日本には、『衝撃的』と言う言葉がある。  
 
体験した者が実際に物理的な衝撃を受けたように錯覚するほどのインパクトを持った出来事を表現する時に使われる言葉だ。  
 
多かれ少なかれ、そして程度の差こそあれ、人は生きていればそういう物事を経験する事になる、と私は考えている。  
 
私が送ってきた秋山美月という十八年の比較的短い人生にすら、そういう出来事があったからだ。  
 
私がそれを体験したのは九歳の時だった。  
 
自分が生まれつき患っている病気をインターネットで検索し、その病気が不治の病と呼ばれる類のもので、  
 
私は――――秋山美月という人間は、おそらく長くは生きれないだろうと言う事実を知ったのだけれど、その時私は、確かに心臓を刃物で突き刺されたような痛みを感じたし、その事実を思い出すたびに同じような痛みを感じてきた。  
 
自分の人生を左右するような物事なのだ、その位のインパクトはあって当然だろう。  
 
以来その出来事は、十年近く私の衝撃的体験ランキング1位を独占し続け、さすがにそれ以上に衝撃的な出来事は、今日に至るまで起きた事はなかった。  
 
『無かった』、今日までは。  
 
 
「好きです!」  
 
半ば叫ぶような調子で告げられた、たった四文字の短いフレーズ――――  
 
そんなもので、十年近く私の人生に圧し掛かっていた出来事をあっさり吹き飛ばして衝撃的体験ランキングを塗り替えたのは、灰色の毛色をした熊の少年だった。  
 
突如として私のみに降りかかってきた、そして現在進行形で起こっている出来事――――それは本当に唐突で、あまりにも突拍子の無い事だ。  
 
だから私は、今自分に何が起こっているか良くわからなくて、なんと答えていいのかもわからくて………私が今考えているのが彼の言葉に対する返答ではなく、どうしてこうなったと言う疑問なのも、きっと仕方が無い事なんだろう。  
 
どうしてこうなった?  
 
朝目が覚めてから朝食をとり、常服薬を飲んで玄関を出るまでは極普通の一日だった筈だ。  
 
今日は十二月の十五日で金曜日だから祝日でも休校日でもない訳で、酷く冷たい冬の風や、重々しい灰色の空模様に気が滅入ったとしても、私は学校に行かなければいけない。  
 
だから私は、家を出て最初の十字路を左に曲がり、通学路である小道に入った。  
 
すると、十メートルほど先にこの熊の少年がいて、私の顔を見ると酷く驚いたような顔をした。  
 
通常、獣の人の顔は体毛に覆われているので表情が判り辛い。  
 
にも拘らず、はっきりと彼が驚いている事が判るほど、彼は驚いていた。  
 
だから、私は何事かと思って立ち止まったのだけれど、それを見た彼は一礼して私に近づいてきて、突然、例の言葉を言ってのけたのだった。  
 
以上が事の顛末で、思い返してみてもどうしてこうなったのかは全く判らない。  
 
私は、五秒ほど考えたけれどなんと答えればいいのか思い浮かばなかったので、先ず彼を良く観察してみる事にした。  
 
彼は学生服………それも、私が三年前に卒業した中学校の制服を着ている。  
 
だから彼は中学生で私の後輩だという事が判る。  
 
身長は百六十センチちょっとの私より頭一つ大きい。  
 
だから間違いなく百七十センチ以上はあるだろう事が判る。  
 
私を見つめるダークブラウンの瞳には、人生経験に乏しい私にもそれと解るほどに強い緊張と決意のようなものが見て取れる。  
 
だから、彼は冗談とか罰ゲームとかでこんな事をしているのではない事が判る。  
 
つまり、彼は本気で言っているのだ、私の事が好きだと。  
 
「………だから?」  
 
それらを踏まえ、私がたっぷり十秒以上の時間をかけてなんとか搾り出したのは、そんな返答だった。  
 
だってそうだろう?  
 
