佳乃はフツメンな俺とは似ても似つかないが、正真正銘、俺の姉である。  
文武両道、品行方正、おまけに容姿端麗ときた。  
だが実は佳乃は俺とは半分しか血が繋がっておらず、いわゆる腹違いと言うやつ。  
うちの家は由緒正しきなんとか流だかの看板を持つ本家で、家元である父親は好き放題。そしてありきたりに弟子だった佳乃の母を無理矢理手篭めにした、と。  
けれど佳乃が12歳、俺が8歳のときにシングルマザーの道を歩んでいた佳乃の母が病死してしまったのを機に、うちに引き取られたのだ。  
 
当然ながら、継子物語のように俺の母親は佳乃のことを疎んでいる。  
父はだらしない人間ではあるが、それでも家元として才能はあり、俺の凡庸さ加減をずばり見切って「お前はもう稽古はしないでいい」と言い放った。  
しかし佳乃の才能はここでも光り、父は佳乃を家元にすることをすぐに決め込んだのだ。  
妻である自分の子よりも、どこの馬の骨とも知れない女との間にできた子のほうが優れているなんて、まあ確かに母親としての矜持はズタズタだろう。  
 
そして肝心な俺と佳乃の関係だけれど、俺らの仲はとても良い。  
初めて会ったとき、中学に入学したての佳乃はセーラー服を着ていた。きれいな子だな、と思った。もしかしたら、そのとき俺は一目ぼれでもしたのかもしれないが。  
その頃特別な才能がなくても唯一の跡継ぎとして厳しくされてきた俺は、一緒に暮らして佳乃の優しさに触れて、それでまた佳乃が好きになった。  
けれど時間が経つにつれ、佳乃と俺の出来の差がわかり始めると、確かに劣等感を抱いたりもした。  
あなたは私の子なんだから、あの女の産んだ子よりも出来る筈でしょうとか、そんなことを母親に言われたりもした。  
しかし、次期家元を佳乃にすると父が決め込んだ次点で、俺はその期待や重圧から開放された。それは幼いながらにも、憑き物が落ちたようだった。  
俺は才能がないとは言わないが、家元の座なんて大それたものは分不相応だ。  
おかげで稽古稽古に縛られていた俺の生活は緩やかになり、好きなことを好きなだけでき、  
次期家元としてじゃなく、ちゃんと息子として俺を見てくれるようになった父との仲も良好になっていった。  
 
しかし逆に、佳乃は俺の代わりに家に縛られていった。  
出来すぎると言うのも困り者で、父も母も、佳乃が通知表で全項目オール最高評価を取ろうとも特別褒めることはない。半ば当然だと思ってる。  
学校が終わり放課後になっても、友人と遊ぶこともできずに家に帰り、稽古尽くめの日々を送ってる。  
何をさせても完璧だと言われる佳乃だが、俺は佳乃が努力しているのを知っていたぶんだけに、俺の代わりにこの家を背負わせることに罪悪感めいたものを抱いている。  
加えて母は佳乃につらく当たるし、俺が15を越してからは母の弟子や取り巻き連中が佳乃を邪険にしている節がある。  
取り巻き連中は大方、俺が家元になれば自分や自分の娘を家元夫人にできると思って画策してたんだろう。  
なのに佳乃が19のとき、公式に次期家元だと発表されたから面白くないに違いないのだ。全く欲まみれである。  
 
……そう、佳乃はこの家に来てから肩身の狭い思いばかりをしていた。  
 
お手つきになった弟子の娘だと揶揄されて、できて当然と評価されて、自由にできる時間なんてほとんどない。  
厳しくされてきて硬く心を閉ざしていた俺に、微笑みながらやさしく手を差し伸べてくれたその暖かさ。それは今でも変わらなかった。  
苦笑しながらも、苦しいと言う表情を見せたことは一度もなかった。  
そんな佳乃に対して俺が姉弟間で抱いてはならない禁忌の感情を抱きだしたのは、もう随分と前のことになる。  
 
そして驚くことに、佳乃も俺が好きだった。  
 
まあ、当然といえば当然か。  
なにせ周りは敵だらけで肩身の狭い中、俺だけが純粋に自分に懐いてくれるんだから。  
加えて、私的な時間を作ることのできない佳乃はそこまで深い仲の友人を作ることもできなかっただろう。  
だから、佳乃のなかでは俺が一番大切な存在だ。自惚れてもいい。  
そしてそのまま、俺は佳乃に自分が佳乃のことを異性として好きだということを告げた。  
周りに味方のいない、気弱なところもある佳乃が、俺を決して邪険にするはずがないって打算も含みつつ。  
 
