あるところに心優しい男の子がいました。  
その子とわたしはよく、魔法・超能力など非現実的な能力  
を持ったらどうするか話し合いました。  
「ぼくはねぇ」  
というのがその子の口癖でした。  
「ぼくはねぇ、やっぱり人助けかな!今のぼくじゃ出来な  
いこと出来るようになったら困ってる人を助けてあげたい  
なっ!」  
うんっ、えらいっ!  
わたしは彼の頭を撫で撫でしました。  
「やっ、やめろいっ、ぼ、ぼくはねぇ、子供じゃないんだ  
もんっ」  
子供のようにぷくーと膨らませた彼はまだわたしと同じ  
11才でわたしより背が低かったのです。  
わたしはこんな能力をもったらどうするのかききます。  
「え?時間をとめることができたらって?うーん、ぼくは  
ねぇ、やっぱり人助けかなっ!目の前でひかれそうなひと  
がいたらじかんをとめて助けるよ!そんなばめんにはあま  
り出会わないし出会いたくないけどもしそんなばめんに出  
会ったら助けるよ!え?おおきな大人だったらどうするか  
って?うーん、ぼくはねぇ、それでも引きずって助けるよ  
!そのためにはたいりょくつけなきゃね!」  
彼はとつぜんかえるとびを行いました。たった5回しか続  
きませんでしたけどね。  
わたしはいじわるなことを言います。  
「え?時間をとめて女の子にエッチないたずらしたくない  
かって?す、す、すかーとめっくたりってこと?だ、だめ  
だよぉぉぉ、ぼくはねぇ、そんなことぜぇったいぜぇった  
いしないもん!」  
うんっ、えらいっ!  
「だからぼくのあたまをめちゃくちゃにしないでよぉ〜」  
そんなにしてほしいの?うれしい。  
「うぎゃあああ、かみ、ぬける、いた、いたたたた」  
わたしと彼はそんな関係だった。  
 
そんなわたしと彼の住む町で不思議なことがおきました。  
転びそうなひとが転ばなかったり、  
車でひかれそうな人が助かったり、  
木に引っ掛かった風船がいつの間に幼児の手にあったり、  
同じクラスの新聞配達屋の子の家族が病気で配達に困って  
いるときに気づくとすべて配達が終わったり  
いろんな不幸が未然で防がれたのです。  
それがだれの仕業かわたしにはわかりました。  
いつもその事件のそばにいた彼が、心優しい彼がその奇跡  
を起こしたのです。  
なぜそのような不思議なことができるようになったのかわ  
かりません。  
でも、わたしは心の中で  
 
うんっ。えらいっ。  
 
と彼の頭を撫で撫でしてあげました。  
彼はわたし以外には気づかれることなく、善行を積み上げ  
ていきました。  
 
彼はわたしにもその不思議な能力を披露しました。  
ある夜のことです。  
わたしの目の前にプレゼントを持った彼が現れました。  
その日はわたしの誕生日で彼はわたしを驚かすためにとつ  
ぜん現れたのです。  
ですが驚いたのは彼のほうだったようです。  
「あ…あ…ああ…」と彼は後ずさります。  
よほど驚く光景を目にしたのでしょう。  
わたしは父に突かれながら笑顔になって、  
プレゼントありがとう。ねぇ、どうしたの?  
と疑問符を浮かべます。  
彼は青ざめていました。  
わたしは父に唇を奪われ舌を絡めていたので中々次の言葉  
を喋れません。  
膨らみかけの父首をいじられよがるわたしに彼は  
首をなんども振ってでも顔を背けることができないで  
いるようでした。  
なにこれ?なにこれ?  
と彼は目の前のことを信じられないでいるようでした。  
だからわたしは  
 
これっ。セックスっていうんだよっ!  
 
と、教えてあげました。  
父はわたしのお誕生日プレゼントとして父の生ちんぽをわたしにあげました。  
でも、わたしの処女を父は貰ったのでこれではおあいこです。  
 
いや、だからそんなことではなくて…  
 
彼は信じられないようでした。  
 
彼は忽然と姿を消しました。  
 
彼は学校に来なくなりました。  
街では奇跡が起きなくなりました。  
日本中で性犯罪が大量に生じました。  
 
一回だけ姿を見かけました。  
 
彼はわたしたちとは違う時間の流れに身を置いたのかとても成長していました。  
高校生くらいです。  
わたしはまだ小学生なのに。  
そして、自分のことを【ぼく】ではなく【俺】と呼んでいました。  
もう、ぼくはねぇ、という純真無垢な彼のたどたどしい言  
葉を聞けないと思うと悲しい気持ちになりました。  
 
だから  
 
「あの…隣の家の住人についてお聞きしますが…」と  
松田と名乗る若い刑事が来たときも嘘をこたえ、  
すぐさま彼に連絡しました。  
 
彼は感謝の言葉をくれました。  
 
でも、ぼくはねぇ、とは決して言いませんでした。  
 
「おい!娘だせやぁ!!」乱暴な大人たちの声。  
「ぎゃはははがはぁぐえっ」奇声をあげる父の声。  
「ひぃぃぃ、娘だけはぁぁぁ!?」泣き叫ぶ母の声。  
「お姉ちゃん…」ぎゅっとわたしの服を掴む妹を抱き、  
わたしは騒がしい玄関口に向かった。  
わたしの父はわたしの親友を車で轢いて殺してしまった。  
目の前で父を殴りつけ蹴りつけているのはわたしの死んで  
しまった親友の父親だ。  
わたしと妹は大人たちに捕まり、車でどこかに連れて行か  
れようとする。  
わたしは妹と抱き合い震えながら想った。  
 
時よ、止まれ。  
奇跡よ、起これ。  
と。  
 
 
勿論、わたしたちがどうなったのかあなたたちは知っているだろう。  
だだ、これはあくまで無数に分岐する可能性の一端でしかない。  
その中の一つはきっと…  
 
 
完  
 

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