これが、「好きです、付き合ってください」だったら「友達からなら」とか答えられたかもしれない。  
 
だけど、ただ「好きです」だけでは私はどうすればいいのか、何を求められているのか判らない。  
 
しかし、私の言葉は恐らく意図した通りには伝わらなかったのだろう。  
 
熊の少年は私の返答を聞くと、耳をぺたりと伏せ、今にも泣き出しそうな顔で俯いてしまった。  
 
無言のまま立ち尽くす私と彼との間を、乾いた風が甲高い音を立てて吹きぬけていく。  
 
私は、今になって、いや………今更になって、自分が重大な責任を負っている事に気がついた。  
 
恐らく、彼にとってこの恋は初恋というものなんだろう。  
 
恋愛経験皆無、それ故に猪突猛進、駆け引きなしのノープラン、恥も外聞も  
かなぐり捨てて玉砕覚悟の告白だ。  
 
それがとても勇気のいる事なのだという事は、告白をしたことのない私にも簡単に想像できる。  
 
そんな真剣な気持ちも、行動も、私が応えなければ無意味なものになってしまうのだ。  
 
「あの……!」  
 
私は、意を決して彼に声をかけた。  
 
肩をびくりと震わせ、弾かれた様に彼が顔を上げる。  
 
私は、深呼吸を一つして、これから口にする文章の意味を考え、それを頭の中で何度か繰り返し、声に出した。  
 
「好きだといってくれたのは本当に嬉しいんだけど、「好きです」だけじゃ君がどうしたいのか判らないの。 『だから』どうしたいのか教えて欲しいんだけれど。」  
 
若干声が上ずってしまったけれど、私はやり遂げた。  
 
一字一句間違いなく、正確に、穏やかな口調で告げたその言葉は、きちんとその役割を果たし、熊の少年は「あっ!」と短く声を上げた。  
 
「え、えーと………」  
 
彼は恥ずかしそうに私から目を逸らした。  
 
さっきまで力なく伏せていた耳が、今はピンと立っている。  
 
彼は、暫くの間何やらモゴモゴと口篭っていたが、やがて大きく息を吐いて私の目を真っ直ぐに見つめ返し――――  
 
「セックスしてくださいっ!」  
 
地面に頭を擦り付けるほど深く跪いた。  
 
 
日本語には驚きを表現する言い回しが幾つかあるのだけれど、その内の一つに『驚きのあまり言葉がでない』と言う物がある。  
 
恐らく、この言葉以上に今の私の状態を的確に表す事の出来る単語は無いと思う。  
 
私の人生の衝撃的体験ランキングにおいて十年間不動の王座を守り続けた出来事をあっさり吹き飛ばして一位に輝いたさっきの愛の告白が、たった五分で二位に転落してしまうほど衝撃的な出来事を体験した私は、跪く熊の少年を前に、暫く何を言う事も出来ずに立ち尽くしていた。  
 
彼も、跪いたまま無言で私の答えを待っている。  
 
少し遠くを走る車の往来の音が妙にはっきり聞こえるほど、辺りはしんと静まり返っていた。  
 
跪く、いわゆる土下座と言うやつだ。  
 
昔見た西部劇の映画で、絶体絶命のピンチを迎えた主人公に対し、悪役の男が銃を突きつけながらこう言っていた。  
 
『跪いて命乞いすれば命だけは助けてやるぞ』  
 
そして、その言葉に対し、主人公は不敵な笑みを浮かべてこう答えた。  
 
『死んだほうがマシだ』と。  
 
生き恥を晒す位なら潔く死を選ぶ――――この映画の影響という訳ではないのだろうけれど、私は、男の人はそういうものなんだろうと思ってきた。  
 
少なくとも、朝の通勤・通学の時間帯に、人通りが少ないとはいえ一般公道で土下座をするなんて想像した事さえなかった。  
 
「そんなに、その………したいの?」  
 
一分ほど過ぎた頃になって、私は漸く声を絞り出して、目の前で跪いている熊の少年に尋ねた。  
 
何か考えがあった訳じゃなく、跪くという行為のインパクトに圧倒されて自然と口が動いてしまったような感じだった。  
 
彼は無言のまま即座に頷いて、私を見つめる。  
 
ほんのちょっと前まで私を見下ろしていたダークブラウンの瞳が遥か下から私を見ている事に、酷い違和感を感じてしまう。  
 
不治の病を患って先が長くない私だって、処女のまま死ぬのは嫌だなと思った事はあった。  
 
でも、だからって、人前で土下座なんて――――  
 
そこまで考えた時、私は酷い事実に気がついた。  
 
私は、人前で土下座されているのだ、それも家から百メートルも離れていない所で。  
 
私はわりと有名人だ。  
 
不治の病を患った可哀想なお嬢さんという存在は、他人の目から見ればそこそこドラマチックに映るのだろう、この辺りの住人には『秋山さんのところの』で私の事を意味する位には存在を認知されている。  
 