果たして、俺と佳乃は禁断の関係ながらも想いを通じ合わせることができたのだった。  
(まあそれこそ、片手で数えて足りる程度のキスどまりだが)  
絶対に結ばれることなんて分かっていたが、ずっと佳乃と一緒にいれると思っていた。幸せになれると思っていた。  
 
 
嗚呼、本当に俺は馬鹿みたい、だ。  
 
 
今年で22になった佳乃が、次期家元として婿養子を娶ることになった。  
それを聞いたとき、俺はただ自分を嗤った。  
いつかはこうなるって分かっていたはずなのに、ちっともそれが許せなかったからだ。  
 
佳乃を他の男に渡すことを受け入れられる程寛大でもないくせに、割り切ろうと足掻いて、見苦しく執着し、恋慕し、求めてしまう。  
割り切る事なんて、できはしないのに。  
佳乃が好きなのは俺だと、分かっているのに。  
心があるだけじゃあ満足できずに、佳乃のすべてを自分のものにしたいと思ってしまう。  
 
馬鹿みたいだ。本当に、馬鹿みたいだ。  
俺は平凡なんかじゃない、いっとう愚かな奴だ。  
佳乃が好きな筈なのに、佳乃の嫌がることなんかやりたくないのに、それでも俺は、  
 
「……佳乃、」  
「ん、どうしたの?」  
 
俺は今からお前を壊す。心も体も、俺がお前と今まで築いてきた関係も。  
許して貰おうとも思わないし、ずっとこのまま許してくれなくっていい。  
 
 
けれどただひとつ、これだけは譲れない。  
俺は、お前が好きなんだ。  
 
 
掴みあげた佳乃の手は、驚くほどに華奢だった。  
それに佳乃の瞳が見開かれ、動揺が広がっていくのが分かる。けれど、抵抗する隙は与えない。  
体格差を利用して佳乃を押し倒し、帯締めの紐を解くと、それで手首を拘束する。  
俺の暴挙に、こんなことなんか予想もしていなかっただろう佳乃は戸惑いながらしきりに俺の名を呼ぶ。  
可哀相に、細い肩も澄んだ声も小さく震えていた。  
 
「っ、やめて…!どうしてこんな…!」  
 
俺は、佳乃の着ている着物の袷に手をかけると、そのまま一気に開け広げ、胸を外気に晒してしまう。  
佳乃は小さく悲鳴を上げ逃げようとするものの、ろくに抵抗もできない。  
佳乃が身じろいだ拍子にふるふると揺れる、真白い乳房が艶かしかった。  
それに、誘われるようにして吸い付いた。  
 
「っはぁ……佳乃、佳乃、佳乃っ…!」  
「ひっ、あぁっ…や、やだ…やだ…ぁ」  
 
怯えるように震える佳乃の声。けれど、構わずに佳乃の胸を嬲る。  
桜色の突起を食み、舌先で尖った先端を嘗め回して、吸い上げた。  
もう一方の胸は、手でたぷたぷと柔らかい触感を楽しむようにして揉みあげてやる。  
 
「だ、だめ…っ!こんなの、駄目なのにっ……ん、ん――ッ!?」  
 
講義の声を聞きたくなくて、俺は胸から唇を離して、そのまま佳乃の唇を奪った。  
逃げる舌を絡め取り、蹂躙するかのごとく深く深く口付ける。  
ただひたすらに新たな酸素を求めて、佳乃の胸が何度も上下する。  
その間も手による愛撫は続けられていたために、口内でぐもったその声はどうしようもなく甘い響きを纏っていた。  
そして漸く唇を離したときには、浅い呼吸のままの佳乃の瞳は茫然としつつ、とろりと溶けていた。  
 
俺はその間に、佳乃の着物の裾を暴いた。  
すらりとした白い足が剥き出しになり、思わず喉を鳴らしてしまう。それに佳乃が我に返る。  
 
「あ……お願い、それ、だめっ…それだけは、だめ」  
「やめられるはずがないだろ…っ!」  
 
佳乃が華奢な体を恐怖に震わせて抵抗を試みるが、俺はそれを許さない。  
いやいやと首を振って嫌がる佳乃の足を持ち上げて開かせて、着物を完全に肌蹴させる。  
佳乃は最早、ぽろぽろと泣いていた。けれどそんな涙では止まれないところまで、俺は来てしまっている。  
佳乃の泣き顔を見ても昂りがおさまらない。むしろ高まって高まって、ハイエンド。  
 
