  
 
 
 
手術用の薄いゴム手袋をつけた医師が、ワゴンの上から小  
さな半透明のスポイトのようなものを取ってこちらに向いた。  
クリを充血させる薬だ。説明されたから効果も、どうやって  
使うのかも分かる。  
でも、納得も覚悟も出来ているのは上っ面だけで、本当は怖い。  
自然、腰が浮き上がって逃げようとする。  
医師が、片手に薬のアンプルを持ちながら反対の手で私の  
下腹に触れた。  
大仰なくらい、ひくんと大きく腹筋が震えてしまう。  
ゴム越しの少し冷たい手。肌が粟立った。  
 
医師は私の下腹をゆっくり、そうっと押した。  
逃げようと浮き上がりかけた腰がじわじわと押し戻される。  
そうして椅子へ腰がぺたりと着地してから、医師はアンプ  
ルを持った方の手を私の股間へ近づけた。  
 
「…ッ」  
 
医師の手がモニターに登場した。  
息を飲み、知らず喰い入るようにモニターを睨む。  
 
「あ……っ」  
 
さっき下腹を押した医師の手が、淡い下生えをするりと  
撫でるように掻き分けた。  
人差し指と薬指が、柔かい肉に浅く埋まる。  
割れ目の一番前面、クリが隠れている場所で、二本の指  
がゆっくりと開く。  
 
自分で見ても首を傾げたくなる程、そこにはあるべきもの  
が見当たらない。  
自宅のベッドの上、何度も鏡を照らしてたしかめたのと同  
じ光景が、大写しに鮮明な画像でも確認できた。  
何にも無い。  
だぶついた皮しか。少し膨らんでいるようにも見えるけど、  
単にそこが割れ目の端だから、余った皮が寄せ集まって盛り  
上がっているだけのようにも見える。  
まるで奇形。  
 
迫力の大画面で見せつけられる醜い性器に、もうやめて、  
と泣きたくなる。  
大きくなるわけがない。  
あんな、あるのか無いのかも不明なほどなのだ。  
たった一度、酔ったノリで寝た男に嘲笑されるくらい酷い  
性器なのだ。  
 
あの男の声が言葉がフラッシュバックする、そのほんの手前  
で、私の意識は過去から現実へ引き戻された。  
 
ひゅっ、と鋭く息を飲む喉鳴りの音に、医師の手が動きを止めた。  
医師の、そこを左右に拡げることに使っていない中指が、  
割れ目の丁度端の端、皮がだぶつきながら集束しているらしい  
その僅かな膨らみに、ぴたりと添えられていた。  
 
「…っな、ないんです……そこっ、なにもな、」  
「何もないわけないでしょう」  
 
混乱してあわあわと言い訳し始めた私に、医師が些か呆れ  
たような声音で返した。  
呆れている。でも怒っているとか苛々しているというので  
はなく、しょうがないなあ、というような温かみのある揶揄い  
混じりの声だった。  
それで私がむむっと口を閉じて黙ると、医師は、マスクの下で  
少し笑ったらしい。空気が震える気配がした。  
 
「ちゃんとありますよ?ぴくぴくと脈打っているのが分かります」  
 
医師が、中指の腹を少し滑らせた。  
 
「ぅあっ…」  
 
少しだけ皮が捲られた。  
痛みは無い。モニターの中、それらしいものも映らない。  
だけど、確かにその奥……医師の指が添えられている場所の  
真下で、何かがきゅんきゅんっ、と信号を送った。  
 
人差し指と薬指で左右に、そして中指で上方に捲って露出させ  
た粘膜に、薬剤がぽたぽたと数滴落とされた。  
ビデオで見たときは目薬のようだと思ったけれど、そんな水み  
たいな感じではなくて、とろみがついているようだった。モニ  
ターの中、数珠つなぎに零れた薬は、アンプルの先で最後は糸を引いた。  
イメージする目薬と決定的に違うのは、粘度だけではなくて  
温度も、だった。  
目薬のような清涼感とは逆の、じんわりと温かくなるようなつけ心地。  
 
じわわ…と温かくなって、染み込んでいく感じ。  
染み込むのを助けるみたいに、医師は添えていた指を軽く  
揺すった。  
 
医師の指が一旦離れると、その一点だけが異様に温かいと  
いう違和感におののきながらもそこはすぐさまぴたりと閉じ  
合わさった。  
何事も無かったように平静さを取り戻したそこに、医師の  
手が再び触れる。  
下生えに手を置き、閉じてしまったそこを閉じたまま上から、  
揃えた指で解すようにゆっくりと撫で始めた。  
 
 
「はぁっ、はぁっ、……ン」  
 
垂らされた薬だろう、ぴたりと固く閉じている筈のそこから、  
ぬかるみを歩くような濡れた音が漏れ聞こえた。  
閉じた性器全体を撫でるような動きだった医師の手が、徐々  
に動きを変える。  
長い中指が、閉じ合わさった割れ目をそろりとなぞった。  
 
「……ふぅっ」  
 
途端、閉じたその奥で、何かがずくりと淫らな感じで脈打った。  
モニターにもその変化は映し出されていた。  
医師の手に隠れていない肛門が、きゅん、と竦むように緊張  
したのが見えた。  
 