だから、こんなところを見られれば、明日中には家族や学校を含めた私の生活圏全域に『一般公道で男の子に土下座させていた』という事実が知れ渡る事になるだろう。  
 
「立って」  
 
私は、急いで熊の少年の右袖を掴むと、強く引っ張って立ち上がるように促し、そのまま少し早足で歩き出した。  
 
彼が困惑しきった表情で「あの………」と呟いても、私は無言のまま歩き続ける。  
 
兎に角、私の知り合いのいない所に行きたかった。  
 
それから十分ほどの間、私達は無言で歩き続けた。  
 
私は熊の少年の袖を引きながら今まで通った事の無い道を選んで歩き続け、彼は私に引かれるまま後ろをついてくる。  
 
私が行く当ても無く歩き続けている事を知ったら、彼はなんて言うだろうか。  
 
本当は学校に行かなければいけなかった筈だ、私も、彼も。  
 
連絡も無く学校を休んだりすれば、家族に連絡が行くだろう。  
 
唯でさえ病気で心配をかけているのにこんな事をして――――全く、滅茶苦茶だ。  
 
思わず漏れた溜息が、一瞬白く煙って灰色の空に溶けていく。  
 
「どうしてあんな事をしたの? 人に見られて変な噂になったら君だって困るでしょう」  
 
私は足を止めず、後ろも見ずに言い捨てた。  
 
「………すいません」  
 
体格に似合わない柔らかな声が、本当に申し訳なさそうに謝るのが背中越しに聞こえても、イライラは晴れそうにない。  
 
私は怒っている、こんな事になったんだから怒ってもいい筈だ、だから怒ろう――――そう自分に言い聞かせて、私は後ろへ振り向いた。  
 
熊の少年は、再び耳を伏せてオロオロと私を見つめる。  
 
可愛いとは思う、でも許さない。  
 
「君はもう少し後先を考えなさい。 今したい事と、そうしたらどうなるかをちゃんと考えて、それが『だから』で繋がるか考えるの。 理屈で考えるの………わかる?」   
 
私は息継ぎ無しに一息で言い切ると、あらん限りの眼力を籠めて彼を睨んだ。  
 
熊の少年は、大きな体を居心地悪そうに縮めて私と視線を合わせながら、力ない声で「ハイ」と答える。  
 
気持ちとか感情とか、そんな物なんの役にも立たないのだ。  
 
現に、私がどれだけ死にたくないと思っても、病気は治るどころか少しづつ進行している。  
 
症状の進行を遅らせるだけの抑制剤に頼る日々を続ける間、不安とか絶望感とかは常に私の毎日に付きまとっているけれど、それ自体が症状を悪化させる事はなく、ただそこにあるというだけの物に過ぎない。  
 