俺は佳乃の太腿に手を這わせた。微かな湿り気はあるが、濡れているという表現にはまだ遠い。  
俺が指を割れ目に沿って這わせると、佳乃の体がビクリと揺れて強張った。  
 
「っ…あ……!やだ…ぁ、っ、ひぁ、んっ……」  
 
奥へと通じるそこに無理矢理にでも指を入れようとすれば、佳乃が足を閉じて拒むような仕草をした。  
それがもどかしかった。今すぐ佳乃の中で暴れたい。佳乃の中を俺の精液で穢したい。  
もう、誰のものにもなれないくらい確かな所有の証が刻みたかった。  
俺はゆるゆると上下に秘裂をなぞりあげていた指を一本、たっぷりと唾液を絡めた上で中へと挿し込んだ。  
 
「ひっ…!?いや…ぁ、んん…っ!」  
 
ずぶずぶと埋まっていく指の質量に、涙をぼろぼろと流しだす佳乃。  
異物感でいっぱいなのだろうが、俺は時折偶然を装って内壁に軽く爪を立てたり、陰核を弾いたりする。  
すると動かすたびにくちゅくちゅと淫蕩な音がしてきて、それがどうしようもなく俺の雄を煽り立てた。  
狭くて、とろけそうに熱い佳乃の中。ここに自分のものを入れたら、どれだけ気持ちがいいんだろうか。  
それを想像してみると、ずぐりと下肢が凶悪に疼きだす。  
 
「実の弟に襲われて、初めてなのに濡らすなんて、佳乃は淫乱なんだな」  
「いやぁ…っ!ふ、あぁ、んんっ……ち、違う…っ、そんなこと…!!」  
「佳乃は、誰でもいいんだろ」  
「!! 違っ、ちがう……私、は、」  
 
悲鳴にも似た佳乃の嬌声が響く。艶やかな、いつもは聞けないような甘い声。  
はぁはぁと息も絶え絶えに顔を紅く染めて涙を流して、清楚な顔が情欲に染まる様がもっと見たい。  
 
「ああ、そうか。佳乃はあの婚約者になった奴にこういうことをされたいのか」  
 
佳乃は、首を振って違う違うとうわごとのようにして繰り返した。  
俺の名前をしきりに呼んで、俺の袖をぎゅっと掴んで、本当に好きなのは俺なんだと必死に伝えてくる。  
そんなことは、わかってる。でももう止めることなんて、できないのだ。  
 
俺はぐちゅぐちゅとわざと大きな音を立てて佳乃の中を掻き乱す。  
指を増やして、バラバラに動かして、そして内壁を擦りあげた。親指で陰核をねぶるのも忘れない。  
 
「ゃぁっ…!ひぅ、あぁっ…ぬ、抜い…抜いてっ!それ、も、やだぁっ…!」  
「そうか、もっと動かして増やして欲しいか」  
「ッ…あ、ぁっ!やだっ、そ、なっ……んっ、ぁ、あぁっ――!」  
 
陰核を優しくこねれば佳乃の太腿が震えて、きゅうっと膣内の締めつけが強くなる。  
佳乃は、絶頂後特有の余韻にぼうっと惚けていた。それが始めて得た快楽になら、尚更だろう。  
 
ちゃんと着ていたはずの着物は肩や胸をさらし、肘くらいのところに引っかかっているだけの有様。  
肌蹴られた裾からのぞく陶器のように白い太腿には、恥蜜が伝っている。  
それにごくりと生唾を呑み―――そして、ズボンのベルトに手をかけた。  
既に俺のそれは今までにないくらいに大きく硬く膨れ上がり、先端に先走りを滲ませていた。  
 
「………っ、」  
 
佳乃は、抵抗しなかった。涙を流して体を震わせながら俺の名を呼ぶ。  
もしかしたら、俺が正気に帰って止めてくれるかもしれないとでも思っているのかもしれなかった。  
 
「あっ、ぁあっ!ひ…やぁっ!っぅ……す、擦らないで…!」  
 
男性器を焦らすように秘裂へ擦りつけてみれば、佳乃は泣きそうな声を出した。  
俺は佳乃にとっては凶器としか言い様の無いであろうそれを、蜜壷の入り口へと宛がう。  
佳乃が、耐え切れないとばかりに瞼を閉じる。てのひらをぎゅっと握りしめる。  
 
「佳乃ッ……!」  
 
猛った先端を佳乃の中に埋めた。  
指とは比べ物にならないほどの異物感に拒否を示す佳乃の体を押さえつけ、無理矢理に腰を進める。  
そして途中、何か抵抗を感じた。そして、結合部からじんわりと滲んでいくのは赤色のそれ。  
 