きゅうう、と緊張に硬く窄まって、それからフッと脱力する。  
脱力すれば、大きく開脚している体勢上、そこも閉じていら  
れなくなる。  
 
割れ目が薄く綻ぶ。  
するとすかさず医師の中指がそこに浅く埋まった。  
 
「あっ……っ、っ」  
 
肛門側、つまり後ろの端からつぷりと潜った指先が、閉じた  
割れ目をなぞった時と同じように前へ向かってゆっくりと  
移動する。  
さっきみたいに、薄くても乾いた皮膚、というのではなくて、  
粘膜が指に擦られる。  
 
さっきよりも露骨で生々しい感触。  
指で浅くなぞられた割れ目から、薬がとろりと溢れた。  
 
「ンンッ…」  
 
指は、入ったのとは逆の端、クリがあるのだろう場所まで行  
きつくと、最後にクンッ、と鉤状に軽く折り曲げられた。  
ずくずくと不穏な脈動を訴えていた奥が、一際強くずくりと疼く。  
何…こんなの知らない。  
 
 
閉じた割れ目をなぞったときのように往復することはせず、  
鉤状に軽く折れた医師の指は、その一点を寛げるように留まり、くるくると小さな円を描き始めた。  
 
くちゅくちゅ……  
濡れた音がひっきりなしに漏れる。薄く開いてしまった割れ目  
からも、そこの筋肉の弛緩に合わせてとろとろと薬が溢れ続ける。  
否、薬ではない。こんな量の投薬はされていない。  
せいぜい数滴が、こんな洪水にはならない。  
 
モニターの中で、肛門の方までてらてらといやらしく照り  
光っている。  
薬じゃない。だったらこれは……でもこんなに濡れたこ  
とは……。  
 
「…っせ、先生っ、ちょっと……」  
 
びしょびしょの股間を見て、居た堪れなくなった。  
でも、やめてと制止しているのではなくて、少し休憩を、  
というか。  
 
医師は、妙に上ずった私の声に、狭い場所で器用に蠢かせ  
ていた指をピタリと止めた。  
 
「疲れましたか?それとも気持ちが悪く?」  
「あ、い、いえ…そうでは……」  
 
医師は私が否定することを見越していたように、こくりと  
頷いて見せた。  
それから「今なら見えるかな」と独り言のように呟いて、  
私の顔を見て「薬を足しましょうか」と言った。  
 
 
もう一度、始めと同じようにそこを指で開かれた。  
私が溢れさせたいやらしい粘液のせいで、医師の指は始め  
と違いいく度か滑り、苦心しながらそこを捲った。  
 
「あっ…」  
 
驚いて思わず声が漏れてしまった。  
さっきと同じように左右と上に捲られた皮。  
その奥で、爪先程の小さな突起が確かにぷくりと主張していた。  
 
周囲とは色合いが明らかに違う。朱というよりはピンク  
色を濃くしたような甘い色の膨らみが、周囲の肉の痙攣に  
合わせてひくついている。  
 
「あ……あった……」  
 
他人がいることもうっかり忘れて独りごちてから、ハッと  
して口を噤む。  
医師はくすりと笑ってから、アンプルの先をクリの上へ向けた。  
 
 
「あっ、あぁっ、っは……」  
 
漸く露出してみせたばかりのそこに薬を直接垂らされると  
いうのは、予想もできない快感だった。  
医師の指に絞り出されて、ゆっくりと大きくなった雫が  
最後にはぽたりと赤い実の上に滴る。  
温かいなんてものではない。熱い。  
でも不快ではなく、寧ろ快感。  
ぽたりと落ちた雫が、小さなクリを包むようにほどけて広がる。  
薬がぽたりと落ちてきた瞬間に、腰がびくぅ!と飛び跳ねる。  
雫がクリ全体をゆっくりと舐めながら包む間中、跳ね上がって  
いた腰は、今度はくいくいと前後に小刻みに揺れた。  
 
今まで良く分からなかったけど、今なら分かる。  
一段と強烈な快感を訴えてじんじんうずうずしているのはクリだ。  
あれが、あんな小さな場所が、恐ろしい程の性感を、電流み  
たいに全身に撒き散らしている。  
 
「あっあっ……かはっ…」  
 
こんな快感、持て余すばかりだ。  
あさましくうねる腰をどうすることもできずに胸を喘がせる。  
モニターなんて見ている余裕なんてなくなって、目はすっ  
かり閉じていた。  
 
「少し、濡れやすい体質のようですね」  
 
医師の声が聞こえたが、返す言葉が出ない。  
だから何、と心の中だけで答える。  
羞恥なんて軽く吹き飛ばす程、快感が全身を包んでいた。  
 
「性経験はあると問診表には書いてありましたね」  
「…はぃ……」  
 
こんな状況になってからそんな質問…。  
そんなことはどうでもいいから、さっきの続きを……  
気持ちいいの、もっとしてほしい。あ、でも、これって治療  
なんだった。目の前にいるのは好きな人、とかではなくて、  
お医者さんだった。  
 