その程度のものだ、気持ちなんて。  
 
だから私は、『だから』で物事を考える事にしたのに、それでも私は今感情的に怒ってしまっている。  
 
イライラを吐き出そうとと二度目の溜息を吐くと、熊の少年が遠慮がちに「あの………」と声をかけてきた。  
 
「なに?」  
 
「えぇと、怒って………ますよね?」  
 
………なんて事を聞くんだ、こいつは。  
 
困惑した顔で尋ねてくる彼に、私は思わず噴出しそうになった。  
 
この状況で怒らない人がいたら、それはきっとそういう病気だ。  
 
私も病気ではあるけれど、そんな病気ではないし、表情ぐらいちゃんとある、筈だ。  
 
「そう見えないかもしれないけど、怒ってるし、驚いたし、恥ずかしかった。 怒ってるように見えない?」  
 
良く見てみなさい。  
 
私は彼の顔に息がかかるほど顔を近づけ、思い切り眉根を寄せて見上げてみせた。  
 
もし彼が人間だったら、多分真っ赤な顔をしていると思う。  
 
彼は目を見開き、口を大きく開けて「あの………」という言葉を何度か繰り返し、逃げるように目を目を逸らすと、  
 
「ちょっと、判りにくひへっ!?」  
 
「このくらい怒ってるの、わかるでしょう?」  
 
ちょっと判りにくいですと言おうとしたんだろう。  
 
私は『判り』の辺りで彼の袖を握っていた手を離し、代わりに彼の鼻先を人差し指と親指でぎゅっと摘む制裁を加えてやった。  
 
「すひまへん」  
 
彼は反射的に謝ろうとするが、鼻を摘まれたままなので妙な鼻声が出るだけだ。  
 
だから、私は  
 
「ちょっと判りにくいです」  
 
さっき彼が言おうとした言葉を言って、摘んでいた鼻を放して歩き出した。  
 
人間と獣の人の最も大きな違いの一つに、体毛の量が挙げられる。  
 
獣の人の毛は、種族によって様々な特徴を持っているけれど、豊富な体毛で皮膚の表面を覆い、皮膚と体毛の間に空気の層を作って体温を調節するという機能は、おおよその種族に共通した特徴だ。  
 
だから、彼らは十二月の半ばに学生服とYシャツと肌着だけで外をうろついても寒さに凍える事はない。  
 
けれど、私はそうじゃない。  
 
私は体表の八割近くを露出させて生きている人間という生物で、しかも病人で体力も無い。  
 
だから、いくら学生服の下にベストとYシャツとシャツ二枚とウールのソックスと毛糸のパンツを穿いていても、冬の寒さは酷く堪える。  
 
震えながら歩く私を見かねた熊の少年の提案で、私達は彼の家で暖を取る事になった。  
 
彼の両親は共働きで、夕方までは誰もいないらしい。  
 
もちろん、私は最初その申し出を断った。  
 
いくらなんでも名前も知らない男の子の家に行くというのは抵抗があったし、何より、彼は私とセックスしたいと公言している。  
 
けれど、いまさら学校に行けば遅刻の理由を詮索されるだろうし、堂々と学校をサボってしまった以上、家にも帰り辛い。  
 
だから、絶対何もしませんからと食い下がる彼の言葉に、当ても無く何時間もこの寒空をうろつくよりはと了承してしまったのも仕方ない事だと思う。  
 
彼の家に着くと、私は二階にある彼の部屋に通された。  
 
男の子の部屋に入るのは初めてだったので、どんな部屋だろうといろいろ想像していたけれど、実際は私の想像したあらゆる部屋よりも綺麗だった。  
 
私服はきちんとハンガーラックにかけられ、季節ごとに種類わけされているし、二つある大き目の本棚に納められた本は、図鑑や雑誌など種類別に分けられ、コミックスは一巻から順に並んでいる上に、帯もちゃんとついている。  
 
そして、私が一番目を引かれたのは、ベッドと隣接する壁に貼り付けられている沢山の写真だった。  
 
写真は主に風景写真で、花や鳥、夕焼け、祭りといった春夏秋冬のワンシーンを切り抜いたみたいに、素人目にも良く撮れている。  
 
「これ、君が撮ったの?」  
 
私は、部屋の真ん中に置かれている炬燵に入って、彼が淹れてくれたホットココアをちびちび飲みながら、彼に尋ねた。  
 
体の大きい彼が炬燵に入ると私が入るスペースがなくなるからだろう、彼はベッドに腰掛けてホットココアを飲んでいたけれど、私が尋ねると照れくさそうに笑ってハイと答えた。  
 