破瓜。佳乃の、処女喪失だ。  
 
「っ…やだッ、い、痛ッ……痛いよ、お願い、抜いて、ぇ…!」  
 
佳乃は初めてで、他の誰でもない俺が佳乃の初めての相手になった。  
それが途方も無く、うれしかった。  
俺は佳乃の嗚咽を聞きながら腰を動かす。狭く、そして暖かいそこを拓くのはとても気持ちがいい。  
ゾクリと、背筋がざわめくほどに深くて熱い佳乃の膣内は病み付きになりそうだ。  
最奥まで穿てば、きゅうっと強く締めつけられて吐精感を強烈に煽られる。だが我慢の必要はない。  
 
「佳乃、出すぞ…っ!」  
「え、ぁ、ぁあっ…!?ひっ、ぁあ……や、おねがい、やだぁ…っ!」  
 
白濁を佳乃の最奥に一気に吐きだす。汚す。  
佳乃の子宮に届くようにぐりぐりと腰を擦り付けて、俺の子種でいっぱいにした。  
 
佳乃は呆然と泣いていたが、俺が未だ萎えないそれを動かし始めると、目を見開いて、怯えるように俺を見た。  
頑是無い幼子のようにいやいやと首を振る佳乃に対して、あやすようにして佳乃の額に口付ける。  
俺が緩慢な挿送をしつつ、佳乃の胸の突起を指の腹で軽くさすりあげれば、佳乃の腰はびくりと跳ねた。  
 
「あ、あ…!はぁっ…や、やぁっ…ん、ん…!」  
「自分から腰を揺らすなんてはしたないな、姉さんは。やっぱり淫乱なんじゃないか?」  
 
押しつぶしたり、こね回したり、摘み上げたまま先端を摩ったりしていると、  
快楽を得たことで破瓜の痛みが随分と軽減されたらしい。  
無自覚だろうが本能的に腰を揺らし始めたことで、自分で与えた刺激に腰をビクつかせながら体を震わせていた。  
故意に、姉さんなんて親の前以外ではもう何年も使っていない言葉で揶揄すれば、佳乃はさっと顔を赤く染めた。  
 
「ひぅっ…ん、ぁ…ごめんなさ……わ、たし…姉さんなんて、言わないでっ…」  
 
俺は、その感情を抑えることに必死だった。佳乃の泣き顔を見ると、まだだ、もっとと言う熱が起こる。  
まだ、もっと、愛しい女を泣かせて、虐めて、おかしくさせてやりたい、と。  
自分なしでは生きられないくらいにどろどろに甘やかして、ぐちゃぐちゃに泣かせてみたい、と。  
 
その衝動のまま、俺はまた佳乃に腰を打ちつけた。  
 
 
幾度、俺は佳乃のなかに欲望を吐き出しただろう。  
 
「ひぁ、あっ…だ、だめ…そんな…やあっ……なか、いっぱい…」  
 
飽和した快楽に、びくりと跳ねる佳乃の体。逃げようとしても俺は許さない。  
細い腰をぐっと掴んで、更に深く繋げる。それに嗚咽にも似た嬌声があがり、佳乃の手が俺の服を握り締めた。  
体を快楽に震わせて、ぼろぼろと涙を流す藤乃に支配欲がひどく満たされる。  
それに口許をゆるめて、陰核を指先でこね回す。ぬるつく愛液を掬いあげて塗りつけて、摘むように。  
 
「あ、あぁ……いや、もう出さないで…っ、ひぁ、ぅう、」  
 
俺の絶頂が近いと感じ取ったのか、佳乃は怯え幾度目とも知れない哀願をする。  
そしてそれを、俺が聞くことは無い。もう何も届かない。もう何も変わらない。  
 
「!! いやっ…!も、やめて…っ…そ、なっ……妊娠…しちゃ…ぁあっ!」  
「っ……ははっ…孕めよ、佳乃。それか、壊れちまえ」  
 
本当に、孕んでしまえばいいと思った。  
それかこのまま心も体も壊れてしまえば、ほの暗い方法ではあるが佳乃は俺のもので居続ける。  
好きなのに、大切なのに、優しくしたいのに、なぜ俺は佳乃に酷いことばかりしてしまうんだろう。  
どうしようもない歯がゆさに唇をかみ締めながら、ただただ俺は無言で佳乃に腰を打ちつけた。  
 
 
「わたしがすきなのは、あなただけなのに。だれのものにも、ならないのに」  
「だから、泣かないで」  
 
酷いことをされて泣いているのは佳乃のほうなのに、佳乃は俺にそう言った。  
俺は、その言葉を思い出しながらゆっくりと目を瞑る。  
そして、腕のなかで気を失ってしまった佳乃の体を抱きしめた。  
 
俺も佳乃も、好きになってはいけない人間がこの世にいるなんて、知らなかったんだ。  
 
 
【終わり!】  

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