とろんとしながらも目を開けると、医師の手が見えた。  
何か、変な形のものを持っている。  
プチトマトくらいの大きさで、ゴルフボールみたいにぼつぼつ  
がついてる球体が先端にくっついた棒。  
何だろう、と目で追うと、医師が気付いて説明した。  
 
「愛液、少しだけ吸引しますね?」  
「……え?」  
 
過剰分泌されたそれを、ガーゼで拭うのではなく直接吸引する  
のだと知って驚いた。  
 
ゴルフボールのようにぼつぼつに見えたけど、凹凸ではな  
くて無数の細かい孔が開いているらしい。  
歯医者さんで唾液を吸引する器械と同じなのだろうか。  
あれはもう少し小さかった気がする。  
 
えっ、えっ、と動揺している間に、吸引器の先がくぷりと  
膣に挿し入れられた。  
冷たい感触に小さく驚嘆し震えたが、医師は介することなく  
棒部分を巧みに操り、球体を膣内へ埋め込んでいった。  
 
 
「本来は膣の中で上下して、移動させながら愛液を吸引採  
取する道具なのですが」  
 
金属の球体の冷たすぎる感触におののいていた私に、医師  
は言葉を続けた。  
 
「どうせですから内側からもクリトリスを刺激してあげましょう」  
 
何を言っているのか全く分からない……分からなかったが  
、頭より先に体で思い知らされることになった。  
 
あえかな機械音に続いて、膣の中でちゅるる、ぢゅぷぷぷ、  
と耳を覆いたくなるような粘着質な音が派手に響き始めた。  
耳を覆いたくても両手は固定されている。  
でも、もし固定されていなかったとしたら、私の手は耳を  
覆うことはしなかっただろう。  
私の手が真っ先に向かうのは、きっと股間だ。  
 
「ひゃっ!?…あっ、ふっ、ふぁっ!!」  
 
クリの丁度真裏が、吸引されているのだ。  
 
棒の部分が長いのに、妙に浅く埋めたような気がしなくも  
なかったけど、理由はきっとこれだった。  
愛液を、膣の奥ではなくクリの近くで啜ることにしたのだ。  
 
 
球体を覆う無数の小さな孔が、愛液を吸引する。  
……だけではなくて、膣壁にも吸い付く。  
小さな口の吸引力なんてたかが知れているけれど、無数の  
口に吸い付かれるのは異様な感覚だった。  
全身の毛穴がぶわりと開く。  
下腹の奥が、絞るような動きを繰り返す。  
 
「だっ…だめっ、ですっっ……っそ、それ…だめっ!」  
「大丈夫ですよ。ほら、もっと大きくなってきました。  
…もう摘めるかな?」  
 
小さな口がちゅぱちゅぱと弱い吸引力で吸いついたり離れ  
たりを小刻みに繰り返しながら、クリを根元から揺さぶる。  
 
「あっ、あぐ……あぁぁぁあああっっ!!」  
 
薬の効果かそれとも裏側から刺激されるからか、更に赤み  
を増して弾けんばかりにぷくりと腫れたクリを、医師の指  
が皮ごと摘む。  
にゅくにゅく、と男の人の自慰のスモール版みたいにしご  
かれて、絶叫した。  
頭の中で火花がばちばちっと弾ける。目の奥が真っ白になる。  
耳で砂嵐の音が響いて、口端から涎が零れた。  
 
「あ、あの…」  
「なんでしょう?」  
 
帰りの身支度を整えた後、おずおずと口を開いた私に、医師  
が軽く小首を傾げる仕草をした。  
 
「あ……これから、も……あれを?」  
「あれ?」  
「…きゅ、吸引する、やつです…」  
 
しどろもどろに喋って、俯いた私に医師が「ああ、」と納得  
の声を漏らした。  
 
「苦手ですか?」  
「……。」  
 
苦手なんて言える身分じゃない。  
あんなに感じてアンアン喘いでおいて、その台詞を口にで  
きる程強くない。  
 
「愛液が沢山分泌されるというのは、本来良いことなんで  
すよ。濡れないと挿入に苦痛が伴いますから。でも医療行  
為の場に置いては、性交と同じというわけにはいかないの  
です。ご了解ください」  
「わ、わかってます……」  
 
次回も使用されるということか。  
でもあれ、理性が……。  
せめて、クリを押し上げるみたいにぐりぐりしないで欲し  
いと訴えようかと思ったけれど、医師はそれもまたクリを  
育てるのに効果的と判断しているのだ。却下されるに違い  
なかった。  
 
電車に乗る気にはなれず、タクシーで帰宅した。  
家につくなりメイクも落とさずベッドにぼふんとダイブし  
たが、ふと気になって起き上がる。  
スカートを腹まで捲り、下着を脱ぐ。  
2時間、掘り起こしてたっぷりと磨かれたソコはまだじんじ  
んしていて、今も医師の指の感触が淡く残っている。  
 
どきどきしながら手鏡を差し入れたのに、そこに映ったのは  
しょんぼりな現実だった。  
 
 
終わり  
 

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