私よりも背が高いし体格もいいのに、彼のこういう仕草の一つ一つが可愛いと感じるのは、彼が年下だからなんだろうか。  
 
何にせよ、私は彼を可愛いと感じ始めていて、だから――――だからで繋がらない気もするが、ともかく――――本の少し意地悪をしてみたくなってしまった。  
 
「そういえば、お互い名前も知らないね」  
 
私は、どんな意地悪をしてやろうと考えながら、その片手間に彼の事をいろいろ知っておく事にした。  
 
この後彼とどんな間柄になるにせよ、知ってる事は多い方がいい。  
 
「私は、秋山美月。 高三で君の中学の卒業生だから、一応君の先輩」  
 
通り一遍の自己紹介をして、私は「君は?」と熊の少年に自己紹介を促した。  
 
「熊谷スサビです、遊ぶって書いてスサビ。 中二で………写真撮るのが好きです」  
 
彼は、ちょっと悩みながらそう答えると、学生服のポケットから小さなデジタルカメラを取り出して見せる。  
 
大きな熊のスサビ君が小さなデジタルカメラを持つと、カメラがまるで玩具みたいだ。  
 
その対比がおかしくて、私はちょっと笑ってしまった。  
 
「今笑ってるのは判ります」  
 
スサビ君は嬉しそうにそう言うと、ココアのカップをベッドの木枠において、デジタルカメラを私に向ける。  
 
笑ってるんだから、笑ってるのが判るのは当たり前でしょう。  
 
そういいかけて、私はふと思い止まった。  
 
それを言ったら、返ってくる答えはきっと「ちょっと判りにくいです」だ。  
 
それはちょっと癪だ――――だから私は、別の答えを返す事にした。  
 
私は、ファインダー越しに笑っているスサビ君に微笑を返しながら、出来る限り穏やかな口調で  
 
「そのカメラに私の写真が入ってるのは判ります」と、言ってやった。  
 
瞬間、スサビ君の体毛が、見て判るくらい逆立った………獣の人は、本当に驚くとこうなるのか。  
 
「なっ、な………いや……あの………」  
 
スサビ君は、何か言おうと口をパクパクさせてるけど、何を言っていいかわからないようだ。  
 
多分、今朝彼に跪かれた時の私も同じような感じだったんだろうが、他の人の様子を見る分にはなかなか面白い。  
 
「そんなに驚く事無いでしょう。 私だって告白しようと思うぐらい好きな人がいたら、その人の写真を欲しいと思うもの。」  
 
私は、勤めて笑顔を保ったままそういうと、『正直に言いなさい』とダメ押しを入れる。  
 
その言葉に、スサビ君はしゅんと俯きながらカメラを下ろした。  
 
「すいません、撮りました」  
 
きっと怒られるとか、軽蔑されるとか思っているのだろう、うなだれるスサビ君は、体が一回り小さくなってしまったみたいだ。  
 
「それは、いつ撮ったの?」私は、純粋に興味本位で尋ねてみた。  
 
「………三週間前です」  
 
スサビ君は、私の顔色を伺いながら、恐る恐る答える。  
 
「あそこを通った時に、先輩がいて、丁度夕焼けがでてて、先輩が凄く綺麗で、写真撮らせてもらおうと思ったけど声かけられなくって………」  
 
「もういい、わかった」  
 
私は恥かしくなって、たどたどしい説明を続けるスサビ君を片手を挙げて制した。  
 
面と向かってそういう事を言われると、聞いてる方が辛い………私は、うつるから来るなといわれるのは慣れっこだけれど、綺麗とか好きとか言われるのには全く耐性が無いのだ。  
 
「つまり、一目惚れって事なの?」火照り始めた頬を両手で覆い隠しながら、私は尋ねた。  
 
「えーと、その、多分………」  
 
スサビ君は、恥かしそうにそう答えると、視線を逸らして「好きになっちゃいました」と付け加えた。  
 
その言葉を聞いた瞬間、私の体の中で燻っていた何かがついに爆発した。  
 
「だからって、あれはないでしょう!」 私は、自分でもびっくりするほど大きな声で怒鳴った――――こんなに大声を出すのは、いったい何年ぶりだろう。  
 
私の勢いに気圧され、スサビ君がびくっと肩を震わせて耳を伏せる。  
 
けれど、私はそんな事などお構い無しに怒鳴り続けた。  
 
「好きだって言われたのは嬉しかったけど、あれだっていきなり過ぎだし!  人前で土下座されたのだって恥かしかったし! 急にあの、あんな事言われてハイわかりましたって言える訳無いでしょう!」  
 
怒鳴れるだけ怒鳴って、私は炬燵に突っ伏した。  
 
今日一日で、二年分くらい体力を使った気がする………頭の中がグチャグチャで考えが全然まとまらないし、『だから』も全然繋がらない。  
 
ただただ、耳の奥でさっきの「好きになっちゃいました」が鳴り響いている。  
 

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