「気に障ったらごめんなさい。でもどうしても聞いておきたくて。貴方は、その……私の様な体型に性的魅力を覚える趣味を持っているの?」  
 
一緒に病院内の中庭を散歩しているときに彼女から尋ねられた。  
車椅子を押している僕に見えるのは艶やかな髪だけで、その表情は見えない。  
足を止め彼女の質問を考える。  
一度天を見上げ、また彼女にの視線を移し僕は答えた。  
 
「んー、まー、別にそういうことは無いかな」  
 
その答えは嘘ではない。ただ真実でもなかった。  
正確な解答を形にできるほど僕はまだ自分と向き合えていない。  
 
止めていた歩みを再開し、彼女の香りを鼻に、ほどほどの重みを両腕に感じながら進んでいく。  
視界に入ってくる木々はほとんど葉を落とし、寒々しい姿となっている。  
「どうしてそんな事を聞くの?」  
 
解答への返答が無かったので僕は尋ねた。  
 
答えは返ってこない。  
風が吹いて触れた部分の体温を奪っていく。  
日が落ちはじめた中庭には僕の足音と車椅子の音を除いて静まりかえっていた。  
沈黙が続く。  
 
「少し休憩するね」  
 
池のほとりにあるベンチに着くと向かい合わせになる形でそこに腰かけた。  
うつむいた表情は前髪と辺りの暗さでよく見えない。  
それでも彼女の顔を覗き込む。  
 
また少しの間があった後、彼女は身体をはねあげる様に顔を上げた。  
 
黒目がちな大きな瞳は見ていると吸い込まれそうな気さえしてくる。  
 
「……もしそうなら嬉しいなって思って。私がこの姿で生まれてきたのも、貴方に愛されるためだったって思えるなら悪くないから」  
 
「昨日、貴方が他の女の子と一緒に笑顔でいるのを見て思ったの。私あなたに何もしてあげられてないな、って。私はあの子みたいに隣を歩くことすらままならないでしょ?」  
 
自嘲ぎみに言うと瞳と声が震えた。  
 
「だからもし貴方が私にそういうことを望むのであれば、私はそれを叶えたい」  
 
 

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